「従来のイメージを打ち破る、新しい大相撲をつくれ」
そう言われたら、皆さんはどのような大相撲中継を思い描くでしょうか。
AbemaTVで番組クリエイティブのアートディレクターをしている松島です。
テレビ局のアートディレクター、海外でのフリーランス生活を経て2017年11月にサイバーエージェントに入社しました。
入社してすぐに僕はAbemaTV「大相撲LIVE」のデザイン設計にアートディレクターとして参加しました。ロゴ、サムネイル、テロップやオープニングをはじめ番宣動画やプロモーションツール、番組のデザインまわりを統括するポジションです。
表題の言葉は、僕が「大相撲LIVE」を担当することになった際に、プロデューサーから出されたお題です。
アートディレクターとしてそのような相談を受けたら、まずは色と形を考えるわけですが、その頃の僕は民放ルール内での表現をやり尽くした感があり、海外での既存フォントを並べるようなシンプルデザインにも飽きていた感がありました。
とにかく、新しい表現にものすごく飢えていた記憶があります。
そんな折に舞い込んだこの案件。60年以上続いている大相撲中継という伝統に対して、新しい表現で打ち返す絶好の機会でした。
「四股名」から着想を得て、聖獣・神・守護霊をモチーフに
番組をブランディングするにあたって、僕が着目したのは力士たちの「四股名」でした。親方から思いを込めて与えられた、唯一無二の名前です。 調べて行くうちに「白鵬」や「鶴竜」など、 少年心をクスぐるような、格好いい名前をそれぞれに持っている事に気づきました。
その四股名にちなんだ聖獣・神・守護霊を力士の後ろに背負わす事ができたら…。力士それぞれのキャラクターも立ちますし、名前も覚えやすい。僕みたいな相撲初心者ビューワーにも興味をもって貰えるのでは、と考えました。
また相撲はスポーツだけではなく、神事としての側面も持つので「八百万の神」という日本古来の神道の考えにもリンクします。
開発段階のビジュアルイメージ
完成した四股名ビジュアル
ロゴから番宣動画まで、一貫した世界観を創り上げる
コンセプトが決まり、ロゴ、番組カラー、サムネイル、テロップ、番組内CG、番宣を展開していきました。
浮世絵や花札など、分かりやすく和を感じるモチーフを参考に、民放デザイナー時代では選択できなかった色・形で表現する事が自分ルールでした。 ロゴの大相撲のスタイルはあらゆる日本酒のパッケージを参考にしました。
カラーに関しては、浮世絵で用いられるような伝統的なグラデーションにするか最後まで悩みましたが、最終的には花札を意識した力強い単色の赤と紺を選択しました。
開発段階のロゴプラン
完成ロゴ
民放時代の経験を活かし、生中継で送出するテロップ制作も番組と密に連携を取り合い、トータルで携わりました。自分で作成したPhotoshopデータがそのまま使われるわけではなく、放送用にテロッパーが専用機器で作りかえるので最後まで再現度には注意を払いました。
番組の枠内から飛び出て二次展開へ
メインビジュアルの印象が強かったこともあり、番組の領域を超えて様々な二次展開へと繋がって行きました。力士チャートやオリジナルステッカーもそのような動きの一部です。
力士チャートは当初、twitterでの宣伝用に企画されたものでしたが好評だったため現在番組内でも使用されています。
各力士の能力値を五角形のグラフ上に表現したもので、先場所の能力との比較や、その力士を特徴づけるワードもグラフの中に盛り込まれています。番組のトーンを踏襲しつつ、スマートフォン上の小さいサイズでも視認できるように配慮しました。分かり易い力士紹介やユニークなキャッチコピーがWebニュースなどで話題になりました。
オリジナルステッカーはクリエイティブのコンセプトである、力士たちが四股名を背負うビジュアルで展開されました。AbemaTVの推している16力士分制作し、3人の横綱にはキラカードが存在するという、またしても少年の心を鷲掴みにする工夫を施しています。
このようにして「AbemaTV大相撲LIVE」のクリエイティブを制作して行きました。プロデューサーからのお題どおり、従来のイメージを打ち破る大相撲を色と形の力で表現することができたと思います。
世間からの大きなリアクションも得ることができ、まさにアートディレクターである醍醐味ともいえるような経験をさせて頂きました。今後も番組制作の一員として、社会に強い印象を与えるものづくりに貢献していきたいと思います。