アドテクスタジオ所属エンジニアの黒金、西山です。
サイバーエージェントのUnder30エンジニアが主催する「Battle Conference Under30(BCU30)」の第3回目が7月6日(土)に開催されました。
今回は当日の様子も交えて、内容をお伝えします。
BCU30とは?
Battle Confference Under30とは、Under30エンジニアによるUnder30エンジニアのための技術カンファレンスです。Under30エンジニアが一堂に会し、お互いの技術や事業、キャリアについて共有し合います。
3回目となる今回のイベントでは、例年実施されているTALK BATTLEとPROGRAMMING BATTLEに加え、新たにINTERACTIVE BOOTHと呼ばれるコンテンツが追加されました。 INTERACTIVE BOOTHは、普段の活動で製作されているものをデモやポスターなど、自由な形式で紹介していただくコンテンツになっています。来場者と発表者は、展示された実物を通じてよりインタラクティブな議論をできることがこのコンテンツ一推しのポイントになっています。
会場
昨年と同じ芸能花伝舎で行われました。もともと小学校だった施設をリノベーションして活用されているイベントスペースであり、昔懐かしい机や教室が備えられています。今年は悪天候の中、想定定員350名を上回る皆様に参加していただき、会場内のどのスペースも大変賑わっていました。
コンテンツ紹介
挨拶
サイバーエージェント取締役(技術開発管轄)長瀬による挨拶で会は幕をあけました。 エンジニアの未来をテーマとした挨拶でした。内容を抜粋すると、10年後、私たち(U30の)エンジニアは
- 技術と技術をインテグレートする人
- 基盤を作る人
- アプリケーションの実装に集中する人
に分かれるであろう、と話していました。もちろんどれが一番良い、という話ではないですが、そういったエンジニアの中でも、活躍するエンジニアの資質として大事なのは好奇心であると言っていました。ここにもたくさんそういう(好奇心の旺盛な)エンジニアがいると思うので、会社という垣根を超えて切磋琢磨できる仲間を見つけて欲しいということでした。
私の周りでも、活躍しているエンジニアというのは好奇心が強く、興味を持ったことはすぐチャレンジしているように感じます。今年はトークセッションやプロコンに加えて、インタラクティブブースも追加されました。以前にも増して、登壇者/出展者と来場者の距離が近いものになったと感じます。きっかけはたくさん用意されていたので、きっと切磋琢磨できる仲間をBCU30で見つけられただろうと思います!
基調講演
株式会社AppBrew 代表取締役 深澤雄太さんに「技術にまつわる戦略思考」というタイトルでお話いただきました。
内容
- 社会にインパクトを生み出せるプロダクトを作りたいから起業した。そして今でも自分でコードを書き続けている。
- ただし、技術だけを使ってユーザー目線のプロダクトを作るのは難しい
- 技術は大事だけれど、それより事業を育てるには選択運用が大事
- 技術と経済発展は両輪でそれぞれ尊いが片方がないと成り立たない
- 技術の高度化により、経営者側の技術理解が足りない
- 裏を返せば事業理解のあるエンジニアが不足している
- 目的、課題設定、仮説検証 これを長期的、複合的に高い目線でサイクルを回していくことで目標に近づく
- 技術者にはいろいろ目的があるが、世の誰かのニーズを満たさなければいけない、自己表現だけで生きていける人はごく少数
- 実際のプロダクトへの還元を見据えた技術習得が必要
- もし決める立場ではなくても、事業の事を理解し、意見を持つことは大事
- 技術も世の中にインパクトを生み出せないものは消え去っていくので、経済合理性を前提にその技術をどう活かしていくかを考える事も必要
- 技術の高度化に順応する為に、高度化されたものを組み合わせる事が必要になる
- 技術よりも事業を動かせる事が大事な局面があるので、必要な時には声をあげたり、手をあげたりが必要になる、その為に事業理解とメタ認知能力が必要
感想
発表では技術が高度化されていくなかで、エンジニアとして戦略思考を身に着ける為に、どんな事が大切なのかを深澤さん自身の体験談をもとにお話していただきました。
目的を定め、課題設定をし仮説検証をするサイクルを回す事はどんな立場、役職でも実践できるのではないでしょうか。技術が高度化されていく社会のなかで、経営者目線というのはエンジニアとして生き抜く1つの戦略として納得できました。
トークセッション
全36セッションが行われ、この中から私たちが気になったセッションをいくつかご紹介したいと思います。
大規模フロントエンドの技術的負債と向き合う。
サイボウズ株式会社 外松 俊尚さんの発表です。
感想
大規模かつ複雑なアプリケーションの技術的負債になぜ向き合うか、どう向き合あっているかを伝える発表でした。普段の趣味コーディングとは開発体験が違うと思ったのがきっかけとなり、実際に技術的負債と向き合っていくことがかなり自然だと思いました。ただ新しいライブラリやデファクトのライブラリに置き換えるだけじゃなく、本当にそれが必要かチームで合意を取れるような負債の返済の仕方にはかなり賛同します。チームに向けての勉強会を開くことで向き合い方のイメージを合わせられていて1つのいい例だと思いました。
チャットボットプロダクトにおけるリアルなNLP課題
株式会社サイバーエージェント 友松 祐太による発表です。
感想
アカデミックな領域で学ぶ知識や経験が、実プロダクトでどのようにして役立つのかをわかりやすく解説してくれる発表でした。ユーザからの問い合わせに対して、チャットボットがより的確に解答するために、裏側ではNLPの技術を駆使して、クラスタリングやキーフレーズの抽出、辞書の作成など、多くの課題と対峙していることがわかりました。NLPや機械学習のような専門的な技術は、今や様々なプロダクトで重宝されているだろう反面、プロダクトの外側からはどのように生かされているのかが漠然としていてわからないと思います。本発表は、このギャップを埋める勉強になる発表でした。
エンジニアがデザインを学ぶことの意義と応用
株式会社FOLIO 大木 尊紀さんの発表です。
感想
エンジニアがデザインを学ぶとどんなメリットがあるのか、どんなキャリアが考えられるのか、大木さんの経験を踏まえた発表でした。「インターフェースデザインは至極論理的であり、感性の世界ではない」というスライドが印象的でした。デザインと言えばデザイナーの仕事であるという先入観が私にはありましたが、チームの仕事であり、エンジニアも責任を持って(デザインを)レビューをするというところに感銘を受けました。そしてより円滑にデザイナーの方とコミュニケーションをとるために、また、より良いものを作るために、大木さんはデザインのことを学んでいることが理解できました。デザインエンジニアをキャリアとして選択するための行動や学習方法についても触れており、参考になる発表でした。
学生だけど OSS 始めちゃいました
拓殖大学大学院、Japan Digital Design 株式会社、株式会社ガイアックス 中山 貴幸さんの発表です。
感想
話題が次から次へと移り変わり、とても勢いのある発表でした。上記のOSSの活動以外にも、趣味の活動や本の執筆、インターンなど各所で活躍している様子でした。主に、中山さん本人がOSS活動をした経験について話していただきました。OSSへの貢献はとりあえずやってみようというポジティブな理由から始まっていたようです。そしてPRがレビューされマージされた後は、没頭するように次々とPRを投げ、コントリビュートしていったようでした。実際に自作のアプリケーションを公開してみた話も面白かったです。chrome拡張のプラグイン開発の経験がないにも関わらず、コントリビュートを受けることを前提にCONTRIBUTING.mdを用意したり、実装項目をISSUEに書き出したりするのは、将来が見据えられていて良いなと感じました。
Atomic Components
翁 華宏さんの発表です。
感想
Atomic Designをフロントエンドの設計用に落とし込んだAtomic Componentsについての発表でした。Atomic Designを初めからフロントエンド用に使おうとしてうまく行かないケースが結構あるというのがわかりました。Atomic Designが様々な文脈で使われてしまい、そういうものはには別名をつけてあげようという話は賛同できました。Atomic Designをフロントエンドの設計に落とし込んだAtomic Componentsの詳細を聞けたと同時に、文脈によって使われ方が違う困惑を産む情報についての対処法も聞けました。
ログ収集基盤を導入したらエラーログが99%以上削減された話
合同会社DMM.com 小芝 涼太さんの発表です。
感想
大規模サービスの技術的負債に立ち向かった話でした。かつてのモノリシックなサービスを地道に事業部ごとのサービスに分離し、ログ収集基盤を開発することでコツコツと返済していったようです。しかし、実際には導入初期は使われなかったというのがリアルで面白かったです。使われていないとわかっても諦めず、問題を可視化することによって、事業部全体を巻き込んで問題を解決するアプローチはとても興味深いものでした。誰もが問題意識を持っていたものの、どれほど問題であるかがわからなかった、それを可視化したことによって緊急性を理解し、みんなが解決しようと行動するようになったのでしょう。みんなが解決に協力してくれるようになった後も、基盤として解決に協力してくれる人への手助けになるよう機能追加をしたり、非常に良いサイクルが回っているなと感じました。この動機付けや意識の持ち方はとても勉強になりました。
ScrumMasterから見るScrumの姿
サイボウズ株式会社 榎原 聖太さんの発表です。
感想
スクラムについて解説したものでは、確かにTeam Memberの視点から、各セレモニーで何をするのかが語られているものが多いと感じます。榎原さんの発表では、Scrum Masterがどんな視点を持ってスクラムをしているのかを、デフォルメしたわかりやすい図を交えて発表してくださいました。スプリントプランニングひとつをとってみても上述の通り、それは明らかです。Scrum Masterはチームのメンバーが最高の状態で価値をデリバリーするために、何らかの障害が発生していないかをそれぞれ(Team MemberとProduct Owner)の視点を持って注視する必要がある、と理解しました。また、Scrum Master自身が開発プロセスを楽しむことも大切だ、という言葉が印象的でした。
インタラクティブブース
今年からは新しい試みとして「INTERACTIVE BOOTH」が用意されました。こちらでは普段の活動で制作した作品や取り組まれている内容などを、デモ展示やポスター展示などの形式で自由に紹介することができます。また、発表者と来場者でインタラクティブな議論を行うことが可能となっています。
U30エンジニアが取り組むミクシィにおける機械学習詰め合わせ
こちらは株式会社ミクシィさんによるブースです。このブースでは、自社内のプロダクトにおいて、機械学習をどのように導入しているのか、背景やアーキテクチャ、アプローチまで、実際に担当されているエンジニアの方々からお話を聞くことができました。
ベストプラクティスが確立されていない中、担当エンジニアの方々がどう試行錯誤して機械学習をプロダクションに導入したのかを聞くことができ、参考になりました。また、説明されているエンジニアの皆さんもイキイキと話してくれたので、とても楽しかったです。
kintone × IoT
こちらは株式会社サイボウズさんによるブースです。このブースは、サイボウズ様が提供しているkintoneとIoTを題材にkintoneと身近なグローブや物理ボタンとkintoneを連携した展示でした。色々な物がインターネットの技術で置き換えられていくなか、やはり物理ボタンの方がユーザー体験がいい場合があると思います。インターフェイスだけ物理的な物にしkintoneをつかいデータ管理・プロセス管理・情報共有がより直感的にできる仕組みができるようになるのでとてもワクワクしました。
プログラミングコンテスト
BCU30のプロコンは、「瞬発力」をテーマとしており、他のプロコンと比べて短い制限時間で出題された問題を解く短期決戦型のコンテストになっています。
予選
予選は昔懐かしい机と椅子が並ぶ教室で行われました。問題は一問で、その解答速度を競います。イベント前半であればいつでも解答可能なコンテストになっていて、上位80人までが本戦に出場できます。実際に出題された問題はこちらです。
コンテスト参加者は席に着くと簡単なレギュレーション説明を受け、予選の開始を待ちます。予選が開始されると静まり返り、キーボードのタイプ音だけが響く教室へと変貌しました。その様子は、小学生・中学生時代の実力テストのようで非常に懐かしい気持ちになりました。懐かしんでいるのもつかの間、早い人は数分で会場を後にしてしまいました。この早さで問題を読み、コードを実装してしまうことに驚きました!
本戦
本戦は、出場者全員が1つの会場に集まり、20分間で2問の解答速度を競います。出題された問題はこちらです。
今年の本戦は昨年同様に、AtCoder 代表取締役の高橋直大さん(@chokudai)に実況していただき、本戦に出場できなかった方も楽しむことができました。問題のポイントを解説し、競技プログラミング入門者向けの役立つアドバイスを交えながらの実況だったので、学びが多かったです。予想外のことが起こるたびに大きくリアクションを取り、会場を盛り上げていました。学びあり笑いありの素敵な実況でした。
各種表彰
Talk SessionではTalkを6つのブロックに分け、来場者にどれだけの学びや刺激を与えられたか、投票によって競い合いました。その結果を公開します。受賞された皆さん、おめでとうございます?
Aブロック Tech Kids School(小学6年生) 宮城 采生 さん 「ゲームロジックからデザインまで完全オリジナルの押し相撲ゲーム「オシマル」の紹介」
Bブロック ビットバンク株式会社 鈴木 雄大 さん 「DeveloperSuccess として何を届けられるか、様々な分野を経た先として何ができるか」
Cブロック 株式会社サイバーエージェント 青山 真也 「Kubernetes ではじめる新しい開発」
Dブロック GMOインターネット株式会社 関 芙美恵 さん 「23歳。入社したらセキュリティチーム作ることになった。え、しかも4人??」
Eブロック 株式会社ギフティ 菊川 史貴 さん 「サービスがゼロからN億円規模になるまでに実践した7つのやっていき」
Fブロック 株式会社ミクシィ 馬淵 俊弥 さん 「転びながらもネットワーク処理をソフトウェアで自作していく話」
プロコンは、本戦の上位3名が表彰されました。わずか10分強で2問の問題を解き切った猛者たちです。受賞おめでとうございます。
一位 : threepipes_s さん
二位 : ninja さん
三位 : Ark さん
感想
技術的な負債に立ち向かう話から、最先端のインフラの話やキャリアの話など、具体的な話から抽象的な話まで聞く事ができました。どの発表も課題が明確であり、その課題解決に向けてどのようなアプローチをとったのかがわかりやすいものでした。これが基調講演の中でも触れられていた、メタ認知の能力が高い、ということなのかもしれません。トークバトルの中では10代前半で技術で課題解決をする姿を見ることもでき、危機感を覚えたのが印象的でした。本当に技術が高度化している事を実感しました。これからの時代を生き抜く為には、新卒だからと言ってがむしゃらにやるだけではなく、戦略や何らかの課題解決が大事な事を学びました。同世代だけが集まり、同世代の活躍を見れるからこそ、 自分の現状をわかりやすく知る事ができ、新たなスタートを踏み出せるのかもしれません。エンジニアとしてのキャリアをより考える機会を与えてくれたカンファレンスでした。
謝辞
今年は悪天候にも関わらず、多くの皆様にご来場いただけました。お陰様で今年も大変盛況なイベントとなりました。
登壇者/出展者の皆様、来場いただいた皆様、スポンサーとなっていただいた企業様、大変お世話になりました。
ありがとうございました。