サイバーエージェント 常務執行役員 技術担当を務めています長瀬(@lionbaby)です。

CyberAgent Advent Calendar 2021 の初日ということで半年ぶりにブログを書きます。今回は私がこの15年間エンジニアの組織作りから得た学びをまとめてみたいと思います。少しでも組織開発の参考になればと思っています。

 

はじめに

2006年「技術のサイバーエージェントを創る」を宣言してから15年が経ち、今では新しい未来のテレビ「ABEMA」をはじめとするさまざまなサービス、AIを武器にしたデジタルマーケティング分野におけるプロダクトの展開。各社から技術力を強みにした多くのサービスが生まれています。

この15年間でグループ会社の数は100を、エンジニアの数は1000人を超え、会社の規模も組織も随分大きくなった一方で、いろいろな浮沈も経験しました。

この15年を振り返ると、インターネット人口は増え、産業として大きく成長しました。スマートフォンの登場、オールドエコノミーとIT企業の提携、DX市場の加熱などインターネット業界は非常に激しく変化しました。

市場の変化に加え、この数年のWeb技術の発展はめざましく、毎年覚えきれないほどの新しい言語やフレームワーク、ライブラリなどが誕生しています。

このような状況下において”エンジニアが価値を発揮できる組織を作るには何をすれば良いのか” 考え続けてきました。今日は、この15年間のトライアンドエラーを繰り返して分かった教訓を紹介したいと思います。

私がサイバーエージェントの15年間で学んだ、12の教訓

  1. 採用には全力を尽くす
  2. 性善説に基づいた組織設計
  3. 自由と責任はセット。裁量の大きさがクリエイティビティを引き出す
  4. 外部コミュニティへの貢献が自社への技術競争力につながる
  5. 評価制度は「会社のメッセージ」
  6. チームサイバーエージェント(チームワーク)
  7. 抜擢と育成。若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止
  8. 有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現する
  9. 組織コンディションは「山の天気」のように変わる
  10. 経営陣との距離の近さ。一緒に経営課題に向き合う機会を作る
  11. エンジニアのアイデアを吸い上げる仕組みを整える
  12. 決断・実行のスピードを追求する 

3.自由と責任はセット。裁量の大きさがクリエイティビティを引き出す

2006年に「技術のサイバーエージェント」を創ると宣言し、その時に「自由と責任はセット」ということを決め、その想いは今も変わりません。エンジニアのクリエイティビティを最大限発揮するには裁量がとても大事です。

その思想がずっと根本にあるため、メディア、ゲーム、AI事業本部それぞれの事業ドメインで、大きく裁量を与えながら、自由闊達に組織開発や技術開発を行ってきました。

これだけ多くのプロダクトを抱える企業になった今、中央集権的に技術の方針を掲げて統制を取ることは、ある種効率的でメリットもあるように思えますが、それ以上にデメリットが大きいと思うのです。

 

少し話は逸れますが、アメリカでは65%のエンジニアがユーザー企業で働き、Slerのような受託開発が35%だと言われています。一方日本ではこの数字が見事に逆転します(平成30年版 情報通信白書より)

日本のこの比率は今後少しづつ逆転していくと予想していますし、そうあるべきだと考えています。ユーザー企業ではエンジニアが技術を探求する環境があり、ビジネス課題や社会問題に直接向き合う機会がたくさんあります。そのような機会を通じてエンジニアのクリエイティビティが引き出され、イノベーティブな成果が出せると思っています。

このような背景から、サイバーエージェントでは自由闊達な技術選定ができる環境を整えています。あわせて、リスクを未然に防ぐ体制、万が一起こった場合に迅速に対応できる体制を整えることで攻めと守りのバランスを保っています。

 

5.評価制度は「会社のメッセージ」

サイバーエージェントでは、2019年にそれまで各管轄や子会社でそれぞれ実施してきたエンジニアの評価制度を、全社統一の形へと刷新しました。

評価制度を刷新するうえで、国内外の様々な企業の取り組みについて調査を行い「グレードの統一」「報酬の体系化」「目標の標準化」「評価の納得度向上」をアップデートしたのですが、この時に教訓となったのが「評価制度が会社からのメッセージになる」ということでした。

 

サイバーエージェントのエンジニア職においては、全社共通のジョブグレード(JBグレード)を採用しており、JBグレードはJB1からJB13まで存在します。このグレードは「職務(担当する仕事の成果)」と「職能(技術の習熟度など本人の能力を示すもの)」で定義されており、グレード毎に求められる「職務」「職能」は社内でキャリアラダーとして公開されています。

この時、職能の評価軸に「オーナーシップ」「フォロワーシップ」を追加しました。サイバーエージェントの評価軸は技術軸だけではないことは明確です。技術軸以外のプラスアルファが大事で、それこそが会社からのメッセージであり、その企業らしさを表すものだと思います。

サイバーエージェントの企業文化の根底にあるのが「オーナーシップ」「フォロワーシップ」です。サイバーエージェントには、挑戦する人を応援するカルチャーが根付いていますが、その裏側にはチームの根底で常にフォロワーシップの精神が存在します。これによって心理的安全性が担保され、パフォーマンスに繋がっているのだと思います。

いずれも、既に組織に根付いていた価値観ではあるものの、改めて言語化することで「オーナーシップ」「フォロワーシップ」という言葉が日常的に使われるようになり、1人1人のコンピテンシーが強化されたように思います。エンジニア1人1人が、会社やプロダクトをこうしたいんだとか、あるいは自分がこの会社を使ってこうやりたいんだということを具現化しようとしていると感じます。

 

8.有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現する

サイバーエージェントは、会社のミッションステートメントの中で「有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現」を掲げています。

そのためのキャリア支援として、社内異動公募制度「キャリチャレ」や、技術者が部署異動を希望する場合それをサポートするための制度「FA権」が活用されています。(これは社外の方に話をすると驚かれるのですが)サイバーエージェントには基本的に辞令文化がなく、異動の際は本人の希望が尊重されます。

それは、自分がやりがいを持って取り組める仕事と環境を用意することこそ、ライフタイムバリューに直結することが、過去の経験から分かっているからです。

 

さらに今年は新たな取組みとして「リスキリングセンター」も設立しました。これは、変わりゆく技術トレンドに対応したエンジニアの学び推進、キャリアアップ支援を行う組織です。

サイバーエージェントが展開する事業・サービスの領域はこの数年で急激に広がり、これまで使用してこなかった技術を活用する場面が増えてきました。このような環境下において、新言語や最新技術、高度専門知識を効率的に身につける機会を会社が提供することで、今後事業に必要となる人材を戦略的に生み出すことができ、エンジニアにとってはキャリアアップやキャリアチェンジに繋がり、安心して長く活躍できる環境が整うことになります。

終身雇用制をうたうサイバーエージェントだからこそ、保守的にならず、実力主義と適材適所を大事に。このしなやかさこそが強みだと感じています。

 

12.決断・実行のスピードを追求する

サイバーエージェントは、数年に1度大きな変化を経験しています。例えば、2007年のAmebaを注力事業として積極的な先行投資とする決断、2011年のスマートフォンシフト、2016年の「ABEMA」開局、2020年以降のDX事業への参画。

「これだ!」と決まったら、人員が一気にその事業に割かれ、凄まじいスピードで事業を立ち上げます。この時に経営陣はもちろん、社員自身もその変化を柔軟に受け入れ、ピンチを前向きに捉えている節があります。

この決断力、変化対応力はサイバーエージェントの強さの秘訣でもあります。変化の激しいIT業界の中で、イノベーションを起こし続ける技術集団であるために、社内の技術者に伝えていることがあります。それは「技術×〇〇」を持てるエンジニアになって欲しいし、それを保つためにオーナーシップというコンピテシーを持つ技術者になって欲しいということです。

 

今後はノーコードが加速したり、あらゆる技術が更に抽象化し高度化する時代になるでしょう。極端な話、コードを書かなくても大丈夫な時代が来るかもしれません(そんなことはないと思いますが)。

そのような時代において求められるエンジニアは、オーナーシップを持って価値想像に向き合えるエンジニアであり、変化を積極的に楽しめるエンジニアなのではないでしょうか。

 

番外編:一緒に働きたい仲間は自分たちで探す

サイバーエージェントには、人材こそが競争力であり経営資源である、という考えのもと、一緒に働きたい人は自分たちで探す、が会社のカルチャーとして根付いています。

多くの企業でもリファラル採用などが定着していると思いますが、毎年新卒エンジニア採用に大半の現場エンジニアが携わりコミットしている当社は稀有かもしれません。

良いサービスを生み出すには良いチームワークが必要です。どんなに素晴らしいエースエンジニアがいても、チーム全体が目指す方向がバラバラだったら、きっと良いサービスは生み出せません。

だからこそ採用には全力で。これは今後も揺るぐことはないでしょうし、更に磨きをかけていきたいと思っています。

 

来年の抱負

当社は会社の規模がどれだけ大きくなっても、挑戦を絶やさずに走り続ける組織でありたいと考えています。詳しくは当社藤田のインタビューを御覧ください。

今年は「変革元年」を掲げて「CTO統括室」という直轄組織を新設しました。各管轄・事業の技術戦略、意思決定を尊重しつつも、連動する分野は積極的に協業し、サイバーエージェントグループのスケールメリットを追求したいと考えています。

また、「開発力倍増」に取り組みます。会社の挑戦を加速させるために開発力強化はとても大事なものです。単純にエンジニアの人数を倍増させるわけではありません。また、スキルベースを軸とした人材戦略でもありません。

マネジメント行き届いたスケールする組織構造を構築しながらも、イノベーティブなエンジニアが多く在籍するクリエイティブな組織を創っていきたいと考えています。

 

今回紹介した内容は、来年春に企画している「CyberAgent Developer Conference 2022」でより詳しく話をします。今回のカンファレンスのテーマは「Build Up always」。これまで積み上げてきたものと、これからの未来について様々な取り組みをご紹介したいと考えています。

楽しみにしていてください!

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通信業界での研究開発を経て、2005年、サイバーエージェントに入社。「アメーバブログ」やコミュニティサービス「アメーバピグ」、ソーシャルゲーム、コミュニティサービスなどのサービス開発を担当し、2014年に執行役員、2020年に常務執行役員に就任。「ABEMA」をはじめ当社のメディア事業に携わるエンジニアの採用や、技術力をさらに向上するための評価制度などの環境づくりにも注力している。現在はサイバーエージェント専務執行役員(技術担当)を務める。