このエントリーはCyberAgent Developers Advent Calendar 2021の14日目の記事です。

はじめに

こんにちは。株式会社CyberHuman Productionsに所属しているMRエンジニアのイワケンこと岩﨑謙汰です。
私は2021年11月に、Microsoft MVPをWindows Developmentカテゴリにおいて受賞しました。本カテゴリにおける現在の日本の受賞者は私で28人目となります。弊社社員の受賞は初となります。

今回用に自己紹介するとこのようなスライドになります。
イワケンの自己紹介スライド.HoloLensとコミュニティ軸で語る

本記事ではMicrosoft MVPの概要と、受賞するためにどのようなことを意識して、どのような行動をとっていたのかについてご紹介します。この記事は2021年12月14日現在の情報となりますので、Microsoft MVPの情報については最新情報と照らし合わせながら参考にしていただけると幸いです。

今回の記事は、Microsoft Community Program Managerの森口 理絵さんのスライドMicrosoft MVPの公式ページMicrosoft MVPの廣瀬さんのブログを参考にしつつ、自分の経験談を書かせていただきました。

Microsoft MVPとは

Microsoft MVP (Most Valuable Professional) 制度とは、マイクロソフト社が「個人」の過去12が月間の技術コミュニティへの貢献に感謝の意を表して授与する特別な賞となります。受賞期間は原則的に1年間で、再受賞のためには、毎年審査が必要になります。技術領域ごとのカテゴリーに受賞者が決まり、現在では11カテゴリーにおいて3000名以上のMicrosoft MVPが世界中に存在しています。受賞者はMVP一覧ページプロフィールが掲載されます。

MVPに求められる人物像

公式ページによると、次のように書かれています。

  • 自身の知識を熱意をもってコミュニティと共有するテクノロジーの専門家
  • Microsoftの製品とサービスに関する極めて深い知識がある
  • 優れた技術力に加えて、常に進んで他者を助ける

MVP特典

Microsoft MVPになると例えば次のような特典があります。

  • Microsoft MVP/Microsoftとの機会 (イベント/登壇依頼)
  • Microsoft製品への早期アクセス
  • 製品チームと直接やり取りできるチャネルへの参加
  • 本社が主催する年次イベントGlobal MVP Summitへの招待
  • 各種サブスクリプション (Visual Studio Enterpriseなど)

このようにトロフィーや盾も届きます。(HoloLensは届きません)
Microsoft MVPの盾とHoloLens

MVPになるためのステップ

MVPになるためには、以下の2ステップが必要となります。

  • 現役のMVP受賞者またはMicrosoft社員から推薦状を提出してもらう (推薦応募ページ)
  • 自分自身の過去12か月間に行われたコミュニティ活動実績をまとめる

コミュニティ活動例としては

  • オンライン/オフラインでの技術の発信
    • 技術コミュニティ運営/イベント/勉強会開催
    • イベント/勉強会でのセッション登壇
    • 技術情報に関するブログ/サイト投稿
    • サンプルコード/ツール公開
  • フィードバック提供
    • 製品/サービスへのフィードバック
  • より良いコミュニティへ
    • 多様性を取り入れたコミュニティ運営
    • より良い社会を作る技術利用の啓蒙

などがあります。

MVP受賞のためにしたこと

私自身が意識したことは以下のようになります。

  • Microsoft MVPの受賞を目標にする
  • コミュニティに対して自分ができることを行動する
  • 会社の制度やイベントを活用する
  • 日々の活動で公開可能な情報を発信
  • 活動を表にまとめる
  • Microsoft社員やMicrosoft MVPの方に相談する
  • とはいえ、基本は面白そうドリブンで活動

Microsoft MVPの受賞を目標にする

私がMicrosoft MVPの受賞を目指そうと決めたのは、1年半ほど前のことです。目標にすることで、以前まで行っていたコミュニティのイベント主催時に、しっかり活動レポートを書こうという意識が生まれました。また、自分がコミュニティ貢献できる幅を広げるために、ブログ投稿や技術デモなど、アウトプットのチャンネルを増やすことも意識することができました。
結果、受賞した活動期間(2020/12~2021/11)においては、以下のような活動実績となりました。

コミュニティに対して自分ができることを行動する

現在の日本のMixed Realityコミュニティは、Microsoft本社に注目されるほど盛り上がっているコミュニティと言われています。その事実と私の得意な動きを考えたときに、盛り上がっている技術コミュニティをさらに盛り上げるという方向ではなく、今までHoloLensやMixed Realityに触れてこなかった業界や層に魅力を伝えつつ、共に社会実装していくかという視点でコミュニティ活動を伸ばしていくことを決めました。

その結果、CA BASE NEXTでの一般層向けのMR表現の追求や、AR共創型ハッカソンwithAR主催テック学生向け支援コミュニティ Iwaken Lab.主催などの行動につながりました。

その一方で、Tokyo HoloLens ミートアップXRKaigiなど、既存の技術コミュニティやイベントにも、自分が得た知見を共有することを惜しまない姿勢で運営/登壇を行いました。

会社の制度やイベントを活用する

今回サイバーエージェントの2つの制度/イベントをフル活用させていただきました。

  • Next Experts制度
  • CA BASE NEXT

の2つです。

Next Experts制度

サイバーエージェントには、特定の分野に抜きん出た知識とスキルを持ち、その領域の第一人者として実績を上げているエンジニアに、新たな活躍の場を提供するとともに、各専門領域において、その分野の発展のための貢献および、サイバーエージェントグループに還元することを目的とした「Developer Experts制度」があります。その次世代育成を担う制度が「Next Experts制度」です。

私はMixed Reality分野のNext Expertsに応募し、自分の活動の土台となるHoloLens2を買っていただきました。これによりHoloLens関連の技術記事執筆や、イベント登壇が可能になりました。

CA BASE NEXT

2021年5月にサイバーエージェントで開催されたテックカンファレンスがCA BASE NEXTです。ここで私は運営/登壇/開発担当だったため、これを機会にHoloLensプレゼンのデモ実演をしました。

 

こちらのデモは私一人では達成しえなかったアウトプットなので、改めて関わったメンバーの方に感謝したいです。

日々の活動で公開可能な情報を発信

MVPの活動は原則的にオープンなコミュニティに向けた活動が対象になります。なので、日々の活動がTwitterやQiitaなどに公開可能かと考えて投稿することが大事です。後回しにすると忘れてしまうので、その日中に投稿するのがベストです。そのために、イベントを開催しつつ裏でレポート記事のひな形を作って埋めていくといったことを意識しています。

社内事例などクローズドな活動であっても、公開可能な情報に整理して発信できないかと考えます。

活動を表にまとめて相談可能な状況にする

これには2つの目的があります

  • Microsoft MVPに関する相談がしやすくする
  • 活動内容を提出するときに助かる

この2点です。自分はNotionにまとめておりました。
とりあえず「この活動関係あるかな?」と思い当たるものを全部表に書きます。
MVPについて、他のMVPの方やMicrosoft社員の方に相談するときは、このNotionのリンクを共有しておりました。とても便利だったので共有します。
Microsoft MVPに該当する可能性がある活動をまとめた表に対してNotionの活用事例を紹介

Microsoft社員やMicrosoft MVPの方に相談する

もし知り合いのMicrosoft MVPやMicrosoft社員の方がいたら積極的に頼ってよいと思っております。理由としては、彼らも日本出身のMicrosoft MVPが増えることを望んでいるはずだからです。
私の場合特に、Microsoft MVPの@ikkouさん、@morio36さん、Microsoft社員の@MS_odashoさん@chomadoさんには相談させていただいたり、コミュニティ活動の助けとなるような機会を与えてくださりました。改めてありがとうございました。

とはいえ、基本は面白そうドリブンで活動

ここまで書くとMicrosoft MVPを目指すために逆算して活動したかのように見えてしまうかもしれないですが、モチベーションとしては「コミュニティがこう発展したら面白いよね」「技術がこう広まったら面白いよね」という「面白そうドリブン」で活動して、Microsoft MVPについては頭の片隅に置いている程度で活動していたというのが本当のところです。

自分の好奇心がベースにあるからこそ、継続的な活動ができますし、周りを巻き込む時に納得感が生まれると思っています。

Microsoft MVPの審査の際に提出した文章

審査の際に4つの質問と活動実績を提出する必要がありました。その4つの質問に対する私の文章を最後に共有します。
その4つの質問がこちらです。

  • Why do you want to be an MVP?
  • What are the most impactful community contributions you’ve made in the last year?
  • What significant impact do you plan to make to the community in the upcoming year?
  • What are you doing to make your community better? (e.g. charity work, diversity and inclusion efforts, education, mentoring, etc.)

Why do you want to be an MVP?

Mixed Reality (MR)の社会実装を推進する影響力を強めていきたいからです。

私はこの1年間「MRの社会実装事例を作る」をミッションとして活動し、その活動知見をコミュニティに還元してきました。なぜこのミッションなのかというと2016年12月にHoloLensに出会い感動し、このテクノロジーが創造する世界を推進していきたいと思ったからです。

具体的には2つの活動をしてきました。
1つは株式会社サイバーエージェントと行っているVirtual ProductionsとHololensを用いたMR表現を推進する活動です。デバイスがないと体験の良さが伝わりにくいMR体験をリアルタイムCG合成撮影技術を用いることで一般層にMR表現を伝えることができます。
2つ目はARエンジニアと異業種と共創するハッカソンの開催です。今まで10業種にAR/MR技術で新しい価値を創る活動を、コミュニティのエンジニアと共に行ってきました。
また、これらの活動はカンファレンスやミートアップなどでコミュニティに還元してきました。

MVP認定をいただくことで共に活動するエンジニアの数が増え、これらの活動が加速することができ、また多くの知見をコミュニティに還元することができます。その結果、さらにMRの社会実装を推進したいです。

What are the most impactful community contributions you’ve made in the last year?

オンラインの技術カンファレンスで、HoloLensを用いた演出を実演し、MRの意義や技術内容をコミュニティに共有したことです。
CA BASE NEXTでの「バーチャル撮影システムによるMixed Reality表現」の登壇では、Virtual ProductionsとHoloLensの技術を用いて、HoloLensから見えている景色をリアルタイムにCG合成しライブ配信として視聴者に伝えることができました。Youtube動画は613回再生、Slide Shareは838view得ました。また、この時の開発知見をHoloLens MeetUpにて30分登壇しました。このように、一般の方にも受け入れられるようなMR表現のあり方と、その実現方法の具体例をコミュニティに共有していくことができたと思っています。

What significant impact do you plan to make to the community in the upcoming year?

今のHoloLensコミュニティに足りないと感じる点は、一般層に受け入れられる表現の知見が不足している点です。

勤務先の会社で行っているVirtual Productionsの撮影スタジオやCG制作技術と、HoloLensなどのMixed Realityを実現するデバイスを組み合わせることによって、HoloLensの新たな活用法を開発コミュニティに共有するだけでなく、Mixed Realityが普及した先の表現を社会に向けて発信したいです。

そのために、会社の中でリーダーになりVirtual Productions×Mixed Realityの事例作りやUnreal Engine, Unityの開発を牽引しつつ、社外に向けてMeetUpでの登壇や記事投稿など共有を積極的に行っていきたいです。

What are you doing to make your community better? (e.g. charity work, diversity and inclusion efforts, education, mentoring, etc.)

主に学生の開発機会を創出していくことです。
社会の課題と、学生の技術への好奇心をリンクさせ、MR社会実装事例を作っていく開発コミュニティを作ります。

現在、7名の学生とHoloLensを用いたコンシューマー向けコンテンツの開発を行っていきます。現在企画段階ですが、一般層向けに受け入れられるコンテンツ作りをしています。こういった、コミュニティのMRエンジニアの需要を生み出し、社会実装していくサイクルを回していきたいです。

そのコミュニティから生まれた、社会実装事例や技術知見を定期的に発信/共有していくことで、コミュニティ全体に知見と刺激を与えていきたいと思います。

結果的に、MRの社会実装事例が増えていくことを狙っていきたいです。

Microsoft MVP日本事務局の方からのコメント

今回のブログ執筆にあたり、Microsoft MVP日本事務局の森口様からコメントをいただきました。森口様、素敵なコメントをありがとうございました!

Microsoft森口様より

日本の HoloLens コミュニティは世界でも有数の盛り上がりを見せており、HoloLens にフォーカスして活動されている方が多数いらっしゃいます。そんな中でも、技術ブログの投稿、カンファレンス/コミュニティ イベントにおける運営/技術セッションのご登壇などの様々な形式で活動を行われていること、そして「MR の社会実装」をご自身のミッションとして掲げられ、様々な業界とのコラボレーションを通じた Mixed Reality 技術の利活用を推進いただき、さらにこれからの社会をつくる学生さんを対象に開発技術を伝える活動で精力的にご活躍されていることから、この度、2021年11月1日に岩﨑さんに Microsoft MVP for Windows Development を授与させていただきました。岩﨑さんのコミュニティ活動だけでなく技術コミュニティへの情熱も含め、既に他の社員にも知られており、これから Microsoft MVP としてさらにコミュニティに素晴らしい影響を与えてくださることを心より期待しております。
森口 理絵
Community Program Manager, Microsoft Corporation

まとめ

Microsoft MVPの受賞をできたことは大変嬉しく、今後のコミュニティ活動へのモチベーションになりました。今後とも「MRの社会実装事例を作る」を個人のミッションとして、会社や業界を巻き込んで活動していきたいと思います。

アバター画像
2018年、株式会社サイバーエージェント入社。VTuber撮影システムやVRアプリの開発に従事。その後、3DCG合成撮影システムやHoloLensアプリケーションの開発を手がける。 2024年3月よりXR研究所所長として、XR技術の社会実装に注力。