本記事は、10月29日〜30日にかけて開催した「CyberAgent Developer Conference 2024」において発表された「AIと創る広告の未来 ― タップルと極AIお台場スタジオの最新事例」に対して、社内の生成AI議事録ツール「コエログ」を活用して書き起こし、登壇者本人が監修役として加筆修正しました。


洞ノ上 茉亜子 (広告事業本部AIクリエイティブ部門 極クリエイティブ局 AIクリエイティブプランナー)

2019年サイバーエージェント新卒入社。 クリエイティブ制作において、極予測AIを中心としたAI活用を主軸としたプランニングを進行しています。現在は極AIお台場スタジオでの「リアルタイム効果予測」CM撮影など 新しい広告の作り方を日々考え、実行しています。

中畑 育歩 (株式会社タップル > プロダクト本部)

2021年新卒でサイバーエージェントに入社。小規模な子会社に配属し代理店事業の責任者として従事。2022年株式会社タップルへ異動しマーケティング本部のダイレクト広告責任者としてプロモーションを統括。2024年10月よりタップルのプロダクト本部にて推薦ロジックや課金率向上の施策を担当。


洞ノ上:本日は「AIとつくる広告の未来」というテーマで、私、洞ノ上と中畑の2人でお話しできればと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。まず、私たちがどのような人物かを知っていただくために、簡単に自己紹介をさせてください。

私は、2019年に新卒でサイバーエージェントに入社し、それ以来、インターネット広告事業本部でAIクリエイティブプランナーとして仕事をしております。生成AIや社内のAIツールを活用し、広告クリエイティブの企画・制作に取り組んでいます。今日は、私たちが現在使用している様々なツールや、新しい広告制作の方法を模索する取り組みについてお話しできればと考えています。

中畑:はじめまして、中畑育歩です。私は2021年にサイバーエージェントに入社しました。入社後はまず子会社に在籍していましたが、1年後に株式会社タップルに異動し、現在はマーケティング本部でダイレクト広告の責任者を務めています。洞ノ上さんとは、この1年から1年半ほど一緒に仕事をさせていただいていますよね。

洞ノ上:本当にそうですね。密に連携しているので、まだ1年しか経っていないとは思えないくらいですが、この1年間でタップルさんと共に、さまざまな新しい広告手法に挑戦してきました。今日は、その取り組みについても詳しくお話しできればと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、中畑さんより、まずタップルの概要についてご紹介をお願いします。

中畑:タップルは、マッチングアプリとして2014年5月にサービスを開始し、今年でちょうど10周年を迎えました。

さまざまな出会い方を提供していますが、その中でも「趣味でつながる」という点を推しポイントとして掲げています。リリース当初は、出会い系アプリのように見られることもありましたが、今ではしっかりとマッチングアプリとして認知され、4人に1人がマッチングアプリを通じて結婚する時代になっています。

タップルの使い方はシンプルで、アプリを開くとお相手のプロフィールが表示され、興味のある相手に「いいかも」をフリックします。相手も「いいかも」を返してくれると、マッチングが成立する仕組みです。マッチング後はメッセージのやり取りが可能になり、そこからデートや関係の発展につながる、きっかけを提供するサービスとなっています。2024年には累計会員数が2000万人を突破しました。

洞ノ上:2000万人もの方が使っているとは、すごいですね。

中畑:そうなんです。利用者数はこの10年間、ずっと右肩上がりで成長を続けています。利用者のボリュームゾーンは25-29歳で、その前後5歳ほどの世代にも多く利用していただいていますが、幅広い年齢層に楽しんでいただけるサービスになっています。

中畑:タップルが掲げるパーパスは「恋愛総量の最大化」です。私たちは、日本全体で恋愛の数が増えることで、少子化といった社会課題の解決にもつながるのではないかと考えています。そのため、この目標を実現するべく、社員一同がサービスの運営に力を注いでいます。

洞ノ上:私の役割は、このパーパスを実現するために、多くの方にタップルをインストールしてもらえるような広告を作ることだと考えています。マッチングアプリにはまだ一部で偏見が残っているため、広告やマーケティングを通じてそうした誤解を解消し、恋愛の機会を増やしていきたいと思っています。

洞ノ上:私たちサイバーエージェントでは、さまざまなテクノロジーを開発していますが、その中でも特に新しく設置された「極AIお台場スタジオ」を活用した事例をご紹介したいと思います。

1.効果を出すためのスタジオ

 

具体的には、タップルさんのCM企画を「極AIお台場スタジオ」のLEDスタジオで撮影しました。インターネット広告に詳しい方なら驚くと思いますが、撮影したその日に入稿して配信することができたんです。従来のフローだと、撮影後に編集を行い、ナレーションをつけ、仮編をチェックした後、本編を仕上げて納品し、配信するまでに通常2週間程度を要します。今回のように、当日中にすべての工程を完了し配信まで行った事例は前例がなく、非常に革新的な取り組みです。

中畑:本当にすごいですよね。これまで聞いたことがないスピードです。

洞ノ上:そうなんです。さらに驚くべきことに、実際の効果も高かったので、後ほどその結果についても詳しくご紹介します。

撮影では、LEDディスプレイを活用してさまざまなシチュエーションを再現し、機能別に訴求するクリエイティブを制作しました。当日、その場で6つの構成で各3サイズ、計18本の動画を撮影・編集し、即座にチェックを行った上で納品し、入稿・配信まで進めました。このフローの詳細についても、後ほど具体的にご説明します。

それでは、まず説明ムービーをご覧ください。

 

※ セッション時に再生した箇所で動画が再生されます

洞ノ上:ご覧いただき、ありがとうございます。このLEDディスプレイを活用することで、さまざまなシチュエーションを再現し、どの場所でもどんな人物でも、実際のロケーションを使わずにスタジオ内で撮影が完結できるというのが大きな強みです。さらに、AIツールを活用することで、撮影したクリエイティブの効果を担保しながら制作を進めています。

このLEDスタジオには、ロボットアームやデジタルヒューマンのスキャニングシステムなど、さまざまな技術が組み込まれています。これらの技術をどのようにCMに活用するかについては、後ほど具体的にご説明します。実は、映画業界ではこのようなLEDウォールを使った撮影が増えています。複数のシチュエーションを撮影する必要がある映画では、すべてをロケで回ると膨大な時間がかかるため、背景をディスプレイで再現することが一般的になりつつあります。

LEDウォールに映像素材を映し出し、キャストが手前で演技を行うことで、ロケの移動や天候による制約から解放されるという点も大きなメリットです。たとえば、突然の雨で撮影が中断する、といったリスクを避けられるのは非常に重要な要素だと感じています。

インターネット広告の特性上、細かいターゲティングが可能であるため、多数のクリエイティブを制作して配信する必要があります。しかし、通常の撮影では、撮れるパターン数が限られるという課題がありました。このLEDスタジオを活用することで、撮影効率を大幅に向上させ、1日に多くのシーンを質を落とさず制作することができるようになっています。

中畑:特に最近の進化には驚いています。以前は映像がぎこちないと感じることもありましたが、今では非常に自然な仕上がりになっていますよね。

洞ノ上:その通りです。この技術が多くのお客様に利用されている理由もそこにあります。また、もう1つの強みとして、弊社の「極予測AI」という広告効果を事前に予測するツールをLEDスタジオと連携させている点があります。撮影を進めながらリアルタイムで効果を予測し、どの表現が最も効果的かを判断できるようにしています。このように、撮影と予測を同時に行い、効果的な広告制作に挑戦するという、新しい形の広告づくりを実現しています。

中畑:配信前にある程度、広告の効果を予測できるということですよね。

洞ノ上:そうです。CM制作には撮影費や制作費など多額のコストがかかります。もちろん、人間の目で「これは良い広告だ」と判断することは大切ですが、インターネット広告では、広告が実際に伸びるかどうかをアルゴリズムで評価する視点が重要です。AIを使って「このシチュエーションや見せ方が最も効果的だ」という判断を下すのは、人間とは異なる新しい判断軸が加わるという点が特徴です。

AIの活用により、ロケ撮影と遜色ないクオリティを維持しながら、運用を前提とした大量のクリエイティブを制作し、その投資対効果を高めるための予測が可能になります。この3つの要素が重なり、AIスタジオという形が実現されています。

ただ、こういった仕組みを広告主の皆様に説明すると、「本当に大丈夫なのか?」という不安が出てくることもあります。中畑さんから見て、LEDスタジオの強みや、実際にどのように活用すれば良いか、撮影を通じて何か感じたことはありますか?

中畑:いろいろと思うところはありますが、強みという意味では2つあると思っています。1つ目は、何と言ってもさまざまな背景で撮影できることが一番のメリットです。

通常の撮影では、まずロケ地を決め、その場所でどのように構図を組むかを考えます。しかし、Web広告の場合、背景の色や雰囲気がCTR(クリック率)に大きく影響することが珍しくありません。こうした背景の調整を1日で、しかも短時間で何パターンも試せるのは、非常に大きな利点だと思います。

洞ノ上:そうですね。例えば、タップルさんの広告にはデートシーンを使ったクリエイティブが多くあります。しかし、ロケ撮影だと1日に撮影できるのはせいぜい3パターン程度で、もっと良いロケーションがあっても時間や予算の制約で行けないこともあります。LEDスタジオなら、シチュエーションを無限に拡張できるので、こうした制約がなくなるのが大きな強みです。

また、AIによる予測については、実際に体験してみないと分かりづらいところもあります。たとえば、庭のシチュエーションを想定した場合、50種類の素材を組み合わせるだけで効果の出方が大きく変わります。こうした違いはぜひ体験していただきたい部分ですね。

中畑:もう1つの大きなポイントは、即日入稿が可能になったことです。単純に考えれば、「即日入稿と2週間後の入稿で、そんなに違いがあるのか?」とか、「もっと前もって計画を立てれば良いのでは?」と思われるかもしれません。しかし、個人的には、PDCAサイクルが速くなる実感があります。この2週間という期間が意外と大きいんですよね。今やWeb広告は大量のクリエイティブを回し続ける時代なので、このPDCAのスピードが少しでも早まることが、非常に大きな強みになると感じます。

洞ノ上:それは、本当に日々広告運用をしている方だからこそ理解できるスピード感ですよね。この2週間を短縮できることで、新しいクリエイティブ表現の可能性が広がり、私たちもスピードを非常に重視しています。

また、スピードだけでなく、予測をどのように活用し、結果を反映してブラッシュアップしているのか。そのプロセスも非常に重要です。次のアジェンダでは、予測結果をどのように制作に反映させ、どのようなスピード感でPDCAを回しているのかについて、具体的にご紹介したいと思います。

2. 撮影方法の改革

洞ノ上:撮影方法の改革について、先ほどの予測の部分を詳しくご紹介したいと思います。「予測が良い」というのは、AIが自動でクリエイティブを生成するという意味ではなく、私のようなクリエイターがAIと壁打ちをしながら制作を進めていくというのが基本のフローです。

ここにある既存のバナーや動画に対して、新しく作ったクリエイティブがどれくらいスコアに差が出るかをAIが数値化し、表示する仕組みになっています。極予測AIが「こちらの方が良い」とサジェストするように、数値でフィードバックが返ってくるため、私は制作の中で、たとえば「人物を入れてみよう」「桜の背景がいいかな、いやカフェにしようかな」といったパターンを考え、5、6本の案を作成してからAIに予測をかける、といった流れで進めます。返ってきたスコアを見ながら、何度もブラッシュアップを重ねていくことが、私たちの新しい制作方法です。

このように、スコアが既存のクリエイティブを上回るまで何度も制作を繰り返すことが、新しい手法となっています。動画制作においてはどのように行われているかを、サイバーエージェントの広告を例にお話ししたいと思います。

たとえば「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」というサイバーエージェントのパーパスをテーマにCMを作る場合、代理店からA案ではアニメーション、B案ではアニメーションと背景を組み合わせたもの、C案は複数カットを使う案、D案はワンカットでまとめた案、というようにさまざまな企画が提案されることがあります。こうした企画はクリエイターのセンスや工夫が発揮される部分です。

通常であれば、クリエイティブディレクターが「D案が良い」と方針を立て、なぜそれが良いかをお客様に提案するというのが一般的な流れです。しかし、私たちの場合は、ここに極予測AIが入ります。たとえば4案すべてをAIに予測させた結果、C案が最も効果的だと判断されたとします。残りの3案については、「配信しても効果が出にくい」とAIが示します。

中畑さん、この仕組みを実際にご覧になっていると思いますが、どのように感じていますか?

中畑:僕たちもこのスコア化を使っていますが、実際に配信後に振り返っても、スコアが大きく外れることはほとんどないですね。予測に基づいてPDCAを回していくと、大きなズレが生じることは少ないと感じています。

洞ノ上:そうですね。長くご利用いただいているお客様ほど、予測結果に違和感を感じないことが多いようです。

中畑:実際に4つのパターンを並べてみても、「これが一番良さそうだな」と予想できることもあって、意外と合っているのかもしれないなと感じることがありますね。

洞ノ上:そうですね。やはり、人間が見て「良い」と感じるものは、感情や感性に基づいています。それはまだAIが理解できる領域ではないため、その部分は人間がしっかりと立案していく必要があります。ただ、アルゴリズムの観点から、効果の高いクリエイティブを作るには、AIが提示する指標を非常に重視することが重要です。

実際にAIで予測をかける際には、先ほどお話ししたように、完成した動画全体ではなく、その中の要素を一つ一つ分解して評価しています。たとえば、文字の配置は適切か、装飾はポップで明るい方が良いか、人物は引きの構図が良いか寄りの構図が良いか、登場する方向は左からが良いのか、シチュエーションとしてビルの前が効果的かどうか、といった具合です。

音声やBGM、ナレーションも重要な要素です。それが本当に今のトーンで良いのかも予測の対象になります。これらすべてが、インターネット広告におけるスコアに大きな影響を与える変数です。一つ一つの要素をしっかりと積み重ねることで、最終的に良いクリエイティブが出来上がるという考え方を大切にしています。

実際、タップルさんの広告でも、さまざまな要素が効果を発揮していることを確認しています。音声が効いている場合もあれば、人物の構図が強く影響していることもあり、どの要素が効果的かはケースごとに異なります。

中畑:そうですね。そこはよく議論になりますね。「この音声が良いんじゃないか」とか、いろいろな意見が出ます。

洞ノ上:特に動画広告の効果を振り返るのは難しいですね。静止画なら各要素を比較的簡単に分けて評価できますが、動画では複数の要素が絡み合っているため、それを分解して次に活かすことが重要です。そのため、極予測AIによる予測の使い方が非常に大事だと感じています。

「どれぐらいスコアが変わるのか?」という点についてですが、例えば同じ広告でもロケーションを少し変えただけで結果が大きく変わることがあります。予測結果として左上に赤色で表示されるものが最もスコアが高い場合、その違いを人間が完全に言語化するのは難しいと感じます。

洞ノ上:実際、タップルさんでもかなりのシチュエーションを試し、ロケーションの違いによる効果の差を細かく検証してきました。そのような表現の部分も、極予測AIを使ってブラッシュアップを重ねた背景があります。予測機能を活用することで、「このスコアが高かった」といった、従来の広告制作では使われなかったような新しいワードが自然と飛び交うようになりました。

私たちは、スコアが上がったり下がったりすることを「勝った、負けた」という言い方で表現するんですよ。ちょっと不思議な表現ですよね。「勝ち負けって一体何なんだ?」という感じですが、これが私たちの制作現場のリアルなやり取りなんです。

極予測AIで予測を行うと、時々自分では「こちらの方が良いだろう」と思っていたものに対して、AIからダメ出しされることもあります。しかし、逆にAIの予測が、自分では思いつかなかったような要素を「これが良さそう」とサジェストしてくることも多いんです。そういった瞬間は、クリエイティブディレクターに意見を求めた時のような感覚に近いもので、AIとのやり取りの中で自分の中に科学反応が起きていると感じます。その恩恵は非常に大きいですね。

中畑:確かに、表現だけではなく、構図やアングルの調整に関しても「勝ちパターン」が見つけやすくなったというか、新しい示唆が得られやすくなった感覚があります。

洞ノ上:そうですよね。極予測AIとスタジオの組み合わせが、クリエイティブ制作においてしっかり成果を出せると実感しています。まだこの仕組みを活用されていない方々にも、ぜひその可能性を知っていただきたいですね。これから私自身、直接お話に伺い、このAIスタジオと極予測AIの実力をぜひご紹介させていただきたいと思います。そして、この2つの技術が見事に融合した事例が、今回のタップルさんのプロジェクトです。ここからは、この具体的な事例をご紹介できればと思います。

 

3. 撮影日即日配信

洞ノ上:これが「撮影日即日配信」というワーディングの背景です。先ほどお話ししたように、LED撮影即日配信という手法を活用した事例です。具体的な内容をご紹介しますと、今回の撮影では、タップルさんの「趣味タグ」の機能をしっかり露出することを目的に、たくさんのシチュエーションを設定しました。撮影した背景は21種類に及び、それぞれに対して33の構成を組み合わせています。

その結果、最初に納品したのは18本でしたが、1日の撮影で合計100本以上のクリエイティブを制作しました。画面に映っているのは、LEDディスプレイでシチュエーションを再現している場面です。このように、撮影から編集、監修、そして入稿までのすべてがスタジオ内で完結するのが大きな特徴です。

これほど多くのクリエイティブを制作するので、「夜遅くまで作業しているのでは?」と思われがちですが、実際には通常のスケジュールで進行しています。撮影は朝から開始し、昼頃には映像を確認していただき、その日のうちに納品するという流れです。

結果として、即日納品・配信したクリエイティブは、配信開始からわずか5日で、既存のクリエイティブを超えて1位のコストシェアを達成しました。これほど迅速な納品は私たちにとっても初の試みで、他と比較できる事例はありませんが、スピードが寄与したことは明らかです。

この撮影には、タップルさんの皆さんにもご参加いただき、LEDディスプレイの仕組みや、背景の切り替え方法などをご紹介しましたが、反響はいかがでしたか?

中畑:正直なところ、小学生みたいな反応でした(笑)。みんな「すごーい!」とディスプレイの大きさに驚いていましたが、最も衝撃を受けていたのは、スコアリングの仕組みでした。その場で点数が表示されるところに感動していたようです。

洞ノ上:そうなんですよ。通常の撮影では、監督や制作メンバーがその場でスコアを確認することはまずありません。しかし、今回は撮影後に時間を止めてスコアをチェックし、次のカットの方向性を微調整したり、「この2つの案のうちどちらが良いか」をお客様と相談しながら進めました。

ちなみに、今回は背景のパターンを多く試せましたが、次回以降、改善したい点などはありますか?

中畑:背景についてはしっかり試せたので良かったと思っています。ただ、画角やモデルの向き、映り方のサイズについては、もっといろいろなバリエーションを試せると良いかなと感じました。

洞ノ上:本当にその通りです。今は横型か縦型かによって必要な映像が変わるので、サイズや入稿形態に合わせた企画をさらに柔軟に変えていく必要があります。ただ単にリサイズするだけでなく、配信するプラットフォームに合わせて企画自体を最適化していくことが重要だと考えています。

私たちは常に新しいプロダクトに挑戦しており、広告主の皆様から率直なご意見をいただきながら二人三脚で進めています。「次はここを改善しよう」とか、「こうした撮影の方が効果が上がりそうだ」といった意見を共有しながら、毎回すり合わせを重ねています。このようなコミュニケーションの部分は、AIには任せられないと感じています。

4. AIと創る広告の未来

 

最後に、「AIと創る広告の未来」についてお話ししたいと思います。

洞ノ上:皆さんも感じていると思いますが、この2年間で、誰でもどこでもクリエイティブなことが生み出せる状況に劇的に変わってきました。生成AIの品質も大幅に向上していて、もちろん法的な問題はありますが、非常に高いクオリティのものが手元で簡単に作れる時代になっています。

中畑:そうなんですよ。しかも、大量に作れるようになってきています。

洞ノ上:インターネット広告は、大量にクリエイティブを作り、その中からできる限り効果の良いものを見つけ出すのが基本的なフローだと思います。ただ、大量に作ることで、品質が落ちてしまうという課題もあります。そこを、この数年で進化した生成AIが大きく改善してくれました。うまく活用すれば、クオリティを落とさずに大量のクリエイティブを作ることができる時代です。

中畑:ただ、その「うまく使いこなせるかどうか」が非常に重要ですよね。運用も自動化され、クリエイティブもAIを使えば量産できますが、すべてをAIに任せて良いかというと、それもまた違います。

やはり、運用やクリエイティブには仮説があって、それに基づいて設計されるべきです。どの部分までAIに任せ、どこから人間が関わるべきか、そのバランスが非常に難しいところです。

洞ノ上:それはお客様ともよく議論するテーマです。今の予測AIを使っても、5年、10年先にその広告がブランドの価値としてどう評価されるかまでは、予測できません。超長期的な未来の予測は、やはり人間が考えなければならない部分です。

「これは本当にブランドにとって良いのか?」といった問いは、人間同士でしっかり議論を重ねることが重要だと感じています。私たちが使っている極予測AIも、あくまで次の週のクリエイティブを作るために、前週の効果を学習し、それを基に壁打ちするためのものです。だからこそ、短期的な予測と長期的なブランド戦略を混同しないことが大切だと思います。

中畑:そうですね。既存のものを最適化する部分にはAIが強みを発揮する一方で、ゼロから1を生み出す部分では、まだ僕たちの仮説の方が優位に立っていると感じます。

洞ノ上:まさに「ゼロから1」というのは本当に難しい部分です。AIにアイデアを求めれば、汎用的なものは出てきますが、唯一無二のアイデアを考えるのは、やはり人間が挑戦すべき領域だと思います。そこにこそ、クリエイターとしての腕が試される部分があります。

特にマーケティングの分野では、世の中のトレンドや複雑な要素が絡み合って効果が生まれます。こういった感覚は、まだ人間の方が優れている部分でしょうし、今後もそうであり続ける部分があると思います。

中畑:もちろん、AIがさらに進化して、もし僕の仕事が全部取って代わられるような時代が来たら、それはそれで困りますけれど(笑)。でも、やはり重要なのは、AIとの付き合い方ですよね。

洞ノ上:本当にそうなんですよ。AIとの付き合い方は非常に重要です。クリエイターが「仕事を奪われるのではないか」という不安があるのも理解できますが、私はAIはあくまで人間の能力を拡張するツールに過ぎないと考えています。極予測AIも同様で、新しい意見を私たちに提供し、それを組み込むことでより良いクリエイティブを生み出す助けになっています。AIツール自体が独立して機能するのではなく、人間の能力を一段階引き上げてくれる存在だと感じています。

もしAIを怖がって距離を置いてしまうと、うまく使いこなせなくなるでしょう。今の時代、AIを全く導入しないという選択肢は難しくなりつつあります。気がつくと、フィードにはAIが生成した画像が溢れているように、AIはすでに日常の一部になっているのです。私たちサイバーエージェントとしても、より良いAIツールの使い方を提案し、提供していければと考えています。

最後に、タップルさんの視点から「AIの未来として、今後どういった広告の作り方が重要になるのか」「今後大切にしていきたいこと、変化させていきたいこと」について、お聞きしたいと思います。

中畑:難しい質問ですが、やはりAIとの付き合い方が非常に重要だと感じています。クリエイティブも運用も自動化が進んでいますが、それを全てAIに任せて良いかと言えば、そうではありません。私たちがどのような仮説を立て、その仮説をAIにどう試させるかが大切です。その仮説を立てる力が非常に重要になります。

とはいえ、AIが自動で画角や構図を大量に試し、最適解を見つけるような部分は任せても良いと思います。その上で、どのようにPDCAを回し、プロジェクトを進めていくかが、AIを使いこなすための鍵になるのではないかと考えています。

洞ノ上:まさにその通りです。自分とAIの役割を明確に分け、新しいものをうまく取り入れていくやり方が非常に大切です。私もこれからも、中畑さんに「こういう見せ方が良いのでは」という提案を積極的にしていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

中畑:タップルではAIへの関心が高く、「恋するAI(※ 2024年9月サービス終了)」という、AIアバターとの恋愛体験ができるアプリもリリースしています。こういった新しい取り組みを積極的に試すことが、これからの時代には不可欠だと思います。恐れずにチャレンジすることが重要ですね。

洞ノ上:代理店としても、お客様と一緒にチームとして試行錯誤しながら、最良のアウトプットを世の中に届けていきたいと考えています。

中畑:ブランドコンセプトがどれだけしっかりしている企業でも、AIの活用を避けて通ることは難しい時代になってきています。AIの使い方は、社内の文化や方針によっても変わるかもしれませんが、技術の一般化が進むのは間違いありません。

洞ノ上:来年、再来年のことを考えると、今やっていることが「昔の方法」と言われてしまうかもしれません。だからこそ、常に新しい広告の作り方を模索し、広告主の皆様にご活用いただけるよう努めていきたいと思っています。

私たちは、AIと広告の未来を非常にポジティブに捉えています。今回の話をきっかけに、「こんな使い方ができるのではないか」「撮影方法がここまで短縮できるのか」「こんなアップデートができるのか」といった発見が少しでもあったなら嬉しいです。皆さんにも、ぜひ身近なことから考えてみていただければと思います。本日はありがとうございました。