本記事は、10月29日〜30日にかけて開催した「CyberAgent Developer Conference 2024」において発表した「急成長中のWINTICKETにおける品質と開発スピードと向き合ったQA戦略と今後の展望」に対して、社内の生成AI議事録ツール「コエログ」を活用して書き起こし、登壇者本人が監修役として加筆修正しました。
■ 江口 栄俊 (株式会社WinTicket QAエンジニア)
2012中途入社 / ゲーム管轄でバックエンドや開発ディレクターを担当。22年にWinTicketへ異動し、バックエンド→EM→QA組織立ち上げにチャレンジ中。
■ 風見 香奈 (オーティファイ株式会社 アカウントサクセスマネージャー)
新卒で大手SIerに入社後、デンマークに本社を置くSaaS企業で自社製品の日本市場開拓、販売からパートナー支援に携わる。現在はAutifyのアカウントサクセスマネージャーとして顧客の活用支援を担当。
■ 末村 拓也 (オーティファイ株式会社 Quality Evangelist)
Web開発者、フィールドエンジニア、QAなどを経て、2019年Autify入社。持ち前の発信力を活かして、社内外にソフトウェアテストの重要性を発信する役割も担う。JaSST Online 実行委員。
江口:本日は、急成長中のWINTICKETにおける品質と開発スピードと向き合ったQA戦略と、今後の展望について発表させていただきます。
私はWINTICKETでQAエンジニアを務めている江口です。2022年にWINTICKETに異動して、バックエンドエンジニアとQAチームを兼任していました。
今年の9月から新しくQA室を立ち上げて品質改善に取り組んでいます。はじめに簡単にWINTICKETのサービス概要について説明します。WINTICKETは2019年4月にリリースした公営競技のインターネット投票サービスです。
サービスではレース映像をライブで見ることができたり、AI予想やオッズ、レース情報など、レースの予想に役立つ様々な情報を提供しています。また、ABEMAの番組と連動しており、競輪やオートレースの番組を見ることもできます。こちらはサイバーエージェントの決算資料の一部です。リリースから約2年で、 競輪投票サービスNo.1へと急成長しました。
こちらが本セッションのアジェンダになります。
1. WINTICKETのQA活動
まずは、リリースからこれまでのQA活動について、大まかな流れをお話しします。その中でも特に大きなインパクトがあったAutifyの導入についてお話しします。
導入時は、Autify社のカスタマーサポートチームと連携しながら進めました。
我々とAutify社の連携について、Autify社の風見様からお話しいただきます。また、その他のQA活動の振り返りや今後の展望を踏まえて、Autify社の末村様と「QAの当たり前品質とAI」をテーマにディスカッションを行います。
まずはWINTICKETのQA活動についてお話しします。WINTICKETのQAチームは2022年9月に結成されました。2019年4月にリリースされて2年半が経過し、サービス拡充に伴うインシデント増加や組織拡大に伴う品質担保を目的として活動しています。
リリースから成長速度を維持するため、メンバーは機能開発に集中しており、開発フローや品質の担保は各々のやり方に委ねる形になっていました。新しいメンバーの受け入れや今後の組織体制を見据え、まずは開発フローの標準化に取り組みました。
併せて品質に対する即効性のある改善として、Autifyの導入も進めました。開発フローが標準化されると、様々な課題が見えてきました。それらを解決すべく、2023年10月からはQAチーム以外も巻き込み、品質向上、生産性向上についての取り組みを行いました。
この間もサービスは成長しており、それに伴い組織も拡大し、人の入れ替わりも活発になってきました。今まで以上に品質に対する取り組みが重要になってきており、戦略的に品質担保に取り組めるよう、QA室の立ち上げが決まりました。
それではAutifyの導入についてお話しします。QAチームを結成して最初の課題は、インシデントの抑制でした。
まずは過去のインシデントの分析を行いました。分析したところ、仕様不備や実装ミスが60%以上を占めていました。原因を深掘りすると、その中でもデグレや考慮漏れの割合が多く、リグレッションテストの実施でインシデントの26%は検知できる見込みが分かりました。
リグレッションテストの効果は、インシデント全体で見ても16%の抑制効果が見込めます。今後運用を続けるにあたって、 恒久的にインシデントを抑制する効果が見込まれるため、リグレッションテストを強化する判断をしました。
次に、なぜリグレッションテストを徹底できていないか、原因を分析しました。そして次の2点に課題があることが分かりました。一つはテスト項目の増加です。リリースから2年以上が経ち、機能の増加とともにテスト項目も膨れ上がっていました。こちらはテストピラミッドの図になります。
上に行くほどテストの実施コストが高く時間がかかるので、カバーする範囲がピラミッド型になるように意識するということを表しています。
WINTICKETでは、開発者による単体テストと、 QCによる手動テストで品質を担保していました。手動テストの項目が膨らんだ結果、テストの実施に1環境5営業日ほど必要になっていました。例えば、PC、iPhone、Androidで確認する場合は、3環境なので3人で1週間ほど必要になります。
WINTICKETの場合、投票してレース確定まで待つ必要があるなど、サービスの特性で動作確認に時間がかかるという背景もあります。この部分を自動化することは、品質や工数面で大きなメリットがあると考えました。
次に、QCのリソース不足が課題として見つかりました。これは2022年10月初めの会話です。ちょうど年末に向けて開発が佳境なタイミングというのもありますが、リグレッションテスト実施の相談をしてから1ヶ月待つことになります。WINTICKETはテスト会社と連携してQCを行う体制になっています。
テスターのリソースを増減することは可能でしたが、内部の体制が整っておらず、テスト準備やハンドリングがボトルネックとなり、これ以上ラインを増やすのが難しい状態でした。体制の課題解消も別で取り組む必要がありますが、E2Eが自動化されることで人的リソースの調整が不要になる、リグレッションテストでテスターが実施する範囲を削減できるというメリットがあると考えました。
このようにインシデントを分析した結果、E2Eテストで自動化を進めることで品質アップを見込めると判断し、Autifyの導入を進めることになりました。
2. Autifyの導入
こちらがE2E導入の際のツール選定基準です。
当時のWebチームの方針として、メンテナンスコストを考慮して、コードベースのツールは採用しない方針としました。ノーコードツールは費用がネックとなりますが、現在のリグレッションテストの費用と、Autifyの想定費用を比較して、同等かそれ以下で済む見込みのため、問題ないと判断しました。
そして、いくつかのノーコードツールをトライアルしてAutifyを採用しました。ちなみに、Autifyでモバイルアプリのテスト自動化も可能ですが、当時はリリース直後だったので、目的にそぐわない部分もあり、導入を見送りました。
モバイルアプリに対するアプローチは、弊社長田が発表していますので、こちらの資料をご覧ください。次にAutifyの強みについてお話しします。
Autifyと比較して、他のツールだとより細かくテストできるなどメリットがありました。しかし、UIの使いやすさ、シナリオ作成の手軽さ、AIによるセルフヒーリングなど、導入・運用のハードルの低さにメリットを感じ、今回はAutifyを選択しました。
Autify導入の結果です。特にテスト時間の削減と、いつでもリグレッションテストを実施できるようになったメリットは大きく、開発チームに安心感をもたらしてくれました。
デメリットとしては、当然なのですが、E2Eを運用するための工数が発生したり、データの変動によって自動テストが想定外のパターンでエラーになったりと、手動テストでは起きない手間が発生するようになりました。
ただ、それを考慮しても開発サイクルにE2Eテストを組み込み、必ず実施できるというメリットは大きかったです。
Autify導入後にテストがどう強化されたかお話します。導入前は手動テストがメインのため、作業者の経験に左右され、見落としなども発生しやすい状態でした。導入後は次のように改善されました。
Autifyによるリグレッションテストで、毎回同じ品質で以前より広い範囲のテストが行われるようになりました。開発者は今回修正した箇所や特に気になる点を重点的に確認できるようになりました。
今回のAutify導入にあたって、テストシナリオの設計見直しも行いました。まず、Autifyの概念について説明します。シナリオは、Autifyでテストを実行できる最小単位です。
ステップグループは、ステップをグループ化した再利用可能な検証単位です。ステップは、Autifyにおける最も小さな単位です。各要素の検証やクリックなど、すべての細かいアクションがステップに相当します。
テスト項目をマッピングするとこのようなイメージになります。ログインなどよく使う処理はステップグループにして再利用しています。実際にはこのように一つのシナリオに複数のステップグループを含める形にしています。
この設計にしたポイントとして、次の点を意識しました。コスト面とシナリオの見通しの良さです。
まずコスト面についてお話します。Autifyの利用料金はシナリオの実行回数に依存しています。したがって、シナリオが増えるのを最低限に抑えることを考慮しました。Autifyの指針として、シナリオ内のステップ数は200までが推奨されています。メンテナンスを行いやすいように、ステップグループを利用して、シナリオにテストの追加が行いやすい形になるよう意識しています。
次にシナリオの見通しの良さです。シナリオの中で複数のステップグループを実行する形になっています。ステップグループごとにテストをしている内容が明確なので、実際のステップ数よりコンパクトで何をテストしているかわかりやすくなっています。以上がAutifyのシナリオ設計で考慮したポイントです。
最後に、Autify導入についてまとめます。当初の見込み通り、Autifyは扱いやすく、シナリオ作成をスピーディーに行うことができました。また、トライアル時にログイン回りなど注意が必要な点をあらかじめ潰していたため、技術的な障壁は少なく済みました。
ノーコードツールのメリットを生かすため、コードを書いてて解決するなどあまり作り込まない方針にしていたため、自動化が難しい箇所は手動でカバーするという判断を事前に行われたのも良かったです。
実際の作業はWebチームとサーバーチームのメンバーに2週に1回割り当てたシナリオを作成してもらうという形式で進めました。大きくつまずくこともなく、実装タスクの合間で進めることができました。10月末から年明けまで作業を行ったのですが、想定より早くAutfyの導入を終えることができました。
次に、Autify社との連携について、風見様からお話しいただきます。風見様、よろしくお願いします。
3. Autifyについて
風見:こんにちは。私はAutifyでアカウントサクセスマネージャーをしております、風見と申します。
私の方ではAutifyとして、WINTICKET様のご導入支援、サクセス支援というところを行ってまいりましたので、これまでWINTICKET様のご支援をどのようにしてきたのか。あとは今後どのようなご支援をさせていただくのかという観点で2つお話ししたいなと思っております。
まず、先ほど江口さんの方からお取り組みについてお話いただきましたけれども、Autifyとしてそれらの歩みをどのようにサポートさせていただいたかというところをお話しさせてください。
大まかには2つございまして、オンボーディングサポートとオンラインチャットサポートです。
これを順にご説明していきたいと思います。まずはオンボーディングサポートですね。オンボーディングサポートは、お客様のスムーズな導入と、安定稼働をできるだけ早く実現していただくために、導入後の3ヶ月を目安にテストの作成支援、弊社の知見をもとにしたベストプラクティスの共有、こういったところをベースに、ご支援させていただくというような内容になっております。
ここにはプロセス例ということでご提示しておりますけれども、見ていただいてわかるように、最初は簡単なテストの作成というところから始まりまして、徐々により高度な複雑なテストの作成、より安定したテストの実行というところをサポートさせていただきます。
WINTICKET様でもこの一連の流れを実施いただきまして、このようにマイルストーンを提示していただいて、すごく助かりましたというありがたいお声をいただきました。3ヶ月経ったらそこで終わりというわけではございません。
オンボーディングが終了した後は定期チェックインという形で引き続きご利用状況のお伺いいや、こちらからの新機能のアナウンスなど、そういった内容を踏まえて、中長期的なお客様の目標達成を支援させていただくための取り組みをさせていただいております。
次はオンラインチャットサポートでございます。これは弊社の経験豊富なサポートメンバーがチャット経由でリアルタイムにお問い合わせに対応させていただくというものでございます。お問い合わせ対応の例ですけれども、例えばツール起因でテストが失敗してしまった場合の原因調査対策のご提案、あとはより高度で複雑なテストになってまいりますと、JavaScriptですとか、あとXpathが必要になってくるケースもございますので、そういった場合にそれらのご提供、あとはシナリオのレビューにも対応させていただいております。
このサクセスサポートの体制は、弊社が創業当初からかなり積極的に力を入れてきた分野でございます。WINTICKET様をはじめ、他のお客様からもやはりAutifyのサポートはすごく良いと嬉しいお言葉をいただいております。
これらのサポートを通して、ある程度、WINTICKET様のこれまでのお取り組みのサポート、お力添えをさせていただいたかと思っておりますけれども、やはりここまでのお取り組みがしっかり成果を出された状態にあるというのは、WINTICKET様の素晴らしいメンバーの方々はもちろんですが、正確な課題認識、積極的にPDCAサイクルを回していくという、そういった姿勢によるものだ我々は思っております。
我々としては、正直、他のチーム、他の組織で同じようなことが簡単に真似できるというのは、正直思っておりません。
ここのページではテスト自動化がつまずきやすいポイントということでデータを持ってきておりますけれども、リソース不足、あとはスキル不足、こういったところでやはりつまずいていらっしゃるお客様、企業様でというのが非常に多いなというのが実際のところでございます。
こちらの実情を踏まえて、弊社では6月にリブランディングを発表させていただきました。リブランディングによって、新たなサービスラインナップを提供させていただいております。
これまでお客様にご提供させていただいてたのが、Autify NoCodeというツールでございます。
テストプロセスの中では、より後の方の工程ですね。テストケースがあるものを自動化シナリオに起こして実行していく、この部分の自動化をサポートしていくツールがNoCodeでございます。ただ、やはりツールを入れただけでは、自動化の運用ですとか、仕組みの構築というところがあまりうまく回らないお客様がいらっしゃったというのももちろんございます。
ですので、我々としてはこのテストプロセスの全体を全てサポートさせていただくという方針で、このようなサービスラインナップを展開しております。
この一つが左上にございます、Autify Genesisというプロダクトでございます。今までそのテストの中でいうと後の方の工程だけをサポートさせていただいておりましたけれども、Genesisは今まで提供できてなかったより上流工程のテストプロセスをサポートさせていただくものになっております。
具体的には、生成AIによるテストシナリオ自動生成ソリューションと書いてございますけれども、生成AIがテスト仕様書をもとに自動的にテストケースを出してくれるというようなプロダクトでございます。
このあたりはやはり課題感をお持ちのお客様もちろん多いですし、WINTICKET様でもここら辺の課題感を踏まえての今後のお取り組みをこの後お話しいただきますので、ぜひお聞きいただければと思っております。
あともう一つの新サービスとしてはPro Serviceというのがございます。先ほどお話ししたいろんなお客様の方で困っていらっしゃるリソース不足とかスキル不足といったことですね。ここをダイレクトにご支援していくというのがPro Serviceでございます。
Pro Serviceでは、テスト戦略を立てる最初の最初のところから、評価をしていくという一番最後の部分まで、全てのプロセスをテストのプロ、自動化のプロがコンサルティングとして入らせていただくというものになっております。
先ほども申し上げた通り、ツールを入れただけでは難しいところにもアプローチできるようなものになっておりますので、こういった新サービスラインナップをベースに、ぜひ今後も中長期的なお客様の課題支援に取り組んでいきたいと思っております。
4. 今後の展望
江口:次はWINTICKETのQAの今後の展望についてお話しします。まずはじめに、QA活動のこれまでの振り返りと、QA室の立ち上げの経緯についてお話しします。
2022年9月にQAチームを結成して、開発フローの標準化とAutifyの導入に取り組みました。当時は開発チームは機能提供に集中していた時期でした。なんとなくの開発の形はありましたが、基本的には機能ごとに集まったメンバーの進め方に委ねられていました。
その結果、サービスが成長して機能が増え、新しいメンバーがジョインするごとに、認知負荷の増加やドメイン知識不足などが原因で品質が不安定になりました。
その対策のため、まずはQAチームが各機能の開発の進め方を把握し、うまくいっている手法を横展開しながら開発フローの標準化を進めました。その結果、メンバーの組み合わせが変わっても、一定のフローで開発できる状態になりました。
次に品質向上の取り組みを行いました。開発フローの標準化の過程で、様々な課題が見つかりました。今回は開発フローが標準化されていることで、チーム内で課題に対する共通認識が取れている状態でした。そのおかげで、QAチーム以外の開発メンバーを巻き込んで、多くの改善を進めることができました。
一例ですが開発フローやCI/CD、設計の見直し、QC体制の強化など、様々な改善を実施しました。
次に、生産性向上の取り組みを行いました。品質向上の過程で、メンバーの開発フローへの理解では習熟度が高まり、各職種で大きく課題に感じている点の改善に取り組みました。
一見順調に見えますが、また別の課題が発生しました。ある時期になると品質の波が発生する傾向が見えてきました。
そのタイミングとは期の切り替わりのタイミングです。新卒や異動等でメンバーが増えることで、一時的に生産性や不具合が大きく変動する傾向が見つかりました。また、組織が大きくなったり、発生した課題の改善をチームに波及させるのが難しくなってきていました。
そこで、今後を見据えた戦略として、継続的に品質を改善するために、QA室を設立しました。QA室の役割はやはり品質にこだわることです。 プロダクト品質、プロセス品質、サービス品質、すべてにこだわり、ユーザーに満足してもらえるサービスを届けることが目的です。しかし、現状はWINTICKET内でも品質の定義が曖昧だったり、計測や分析が不十分な状態です。
そこで足元のビジョンとして、 当たり前品質を可視化することを掲げました。品質に対する課題を認識して、効果的にQA活動を進めるためにも、品質の可視化は重要だと考えています。
品質を可視化するためにも、まずは品質に対する認識を合わせることを目指しています。品質の定義は人によってブレがちです。インシデントの数だったり、開発のしやすさであったり、また、ユーザーが求めている品質の可視化は特に難しいです。
そのため、いくつか品質モデルの定義はありますが、シンプルでWINTICKETにマッチしそうな狩野モデルを基準に考えています。狩野モデルには5つの品質が定義されています。当たり前品質、一元的品質、魅力的品質、無関心品質、逆品質です。
例えば、レース動画機能の品質を言語化すると、次のようなイメージです。このような形で品質を分類することで、品質の解像度を上げることができます。
ロードマップとしてはこのようなイメージです。直近だと年末に向けて色々と開発が進んでいる状態です。また、年末以降も新機能開発も継続して行われますし、来年4月には新しいメンバーも増える見込みです。
まずは年末に向けて開発フローの強化だったり、インシデント対応の整備を行っています。特に今具体的に課題が見えている開発フローの改善についてお話しします。こちらが現在の開発フローです。WINTICKETでは、施策ごとに必要な職種が集まって開発を進めるスタイルです。
チーム構成はスクラムに近いですが、開発フローはウォーターフォールになっています。また、施策ごとにチームを再構成するので、チームの寿命が短いという特徴があります。
現状の開発フローでは、次のような課題が見つかっています。リリース直前に気づくものだったり、共通認識が十分でないまま開発が進み、手戻りにつながるなど、インシデント以外にも課題を感じています。
特に上流工程で改善できると効果が大きいため、こちらを解決するためにBDDの概念の導入を進めています。BDDとはソフトウェアの振る舞いを重視した開発プロセスです。
図に書かれている自動化も重要ですが、特に発見と定式化の効果について期待しています。発見はチームのコラボレーションを重要視しています。実例マッピングなどのワークを活用して、チーム内で早い段階で仕様に対する認識を合わせ、考慮漏れや認識違いを発見できると考えています。
また、定式化ではチームで認識を合わせた 振る舞いの可視化を行います。具体的にはエンジニア、非エンジニア関わらず、振る舞いがイメージできるユーザーシナリオを作成します。
これを作成することで、開発に入る前からアウトプットのイメージが明確になり、デザインや設計の精度が上がることが期待できます。もちろんテストシナリオにも活用できるので、E2Eや機能テストの品質アップにもつながります。
こちらは改善後の開発フローです。
新メンバーやドメイン知識が少ないメンバーが多い場合は、現状を把握してもらうため、おさわり会を実施する。実例マッピングを活用した使用詰めで仕様書の精度を上げる。実装に入る前にユーザーシナリオを作成することで、仕様の考慮漏れを防ぐ。このように開発フローにBDDの概念を持ち込むことで、設計時の品質アップを考えています。
また、別の動きで開発フローをスクラムに変更する流れもあるのですが、そちらとの相性も良く、既存の課題を解決しつつ、スクラムにした際の効果最大化も期待できます。ゆくゆくは、生成AIを活用したユーザーシナリオ作成や、E2Eテストの作成プロセスの改善で、開発中からテストを実施できるような体制を目指しています。
4.ディスカッション
最後にAutify社の末村様をファシリテーターとして「QAの当たり前品質とAI」についてディスカッションを行います。末村様。よろしくお願いします。
末村:はい、ただいまご紹介にあずかりました、Autifyのクオリティエヴァンジェリスト、末村拓也といいます。よろしくお願いします。ここからは、ディスカッションの形で、ただいまお話いただきました江口様、それから弊社の風見さん、お二人と僕と三人でAIに関するディスカッション、WINTICKET様の今後とそこに AIがどういうふうに絡めていけるのか?といったところを話していければいいかなというふうに思っています。よろしくお願いします。
さて、一つトピックを持ってきました。
当たり前の品質を持続するにはどうすればいいのか。というところについて考えていきたいと思います。これは江口さんの話にもありましたけども、簡単におさらいしておくと、品質というのは、満たしているのが当たり前、もし満たされていない場合にユーザーから不満を引き起こしてしまうようなものだ、というふうにお話がありましたね。
WINTICKET様においては、例えばレース動画の当たり前品質というのは、高画質の動画や音声の遅延やズレがないこと、こういったものがユーザーにとっては当然のようにあるべきものだというふうに考えられる。というふうなお話だったかなというふうに思います。
江口さん、これらの話というのはあくまでお客様からの品質という話で間違いないんですよね?
江口:はい、そうですね。
末村:はい、ということですね。ありがとうございます。お客様からすれば当たり前なんだけれども我々作り手側、あるいは品質を保証する側にとっては、それが当たり前だというふうに持続していくのが難しい時がある。というのが江口さんの発表の中でも触れられていたと思います。これってぶっちゃけ何が難しいんでしょうか?
江口:そうですね、今のところ、例えばQCやったときのチケットなどは 起票されているんですけども、内容の分類だったり分析だったりが 不十分だったりはするかなと思っています。こちらを今後可視化していって、開発中に当たり前品質にあたるような不具合が増えてきていると、何かしら品質が落ちてきているのかなっていうところだったりするので、そういったところをちゃんと定義してチームとして的確に対策を打てるように可視化をしていきたいなと思っています。
末村:なるほどです。当たり前品質とは何かというものをQAチームあるいは開発チームももちろんそうだと思うんですが、事前に定義をしておいて、実際に出てきた不具合が、どれだけそこに該当するのかというのを整理した上で、それを減らしていくような。当たり前品質を損なうような不具合などを減らしていくような動きに取り組んでいくというような整理で間違いないですか?
江口:そうですね。まずはそこから取り組んでいければなと思っています。
末村:素晴らしい取り組みだと思います。ありがとうございます。じゃあ、ここを持続するための取り組みについては、その分類の話が主だったと思うんですけど、例えばなんですが、今回、Autifyの話を取り上げていただいています。
自動化によって当たり前の品質がどういうふうに保たれているのか、まずちょっとここ江口さんからお話また伺いたいんですが。
江口:今回、自動化ではないんですけど、BDDを導入しようと思っていて、そこで仕様書の精度が上がったり、みんなの共通認識が上がることで、当たり前品質の質が担保されるようになっていくかなと思っています。
その際に今後は仕様書とかをもとに生成AIを活用して自動でテストシナリオを作るとかだったり、あとは仕様書の観点漏れがないかとか、過去の仕様書と見比べたり、インシデントと見比べたりしながら、自動でチェックできるような仕組みを入れたいなとは考えています。
末村:風見さん、今のお話ベースにした上で弊社Autifyがまず、現状は今WINTICKET様に自動化のプロダクトAutify ノーコードWebをお使いいただいていますけどもノーコードWebでWINTICKET様の当たり前品質をどういうふうにサポートしてきたか、あるいは今後どういうふうにそこ今お話しされたBDDの話なんかも含めて一緒に取り組んでいけるのかみたいなところについて、風見さんから何かご意見とかお話しされたいことってありますか?
風見:そうですね。まずそのノーコードがどういうふうにここに寄与できるかという意味では、やっぱり当たり前品質というところで新機能をどんどん開発していくってなると、既存の機能もどんどん増えていくわけで、テストしなければいけない項目というのもどんどん増えてくるかなと思います。
そこに関してやっぱり都度マンパワーで対応していくっていうのは結構無理が来るタイミングがあるかなというふうに思いますので、そのあたりはやっぱり自動化ツール、Autifyのような自動化ツールを頼っていただいて、本来集中したい、魅力的品質みたいなところに注力していただく、そういったあり方っていうのが、Autifyとかのノーコードツールを使うことで実現できるんじゃないのかなというのは私としては思っています。
あとそれに加えてやっぱりBDDというお話もありましたけれども。生成AIを活用したプロダクトというのが先ほど簡単に私も触れさせていただいたところではありますが、弊社でもサポートさせていただき、スタートしたところでございます。
そのあたりが、おそらく今、課題感としてお持ちのテストケースの漏れであったりとか、そういったところを改善する、サポートする一点になり得るんじゃないのかなというのは私も思っています。
やっぱり江口さんの発表の中でも、チームでのコラボレーションを 重視していきますというのがあって、いい動きだなというふうに私は思っておりますけれども、やっぱり人間で検知できない部分っていうのはおそらくあるのかなというふうに思っておりますので、そこを生成AIが少しでもカバーするみたいな、そういう動きができると、よりカバー率が高い、精度の高い設計というのができてくるんじゃないのかなと思います。
末村:そうですね、今、風見さんがおっしゃっていた通り、AIが人と一緒にプロダクトの品質を良くしていくというのは、我々が掲げているビジョンの一つでもありますし、ぜひそこにWINTICKET様もご協力も得ながら、世の中のプロダクトの品質というものをさらに高めていきたいなというふうに僕自身も考えています。
ちなみに今、風見さんから話がありました、 生成AIを使ったプロダクトなんですけれども、弊社Autify Genesisというプロダクトを現在ベータ版で各社いくつかの会社様とご協力を得ながら開発を進めておりましてこのような形で対話型で仕様書からテストケースを生成しBDDで使われるGherkinという、定式化されたフォーマットのテストシナリオを作り、さらにそれを自動化するWebの自動化のコードまで生成するといったところまでほぼ出来上がってきています。
ですので、これもぜひ今後 WINTICKET様にも使っていただきたいなというふうに思っているんですが江口さん。このプロダクトについてどのように思われますか?
江口:そうですね、今自分たちが取り組んでいる開発フローの改善とほぼほぼ同じ考え方をしているなと思っていて、実際に僕たちも今過去の仕様書とかを読み込ませて、そこからいろいろ生成するところをチャレンジしているので、そこを大きくある機能も試してみたりとかして、より良い開発フローにしていければいいなと思っていて、過去のノウハウとかはなかなか知見として活かしにくいっていうのはあるので、生成AIと相性がいいかなと思うので、そこで活用したいなと思っています。
末村:ありがとうございます。江口さんたちの取り組みと僕たちのプロダクトを比較されると勝てる自信が……いや、勝てます。頑張って認めていただけるような素晴らしいものを作っていきたいと思いますし、一緒にそれをできればと思っています。ぜひ今後とも引き続きよろしくお願いいたします。
それではこちらで今回の発表を終了させていただきます。江口さん、風見さん、どうもありがとうございました。