こんにちは。
AI 事業本部 AI クリエイティブディビジョンのエンジニアの佐藤 (@Rintarooo) です。
なぜ丸亀製麺のうどんはあんなに美味しいのか、真剣に考えたい今日この頃です。
今回、AWS re:Invent 2024 に現地参加してきたので、そこで得られた知見や初めて参加した感想を共有させていただきます。
re:Invent 2024 について
re:Invent は、AWS の「学習」型のクラウドの世界最大級のカンファレンスです。米国ラスベガスで開催されており、13 回目となる今年は、世界中から 60,000 人、日本からも 1,700 人以上もの参加者が集まりました。期間中には AWS サービスの多くのアップデートが発表され、参加者は 2,000 以上の様々な分野や形式のセッションから自由に選択して参加できます。これにより、AWS サービスについての理解を深め、新しい知見を得ることができます。また、後述する Expo という世界中のスポンサー企業による大規模な展示スペースもあり、AWS の学習だけでなく、交流やイノベーションを体感できる場としても機能しています。
なお、弊社から小西さんがセッションのスピーカーとして登壇され、その内容はこちらの記事で紹介されています。実際のセッションの様子は YouTube でも公開されていますので、ぜひご覧ください。
Keynote
Keynote では、AWS の CEO をはじめとする役員陣が登壇し、例年様々な新サービスやアップデートが発表されます。今回も、新機能の発表に加えて、AWS の設計思想の説明や、複数のパートナー企業による登壇が行われました。その中で特に印象的だったのが、 Apple 社の講演です。AWS の Graviton や Inferentia などの半導体チップを活用した AI 系サービスのローンチや、長期的なパートナーシップによるビジネス展開についての説明がありました。
注目の新サービス
今回発表されて注目を集めた新サービスの一つに、「Aurora DSQL」があります。これは、マルチリージョンでの最大 99.999% の高可用性を実現するサーバーレスのデータベースサービスです。本稿執筆時点では、PostgreSQL 16 系との互換性(完全な互換性ではありませんが)を備えており、PostgreSQL の知識があれば迅速なデータベースの構築が可能とのことです。
また、Iceberg 形式をサポートするストレージ「S3 Table」や、生成 AI のワークロードに最適化された EC2 の新しい NVIDIA GPU インスタンスタイプ「P6」なども発表されました。
これらのデータベース、ストレージ、コンピューティングといった基本サービスの拡充に加えて、今年は特に AI / ML 分野での大幅なアップデートが目立ちました。
その代表が、「次世代の SageMaker 」として発表された「SageMaker AI」です。データ分析・ETL・可視化から生成 AI アプリケーションの開発まで、幅広いワークロードを「Unified Studio」という単一のインターフェースに統合しました。ML 向けの従来のサービスからさらに進化を遂げ、今後の利用機会の増加が期待されます。
昨年発表された Bedrock については、AWS 自社開発の新しい基盤モデル「Nova」が追加されました。Nova は、Bedrock で初めて Text-to-Video の生成も可能にするマルチモーダルなモデルです。本稿執筆時点では米国の特定リージョンでのみ利用可能で、東京・大阪リージョンではまだ提供されていません。また、Bedrock Guardrails には、テキストに加えて 画像コンテンツの有害性を検出・フィルタリングする機能が追加されました。これらの発表から、AWS が 生成 AI や ML 分野の技術革新に注力しつつ、同時にセキュリティ、データ保護、ガバナンスといった AWS の強みを活かしながら、生成 AI の安全性の高い活用を推進していることがわかります。
セッションの紹介
参加したセッションのうち、特に興味深かった5つのセッションを紹介します。これらは ML / AI、DevOps、コンテナ、サーバーレス、セキュリティの分野に関するものです。
- Detect, investigate & respond to security scenarios with generative AI
- Amazon Q を活用したセキュリティインシデント対応の実践
- Finding the right approach: Bridging traditional ML with generative AI
- 従来の ML と生成 AI の特性理解と適切な使い分け
- Building serverless applications using Terraform
- Terraform によるサーバーレスアプリケーションの構築
- Achieving a secure microservices architecture on Amazon ECS
- ECS Service Connect を用いたセキュアな MSA の実現
- AWS Jam: DevOps and modernization (sponsored by Palo Alto Networks and LaunchDarkly)
- DevOps 関連のタスクに取り組み、グループ単位でポイントを競うハッカソン形式のセッション
1つ目のセッションでは、VPC フローログを起点として、「AWS の専門家」である Amazon Q の提案を活用しながら不正アクセスの原因を追跡しました。Q との自然言語による対話的な調査手法が非常に効率的だということを実感できました。
2つ目のセッションでは、従来の ML と生成 AI について、モデルのパラメータ数・サイズ、タスクの汎用性、解釈性の観点から比較がありました。今後の技術選定に活かせる貴重な知見が得られました。
3つ目のセッションでは、Terraform を使ったサーバーレスアプリケーションの実践的な構築手法を学びました。SAM Local を使って開発マシン上で Lambda をテストしながら 段階的にインフラを構築するなど、実用的なベストプラクティスを学ぶことができました。
4つ目のセッションでは、ECS Service Connect の詳細な仕組みについて学びました。Service Connect agent による TLS 証明書の発行・ローテーション、ECS サービス間での証明書共有によるセキュアな TLS 通信の実現方法など、内部の動作についての理解を深めることができました。
5つ目のセッションでは、CodeDeploy を使ったデプロイや、EC2 上の Java のアプリケーションを ECS on Fargate に移行するなどの実践的な DevOps のタスクに取り組みました。一方で、AWS Migration Hub の Refactor Spaces を使った Strangler Fig パターンの実装など、初めて使うサービスでは苦戦する場面もありました。
Expo
Expo には、世界中のスポンサー企業による展示ブースに加えて、AWS が自社の最新テクノロジーを実際に体験できるインタラクティブなデモスペースが設けられていました。中でも私が最も興味を持ったのは、「ゲームの NPC 用の対話型 AI モデル」を AWS のサービスで作成したデモでした。担当のAWSの開発者に直接技術的な質問をしながら、その仕組みについて詳しく学ぶことができました。
このデモは、以下のような流れで動作します。
1. ユーザーがテキストで質問を入力すると、文章を生成
2. 生成された文章を Polly で音声に変換
3. Unreal Engine Metahuman で作成されたゲームキャラクターが、その音声に合わせて口を動かしながら発話
インタラクティブな会話を実現するため、バックエンドでは API Gateway を通じて、以下の2つの異なる応答生成の仕組みを用意しています。
- 基盤モデルをファインチューニングした言語モデルで返答を生成する「text_api」
- 海賊に関する知識ベースを Vector DB に格納し、RAG(Retrieval Augmented Generation)で検索して返答を生成する「rag_api」
これら2つのエンドポイントにより、自然な会話とゲームの世界観に沿った返答の両方を実現しています。例えば、2つ目の API を用いて、このゲームキャラクターに海賊の宝の在り処を尋ねると、どこにあるのか回答してくれます。
Lambda のハンドラ関数について、どの程度複雑な実装になっているのか開発者に質問したところ、基本的には Bedrock の API を呼び出すだけの Python コードで、20 〜 30 行程度とのことでした。一見複雑そうに見えるアプリケーションも、AWS のサービスを適切に組み合わせることで、シンプルな構成で実現できることを実感しました。
まとめ
本稿執筆時点で 200 以上のサービスを展開する AWS ですが、re:Invent への参加を通じて、普段使用する機会のないサービスについても知見を深めることができ、実務での活用に向けてさらに理解を深めていきたいと感じました。また、「普段どんなサービスを使っているの?」といった会話から始まる交流は、AWS という共通言語で世界中のエンジニアと繋がれる貴重な体験でした。日本からの参加者や有志で行われた事前勉強会で知り合った方々との交流を通じて、AWS コミュニティの熱量を肌で感じ、大きな刺激を受けました。
最後までご覧いただき、有難うございました。