応用AIエンジニアのスキルを最大限活かせるMCPの現在と未来を解説。LLM活用経験を持つエンジニアが今すぐ取り組める基本機能から、これから実現するリモートMCP、階層型AI連携などの可能性まで紹介。私たちが描く次世代AIエコシステムのロードマップと、その実現に向けた取り組みを共有します。ツールやLLMを使いこなす応用エンジニアにとって、新たな可能性を切り拓くための必須セッションです。
本記事は、2025年03月21(金)に開催した「CA. ai#1」において発表された「MCP世界への招待:AIエンジニアが創る次世代エージェント連携の世界」に対して、社内の生成AI議事録ツール「コエログ」を活用して書き起こし、登壇者本人が監修役として加筆修正しました。
株式会社サイバーエージェント CTO統括室 Developer Productivity室
Günther Brunner(グンタ ブルンナー)
OpenSTFの生みの親として知られる技術イノベーター。文部科学省国費留学生として来日後、サイバーエージェントで数々の革新的プロジェクトを主導。モバイルテスト自動化の礎を築き、1.3万を超えるGitHubスターを獲得したOpenSTFは、グローバルで高い評価を得る。現在はAIを活用した開発生産性の革新に取り組み、次世代の開発環境の在り方を探求している。
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AIエージェントの未来を塗り替える可能性を秘めたMCP技術。この革新的な世界への扉を開き、その可能性を深掘りしていきます。
サイバーエージェントCTO統括室、Developer Productivity室に所属するGünther Brunnerです。AI技術とデザインを軸に、開発者の生産性向上に取り組んでいます。
サイバーエージェントでの12年間、様々な部門を経験してきました。現在はフルスタックAIエンジニア兼デザイナーとして、テクノロジーとクリエイティブの融合点で活動しています。
AI分野においてデザインの重要性は急速に高まっています。単なる技術的な実装を超えた「センス」こそが、これからのAI活用における差別化要因になるでしょう。世界はAIに基礎的な作業を委ね、人間はより本質的な創造や企画に集中するという方向へと確実に進化しています。私たちの思考と創造のプロセスそのものが再定義される時代が到来しているのです。
この流れの中で、プログラミング自体が「マニュアル操作」に近い位置づけへと変化しています。従来は人間がすべてのコードを手作業で書いていましたが、AIの進化により、その多くがツールやエージェントによって自動化される時代へと移行しています。
LLMを自動車に例えるなら、人間の操作を補助するハイブリッド車(プリウス)のような存在です。一方、エージェントは目的地を指定すれば自律的に走行するテスラのような存在であり、人間の意図を汲み取りながら自律的に目標を達成します。
今日のテーマであるMCPは、複数のエージェントが大規模かつ統合的に連携する、いわば「スカイネット」に近い世界観を実現する可能性を秘めています。これは単なるツールの進化ではなく、テクノロジーと人間の関係性を根本から変える革命的な転換点となるでしょう。
サム・アルトマンも指摘するように、2025年はまさに「エージェントの年」です。この潮流の中で特に注目したいのがCursorというツールです。エンジニアに限らず、あらゆる職種の方がAIとの協働体験を直感的に得られる汎用性が魅力です。AIとの新しい働き方を体験するための入り口として、ぜひ一度触れてみることをお勧めします。
MCPとは「Model-Context-Protocol」の略称で、AIエージェントと外部ツール・データを効率的に連携させるための次世代プロトコルです。この新しい標準が、AIエコシステムの未来を形作ろうとしています。
CopilotやCursorの登場により、コード生成はすでに当たり前の技術となりました。しかし今、求められているのは単なるコード出力を超えた、プロジェクトのコンテキストを理解し、複数のツールやシステムと連携してタスクを完遂できる能力です。この進化の中心にあるのがAIエージェントであり、MCPはその可能性を最大限に引き出す基盤技術なのです。
実際にLLMを活用した開発や業務改善に取り組むエンジニアにとって、MCPは間違いなく注目すべき技術革新です。
MCPの登場背景には、エージェントと外部ツール・サービスの連携における深刻な課題がありました。それぞれのAPIや認証方法がバラバラで、連携のたびに独自実装が必要という非効率な状況が続いていたのです。エコシステム全体が統一されておらず、技術的にも運用的にも混沌とした状態だったといえます。
この問題を解決するためにClaudeを開発するAnthropicが提案したのが、MCPというオープンスタンダードです。これはClaude専用の仕組みではなく、業界全体での利用を前提に設計されています。その目標は、HTTPやUSB-Cのように、AIエージェントと外部ツールをつなぐ共通インターフェースとなることです。
MCPのアーキテクチャは、クライアントとサーバーという明確な役割分担のもと、「Resource」「Tool」「Prompt」という三つの核となる構成要素で成り立っています。現状では、CursorなどのツールはまだResourceへの対応が限定的で、主にToolを中心とした実装が主流となっています。しかし今後、この三要素がバランスよく統合されることで、真のエージェント連携が実現するでしょう。
MCPはLSP(Language Server Protocol)の思想を継承しており、構造的にもJSON-RPCに非常に近い設計となっています。定義方法や通信プロトコルにおいても類似したアプローチを採用し、開発者にとって親しみやすい仕様となっています。
MCPはリリースからわずか4ヶ月という短期間で驚異的な発展を遂げています。クライアント側ではClaude、WindSurf、Cursor、Clineなどが名を連ね、サーバー側では多様なデータベースや専門ツールとの連携が急速に進んでいます。
特に注目すべきは「Marketplace」の誕生です。開発者が自作のMCPサーバーを公開・共有できるプラットフォームとして機能し、エコシステムの拡大を加速させています。現在特に人気を集めているのがGlamaとMintlifyというプロジェクトであり、これらが今後のMCP発展の核となるでしょう。
次にご紹介したいのがCursorです。これは現時点で個人的に最もおすすめしたいツールです。ただし、Cursor以外にも非常に優れた選択肢がいくつかあります。
開発者としてAIエージェントやMCP対応システムを構築したい場合、現時点で特に推奨したいのがVercelのAI SDKです。整備された環境と豊富なドキュメントにより、開発をスムーズにスタートできます。
また、Mastraも非常に優れたツールであり、さらにCloudflareのリモートサーバーも選択肢として検討する価値があります。これらのツールは、MCPエコシステムへの参入障壁を大幅に下げ、より多くの開発者がこの新しい世界に足を踏み入れる機会を提供しています。
MCPサーバーの具体例として、GitHubとの連携が挙げられます。Issue作成や会話履歴管理などの機能をエージェントが直接担うことで、開発ワークフローの効率化が実現します。特に注目したいのがMastraの独自アプローチです。従来のクライアントがドキュメントを直接読み込む方式とは異なり、Mastraは専用のドキュメントMCPサーバーを構築しています。
この方式の最大の利点は二つあります。一つはコンテキストサイズが最適化され無駄なトークン消費が抑えられること、もう一つはドキュメントの再インデックスが不要となり情報の正確性が常に保たれることです。このようにMCPサーバーを介することで、より効率的かつ安定したAI連携が実現するのです。
現在のMCPレジストリの中で特に注目すべきはComposioとSmitheryです。この2つが最も勢いのあるプラットフォームとなっており、今後のMCPエコシステムの中心的存在になると予想されます。急速に進化する環境の中で、これらの動向を継続的に追うことが重要です。
本日、サム・アルトマンがOpenAIとしてMCPへの本格的な対応方針を表明しました。これにより、MCPは事実上の業界標準として確固たる地位を築くことになります。AI業界の主要プレイヤーが揃って支持するこの統一規格は、エージェント連携の未来を大きく前進させるでしょう。
具体的な実装例として、Microsoft社が開発したPlaywrightのMCPサーバーが注目を集めています。このサーバーは従来のBrowser Useなどと比較しても圧倒的な高速性と軽量性を誇り、MCPを経由することでコスト効率の高いローカル環境での操作を実現しています。この実用性の高さが、MCPの普及をさらに加速させる要因となるでしょう。
昨日、MCPの仕様に革命的な変更が加えられました。まず、OAuth 2.1ベースの認証基盤が整備され、ローカルインストールの必要なく、URLを指定するだけでリモートMCPサーバーを直接操作できるようになりました。
さらに、通信仕様も大きく刷新され、従来のHTTP+SSEからステートレスなStreamableHTTPへと進化しました。現時点ではSDKの対応はまだ途上ですが、近日中には完全対応が進むと予想されています。これらの変更により、MCPの利便性と拡張性は飛躍的に向上するでしょう。
JSON RPCへの正式対応も完了し、MCPのロードマップ上では実装済みとして扱われています。認証や通信仕様の刷新と合わせ、基盤部分の整備が着実に進行しています。
今後のロードマップでは、今年中にパッケージ管理やツール管理の仕組みがMCP規格に統合される見込みです。現在はバラバラに存在する様々なツールやパッケージを包括的に扱える環境を整備することで、より安定した汎用的なAIエージェントのエコシステム構築を目指しています。
AI SDKを活用したMCPツール導入の簡便さは特筆に値します。指定されたURLを入力するだけで、独自のAIプロダクトに高度な機能を即座に組み込むことが可能となり、開発効率の飛躍的な向上が実現します。
Mastra経由で利用できる注目のMCPサーバーとして「シーケンシャルシンキング」があります。これはデータ処理にとどまらず、論理的思考のプロセスそのものをサポートする画期的なツールです。思考設計にまで踏み込んだこの先進的なアプローチは、AIの可能性を大きく広げています。
MCPツールの急速な増加は、一日中触れていても追いきれないほどの勢いです。この多様性こそがMCPエコシステムの強みであり、実際に体験することでその真価を理解できるでしょう。
開発フローの自動化においてMCPが果たす役割は革命的です。GitHubのMCPサーバーを活用すれば、コミットやチケット作成といった操作をすべてMCP経由で完結させることができます。同様に、FigmaやUnityのMCPサーバーも各種操作を可能にしています。
この統合により、Cursorという単一環境から一歩も出ることなく開発作業全体を完結させる世界が実現しつつあります。レビュー、Pull Request作成、Jira連携など、あらゆる開発プロセスがMCPを通じて自動化・統合され、かつてない柔軟性と効率性を備えた開発体験が可能となるのです。
「Infrastructure as Code」という概念は、Terraformなどを用いてインフラ構築・設定をコード管理する手法として広く知られています。
そして今、「Project as Code」という新たなパラダイムが登場しています。これはソースコードだけでなく、要件定義、設計書、インフラ構成など、プロジェクト全体のあらゆる要素をコードとして一元管理する革新的なアプローチです。特筆すべきは、エンジニアのみならず、プロジェクトに関わるすべての職種がこの統一コードベースにコミットしていく点です。
この統合により、AIがプロジェクト全体のコンテキストを完全に理解した上で開発を進められるようになり、新機能実装においても質の高いアウトプットをスムーズに生み出すことが可能になります。
MCPが業界に与えた革命的なインパクトの背景には、いくつかの重要な要因があります。まず、MCPが最初からAIネイティブな設計思想で構築されていること。次に、開発者自身による積極的なドッグフーディングが行われていたこと。そして何より、オープンなエコシステムとして多様なプレイヤーを巻き込みながら拡張性を持って成長してきたことが、その成功を決定づけました。
MCPが切り拓く新たなAIエージェント連携の世界は、私たちの開発の在り方、そして技術と人間の関係性そのものを根本から変革していくでしょう。
今後の展望
MCPの世界はまだ始まったばかりです。今後、私は厳選したMCP関連情報やツール、ベストプラクティスを MCPVerified にて公開していく予定です。刻々と変化するMCPエコシステムの動向を、分かりやすく実用的な形でお届けしていきます。
本記事に関するご質問や、MCPの活用方法についてのお問い合わせは、X(旧Twitter)の@gunta85 までお気軽にご連絡ください。フォローしていただければ、最新のMCP関連情報もリアルタイムで共有していきます。