AIエージェントは、これからの社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めた技術です。本セッションでは、AIエージェントの可能性と具体的な活用方法について、わかりやすくご解説いたします。Difyを用いた簡単な構築方法や、自社製品の競合分析を行うAIのデモをご紹介いたします。

本記事は、2025年03月21(金)に開催した「CA. ai#1」において発表された「未来を切り拓くAIエージェントの可能性」に対して、社内の生成AI議事録ツール「コエログ」を活用して書き起こし、登壇者本人が監修役として加筆修正しました。


株式会社サイバーエージェント AIオペレーション室 ソフトウェアエンジニア
李 俊浩(イ ジュンホ)

全社的なAI活用戦略を推進するテクノロジーリーダー。生成AI活用コンサルティングの第一人者として、数々のプロジェクトを成功に導く。Dify Community Meetup (JP)の運営を通じて、日本のAIコミュニティの発展にも貢献している。


皆さん、こんにちは。本日はAI Agentを活用することで業務をどのように効率化できるか、そしてAI Agentそのものについて広くお話ししたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。今回のテーマは「未来を切り拓くAI Agentの可能性」です。

アジェンダはこのようになっています。

改めまして、自己紹介をさせていただきます。名前は李 俊浩(イ ジュンホ)と申しますが、社内では間違われ「リさん」と呼ばれることが多いです。

真ん中の字(俊)は「ジュン」と読みます。韓国ではこの字を「ジュン」と読むので、私のこともそう呼んでいただければと思います。

私はサイバーエージェントのAIオペレーション室に所属しています。業務内容としては、生成AIを活用して全社の業務効率化を推進したり、コンサルタントやアドバイザーとしての活動を行ったりしています。

また、サイバーエージェントのNextExpertsとして、生成AIを活用した業務効率化の方法や、こうしたツールを使うことでどのように時短ができるかといった啓発活動も行っています。Xなどでも定期的に情報を発信していますので、もしご興味があればフォローしていただけるとうれしいです。

早速ですが、皆さん、こんな悩みはありませんか。情報の整理や分析が追いつかない。複雑な手順や属人化によってミスが発生しやすい。データ分析やレポートの作成に手間がかかる。こういった悩みは、日々の業務の中で多くの方が感じているのではないかと思います。実際、私自身もよく耳にする課題です。では、こうした悩みはどのように解決すれば良いのでしょうか。

本日のポイントとして、私が強調したいのはこの一言です。AIエージェントを活用することで、業務の効率化が実現できます。先ほど挙げたような悩みも、AIエージェントをうまく取り入れることで、改善できるのではないかと考えています。

なぜ私がそう考えているのかというと、AIの知識はすでに人間を超えているからです。この図は2024年9月時点のデータをもとにしたもので、数学やコンピュータサイエンス、法学といった57のタスクに対する知識レベルを数値化したものです。

簡単に説明すると、ChatGPT-3の時点で、すでに一般的な人間の知識レベルを超えており、スコアは3.54に達しています。これは、専門家レベルにかなり近いことを意味しています。その後、o1が登場し、ついに博士レベルを超える知識を持つようになりました。そして今年、GPT-4.5が登場し、さらに精度と知識の幅が向上しています。

このように、専門家の知識をも超えるAIを、私たちはどのように活用すればよいのでしょうか?

私の考えとしては、答えはこうです。

私は「レベル3のAIエージェント」が答えだと考えています。この図について簡単にご説明します。

レベル1はチャットボットです。シンプルに言えば、昔からあるような、質問に対して回答を返すタイプのAIです。ユーザーが入力した問いに対して応答を返す、いわば壁打ちのようなやりとりを通じて、解像度の高いアウトプットを引き出す形式です。一番シンプルなタイプと言えるでしょう。

レベル2は、専門家レベルの知識を活用して、より高度な問題解決が可能なAIです。単なる応答にとどまらず、複雑な内容についても深く踏み込んだ提案や分析ができるようになります。

そして、今回のメインとなるのが「レベル3」のAIエージェントです。これは、ユーザーがタスクを与えると、自律的にゴールを設定し、どのようにそのゴールを達成すればよいのかを自ら考え、出力を生成するタイプのAIです。

私は、このタイプのAIエージェントを活用することで、業務の効率化が実現できると考えています。

AIエージェントはどんなものかというと、この3つの要素で成り立っていると私は思っています。1が自律性、2が環境利用、3がタスク遂行です。

1から説明しますと、自律性。自律性は簡単に言うと、考える力かなと思います。この考える力を使って、自律的に判断して、環境を利用するかどうかもAIがすべて判断して、タスクを遂行してくれます。

2でいうと、ツールとかRAGって書いてありますけど、これ何ぞやっていうと、この後の競合分析で説明しますけど、ツールの場合、競合分析におけるツールの場合は、例えば他社情報、製品情報を取得するためにWeb検索ツールを使って、AIエージェントが自律的に判断して、他社の事例を収集したりとか。

社内製品、自社製品のデータを取得するためにRAGというツールを使って、自社製品の詳細情報を取得したりとか。

3のタスク遂行は、ツールを使うかどうかもすべてAIエージェントが自律的に判断します。

というのが、この3つの組み合わせでAIエージェントが成り立っているかなと思います。

ここはAIエージェントの具体的なフローイメージなのですが、自社製品の競合分析の例となります。少し複雑ではありますが、簡単に説明します。

まず1から説明しますと、「自社製品のスマートウォッチZの競合分析をしてください」という入力をします。

それに対して2。あらかじめ設定しておいたプロンプト、「競合分析はこういう感じでやってね」というプロンプトに基づいて、AIエージェントが自律的に推論して考えます。

ここでのポイントは、1で入力したのは「スマートウォッチZの競合分析」だけだったということです。これを受けてAIエージェントは考えます。「スマートウォッチZ」しか入力されていないので、「自社製品の詳細データを取得する必要があるね」と判断して、実際にタスクを遂行します。

このナレッジ機能を使って、例えばNotionやExcel、スプレッドシートなどを巡回して、必要なデータがあるかどうかを調べ、ある場合はそれを取得します。

また、競合分析というのは自社製品の比較対象があるはずなので、他社製品のデータも必要になります。そこで、エージェントは競合製品のデータを取得するために、SlackやGoogle検索などツールを使って、他社の事例や分析データなどを収集します。

そして、これらの情報を分析して十分に取得できたら、分析結果をまとめてユーザーに回答するという流れになります。

結構いろいろと書いているので、少し難しく感じるかもしれませんが、Difyというプラットフォームを使えば、AIエージェントを簡単に5ステップで作ることができます。

1から説明しますと、まずプロンプトを作成します。「あなたは競合分析の専門家として、自社製品と競合製品を客観的に比較分析するAIです」といったプロンプトを設定します。

2で自社のデータを追加します。

3では、ツールを使って他社事例を収集したり分析してほしいので、Webツールを追加します。

4がAIの頭脳となる部分です。ここではClaudeやGemini、OpenAIなど、いわゆるLLMを選択します。

そして5で、「新製品スマートウォッチZの競合分析」というプロンプトを入力すると、6で結果が出力されます。

では実際に、どのような推論でこのような結果が出ているのか、見ていきましょう。

推論ステップとしては、1から4の流れになっています。

まず1では、スマートウォッチZの競合分析を行うために、自社製品の詳細情報を確認するところから始まります。なぜかというと、「スマートウォッチZ」という情報しか入力されていないので、詳細情報を取得する必要がありますよね。これをAIエージェントが自律的に考えて、詳細情報が必要だと1の段階で判断しました。

2では、実際にその情報を取得するために動いてくれました。

3では、「私の調査では、スマートウォッチZについての基本情報は確認できましたが、競合分析を行うためにはさらに市場情報や製品情報を調べる必要がある」と判断して、次のステップへ進みました。

そして4では、実際に競合製品について分析を行います。十分な情報が取得できるまで、自律的に考えながら4回ほどやりとりを繰り返して、情報を取得しました。

ここが実際にアウトプットの例なんですけど、軽く見ますと、Executive Summaryで総括の要約内容が書いてありますね。

2つの主要なポイントとして、グローバルと日本市場の動向を示してくれました。まあ、ユーザーの傾向も書いてあって、まあ、比較表とかもわかりやすくまとめてくれましたね。で、SWOT分析もしてくれてます。

強みで言うと、低価格っていうのが強みとしてあります。弱みとしてはブランドの認知度が低いですよねっていう。具体的な話までしてくれました。

こういう、けっこう難しそうなことをやっているように見えますが、実際にプロンプトを見てみると、意外とシンプルだったりします。

書いている内容自体は、ほんの少し日本語で指示を書いているだけですが、これをもとにAIエージェントが自律的に考えて、タスクを細分化しながら実行してくれた結果が、先ほどのアウトプットになります。

AIエージェントって、けっこう万能なんじゃないか、何でもやってくれるんじゃないかなと思われるかもしれません。ただ、実際にAIエージェントを選ぶかどうかを判断する際には、3つのポイントがあると考えています。

一番左から見ていきますと、まず「目的」です。一番簡単な、質問して回答して、また質問して回答して、という繰り返しだけで十分な場合は、チャットボットを使えば問題ありません。

一方で、タスクをまるっと渡して全部やってもらいたい場合は、AIエージェントを選ぶべきです。

次に「ワークフロー」ですが、これは業務効率化の観点です。たとえば定型業務で手順が明確に決まっているようなもの、ステップ1からステップ4までをすべて実行してもらいたい場合は、WorkProを選ぶと良いです。

次に「タスクの複雑さ」もポイントになります。シンプルなタスクであれば、チャットボットで十分に対応できます。

しかし、非定型的で複雑、かつ詳細な情報が最初に与えられていないようなタスク——たとえば新規事業の立ち上げやサービスの企画、問い合わせ対応のフロー構築のように、どういう手順を踏めばいいかが明確になっていないもの——こういった業務の場合は、AIエージェントが向いています。

反対に、やることが具体的に決まっていて、詳細な情報も揃っている場合には、ワークフローが適しています。

最後に「ITスキル」です。非エンジニアの方であればチャットボットが扱いやすいですし、自律的にコードを生成してもらいたい場合はエージェントが適しています。それ以外の場合はワークフローという流れになります。

最後にまとめになります。

AIエージェントは、専門家レベルの知識を活用して業務の効率化ができるというお話をさせていただきました。また、今回の事例では、5ステップで競合分析を作成し、実際に業務効率化につながるプロセスについて学びました。

ご清聴ありがとうございました。