はじめに

 こんにちは!武蔵野大学大学院修士1年の白川桃子と申します.こちらの記事では,2025年8月の1ヶ月間CATech JOBというインターンシップで取り組み,学んだことについてご報告いたします.

CA Tech JOBでの目標

 CA Tech JOBの参加にあたり,技術とスタンスの2軸について目標を設定しました.

技術に関する目標

 自身の能力とタスクの要件を的確に見極め,実現可能な計画を立て着実に業務を遂行する能力を養う

スタンスに関する目標

 与えられた役割に留まらず,周囲と積極的にコミュニケーションを取り主体的に取り組む

今回取り組んだタスク

 今回は「検索機能付きLLMによる広告文自動生成」というタスクに取り組みました.従来の広告文生成では,まず広告のランディングページ(LP)をスクレイピングし重要な内容を要約します.その後,要約内容をLLMに入力し,広告文を生成していました.しかしこの手法では,LLMがLPの一部の情報しか参照できないため,広告表現の多様性に欠け訴求できるポイントが少なくなるという課題がありました .この課題を解決するため,本タスクでは検索機能付きLLMを用い,LP全体の情報を直接参照させることで,より網羅的な情報から広告文を生成する新たなアプローチを試みました.検索機能付きLLMとは,LLMが情報をリアルタイムで検索し,その結果を回答生成に活用できる技術です.

課題解決のフロー

 

1.プロンプト設計と広告文生成

 まず,「プロの広告コピーライター」として指定されたルールを遵守しつつ広告文を生成するようLLMに指示し,LPの内容に基づいて見出し10個と説明文5個を生成させるプロンプトを設計しました .この手法で,5社のクライアントに対して合計2640件の広告文を生成しました .

 

2.評価と追加分析

 生成された広告文を評価したところ,「LPの内容と矛盾する」「広告文生成時のルールを破る」といった課題が見つかりました .

 

3.セルフコレクションによる改善

 2の課題に対し,LLM自身に生成した広告文を校閲・修正させる「セルフコレクション」を実施しました .LLMに「プロの広告校閲者」という役割を与え,内容の重複やLPとの矛盾,文字数制限などをチェックさせることで広告文の品質の向上を図りました .

実験結果

定量評価

 評価指標には次の4指標を採用しました.

広告容認性:提示された広告が日本語として適切か

広告一貫性:広告の内容とLPの内容との整合性

文字数制限:見出しと説明文がそれぞれ指定した文字数に収まっているか

Self-BLEU:生成された広告文の多様性

 今回は広告容認性,広告一貫性,文字数制限の3要件を満たす広告文を納品可能な広告とみなしています.提案手法を使用した結果,既存手法と比較し納品可能な広告数が2クライアント(自動車保険会社,通信企業)において約10%増加しました.クライアント別に結果を分析すると,自動車保険会社において,広告容認性や一貫性のスコアに顕著な改善は見られないものの,文字数制限の遵守率は約20%向上しました.また,通信企業についてはセルフコレクションの実施が結果の改善に寄与したと考えられます.

 さらに,生成された広告文の多様性を評価する為,Self-BLEUを算出しました.本提案手法は既存手法と比較してSelf-BLEUのスコアが約0.05倍に減少したことから,より多様な広告文を生成できていることが考えられます.

定性評価

 生成された広告文を確認すると「1日だけの勤務OK」「未経験者歓迎の仕事」など,LP内の詳細まで活用した多様な訴求が可能になっていました .一方でセルフコレクション後も数値の誤りがわずかに残るなど,今後の改善点も明確になりました.

今後は,クライアントごとに訴求したいポイントをより的確に押さえつつ,多様な広告文を安定して生成することを目指します.

YANSでの成果発表

 9月には第20回言語処理若手シンポジウム(YANS2025)にて発表させて頂きました.

参加者の皆様と「広告文の多様性がどのような利益をもたらすのか」「Self-BLEU以外の多様性を測る手法は導入するのか」「多様性を確保しつつ納品可能な広告数を増やす方法」といった点について議論することができました.

 今回の発表では,「技術をプロダクトに適応する上でのビジネス的な価値を多様な手法で評価する」という,重要な視点を得ることができました.自身の研究についても多角的な視点から評価し,ユーザーにどのような価値を提供することができるのかを検討したいと思います.

まとめ

  • 技術に関する目標:タスク要件である「多様な広告文の生成」を目標に,広告生成の制約の遵守や,LP内の網羅的な情報の参照,セルフコレクションなどのタスクを着実に遂行できました.一方で,使い慣れないツールの操作に時間を要してしまい,本来の作業に充てられるはずだった時間が圧迫されてしまったのは反省すべき点だと感じています.今後の研究でツールを積極的に活用することで,このギャップを埋めていきたいと思います .
  • スタンスに関する目標:お世話になった部署の方に留まらず,ランチ会や面談などを通して,他部署の方々から業務内容やサービスへの想いを伺うことができました.皆様が体験価値の高いサービスを届けようと取り組む姿から,技術をより身近なものとして人々の生活に溶け込ませることで,社会に貢献したいという想いが一層強くなりました.

 私は,広告文生成に関するタスクに初めて取り組みましたが,技術を社会実装する面白さとユーザーの満足度向上に関われることにやりがいを感じ,大変貴重な経験となりました.この1ヶ月間は技術的な挑戦だけでなく,自身のキャリアを具体的に考える上でも大変有意義な時間となりました.この経験を糧に,今後も邁進してまいります.最後になりますが,トレーナーさんをはじめ,お世話になった皆様に心より感謝申し上げます.ありがとうございました.