はじめに
この記事は CyberAgent Developers Advent Calendar 2025 12日目の記事です。
こんにちは。株式会社AJA 動画メディア向けの広告配信チームのバックエンドエンジニアの阿久津です。
本記事では、動画広告における広告クリエイティブの一意性を担保するAd Creative ID Framework(以下: ACIF)という仕様・フレームワークについて解説します。
https://iabtechlab.com/standards/acif/
本記事のゴール
- 現状のコネクテッドTVなどにおける動画広告配信におけるパブリッシャー・広告主・広告プラットフォームなどのサプライチェーン全体における課題がわかる
- 上記課題を解決するためのAd Creative ID Framework(ACIF)についての概要がわかり、ACIFを利用する利点がわかる
- ACIFを実際に利用するために各ステークホルダーで必要な対応がわかる
本題であるAd Creative ID Frameworkの紹介の前に、動画広告配信における動画広告クリエイティブの情報のやりとりとその運用の課題について整理します。
動画広告配信での課題
まず現状の動画広告配信における、広告配信サプライチェーン全体での概要と課題について整理します。
デジタル動画広告配信において、配信する動画クリエイティブの情報は、通常IAB Tech Labが策定しているVideo Ad Serving Template(VAST) を用いて配信されます
<Creatives>
<Creative id="1" sequence="1" adId="1">
<UniversalAdId idRegistry="example.com">testid</UniversalAdId>
...
</Creative>
</Creatives>
VASTデータの中には動画広告のIDや動画のリンクなどさまざまな情報が含まれます。
この広告に関するIDは配信するメディアや広告プラットフォームごとに異なって管理されることが多く、同一の広告に対するIDがプラットフォームごとで異なることで、異なるシステムにおいて同じ広告が別の広告として扱われることになります。
後述しますが、同じ広告が広告プラットフォーム間で異なるIDとして扱われることにより、パブリッシャー、広告主、広告配信プラットフォームといった各ステークホルダーにとって様々な課題が生じます。
これを解決するために、動画広告のクリエイティブのIDの一意性を担保するための仕様・規格がAd Creative ID Framework(ACIF)となります。
Ad Creative ID Framework(ACIF)とは
ACIFとは、複数の広告プラットフォームで永続化された登録済み動画クリエイティブのID利用をサポートするフレームワークです。
このACIFのプロジェクトは、テレビ視聴環境で使用される動画広告クリエイティブのサポートに焦点を当てています。
ACIF策定・活用のゴールとして、動画広告配信に関する全てのステークホルダーが、動画広告クリエイティブに対して単一の一意なIDにマッピングし、広告主名や製品など標準化されたラベルを使用できるようにすることを目指しています。
ACIFを採用する利点と事例について
ACIFによる動画広告に対する一意なIDを利用する利点を整理します。
1: 動画広告の配信フリークエンシー制御
まずは動画広告配信についてのフリークエンシー制御が容易になるという利点があります。 フリークエンシー制御とは、ある広告を配信する際に、配信先のメディアを利用しているユーザに対して、一定期間のうちに同じ広告をどれくらいの頻度配信するかを制御する機能です。 配信の仕組みや配信におけるIDなどのデータの運用方法によって、特定のメディア内でのフリークエンシー制御や、複数のメディアを横断して特定のユーザに対する広告表示の頻度を制御することが可能です。
ここで、同じ動画広告を複数メディアや、複数の広告プラットフォームを経由して別々に配信した場合、その広告クリエイティブのIDが各プラットフォーム・メディアで別々で管理されている場合に、このフリークエンシー制御が複雑・困難になります。例えば、ある広告が異なるソースから異なるIDで配信された場合に、フリークエンシー制御を行うシステムでは別々の広告として扱われることになってしまうことが障壁となります。
動画広告クリエイティブに対して一意のIDを登録し、それを各ステークホルダーが使用することで、広告配信アルゴリズムが同じ広告を特定可能にし、配信頻度を追跡しやすくします。
2: 企業・ブランド間競合分離
上記と同様に、異なるソースにおいて異なるID,ラベルで管理された動画広告を扱う際に、広告主や製品の識別を難しくします。 これにより、同じ時間帯や配信チャンスにおいて、その広告の商品と同カテゴリの競合ブランドと同列に表示されてしまう懸念があり、企業・ブランド間競合分離が困難となります。動画広告クリエイティブのIDを利用することにより、競合ブランドの分離を容易にします。
3: クロスプラットフォームキャンペーン測定
動画広告がユニークIDで管理されることにより、 複数のプラットフォームで配信された同じ広告に対する計測結果の信頼性を高めることになります。
4: クリエイティブ照合の効率化
動画広告配信のサプライチェーン全体でユニークな広告クリエイティブIDを維持することで、そのIDに関連づけられる全てのログデータアクセスための情報を提供し、広告配信のトレーサビリティが向上し、パフォーマンス測定を容易にします。
他にもいくつか利点がありますが、広告クリエイティブのユニークなIDを維持することにより、結果として広告主側としても広告配信の効果を向上させ、キャンペーンROIの向上や、ブランドイメージ、パブリッシャーイメージ低下を防ぐことに繋がります。
ACIFの構成要素について
ACIFのフレームワークを運用するにあたり、必要な構成要素についてまとめます。
1: 広告レジストリ
広告クリエイティブの記録を維持し、それぞれに一意のIDを割り当てるビジネス・サービス (AD-ID, ClearCastなど)のことです。
登録された広告に対する検証への第3者アクセスを可能にし、検証できるようにするのが責務となります。
広告クリエイティブを登録する際には、広告主、ブランド、言語、期間といいくつかのメタデータセットを提供する必要があります。
登録済みのユニークIDの標準化された利用方法については後述しますが、VAST内の <UniversalAdId> ノードを実装し、そこにIDとその発行元である広告期間のルートURLを含み、それを利用して検証をするという方法を策定しています。
2: ACIFディレクトリ
IAB Tech Labで維持されている、ACIF準拠の広告レジストリ一覧をまとめた中央集権リストです。
広告システムが、参加しているレジストリからの登録済みクリエイティブIDをどこで、どのように検証するかを識別できるようにするのが目的となります。
広告レジストリごとにおける検証プロセス方法や、エンドポイントを指し示す情報が含まれます。
検証プロセス方法については、このあと紹介するACIF Validation APIという標準化された検証方法の仕様も策定されており、最終的には各レジストリがACIF Validation APIの仕様に準拠した検証プロセスに統一することをゴールとしています。
3: ACIF Validation API
各システムが、動画広告IDを検索・検証するための標準化されたAPIです。
指定された一意のIDを使用して、指定された広告レジストリに登録された広告を検証するためのリクエストを定義します。
- HTTP GETによりコアメタデータのアクセスを行う
- 基本的な検証は HTTP HEADメソッドを使用する
広告検証のタイミング
検証リクエストは、新しい広告クリエイティブに対してのみ行うべきと定められています。
一度検証・メタデータの取得ができたクリエイティブに対しては、同様のリクエストを避けるためのキャッシュ・永続化の機構を導入することが推奨されます。
ACIF Validation APIによる検証結果
検証に成功した場合は、JSONデータ構造でUniversalAdIDオブジェクトと、関連するメタデータを返します。
オプションとして、2通以上のUniversalAdID間の関係性を示すRelationshipオブジェクトを追加可能です。これにより、異なる広告クリエイティブにおける親子、エイリアス、派生物などの関連情報を紐づけることができます。
Request: GET https://acif.example.com/ucids/TEST000123
Authorization: {optional-authentication-token}
Response: 200 OK
Payload:
{
"UniversalAdId": "adregistry.com.TEST000123H",
"uri": "https://acif.example.com/uaids/TEST000123",
"advertiser": "Test-Advertiser",
"brand": "Coyote Tools",
"owner": "Test International"
"product": "Test Product",
"creativeType": "video",
"duration": "30",
"language": "en"
"relationships": []
}
ACIFの実運用のための取り組み
ここでは ACIFの仕組みを使って実際に動画広告のIDの登録、その検証を行なうための対応方法について整理します。
動画広告配信のサプライチェーンの各フェーズで対応が必要となり、足並みを揃えて対応を進める必要がでてきます。
ACIFディレクトリから、広告クリエイティブを登録する広告レジストリを選択する
広告登録は、業界内での特定のオーソリティ団体によって処理されます。 ACIFの利用にあたり、各地域の広告レジストリのリストを必要とします。これがACIFディレクトリとなります。
詳細はIAB Tech Labで確認できます。
広告クリエイティブを広告レジストリに登録
登録先の広告レジストリを選択し、広告主・代理店が、配信する動画広告のクリエイティブを広告レジストリに登録します。
登録にあたり、広告に関する情報をメタデータとして合わせて登録します。 登録が完了するとその広告に対して一意のIDが発行されます。
VASTタグへの広告クリエイティブIDと関連情報の埋め込み
記事前半の方で記載したとおり、登録した広告クリエイティブに対するIDやレジストリの情報をVASTタグの<UniversalAdId>ノードに埋め込み、広告プラットフォーム間でその情報を受け渡します。
広告配信における各プラットフォームが、この<UniversalAdId>の情報を扱えるようにする必要があります。
VASTタグに埋め込まれた広告クリエイティブIDを検証し、メタデータ情報を利用する
VASTタグに埋め込まれた情報を元に、各プラットフォームでその動画クリエイティブのIDを受け取り、指定された検証方法で検証します。
検証した結果登録済みのIDであれば、そのIDに関するメタデータの情報を取得でき、そこから広告主や商品名の情報を取得し利用できます。
大まかな流れとしては以上のとおりです。
補足
ACIF 1.0が 2025年にリリースされましたが、この1.0のリリースに伴い、VAST 4.0以前のバージョンを使用しているユーザでも<UniversalAdId>とその2つの情報を実装できるようにするための方法が提供されています。
まとめ
本記事では、コネクテッドTV・動画広告配信における課題である動画クリエイティブの一貫性を担保する手法と、それを実現するためのACIFの標準とその運用方法について整理しました。
- 動画広告配信において、配信プラットフォームによって同じ広告を別のIDで管理されることがあり、それにより同じ広告がシステム間で別の広告として扱われてしまう課題がある。
- その課題を解消するために Ad Creative ID Framework(ACIF)という仕様・フレームワークが策定され、動画広告クリエイティブの一意なIDの管理・運用のフローの標準化が進んでいる。
- ACIFを利用するためには、動画広告配信のサプライチェーンにおいて、各ステークホルダーがそのIDの登録・運用・検証をするための対応が必要となる。
- ACIFによるIDの利用ができれば、広告主・広告プラットフォーム・パブリッシャーの各ステークホルダーにとって広告投資の最適化やパフォーマンス計測の複雑性の解消、フリークエンシー制御の効率化など、さまざまなメリットがある。
以上がまとめとなります。
AJAにおいても、動画広告配信における各ステークホルダーの方と連携を進めながら、こうした取り組みの検証を進めてまいります。
