こんにちは、アメブロでフロントエンドエンジニアをしている土岐(@tokimariri)です。弊社の桝田(@masuP9)と社内でアクセシビリティの啓蒙活動をしています。

サイバーエージェントは、先日神戸で行われたアクセシビリティの祭典に協賛しており、桝田と登壇してきました。9時間に渡るとても濃密な1日でしたので、全てをお伝えすることは難しいですが、気になったセッションを中心にレポートしていきたいと思います!

なお、当日の様子は映像配信サービス FRESH!にて、いつでも映像で見ていただけます。下記リンク先に各セッションの頭出しのリンクもありますので、ぜひぜひご覧ください。

アクセシビリティの祭典 2018 | FRESH!(フレッシュ) – 生放送がログイン不要・高画質で見放題

そもそも、アクセシビリティとは

このブログの読者の方には、「そもそもアクセシビリティって?」という疑問をお持ちの方もいるかもしれませんので、少し補足させてください。

アクセシビリティとは、情報へのアクセスのしやすさのことをさしています。
ですので、Webアクセシビリティの向上のために求められるものには、

  • 文章をわかりやすいものにしましょう
  • 閲覧環境に関わらず見られるように、コントラストを高くしましょう
  • キーボードでも操作できるようにしましょう

といった内容も含まれます。

国内での盛り上がりは、平成28年4月に試行された障害者差別解消法がきっかけになります。Webアクセシビリティに関するJIS規格(JIS X 8341-3:2016)レベルAAへの準拠が、公的機関のWebサイトに求められることとなりました。以降、様々な企業や公共機関のWebサイトが、アクセシビリティの向上に努めています。

しかし、アクセシビリティは決して「障害者対応」ではありません。

法整備の流れもあり、よく「障害者の方でもサイトを見れるようにすること」と誤解されることが多いのですが、決してそうではありません。
こういった「アクセシビリティを高めるための配慮」がなされていないと、障害者の方が著しく不利益を被ることから、障害者差別解消法で保障されています。しかし、文章のわかりやすさ・色の見やすさ・キー操作の担保などは、むしろユーザビリティの向上といえるものでしょう。

弊社では、「Webサービスのもつ情報をより多くの人へ届ける」という、Webサービスの品質としてアクセシビリティを推進しています。

アクセシビリティの祭典とは

アクセシビリティの祭典は、NPO法人アイ・コラボレーション神戸さんが主催しているアクセシビリティ関連のお祭り(カンファレンス)で、今年で4年目の開催になります。

自治体・企業・制作会社・障害者支援施設などに属する方々、障害を持つ当事者など様々な立場の人が、新しいアクセシビリティ技術に触れて体感できるお祭りです。
毎年、アクセシビリティの普及を世界全体で考える「Global Accessibility Awareness Day (GAAD)」に合わせて5月の第3木曜日に開催しています。2018年は第4回目の開催です。
ソフトやデバイスが多様化する現在・未来のアクセシビリティをご覧いただけるような展示や、ウェブアクセシビリティに関するセッションを通じて、アクセシビリティについて語り、考え、学ぶ日にしたいと思っております。ぜひ会場に足をお運びください。

アクセシビリティの祭典 2018より引用

会場の風景
当日の様子。業種も様々な方が集まり、会場は満員でした。

情報保障:さまざまな形でのセッション内容の提供

「アクセシビリティの祭典」だけあって、イベントの情報保障の取り組みはかなり手厚かったように思います。

  • UDトークによるリアルタイム字幕提供
  • UDトークによる字幕の自動翻訳
  • 同時手話通訳
  • FRESH!による生中継とアーカイブ配信
  • ブース会場への映像配信と字幕提供

ブース出展も多く、セッション会場外からでもセッションの様子を確認できるようになっていたのは非常にありがたい試みだなと思います。

UDトークによるリアルタイム多言語字幕の提供

なかでも参加者みなさんが驚いていたのが、コミュニケーション支援アプリ「UDトーク」を使ったリアルタイム字幕の提供です。

UDトークを用いたリアルタイム字幕の様子

登壇者がマイクで喋った声を拾って自動的に書き起こされた文章が、向かって右手のスクリーンに映し出されています(写真内のピンクの枠部分)。そのスクリーンの右側には英語翻訳も提供されています。アプリを使うと手元のスマートフォンに、選択した言語で表示できるそうです。また、スタッフによる手動入力での音声認識ミスの補正も行われていましたが、補正なしでも十分理解できる精度の高さでした。

こちらは参加者のツイートの引用です。スマートフォン上にARで字幕を表示しています。その利便性はもちろん、近未来感を感じさせるサービスにワクワクします。

参加者の中には、障害当事者の方も多く、その方に向けた情報保障という意図が強い取り組みだったと思います。しかし勉強会などで、部分的に声が小さくて聞き取れなかったり、話を聞き逃してしまい内容理解が曖昧になることはよくあります。

自動字幕のおかげで、そういった聞き逃しもなくセッションを聞けたのは非常に安心感がありました。「アクセシビリティを高めると、障害者だけでなく利用者全体のユーザビリティも向上する」、この字幕はまさにそのいい例だったなと感じました。

詳細はUDトークさんのレポート記事がありますので、そちらもあわせてご覧ください。

【運用レポート】アクセシビリティの祭典2018 | UDトーク

セッション内容について

当日はセッションが9個、5分のライトニングトークが6個と、とても盛りだくさんの内容でした。そのうち気になったセッションをいくつかご紹介させていただきます。

AA準拠の期限が過ぎた今、自治体サイトがすべきこと

セッション情報: AA準拠の期限が過ぎた今、自治体サイトがすべきこと<09時40分から10時20分> | アクセシビリティの祭典 2018

公的機関のWebサイトでは、2018年3月末までにJIS X 8341-3:2016 レベルAAへ準拠することが目安として示されました。このセッションでは、神戸市のWebサイトで、レベルAA準拠へ向けたリニューアル後も継続的に取り組みを続けている状況が報告されました。

神戸市のWebサイトでは、平成25年から毎年JIS試験を実施し続けています。しかし最新の試験結果では「AA準拠」でなく「A一部準拠」と、レベルを落とした結果の表記になっています。もちろん指摘事項を修正することで表記のレベルを上げることは可能です。「何十万ページの中から選ばれた40〜60ページを試験して、たまたまそのページがAAに準拠していたからと言って、AA準拠していると言うのは恥ずかしいから」と、敢えて低い基準での表記をしているとのことでした。

障害者の方がよく閲覧するページだけではなく、サイト全体のアクセシビリティを向上させなければ市民のためにはならないという意識の高さを感じました。公的サイトとしての責任とあり方について、メディアを運営する弊社としても深く考えさせられました。

JIS試験だけでなく、「その内容が本当にわかりやすい・適切か」を判断するために、ユーザー評価をむしろ大事にしているそうです。準拠のためではなく、あくまで市民のために直すという心構えをお話しされていました。
また、ユーザーの特性によっても評価は分かれることもあります。高齢者と障害者の方で不便に感じる点が分かれた場合には、そのページを主に読むのは誰なのかを考慮し修正するなど、適宜検討して進めているそうです。

視覚障害を持つ方の最新事情

セッション情報: 視覚障害を持つ方の最新事情<10時30分から11時10分> | アクセシビリティの祭典 2018

視覚障害者向けの支援製品の開発に携わる園さん・西本さんのセッションです。ここでは特に、新しい技術に対する捉え方が非常に印象的でした。

一般的に、視覚障害者にとってパソコンは非常に敷居の高いものでした。視覚障害者がキーボード操作を覚えるための専用ソフトが開発されるなど、特別に訓練が必要なものだったそうです。しかしiPhoneやiPadにSiriが登場したことで、ジェスチャーや煩わしい文字入力に頼ることなく簡単なタスクができるようになりました。視覚障害者にとって身近なツールになったのです。

これは視覚障害者の視点ですが、Siriでタスクをこなせて便利なのは目が見えていても同じです。「知っていれば生活の便利に繋がるものを、見える見えないに関わらず、もっとたくさんの人に知ってほしい」と園さん。

障害者のために「特別に作られた製品」ではない、数々の電子機器や通信技術が、晴眼者だけでなく視覚障害者の生活をも便利にしてくれる時代になりました。音声合成は多くの人が日常生活の中で耳にする技術になりました。
普通のものを正しく作ることが、最も多くの人に届くようになりました。

視覚障害を持つ方の最新事情<10時30分から11時10分> | アクセシビリティの祭典 2018より引用

我々のWebアクセシビリティ向上へのプロセスと一致しており、非常に共感できました。また、技術革新への前向きで明るい意見が多く、技術を楽しむ姿勢が印象的でした。

身体障害を持つ方の最新事情(視線操作)

セッション情報: 視覚障害を持つ方の最新事情<10時30分から11時10分> | アクセシビリティの祭典 2018

日常的に視線入力装置を使用されている三保さんと、その視線入力装置の販売・普及に携わる伊藤さんのセッションです。

三保さんはALS(筋萎縮性側索硬化症)という身体障害を抱えていらっしゃいます。ALSは、知覚には何も問題はないものの、運動の神経が動かず自力での呼吸やコミュニケーションを取ることが難しくなるそうです。

このセッションでは、視線操作で入力を行いながらプレゼンをするというスタイルでした。ブースでも別の視線入力装置が展示されており体験してみましたが、想像以上にスムーズに操作できてびっくりしました。

日本で有数の視線入力装置「マイトビー」の紹介や、障害当事者の特性に応じて装置を選ぶと言う話がありました。価格も3万円〜139万円と幅広く、パソコンの習熟度や本人の特性で選ぶものの、やはりパソコンスキルによるものが大きそうだと言う印象でした。

聴覚障害を持つ方の最新事情

セッション情報: 聴覚障害を持つ方の最新事情<13時10分から13時50分> | アクセシビリティの祭典 2018

聴覚障害者である嶋本さんと、聴覚障害者への情報提供支援活動を手がけておられる三浦さんのセッションです。ここでは嶋本さんの手話を音声に通訳いただいて、さらにUDトークで字幕表示というスタイル。この1日だけでたくさんのプレゼンスタイルが登場し、非常に刺激的でした。

セッション風景
嶋本さんによる手話でのセッションの様子。通訳された音声を元にUDトークで字幕にも表示されている。FRESH!配信ページより該当箇所のキャプチャ。

健聴者であれば、普段の連絡はメールで「緊急性のあるものは電話」という風に、連絡手段を使い分けることができます。一方で、聴覚障害者の方が遠隔地でやりとりする手段は基本的にメールです。そのため、緊急性が高くても気づかれにくかったり対応が遅れてしまうこともあります。そこで日本財団の「電話リレーサービス」というものが登場しました。テレビ電話を使った手話通訳サービスです。

電話リレーサービスが利用できるWebサービスとして、全日空のサイトなどがあります。全日空のサイトでは、WebRTCという技術を使ったビデオチャット機能を通じて、電話リレーサービスを利用することができます。これは通常の予約フローではタスクが完了できないユーザーのために、別の代替手段を保障していることになります。サービス運営側としては非常にコストのかかるものですが、飛行機の予約ができないと命にすら関わるものです。航空会社の責務として運用しているのだと思います。

おからだの不自由なお客様、身体障がい者の方へ飛行機のご案内 | Service & Info | ANA

インクルーシブなペルソナ拡張

セッション情報: インクルーシブなペルソナ拡張<15時00分から15時05分> | アクセシビリティの祭典 2018

Website Usability Info運営者 土屋さんのセッション。

Webアクセシビリティへの取り組みは「後回し」になりがちです。必要だということは理解できていても、配慮が抜け落ちてしまいがちです。
そこで、UI設計段階のペルソナ作成時に、障害者の視点が漏れないための提案が紹介されました。

このツールは、ペルソナに対してコンテキスト (障害を持っている、高齢である、モバイルで利用している、など) を付加し、併せ見ることで、プロジェクト内にアクセシビリティの意識付けを促すことを目指すものです。

インクルーシブなペルソナ拡張 — Website Usability Infoより引用

セッション風景。スクリーンには、「インクルーシブなペルソナ拡張の例」が図示されている。簡単なプロフィールや達成したいこと・写真などの通常のペルソナに加え、「視覚障害」というコンテキストで発生しうる状況が記載されたカードが掲載されている。
イメージ図。FRESH!配信ページより該当箇所のキャプチャ

「障害者ペルソナ」という試みはこれまでもありましたが、アクセシビリティへの取り組みが当たり前に定着していないとなかなか難しいものです。そこでたとえば通常のペルソナに、「視覚障害」というコンテキストを重ね合わせて検討する、というスタイルです。開発者が想定していなかった使われ方を想像するために、非常に有効な手段だと感じました。一度取り入れてみたく、企画・デザイナーさんに相談してみようと思います。

Webアクセシビリティ 海外の最新動向 2018

セッション情報: Webアクセシビリティ 海外の最新動向 2018<15時05分から15時45分> | アクセシビリティの祭典 2018

株式会社インフォアクシア 植木さんのセッション。Webアクセシビリティ関連の海外の最新動向のご紹介でした。その中から印象的だった話を1つだけご紹介します。

海外では「Accessibility」よりも「Inclusive」という言葉を使われることが増えてきています。
Microsoftなどではゲームでも「Inclusive Design」という考え方で、初期段階から設計・開発に取り組んでいるそうです。簡単に言うと「シビアに障害を抱えている人たちにとって使いやすいものを作ると、全ての人にとっても使いやすいよね」という考え方です。

日本ではアクセシビリティへの配慮は「義務」ではあるものの、罰則はありません。ですが海外では罰則も含まれますし、訴訟事例も非常に増えて来ています。そういった流れのなか、

  • Accessible = ガイドラインの基準を満たすこと
  • Inclusive = 広範囲のユーザーのニーズを満たすこと

という固定観点が定着しつつあり、そこで「Inclusive」という表現が広まってきたそうです。たしかに「アクセシビリティ」というと「やらなきゃいけない義務的なもの」「面倒な作業が発生する」と思われがちで、その敬遠される印象をどうにかしたいと思っていました。しかしアクセシビリティの目的からするとおかしな話です。広範囲のユーザーのニーズを満たすためにガイドラインを参考にするだけで、準拠することが目的ではないのだと、改めて感じました。

トークバトル60分一本勝負 「禁断の対決!サイバーエージェント vs サイボウズ」

セッション情報: Webアクセシビリティ 海外の最新動向 2018<15時05分から15時45分> | アクセシビリティの祭典 2018

最後に弊社桝田と私で登壇したセッションについて。

社内で取り組んできた活動やその結果についてや、アクセシビリティに取り組む理由や失敗談などを、サイボウズさん(と、ときどきレフェリーのfreeeさん)に煽り合いをするという催し。
途中赤裸々に語りすぎて、お互いにHPを削りすぎてしんみりした試合になってしまいました。しかしそこそこに楽しんでいただけたようで良かったです(私の方は発言少ない上に声が非常に小さくてすみません…。手話通訳と字幕、本当にありがとうございます)。

セッション中の様子

簡単に紹介をさせていただくと、

先月、AmebaではAmeba Accessibility Guidelinesというものを策定しました。Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0という世界基準のガイドラインを簡略化したもので、桝田が先に作ったFRESH! Accessibility Guidelinesを参考に作っています。今年1年間続けた「アメブロ アクセシビリティ勉強会」で得た知見や現場目線の意見を交え、Amebaの運営に携わる者なら誰でも理解できるレベルに落とし込んでいます。

FRESH!では、おそらく国内サービスでは初の、WCAGシングルA準拠宣言についてお話しました。こちらについても現実性など、厳しいご指摘もいただきましたが、今後の取り組みを見守っていただければと思います。

弊社では、社内外での活動の結果、クリエイティブ執行役員や事業部長などからもアクセシビリティという視点で話を聞くようになりました。また、他事業部や他職種にも自発的な改善が生まれ始めています。今後もこの流れをますます加速化させていけるよう、全社的にアクセシビリティを考慮したサービスづくりをしていけるよう取り組んで参りますので、よろしくお願いいたします!

一方サイボウズさんの方は、推進しておられる小林さんの「アクセシビリティエキスパート」という肩書きが非常にインパクトがありました。これまでの取り組みもさることながら、多事業部含めた社内外を巻き込む行動力の強さを感じました!バトルは(じゃんけんで)負けてしまいましたが、業務の方では負けずに奮闘したいと思います。
お互いに現場で推進をしていく中でのお悩み相談のような流れになってしまいましたが、今後とも情報交換をしつつやっていけたらなと思っております。

まとめ、その他のセッション、ブース展示について

ここでは全てを紹介しきれませんでしたが、終始賑やかで笑いの絶えないセッションが盛りだくさんで、お祭りと言うにふさわしい1日でした。

セッションのスライドは随時Twitterのハッシュタグ#accfesや下記サイトにて確認できそうです。その他、FRESH!やTogetterまとめでも当日の雰囲気を感じ取っていただけるかと思います。

常時ブースでの展示も行われており、こちらも非常に興味深いものがたくさんありました。

懇親会でも様々な現場でアクセシビリティに取り組まれる方々のお話をたくさん聞くことができまして、非常に勉強になりました。SAWADA STANDARD DESIGNの澤田さんの演奏もあり、非常に盛り上がりました。

次回は来年の5月16日(木)、GAADの日に神戸で開催されるようです。ますます参加者や事例が増えることを楽しみにしております!