こんにちは。秋葉原ラボの高野(@mtknnktm)・數見と申します。 今回は the 8th International Conference on Social Informatics (SocInfo 2016) に参加・発表してきましたので、それについてお話いたします。

本記事では、最初にSocInfoについて簡単にご紹介した後、我々の研究発表と面白かった発表いくつかについて簡単にご紹介いたします。

SocInfoとは

社会科学と情報科学の学際領域 社会情報学 に関する国際会議で今年で8回目です。 近年盛り上がっている計算社会科学において重要な国際会議のうちの一つです(今年の採択率は36/120=30%)。 代表的な国際会議としては他にIC2S2、Webに焦点を当てたものではICWSMなどがあります。 また、Web関連のトップカンファレンスWWWにも計算社会科学のセッションがあります。

学際領域であるため社会で起きている多様な問題(ネット上のデマなどから貧困・差別まで)に対して、様々なアプローチで挑む研究があり、非常に面白い国際会議でした。

発表された論文は以下から見ることができます。

SocInfoのWelcomeボード。FacebookやMicrosoftもスポンサーになっており、この分野の研究に力を入れています(両企業ともにKeynoteで所属研究者が講演もしています)。

img_20161114_172745

学会の休憩スペース。この後、お菓子や果物なども配置されました。開催地はスターバックスのお膝元シアトル(の隣)なので、コーヒーはもちろんスターバックス。

dsc_0333

発表報告: Lightweight Interactions for Reciprocal Cooperation in a Social Network Game

以下の内容について発表しました。

協調行動研究における互恵的利他主義の理論研究では、初対面での(事前のやりとり一切無しで)協調的な相互作用を要請します。また、複数の社会心理学的な実験研究において、ヒトの行動傾向はその要請を満たすことが示されています。

ところが現実世界では全く未知の相手と協調するとを決めることはあまりありません。相手が悪人であるかもしれないという非常に大きなリスクが伴うからです。そこで本研究ではソーシャルゲーム(ガールフレンド(仮))のデータを用いて、初対面のプレイヤー同士はどのようにそのリスクを軽減させて協調関係を築くか? について分析しました。

その結果、前述の先行研究と同様に初対面同士では無条件に協調しやすいこと、また、簡単なメッセージ機能を利用したメッセージを送ること(例えばあいさつとかお礼など)も協調関係構築に効果的であることがわかりました。加えて、初対面同士のほうがメッセージ送信がより効果的であることがわかりました。これは初対面同士では相手の自分に対する「非協調的な人かもしれない」というリスクを軽減させるためのシグナルとして、簡単なメッセージ送信(Lightweight Interaction)が機能していたことを示唆します。この知見は協調行動の研究(協調の進化的起源解明やヒトの協調促進)だけでなく、シグナリングの進化・社会的グルーミングの進化の研究に貢献しうると考えています。

発表ピックアップ

Keynote: Fighting Poverty with Data? (Joshua Blumenstock)

貧困問題解決のためのビッグデータアプローチ。貧困地域はビッグデータが得にくい(例えばソーシャルメディアの利用が少ない)ため、他のアプローチを取る必要があります。夜間の家屋の明るさからその土地の裕福さを測る手法がありますが貧困地域はそれも困難です。そこで昼間の衛星写真から夜間の明るさを推定することで、その地域の貧困度を詳細に把握を試みた研究が発表されました。またモバイル端末を利用した貧困度把握研究についても紹介されました。参考論文: Fighting Poverty with Data?

Keynote: How fast can we detect rumors? (Meeyoung Cha)

偽情報は、現実の世界に大きな影響を与えます。例えば、AP通信のTwitterアカウントが何者かに乗っ取られ、「White Houseで爆発が起こり、オバマ大統領が怪我をした」というツイートは、株価の乱高下の原因となりました(AP通信のツイッター乗っ取り 偽情報で株乱高下)。最近では、「ローマ法王のトランプ支持」などの偽情報が、大統領選に影響を与えた可能性があるとしてFacebookやGoogleが偽情報の対策に乗り出しています。そうした状況を踏まえて、FacebokでVisiting Professorを務めるCha准教授が、Twitter上で偽情報がどのように拡がり、早期に検知する手法について紹介を行いました。偽情報の言語的な特徴やネットワークの特徴など、様々な特徴を明らかにしていました。最も印象的だったのは、偽情報とそうでない情報のソーシャル上での拡がる様子を比較した映像です。ネットワークの構築の速度などが明らかに違うことが視覚的にはっきりとわかりました。

Keynote: Cognitive Heuristics and the Limits of Crowd Wisdom (Kristina Lerman)

人の選択過程にはバイアスが存在し、必ずしもフェアな評価をして選択しているわけではありません。 バイアスには位置バイアス(目に入るものを選びやすい)、社会バイアス(人気があるものを選びやすい)があります。 そこでどのような表示方法がフェアな評価を促すかを検証する必要があります。 音楽のレコメンドを題材として「ランダム・固定・(他の人の)人気順・最近聞いた順」を比較する(バーチャルラボ)実験をした所、音楽の “品質” と選択頻度が最も高い相関を示したものは「最近聞いた順」でした。この実験結果を実際のWebサービスのデータでも確認していて、バーチャルラボとビックデータ分析の両面でこの現象について研究していました。講演者のサイトではInvited Talksのスライドが公開されているので、この講演のスライドも後日アップロードされるかもしれません。

Identifying Stereotypes in the Online Perception of Physical Attractiveness (Camila Souza Araújo, Wagner Meira Jr., and Virgilio Almeida)

「女性の魅力」の国ごとのステレオタイプの同定。人種や女性差別の状況把握のための研究です。具体的には検索エンジンの画像検索機能を使って “Beauty Woman” と “Ugly Woman” の検索結果を得て、それらの要素(年齢や人種)を推定し、どの国ではどのような属性が好まれるかを分析しています。

The Dynamics of Group Risk Perception in the US After Paris Attacks (Wen-Ting Chung, Kai Wei, Yu-Ru Lin, and Xidao Wen)

2015年のパリ同時多発テロ事件などを契機として、移民を潜在的な “驚異” とみなしている人々が増えてきています。Twitterにおける会話のデータを用いて、どのくらいの人々が驚異とみなしているのか、パリでのテロの前後でその度合いは変化しているのかを定量化する研究でした。人々の思想がリベラルと保守に分けて人種や移民への印象の違いについて考察を行っています。見に見えない国民感情を計量化し、うまく利用している面白い研究だと感じました。

Signals Revealing Street Gang Members on Twitter (Lakshika Balasuriya, Sanjaya Wijeratne, Derek Doran, and Amit Sheth)

ワークショップの発表です。ギャングの状況把握のために、彼らのツイートを分析・抽出を実施しています。ギャングがよく使う単語(主にスラング)などを下調べとして実施しています。ギャングは普通の人より絵文字をよく使うというのが印象的でした(例えば ?? など)。

Do Anti-immigrant Laws Shape Public Sentiment?: A Study of Arizona’s SB 1070 using Twitter data(René D. Flores)

Web, Social Media, and Cellphone Data for Demographic Researchというワークショップでの報告です。アリゾナ州で制定された移民法(SB1070:移民に対し合法的に滞在していることを証明する書類の携帯義務づけや、不法滞在の疑いがある移民は令状なしに逮捕できるなどを定めた法律)が、Twitter上における反移民的な感情が、移民法が制定される前後でどのような変化があったかどうかを示す研究でした。彼らの研究では、移民法が制定されたアリゾナ州では、他の州と比較して反移民感情が高まっていることを明らかにしています。トランプ氏が大統領選で勝利してから、移民への嫌がらせなどが増えているというニュースをよく耳にします。政策が国民感情を扇動しうる可能性があることを示す研究だと感じました。

  • その他

上記のようにTwitterから社会に関して情報を得ようとする研究が多くあるため、そのような情報獲得を阻害する要因(デマやボット)の排除するための研究も多く見られました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。第8回となる(=8年経過した)SocInfoですが、「社会科学と情報科学は如何に連携していくべきか?」という話題が2つのKeynote(Hanna WallachとMatthew Salganik)で挙げられるなど、まだまだ融合が十分でなく、発展の余地を多く残している領域だと思います。社会科学者は多くの重要な問題意識と知見を持ち、情報科学者はデータをかき集める・生み出す方法とデータから知見を発見したり問題を解決をするための技術を持っています。

一方ですれ違ったままだと、両者が十分に活用されず非常にもったいないことになってしまうかもしれません。うまく融合すれば、上で見たように差別や貧困など非常に根の深い社会問題にも、これまでよりずっと効果的にアプローチ可能なはずです。

弊社含めWeb系の企業は多様で大量のデータを持っています。SocInfoに参加してみて、問題設定をうまくすることによって、そういったデータを社会問題含め様々な問題解決のために活用する余地がたくさんあるのだと感じました。

社会情報学・計算社会科学の参考URL