はじめに
こんにちは。秋葉原ラボの高野(@mtknnktm)と申します。 今回はアメブロにおける育児・子育てブログの話題について分析してみましたので、それについてお話します。本記事はCyberAgent Developers Advent Calendar 2019 – Adventarの6日目です。
育児中は保護者が子供にかかりきりになることが多く、そのためコミュニケーションの相手が限られがちです(利用できる社会的資源が少なくなりがちです)。それは保護者がソーシャルサポート (浦 1989) を受ける機会を減らしてしまいます。それは保護者の育児の悩みの深刻化やメンタルヘルスの悪化につながりうるため、多くの自治体は電話やSNSでの相談窓口を提供しています。
育児中のメンタルヘルスに関する研究の多くは母親に対する周囲のソーシャルサポートとして研究されています。育児中の母親の主な社会的資源として家族(配偶者、両親・配偶者の両親など)が挙げられます(武田 1998)。一方で幅広い友人とのコミュニケーションも母親の抑うつを軽減することが指摘されています(森永 2003; 加藤 2012)。したがって家族などの親密な関係だけでなく、弱くつながった他者とのコミュニケーションも重要であると考えられます。
育児の悩みの共有や情報探索の最も手軽な手段として、育児ブログの投稿(高谷 2016)や閲覧(Yamamoto 2011)を挙げる事ができます。時間や移動が強く制約される育児中において、この手軽さはとても重要だと言えるでしょう。アメブロにおいても「婚活・妊娠・子育て」カテゴリが代表的なジャンルの1つであり、日々多くの育児記事が投稿されています(Ameba)。したがって育児ブログに対する関心を分析することで、保護者の関心がどのように移り変わってきたか? を分析できるかもしれません。
出産・育児を取り巻く社会の意識は常に変わり続けています。近年の傾向としては女性の就労率の増加(男女共同参画局 2017)、父親の家事・育児時間の増加(平井 2019)などが挙げられるでしょう。また、上で述べたように育児中の母親のメンタルヘルスには多様な社会関係が重要であるにもかからず、1998年~2013年にかけて、母親が利用する社会的資源は親族に集中する傾向にあり、非親族(友人など)は減少傾向にあります(星 2019)。
本記事では「育児ブログにおいて関心の持たれる話題・投稿者の動機とその変化」について知ることを目的として、アメブロの2012年~2019年の8年間の育児ブログ記事(各年月ごとにGoogle検索上位100件)を分析しました。ここでGoogleの検索結果を使ったのはGoogleの検索で上位に来るものは投稿数が多く、かつ、閲覧されやすい記事であり、世間の関心とある程度相関があると考えられるためです(例えば(Araújo 2016)が同様のアプローチでデータを集めて分析しています)。すなわち本記事ではGoogle検索で上位に来た話題を投稿者と読み手の関心(投稿したい/読みたい)を併せたものと考えます(最後に述べるようにこのやり方の妥当性は議論の余地がたくさんあります)。
分析結果
育児ブログの話題(トピック)を分析したところ、育児関連の話題では4つのカテゴリ、18のトピックに分かれました。このとき育児セミナーやイベント情報は除き、同じ投稿者の記事は3つまでに限定しています(詳細な方法は下の「データと分析方法」をご覧ください)。
トピックは大きく「生活 / 出産 / 育児 / ライフプラン」の4つのカテゴリに別れました(図1)。日々のことである生活や育児カテゴリはトピックも多様になりました。
各カテゴリのトピックを見ると、保護者の関心について次が推察されます。
- 生活カテゴリ: 普段の育児の様子やそこでの気付きを共有したい/知りたい(出来事の報告)
- 出産と育児カテゴリ: 不安や悩みを共有したい。自分だけでないことを知りたい。他の人がどのように考えているかを知りたい(不安や悩みの共有)
- ライフプランカテゴリ: 複雑な制度や手続きに対してどのように情報を集めたり整理したか、どんなことを考えて実施しているかを共有したい/知りたい(ノウハウや情報の共有)
生活カテゴリ
旅行や外食のトピックの比率の高さが目立ちます。一方で、旅行に比べて機会も多いであろうにも関わらず、同じくインテリア、生活雑貨、写真、映画・ドラマはそれらに比べて低くなりました。ここから保護者の関心が「子供との外食や旅行」に対して特に高いことが推察されます。子供と行きやすい場所、子連れで快適に外食・旅行に行くための便利情報などへの関心かもしれません。
出産カテゴリ
出産準備、妊娠中、出産・産後の3つのトピックが出産カテゴリに分類されました。こちらは経験する頻度は少ないはずですが、人生最大イベントの1つであり、また不安なことも多いため、保護者(になる予定の人)の関心が高いのではないかと考えられます。特に妊娠中トピック(妊婦健診の報告など)の比率が高く、生まれる前の不安や関心が現れているのではないかと考えられます。
育児カテゴリ
7つのトピックが育児関連のトピックとして抽出されました。ここではさらに3つのサブカテゴリに分けて考察していきます。
1つめは乳幼児期の子育ての悩みで、子供の睡眠(寝かしつけや夜泣き、ねんねトレーニング)、離乳食・幼児食(食べさせるためのレシピ・工夫など)、イヤイヤ期など乳幼児期の育児で頭を抱えがちなトピックが抽出され、保護者の関心が高いことが推察されます。特に子供の睡眠と離乳食・幼児食は高い比率を占めました(夜泣きも食べムラも大変ですよね…)。
2つめは教育に関するトピック(育児の方針(教え方、叱り方)、英語教育)です。特に育児の方針は高い比率であり、保護者の関心の高さが推察されます。
3つめ、そのほかには、育児関連の政治的話題(ニュースに対する反応など)、子供・母親のファッション(子供の新しい服や子供と出かけやすい、かつ、おしゃれな母親の服装など)のトピックが抽出されました。子供・母親のファッションは高い比率を占め、関心が高いことがわかります。
ライフプランカテゴリ
保育園・仕事・保険と移住・国際結婚の2つのトピックがライフプランカテゴリに分類されました。
保育園、仕事、保険の3つの話題はそれぞれ別物ですが、1つの記事内である程度重複して執筆されることが多かったため、1つのトピックになったようです。保育園に入るためにやっていること、入れるかどうかの不安、育休や短時間勤務のこと、生命保険の見直し・学資保険などの情報などが投稿されていました。
移住・国際結婚に関しては、他のトピックに比べ経験する機会はそれほど多くない(Wikipedia: 国際結婚)にも関わらずトピックとして検出され、読み手の関心が高いことが推察されます。これは投稿者・読み手にとって大きなライフイベントであるとともに、ビザなどの書類手続きなどわからないこと、文化の違いで感じたことなど共有したい/されたいことが多いからだと考えられます。またアメブロに「韓国×日本カップル・夫婦 / 海外×日本カップル・夫婦」という公式ジャンルがあるように(Ameba)、人口比率に比べブログを投稿される方が多いのかもしれません。
トピックの時間変化
次にトピックの時間変化を見ていきます。これまではトピックのボリュームを投稿者・読み手の関心が合わさったものとして捉えていましたが、時間的な増減(同じトピックの相対的な比較)は投稿量の変化を表すため、ある程度、投稿者の関心の変化として考えることができます(記事の年月は異なってもそれを取得するためのGoogle検索のロジックは同じであるため)。
カテゴリごとの推移(図2)を見ると2012年には生活カテゴリが最も多かったのですが年を経るごとに減少し、代わりに育児と出産のカテゴリが増加していることがわかります。以上から日々の生活の投稿が減少し、育児や出産の不安・悩みの共有の投稿が増加しています。トピックごとの推移は付録として本記事の最後に記載しています。
おわりに
本記事ではGoogle検索上位に来る育児ブログのトピックの推移について分析することで、育児中の保護者の関心を捉えることを試みました。
その結果、ある程度「投稿者・読み手としての保護者が関心を持っているトピック」を抽出することができました。投稿の傾向には、情報の提供、不安・悩みの共有、出来事の3つがありました。そのうち不安・悩みの共有は投稿者にとっては自己開示(打ち明けるとソーシャルサポートを受けやくすなる)になっており、また、読み手とっては「自身の育児の悩みは自分だけではなかったという孤立感の緩和」につながっているのかもしれません。その不安・悩みの共有は投稿頻度が近年増加傾向にあり、投稿者の育児における孤立感解消における関心の増加が示唆されます(要検証)。
一方で、そのトピックの比率の大小や推移については、良くわからなかった(考察できなかった)ことも多く、今後も調査を進める必要がありそうです。特に記事のサンプリングをGoogle検索に頼ってしまいましたが、投稿者(各トピックの投稿件数)と読み手(≒世間の注意)の両方を含んでしまっているため、研究するにはサンプリング方法を見直す必要がありそうです。また、結婚・出産・育児等に関する意識調査は政府統計や先行研究が多く存在します。それらと育児ブログの推移と比較し、アメブロ上での関心が変化したことの要因を考察することができると考えられます。
オフラインワールド(現実の物理世界)とオンラインワールド(ネットの仮想世界)の融合は今後も加速していき、私達の生活において不可分なものになるでしょう(既になっているとも言えます)。そのような環境において、オンラインソーシャルサポートは現実の世界を補間するものから、人生に必要なものに変わっていくと考えています。秋葉原ラボではオンラインソーシャルサポートに着目して研究を進めています(e.g. ピグパーティでの研究事例(高野 2019))。ブログに関しても今後分析を進め、ブログ記事を仲介とした非同期的なオンラインソーシャルサポートについて、その役割や効果を高める方法について知見を得たいと考えています。
データと分析方法
対象のブログの選定
Googleの Custom Search APIを用いて以下のキーワードで検索し、上位100件に出現するブログを分析対象としました(キーワードに年月を含めているのは期間指定でうまく取れなかったため。概ね期待通りの時期のブログ記事がこの方法でも取れた)。ここで YYYY/MM は2012/05から2019/11としました。
- 子育て or 育児 “YYYY/MM” site:https://ameblo.jp/*/entry
各投稿者の記事が最大3件になるように、投稿記事の多い投稿者の記事は3つだけランダムサンプリングしました。同じ投稿者のブログが多く含まれると、時間推移において、社会の傾向ではなく個人のライフステージの影響を受けてしまうためです。
トピックの抽出
ブログ記事に含まれる名詞・形容詞・動詞の集合を1文書として、トピック数k = 30として Latent Dirichlet Allocation (LDA) を実施しました。ただし出現頻度が5未満の単語は除去しました。
LDAの結果に対して、各トピックの単語・トピックを多く含む文書の内容を見て、各トピックにイヤイヤ期などの名前を付けました。セミナー、商品紹介、イベント情報などの社会の傾向とは関係なさそうなものを除去しました。
付録
カテゴリごとに年次推移を示します(概ね投稿数 ≒ 投稿者の関心の増減を表すと考えられます)。
生活カテゴリ
外食と旅行は全体としてはかなり多いのですが、近年は減少傾向にあり、特に外食は2012年に比べて半分以下になりました。上で述べた、生活カテゴリ比率の減少は、主にこの外食トピックの減少が要因と言えそうです。
出産カテゴリ
出産準備はほぼ一定、妊娠中は2017年に一時的に増加しただけなのに比べて、出産・産後は2017年以降に大きく増加しています。ここから近年、投稿者の関心が増大していることが推察されます。
※ 2017年に一時的に増加している妊娠中のブログ投稿者が、その後、出産・産後に移ったかのように見えますが、そうではありませんでした。1人あたりブログを3件に絞ってサンプリングしているため、両トピックに重複する投稿者はいませんでした。
育児カテゴリ
育児の悩みに関するトピックにおいては、子供の睡眠と離乳食・幼児食は増加傾向でしたが、イヤイヤ期には大きな変化はありませんでした。
教育に関するトピック(育児の方針、英語教育)です。こちらは両者ともに増加傾向で、投稿者の関心が増加していることが推察されます(ただし英語教育は微増)。
そのほかには、育児関連の政治的話題、子供・母親のファッションはともに年次での大きな変化はありませんでした。
ライフプランカテゴリ
保育園・仕事・保険トピックの比率は増加傾向で、近年の関心増大が推察されます。
反対に移住・国際結婚は減少傾向でした(※ ちなみに日本での国際結婚の数自体は大きく変わっていません)。