3月24日、サイバーエージェントのエンジニア・クリエイターによる技術カンファレンス「CyberAgent Developer Conference2022」を開催しました。本記事では「事業とカルチャーを進化させる、Amebaのブランド戦略とデザインシステム」の様子をお届けします。

2004年に誕生したAmebaでは、時間の経過とともに組織やサービス、市場環境が変化したことによって、ブランドのアップデートが必要になっていました。本講演では、Amebaという長い歴史を持つサービスで、どのようなプロセスでブランド再定義、デザインシステム構築までに至ったのかをご紹介します。

目次

■広がるデザインの役割
■Amebaでのケース
■ブランド再定義の全プロセス
■まとめ

■広がるデザインの役割

デザインの定義には以下の図のようなものがあり、狭義のデザインはグラフィックやユーザーインターフェースなどの意匠、広義のデザインはユーザー体験、サービスの全体設計などが該当します。そして現在は、経営のデザイン、社会のデザインというように、デザインの役割がどんどん広がっています。

また、デザイン思考というプロセスが一般化されつつあります。近年は様々な企業で取り入れられている状況ですが、サイバーエージェントでは約5年前からデザインスプリントを開発に導入しています。

デザインスプリントは、ユーザー体験を軸に発散と収束を繰り返して、問題定義と問題解決の2段階で行うプロセスです。ダブルダイヤモンドとも呼ばれ、不確実性を減らす進め方としても注目されています。Amebaのブランド定義においても、このプロセスを応用して取り入れています。

デザインの役割は、ブランディングにも関わってきます。ブランディングとは、“らしさ”をどのような方法で伝え届けて、心の中に醸成させるのか、ということです。

最近では、ブランド体験(ブランドエクスペリエンス)という言葉も使われています。すべてのタッチポイント(SNSや広告、プロダクト)で一貫した体験を届ける必要がある、というのがブランド体験のデザインです。ブランド体験はストーリーテリング、つまり長編物語をデザインするようなものだとも言えるでしょう。

■Amebaでのケース

ここからはAmebaの事例紹介です。Amebaがブランド再定義のプロジェクトをスタートしたのは2019年春でした。Amebaは、ブログを中心としたメディアプラットフォームで、複数のサービスから成り立っています。2004年に誕生した、長い歴史を持つサービスなので、その間に市場や組織、サービスにもさまざまな変化がありました。

事業自体も成熟した状態になり、市場ではInstagramやFacebook、Twitterなど他サービスの台頭など、ブランドとしても再生が必要なタイミングでした。さらに歴史の長さゆえ、古いシステムや機能が多く残っており、大きな負債も抱えていました。

このような背景から、ブランドアップデートプロジェクトが始まりました。まず
見えてきた問題は、目指す方向が定義できておらず、すべての一貫性が欠けていたことです。Ameba全体としてあるべき姿がぼやけており、何かを作るにしても、何を指針にすればよいのか判断するのが難しい状況でした。そこで、今までの文化を大事にしながら、今ある価値を掘り起こしてAmebaらしさを改めて解釈することにしました。内側からアップデートすることに決め、ビジョン、意志を大事にしながらビジョン主導でスタートしていきました。

目的は、“Amebaらしさ”とは何か?を問い、サービスのベクトルを定めて強固なカルチャーの創出を行うことです。いわゆるインナーブランディングですが、根幹を定義することで組織が向かう方向の指針をつくります。

■ブランド再定義の全プロセス

ここからは、Amebaのブランド再定義を実際にどう進めたのか?をご紹介します。

●Phase1.未来構想、価値の顕在化

以下の図のように、デザイン思考の「発散と収束を繰り返して反復」という手法を応用して、プロジェクトを進めていきました。「意志」から始まってPhase1「未来構想、価値の顕在化」を行い、そこで顕在化させたものをPhase2で共通言語化していきます。そこで共通言語化して定義したものをPhase3で戦略設計し、戦略設計したものをPhase4で届けて体現していきます。それを反復することで浸透と共感を広げていく、というプロセスになっています。

まずはPhase1ですが、これは我々の意志と歴史を紐解きながら顕在化していきました。

ブランド定義の共創メンバー、私がファシリテーターをしながら、経営を含む多様な職種から参加してもらいました。

はじめに実施したのが社内でのイメージアンケートで、約100名からポジティブイメージとネガティブイメージを集めて整理しました。このアンケート結果をもとに、ワーク形式でAmebaのありたい姿を描いていきます。独自性や普遍性、歴史性というファクトと、これからの未来予測、そして自分たちの意志を大事にしながら、目指したい姿・ありたい姿を掘り起こして、他にはない“らしさ”を顕在化していきます。Phase1では「“意志”を持って、“ワンチーム”で未来を考える共創デザイン」というワードが大事だったと考えています。

●Phase2.らしさの共通言語化

続いて、Phase2で共通言語化を行います。「Amebaらしさ」というブランドアイデンティティの部分、そしてブランドコンセプト、ミッション、ビジョンを言語化していきました。

実際にできたビジョンは「100年愛されるメディアを創る」、ミッションは「人と情報をつなぎ、暮らしと心を豊かにする場所を提供し続ける」です。

また、ブランドバリューも定義しました。バリューというと行動指針が一般的ですが、Amebaでは我々が「サービス(ブランド)として大事にしたい価値」を4つ定義しています。ブランドアイデンティティの核の部分になりますが、これらはもともとあった価値を顕在化したもの、またこれから届けていきたい価値を明確にしたものです。

さらに、ブランドコンセプトも開発しました。これは我々の思いが込められていて、後ほど紹介するデザインシステムやアウトプットも、こちらに基づいて作られています。

ブランドコンセプトは、Amebaでは「一貫した体験価値を届けるための実行原理」と定義しています。以下の図は、どういう状態を体現していくのが理想的か?を可視化したものです。

Phase2をまとめると、「“ありたい姿”、“らしさ”を言語化し、立ち返る指針をつくる」です。言語化することにより、目指す方向や届ける価値、“らしさ”がより強固なものになります。ブランドは形のないものなので言語化だけで全てを伝えるのは難しいですが、可視化することは大事なことです。迷ったときに立ち返る場所として役立つでしょう。

●Phase3.戦略の設計とデザインシステム

Phase3は、ブランド浸透の戦略設計を行うフェーズです。届けるための施策や、アクションを出していきます。定義したブランドバリューをどのように広げて共感してもらうか、このフェーズで戦略を設計していきます。

以下の図は、サイモン・シネック氏のゴールデンサークルです。Why、How、Whatの順でメッセージを伝えていくと共感が生まれやすい、という考えですが、Amebaのブランド浸透もこの考えをベースに設計しています。

以下の図がそのブランド浸透を可視化・体現するフレームで、ブランディングサークルと呼んでいます。こちらのサークルは、ゴールデンサークルのようにWhyというビジョン、ミッションの部分からHow、What、Whereと設計できるように作っています。事業との掛け算で、どのように浸透させていくかが大事なので、事業責任者と密なコミュニケーションをとりながら開発していきました。

ブランディングサークルの狙いは、各領域に対して一貫したブランド体験を届けることで、体験価値を向上させていくことです。たとえばこの図の組織、パートナー、市場のそれぞれに対してアクションを出していくという形になります。

以下の図が実際にAmebaで出したアクションです。領域ごとに状態目標を設定し、それに必要なアクションを洗い出していきます。すでに事業上で出ている目標、アクション等がある場合は、このサークルに当てはめていくことによって、全体を俯瞰して見ることができます。Amebaのブランド戦略も、このフレームをもとに注力ポイントを決めていきました。

実際にブランド戦略を実行するブランドチームには、それぞれの分野の代表者を集めました。

●デザインシステム

ここからは、デザインシステムの話です。Amebaのブランディングでもっとも注力したのは「デザインシステム構築」です。組織のインナーブランディングと負債解消を一気に解決する戦術として注力しました。また負債解消や開発効率だけではなく、さらにその先を見据えたブランドを体現するための手段、仕組みとしても機能するように意識しました。

Amebaのデザインシステムでは、ブランドのパッケージ化を目指しました。パッケージとは、ここでは「ブランドの開発に関わるすべての項目を包括したもの」という意味です。たとえばブランドガイドラインやデザイン原則、スタイルガイドなどが該当します。このデザインシステムを利用すれば、Amebaのブランドがわかる、そしてAmebaらしくなる、という状態を目指しています。

ネーミングとロゴは、あえて今回デザインシステムと呼ばずに「Spindle」という名前を付けています。ネーミングはブランドコンセプトの「生きたコンテンツをつむぐ」に由来します。デザインシステムというワードを使ってしまうと、どうしてもデザイナーやエンジニアのものと思われてしまうので、名前を付けることによって組織全体の認知、浸透を図っていきました。このように、コンセプトを体現することでキャッチーなネーミングとロゴを作ることは非常に有効でした。

Spindleでは、「Amebaらしさ」をデザインするための約束事としてデザイン原則も定義しています。

デザイン原則は、みんなが日々使うものとして磨き上げる必要を感じたので、現在もブラッシュアップを重ねています。デザイン原則を意識してサービス創りをすることによってAmebaらしさを一貫して届けられるようになることを目指しています。

ブランドガイドラインも、デザインシステムの中に内包されています。こちらは、ブランドとは何なのか?ビジョン、ミッション、コンセプト、ブランドアイデンティティ、そしてパーソナリティなど、すべてが内包されています。

以下の図はスタイルとコンポーネントですが、デザインシステムというと、これらを想像する方が多いでしょう。こちらのスタイルやコンポーネントに関しても、提供したい価値、そしてアクセシビリティを考慮しながら、Amebaらしさを表現できているかを判断して作っていきました。

Amebaではアクセシビリティとパフォーマンスもブランドの大事な要素として、指針とガイドラインを設けています。

デザインシステムについてまとめると、「デザインシステム“Spindle”は“Amebaらしさ”を体現するための仕組み」です。Amebaらしさを全員で体現するためのツールとしての役割を担っており、これが組織としての最大の価値、資産にもなってきています。

Ameba Spindleは下記で公開しています。
公式サイト:https://spindle.ameba.design/

●Phase4.らしさの体現

Phase4は設計した戦略・戦術を体現していくフェーズです。現在では以下のように、Spindleを軸にさまざまな物事が進化しつつあります。ブランド全体として、あらゆる場面でAmebaらしさを体現できてきている、という状態です。たとえば、ブランドへの意識向上はもちろん、UX負債の解消、デザインの一貫性、そして品質の担保、自走促進など、さまざまなことが着実に進化しています。

Phase4をまとめると、「プロダクト、社内ツールなどあらゆる場所でブランドを体現していく。アウトプットしながら、改善、洗練を反復していく」ことが大事です。それによって目指す方向や届ける価値、“らしさ”がより強固になって文化が醸成されます。

さらにもう1つ大事なのは「ブランディングもデザインシステムも組織のすべての人たちの協力によって成り立つ」ということです。そのため、意識の向上とカルチャーの形成が一番大事です。

■CHAPTER4 効果測定

Phase1~4のプロセスを実行したら、体現したことがどこまで浸透したか、効果測定する必要があります。Amebaでは、はじめに領域ごとのブランド浸透の評価を行いました。チーム内で半期、1年ごとに領域ごとの自己評価をして、実行内容や課題など詳細を洗い出して、次のアクションにつなげていきます。

以下の図はブランドの浸透度を可視化したものです。浸透度にはそれぞれの状態を定義しており、これによって、ブランディングによる意識の変化を可視化することができます。

■まとめ

ブランドの始まりは“意志”が大事です。何かが始まるのは誰かの意志で、それはブランドも同じです。ブランドとは“らしさ”で、意志や思想が“らしさ”になって顕在化していきます。ブランディングとは“らしさ”を一貫して体現し続けることです。“らしさ”を体現し続けることで、一貫性が生まれて、ブランドがより強固なものになっていきます。

見えるモノだけが価値ではなく、そこに至るプロセス、“らしさ”を体現し続けるための土台作りにも価値があります。これもデザインですし、ブランド体験につながっていくと考えています。

「CyberAgent Developer Conference 2022」のアーカイブ動画・登壇資料は公式サイトにて公開しています。ぜひご覧ください。


https://cadc.cyberagent.co.jp/2022/

■採用情報

新卒採用:https://www.cyberagent.co.jp/careers/special/students/designer/
キャリア採用:https://www.cyberagent.co.jp/careers/professional/

■Amebaについて

https://about.ameba.jp/