3月24日、サイバーエージェントのエンジニア・クリエイターによる技術カンファレンス「CyberAgent Developer Conference2022」を開催しました。本記事では「ABEMAにおけるサービスブランディングと、新しい価値を創造するためのクリエイティブについて」の様子をお届けします。

目次

■ABEMAのサービスブランディングの今
■コンテンツ(番組)をブランディングする
■新しい価値を創造する
■既存の価値をアップデートする
■これからのABEMA

■ABEMAのサービスブランディングの今

「ABEMA」は新しい未来のテレビとして展開する動画配信サービスです。スマートフォンやWebブラウザはもちろん、インターネットに接続された様々なデバイスで利用いただくことが可能です。

まずは「ABEMA」のブランディング変遷について振り返ります。2016年の開局当初は、リニア配信チャンネルで構成されたいわゆる「テレビ型」のサービスとしてスタートしました。「無料で楽しめるインターネットテレビ局」として、フリーミアムモデルにてサービス展開を行っていました。

しかしその後、市場の需要によってリニア放送だけでなく、オンデマンド配信などサービスを多様化していきました。そこで2020年の春、サービスブランドを「AbemaTV」から「ABEMA」に変更しました。

しかし、サービスを市場の変化に合わせていった結果、SVOD(定額制動画配信サービス)としてのイメージが強くなるという課題が出てきました。元々目指していたはずの “テレビの良さ” やフリーミアムモデルの独自性意識が薄れてきました。

ここで「テレビの良さをネットで活かす」といったサービスの原点に立ち戻ります。元々我々はテレビの再発明を目指していたはずであり、そのサービスのブランドとして明確に再定義する必要がありました。

また「ABEMA」では、ブランド意識が属人化し個別最適が強いという課題がありました。クリエイティブに関するガイドラインは存在するものの、目まぐるしく変化する市場において事業戦略と連動したサービス思想まで落としきれていませんでした。さらに「ABEMAっぽい」などといった抽象的な概念に、明確な指標を作り切れていないという課題もありました。

●ABEMAはテレビの再発明である

そこで2021年8月にブランドアイデンティティを刷新し、テレビとビデオを一体化させ、「新しい未来のテレビ」としてサービスを進化させました。その際、新しい未来のテレビとはそもそも何なのか? 事業戦略と連動したサービスの思想をメンバーが理解できるよう体系化する必要がありました。新しい未来のテレビとしてのサービス戦略を方向付けるには、テレビの再発明を基軸とした特徴を市場優位性に変えていかなければなりません。全てのユーザーに対して、サービスの一貫性を持たせることが必要になります。

一般的にブランドとは、頭の中で記号と価値が結びついた総体だと言われています。ブランドシンボルとブランドバリューで構成され、個人の頭の中でイメージが蓄積されたものがブランドと呼ばれるものです。

個々の体験が魅力的でも、一貫性がなければブランドとしては記憶されにくく、ABEMAを構成する要素がそれぞれの個性で運用していては一貫性を生み出せません。ABEMAというサービスを構成するクリエイティブやコンテンツ、運用、マーケティングなど、全てにおいて一貫性をとることで、ブランドとしての魅力をユーザーに最大限伝えていくことを目的としました。

そうしたABEMAが目指す方向性を体現するために「ABEMAブランドガイドライン」をまとめています。詳細は2021年12月「ABEMA Developer Conference 2021」で発表しておりますので、そちらをご覧ください。

事業戦略を加速させるサービスブランディングとは | ABEMA Developer Conference 2021

■コンテンツ(番組)をブランディングする

新しいブランドガイドラインにも記載されているブランドコンセプト「Change,→New Standard.」のステートメントには、我々がこれから新しい未来のテレビを創造していくためには、常に既存の考え方やアイデアに囚われず、常に新しいことを考えていかなければならない、というメッセージが込められています。それは当然ABEMAを構成する全てのモノに対してですが、今回はABEMA番組ビジュアルにフォーカスしてお話ししていきます。

●番組ビジュアルの変遷

本題に入る前に、ABEMAの番組クリエイティブを担う「ABEMA Creative Center」の発足経緯と、現状についてお話します。ABEMA開局当初はサービス自体全てが手探りで、番組ビジュアルに置いては、静止画としてただ成立させることがゴールに近い状態でした。そんな日々試行錯誤を続ける中、開局5年が経つ頃には、番組の顔となるビジュアルは、番組の魅力を最大限引き出すためにアートディレクションにしっかりと注力しようという意識が根付いてきました。

しかしそれだけでは番組の魅力を最大化し、クリエイティブ起点で視聴数を向上させているかには懐疑的でした。この課題から、もっとクリエイティブを広義に捉えて戦略的なアプローチを取り、番組から派生する全てのクリエイティブをしっかりとディレクションする必要があるとの答えに至りました。つまり、アートディレクションだけではなくクリエイティブディレクションにより、番組全体をブランディングしていく考え方です。

なぜ番組にブランディングが必要か。ABEMAにはドラマ、格闘技、将棋など、様々なジャンルの番組が存在しています。ジャンルに関わるチャンネルは20以上存在し、日々大量の番組が生まれています。これほど大量のものをアートディレクションの視点だけで向き合っていると、一つの大きな課題が浮き上がってきます。

例えばドラマであれば演者とドラマの内容(恋愛、医療系などジャンルを説明する要素)を組み合わせた構成がほとんどでしたが、これだと演者の訴求力に依存しがちでした。結果的に演者の顔ばかりがメインのビジュアルが並んでしまい、番組ごとに差別化できなくなるケースが増えていました。そんな課題を打破するためには番組のコア(明確に差別化できる要素)を抽出し、高いレベルのアウトプットで表現することが大事だという考えに至りました。

SNSの登場により街や雑誌で見かける広告以外でも、ユーザーと番組の接触機会が増加し、クリエイティブを点ではなく線で、一気通貫で魅力を伝えるという視点が重要となっています。そうした視点のもと、番組制作に関わる上流へ提案しながら、スピード感を持ってクリエイティブ制作を実行しています。

■新しい価値を創造する

次は実際に制作したクリエイティブを基に話を進めます。実はABEMAの番組クリエイティブを制作していく上で、考えるべきことが大きく二つあります。

その一つが「新しい価値を創造する」。これは恋愛、ドラマなど、ゼロイチで作られているオリジナルコンテンツのように、ゼロイチで作るものです。もう一つが「既存の価値をアップデートする」。こちらは格闘技や大相撲など、既にイメージが定着しているジャンルを、ABEMAのターゲットに合わせて、より魅力的に見えるようビジュアルをアップデートする時の考え方です。まずは「新しい価値を創造する」を目指した、二つの番組を紹介します。

●事例1「酒癖50」

一つ目はドラマ『酒癖50(フィフティー)』です。本作品はお酒に酔ってあぶり出される人間の本当の弱さや愚かさを描いていく内容のドラマです。番組の一番コアな部分を抽出しようとすると、、どうしてもお酒にまつわるトラブルの部分が中心になってしまいます。そのため、クリエイティブでは、あくまでお酒の怖さを啓蒙している番組であることを、しっかり伝えることが重要なポイントでした。

クリエイティブを順に紹介していきます。不特定多数に訴求できる屋外広告では、キャッチコピーをメインとして、お酒の怖さを啓蒙するという強いスタンスの意思表明としました。あえて番組内容をイメージする写真とセットにすることで、キャッチコピーをしっかりと伝えるような構成です。

サービス内では、一転してドラマの内容を想起させるものにしています。これはサービス内でのCTVRを考慮しての判断です。そんな中でもコピーではしっかりとお酒の怖さを啓蒙するという一貫性を持たせて制作しています。

最終的に番組の顔となるキービジュアルがこちらです。主演の小出さんの悲しみや、微笑みともとれるような、何とも言えない表情を圧倒的な写真のクオリティで表現し、お酒に真摯に向き合っているドラマだと伝えています。

●事例2「恋愛ドラマな恋がしたい」

次に恋愛番組の制作事例をご紹介します。ABEMAでは数多くのオリジナル恋愛番組を制作しており、演者の顔や男女の群像劇にフォーカスすることで、似たり寄ったりのビジュアルが増えていることが昨今の課題でした。

では、どうすれば恋愛番組のビジュアルを差別化していけるのか。ここでは人気番組『恋愛ドラマな恋がしたい』を例に挙げていきます。この番組は、若手俳優は、実際のドラマ撮影の中で恋に落ちるのか、そして本番中のキスは本当の恋のキスなのか演技のキスなのか、その様子をユーザーが楽しむ内容となっています。

こちらの黄色に囲んだクリエイティブのパターンでは、写真のつながりから一見恋人のような男女に見えますが、よくよく見ると他の異性とも繋がっているように見えたりと、本気の恋か演技かどちらか分からない表現で、番組の内容を伝えています。

次に黄色く囲んだクリエイティブは、当時番組のMCだった渡辺直美さんを起用し番組のモチーフとしています。有名タレントを起用することで番組のメジャー感を出す方針でした。

メジャー感のあるビジュアルでも、複数シリーズを制作していくと当然既視感が出てきてしまいます。ABEMAは常に進化するサービスのため、ユーザーに対して常にフレッシュな状態を保ち続けなければいけません。最後に、既視感あるビジュアルをどう進化させたかをお話します。

まず、当時ABEMA内でレギュラー放送中の恋愛番組クリエイティブをマッピングするところからはじめました。左下の番組は高校生向けで、演者の等身大の姿を訴求するものです。反対に人気の「オオカミシリーズ」や「ドラ恋」は、ユーザーからの憧れの存在という見せ方でしたが、オオカミシリーズと比べるとドラ恋は知名度で劣ってしまうという課題がありました。

次に「ドラ恋」のビジュアル単体における課題と解決策についてです。。
一つ目の課題は、著名なタレント不在によるインパクトの低下です。これにはオオカミシリーズでも「人数を絞ることでCTRが高まった」というナレッジを引用し、ドラ恋でも人数を絞ることによるインパクトを狙いに行きました。

次にアイデアの既視感という課題に関しては、毎回訪れるキスシーンが演技か本気か分からない、というところがドラ恋の魅力であり、ここを差別化する要素として引き立てる方針を立てました。視聴ターゲットは完全にF1層に振り切ることでポジショニングマップにおいても他番組と違うところを狙う方針を打ち立てました。

そうして導き出したクリエイティブが、臨場感のあるキスシーンでドキドキさせるビジュアルです。ライティングやメイクにもこだわり、ターゲットに刺さる世界観を構築しながら、キスする直前の高揚感が高まった一瞬をグラフィックに落とし込みました。

さらに演者の数に合わせてパターンを展開し、特定の演者にフォーカスさせない課題もクリアしました。その他、演者を紹介するクリエイティブや、サービス内のサムネイルでも極力キスシーンを使い『恋愛ドラマな恋がしたい』=『キス』というイメージ戦略を立てました。

■既存の価値をアップデートする

次に、既存コンテンツのクリエイティブを制作する際の考え方についてです。
格闘技、大相撲、将棋など、既にユーザーの中に一定のイメージがあるコンテンツに対しては、ABEMA独自のターゲットを設定しながら、新しい表現を見せていくことに挑戦しています。その中で今回は二つ事例をご紹介します。

●事例1 プロレスリング・ノア

まずは格闘技、プロレスリング・ノアにフォーカスします。一般的にプロレスのビジュアルといえば、上裸の男性を臨場感のある写真で見せていくのが普通です。、そんな中、ノアには「今、一番カッコイイプロレス、ここにあります。」というキャッチコピーが存在し、これをビジュアルのコンセプトに取り込むようにしています。

ターゲットはあくまでも既存のプロレスファンと設定し、そのファンをどう熱狂させていくかをテーマとしています。その一つの例がこちらの「N-1 VICTORY」、団体の中でその年、一番強い選手を決める重要な大会の一つです。ビジュアルで掲げたコンセプトは「今、一番カッコイイ肉体美の追求。」選手の肉体美やセクシーさにこだわりました。選手の得意技の瞬間や、特徴的な表情を切り取り、ノアのキーカラーであるグリーンをベースにオリジナルのライティングで、大会にふさわしいビジュアルに仕上げることができました。

次に「THE NEW YEAR 2022」お正月に行われた大会ビジュアルです。年新年の挨拶を兼ねる大切な大会に対して、「今、一番カッコイイお正月を表現する」というコンセプトの下、制作したビジュアルになります。

シンプルに赤を基調とした日本らしい表現の中に、和装をあえて崩すことで、選手の強い意思や肉体美を見せています。それにより、新年に相応しい、プロレスのビジュアルを完成させることができました。

●事例2 大相撲

最後に大相撲です。ABEMAの大相撲は2018年から放送を開始しています。大相撲に対しては既に皆さんの中にも「NHK」に代表されるような、定番のイメージがあると思います。それらに対し、ABEMAでは当初からターゲットに合わせて、既存のイメージを打ち破る若々しい表現を試みていました。。初期のビジュアルでは、浮世絵や花札など、和を感じるモチーフを現代的なグラフィックに落とし込むことで差別化に成功していました。

次に、それに対して2021年のリニューアルで、ABEMAらしくどう刷新したかの経緯をご説明して行きます。

リニューアルではまず、「大相撲」のイメージを分解して考えるところから始めました。大相撲は「力と技のぶつかり合い」と表現されることがしばしばあります。その中で、今までのビジュアルは堂々とした力強さ「剛」を表現していましたが、土俵の中で飛び交う、力士の動きや技の美しさ「柔」を表現することで、さらに差別化した表現ができるのではないかと考えました。

さらに、大相撲ならではの個性を出すための工夫もしています。今回のビジュアルでは大相撲の年間を通して日本各地で行われる競技というところに着目し、「四季」と「その土地のランドマーク」の要素をビジュアルに組み込むことで、「大相撲らしさ」を高めることにも成功しています。

■これからのABEMA

私たちは、新しい未来のテレビ「ABEMA」をクリエイティブで体現していくことで、ユーザーにABEMAの素晴らしさを届けていこうと考えています。ブランドブコンセプトである「Change,→New Standard.」を達成すべく、今後も様々なチャレンジをしていきます。常識に囚われずチャレンジし続け、唯一無二の存在として世の中に熱狂と感動を届けていくことを使命としています。

ブランドコンセプトの一文に込めたように、常に時代をリードしながら世界に誇れるメディアサービスを目指しています。これからの、ABEMAクリエイティブチームのチャレンジにどうぞご期待ください。

 

「CyberAgent Developer Conference 2022」のアーカイブ動画・登壇資料は公式サイトにて公開しています。ぜひご覧ください。


https://cadc.cyberagent.co.jp/2022/

■採用情報

新卒採用:https://www.cyberagent.co.jp/careers/special/students/designer/
キャリア採用:https://www.cyberagent.co.jp/careers/professional/