7月27・28日、サイバーエージェントの次世代技術者による技術カンファレンス「CA BASE NEXT 2022」を開催しました。本記事では「アバター×仮想空間の進化におけるクリエイティブと技術」の登壇について、時間の関係上ご説明できなかった点も交えながら、改めてピグの新規サービスの挑戦についてご紹介します。

現在、ピグ事業部ではアバターコミュニケーションサービスを新規開発しています。
デザイナーの猪上からクリエイティブ観点でプロダクト戦略や設計に向き合っている様子について、また、エンジニアの富吉から技術面での変化と新規開発の進め方についてお話しします。

目次

アメーバピグと市場の変化
アバター×仮想空間の進化とクリエイティブ
技術面での変化
新規開発の進め方
まとめ

アメーバピグと市場の変化

まずは、アメーバピグと市場の変化についてです。

サイバーエージェントでは2009年から「アメーバピグ」というアバターサービスを展開してきました。
初期では、作成したピグのアバターを、AmebaブログやAmebaの周辺サービスに使用する
プロフィールアイコンとして使われていました。

そこから「ピグ」アバターを使ったゲームや派生サービスが多く生まれていく中で、
仮想空間でアバターを使って楽しむサービスとして発展していきました。

 

リリースから12年間、時代に沿って形を変えながら、現実世界とは違った「仮想空間で人とつながる」体験を提供し続けています。
2022年現在では、スマートフォンアプリで「ピグパーティ」「ピグライフ」の2つのサービスを主に提供しています。

次に市場の変化に目を向けてみます。

メタバースがトレンドワードにもなっている2022年現在、アバターと仮想空間を取り巻く市場は急速に変化し続けています。

大きな流れで市場を捉えてみると、これからますます技術的にも社会的にもデジタル化が進んでいく中で、アバターを使って「仮想空間の中の世界で擬似的に遊ぶ体験」から、アバターを介した仮想空間の中の世界は、より「リアルな社会と融合した、生活の一部」となっていくのではないかと想像しています。

 

 

アバター×仮想空間の進化とクリエイティブ

こうした市場や社会の変化を受けて、これからアバターを使った仮想空間上のつながりがどう進化するのか?そしてクリエイティブの観点からどう向き合っているのかをお伝えします。

これまでのピグ事業のノウハウから、「仮想空間のシチュエーション・没入感」がコミュニケーションに大きく影響することがわかってきました。
さらに、ピグでは何兆通りものきせかえコーディネートができるので、アバターの見た目が他ユーザーへの興味関心や、関係値づくりに影響があることもわかっています。

 

 

ピグの、アバターと仮想空間の観点での進化を辿ると、初期の「自分そっくりのアバターを作って遊ぶ」という体験から、現ピグパーティでは「着せ替えで自分の理想のアバターを作って、話す」体験へと変化してきました。

 

 

そして次のプロダクトでは、仮想空間が自分の居場所となり、「空間とアバター」の2つの要素を掛け合わせた新たなつながり方を提供していきたいと考えています。

 

 

そこでポイントになってくるのは「空間への没入感」と「話しやすさ」です。
ユーザーが、「この空間で話すためにアプリを開く」といえるレベルを目指して、UnityやProtopieなどのツールを使って、3D空間の見え方や操作感、UIなど、様々な観点でモック化しながら検証を行っています。

 

モックでの検証を進めている背景では、ユーザーがサービスにどうハマっていくのか?の設計を並行して行っています。

現状のピグパーティでは、アイテムを手に入れて着せ替える「アバターづくり」にユーザーがハマっていく中で、着せ替えアイテムの交換や、アバターの見た目をネタにしたコミュニケーションから人とのつながりに発展していくことがわかっているので、そこから、ピグの本質である「仮想空間での人とのつながり」がどう進化していくのかをチーム全員で議論しています。

そして、アイデアは実際にピグパーティ内で仮説検証して、検証結果をまた次の議論に取り込みながら、サービスづくりを進めています。

サービスづくりの段階としては、UXの5段階モデルでいうと、主に戦略部分に向き合っています。この段階ではフレームワークに沿ってアウトプットしたり、インタビューを通して市場やユーザーのニーズを知ることでサービスのねらいを定めていくことが多いと思います。

しかし今回のプロジェクトでは、 こういったアウトプットに加えて、
表層部分に近い、ピグのクリエイティブを活かしたアウトプットによるアイデアを出しながら、戦略の議論に巻き込んでいます。

それには、このプロジェクトならではの3つの挑戦があります。

 

 

1つ目は、ピグアバターのアセットを活かすことです。
このプロジェクトにおいて、「ピグ」が12年積み上げてきたものを活かしてどう進化するか?ということはとても重要です。
ピグには1兆通りのコーディネートを作れる量の着せ替えアイテムのアセットがあります。
このクリエイティブアセットから、クリエイターがアイデアをモックアップやビジュアルイメージなど、実際ユーザーに届くものに近い形でアウトプットして議論に巻き込むことで、
サービスのねらいを検証したり、クリエイティブを通した体験からサービスの価値につなげる挑戦をしています。

 

 

2つ目は、クリエイティブアイデアをサービスの体験価値に繋げることです。
今までの「ピグ」を踏まえて、どんなアバターが作れるか?どんなコミュニケーションができるか?という進化に向き合っていると、ピグというアバターを使ったコミュニケーションそのものがピグの体験価値であることに気づきます。
アバタークリエイティブとコミュニケーションをセットで考えていくと、
論理的に考えていくだけでは辿り着かない、ピグを最大限生かしたアバターの見た目や、アバターならではのコミュニケーションが生まれ、ユーザーに愛される体験をつくる挑戦となっています。

 

最後の3つ目は、ピグパーティというサービスで反応をもらうことです。
今ピグパーティで遊んでくれているユーザーの皆さんが、新しいサービスに移行したくなるような体験をつくっていく、ということをとても大切に考えています。
アイデアを実際のピグパーティのサービス内で触れてもらうことで、定量的にも定性的にもリアルな反応を見ることができます。
その結果を受けて新しいサービスの戦略や設計に活かすという挑戦をしているので、
クリエイティブのアウトプットもすぐに検証を行うことができ、新しいサービスのねらいを定める上での推進力となっていきます。

 

この3つが、クリエイターがこのタイミングからチームに入るメリットにも繋がります。

サイバーエージェントのデザイナーとして「クリエイターも職域を超えて一緒に事業をつくり、育てる」という姿勢で事業へに向き合ってきた3年から、
今回の「表層段階に近い、クリエイティブのアウトプットから戦略につなげていく」という関わり方は、事業に関わるデザイナーとしても新しい挑戦の機会となっています。

 

このように、今回のピグの新規サービスにおいて、ピグというクリエイティブから、どんな新しいつながりの価値を生み出せるか?ということに日々向き合っています。
「アバターと仮想空間」というとゲームのような体験が想像しやすいですが、その先でユーザーに届けたいのは「人とのつながり」です。
アバターと仮想空間を使った新しいつながり方で、未来のスタンダードとなるコミュニケーションを想像しながらクリエイティブやサービス設計に向き合っています。

 

そして、このアバター仮想空間の未来はもっと面白くなっていくと考えています。
今までスマートフォンは、便利な機能を備えたコミュニケーションの「ツール」としての役割を担ってきたのではないでしょうか?

これからは、より技術的にも社会的にも、デジタル上のコミュニケーションが発展していき、もっと先では体の感覚がそのまま仮想世界に没入していく未来を見据えています。

そこでまずは私たちが日常的に手にしている「スマートフォン」の中に没入する仮想世界を作り、現実と仮想世界が融合して、人とのつながり方をより豊かにしていく第一歩として、「手のひらの上のメタバース」の実現を目指したいと思います。

以降では、その実現に向けた技術についてご紹介します。

 

 

技術面での変化

今回使用している技術スタックは以下のようになっています。

クライアント:Unity
サーバー:Node.js(TypeScript), GCP, GKE, Kubernetes, Terraform, MongoDBなど

また、通信部分には初めてgRPCを使用しています。
ピグはサービスとしては長い歴史がありますが、運用ノウハウの蓄積やクリエイティブの変化、技術トレンドの変化に合わせて、使用する技術はモダンなものに変化しています。

クライアントの技術変化としては、FlashからUnityへの変化が挙げられます。
Unityを使用することになった際、それまで配信していたアバターの服や家具などのアイテムがUnity上で表現できないという問題がありました。

ピグの12年の歴史のうち最初の10年はFlashが使用されており、その10年でFlash向けにアイテムが多数製作されています。
それらのFlash向けアイテムのファイルをそのままUnityで使用することができず、Unityへのリプレースを機に過去のアイテムを配信停止にするという手段もあったのですが、Unityでも使用できるファイル形式に変換するスクリプトを用意することで、過去のアイテムを引き続き使用できるようにしました。

 

 

技術の変化に併せてアイテムの移行も可能にすれば、
・新サービスの開始時点で数年分のアイテムを使用できる
・既存のピグユーザーの方に思い出のアイテムをそのままご利用いただける
というメリットが生まれます。

もちろん、負債になってしまっているようなものはサービスの進化のために捨てる決断をすることもありますが、ピグは過去の資産を生かすことで成長を続けてきました。
このように、資産を守り、育てる役割としてテクニカルアーティストというポジションがあります。

テクニカルアーティストは、デザイナーやイラストレーターなどのアーティストを技術で支える役割を担っており、
・デザインデータをサービスに反映させるフロー整備(最適化を含む)
・そのフローを実現するツールの作成
・そのツールを低コストで使用できるよう改善
などを行います。

ピグでは、テクニカルアーティストがイラストレーターと一緒にピグブランドとしてのアイテム価値を守り、育てています。

新規開発の進め方

技術選定の後は、サービスの基盤部分から開発を始めており、今回はプロセスフローダイアグラムという方法で進めています。

プロセスフローダイアグラムとは、設定したゴールを実現するために必要なプロセスと成果物をフローにする方法です。
ダイアグラムの作成が終わった後は、準備/実装が終わった項目に着色していっており、ダイアグラムが全て着色されたらゴールが実現したということになります。

 

 

プロセスフローダイアグラムで開発を進めることで
・タスクの洗い出し
・着色による進捗の可視化
・基盤とはどういう機能を持つものなのか職種問わずチーム全体での認識合わせ
ができるようになりました。

基盤開発全体では、基盤をMVP開発を実現するための土台と定義し、MVP開発が進められる状態をゴールとしています。
MVP開発とは、必要最小限の機能に絞った状態でサービスを提供し、ユーザーからのフィードバックを得て改善を重ねていく手法です。
サービス内容が複雑になりすぎないため、
・最小限の規模での開発となり、時間や人手などのコストの削減
・システムが複雑になりにくくなることによる、改善ペースの向上
などのメリットが期待できます。

 

 

MVP開発はループを早く回すことでより効果を出すことができるので、
・素早く機能実装をするためのUIコンポーネント作りやUtility実装
・仕様変更に対応できるフレームワーク作り
などを基盤開発のフローの一部に定義しました。

これらの開発をサービス内容の決定やデザイン検証と並行して進めておくことで、仕様/クリエイティブが決まり次第、すぐに機能開発に入ることが可能になります。

 

まとめ

現在ピグの新規事業では、「コミュニケーション」と「空間」をレベルアップさせ、より良い体験を提供できるように3D空間やチャットについての検証を行っています。

大きなチャレンジポイントは以下です。

クリエイティブの観点では、
・ピグアバターのアセットを活かすこと
・クリエイティブアイデアをサービスの体験価値に繋げること
・ピグパーティというサービスで反応をもらうこと

技術的な観点では、
・パーツが細かく多いため重くなりがちなアバターをどこまで最適化、軽量化できるか
・これまでのピグでは2Dだったエリアを、3Dにする/ライティングや影をつけるなど、どう進化させ運用可能な形にするか

 

 

また、今後アバターの3D化や、NFTの導入なども行う可能性があります。

ピグにはこれまでにいくつものサービスや新機能を作ってきたノウハウがあるので、柔軟性のある設計で様々な検証に対応し、ベストなコミュニケーション体験を提供できるようにこれからも進化を続けていきます。

 

登壇資料

CA BASE NEXT 2022のアーカイブ動画、スライドは公式サイトにて公開しています。
ぜひご覧ください。

https://ca-base-next.cyberagent.co.jp/2022/sessions/pigg-newcreative/

採用情報

進化した「ピグ」のサービスを一緒に作ってくださる方を募集しています!

プロダクトマネージャーご紹介:https://www.cyberagent.co.jp/careers/special/media_professional_youth/new02.html
アートディレクター:https://hrmos.co/pages/cyberagent-group/jobs/1758691268930277376
Unityエンジニア:https://hrmos.co/pages/cyberagent-group/jobs/0000857
サーバーエンジニア:https://hrmos.co/pages/cyberagent-group/jobs/0000874

2015年新卒入社のUnityエンジニアです。Flashでピグワールド/ピグブレイブの開発を行ったあと、Unityでピグライフ〜ふしぎな街の素敵なお庭〜の立ち上げを経験し、現在はピグの新規サービスの開発を行っています。
デザイナー|2019年新卒入社。内定者時代より新規サービス立ち上げ,運用を行う。その後,Amebaにてアプリの広告デザイン・UI/UXの改善等に携わり,現在はピグの新規サービスの開発に従事。