技術本部 Data Science Center の武内です。普段は、メディアサービスのデータ分析業務に携わっております。
今回は、2022年8月23-25日に同志社大学で開催された「ネットワーク科学研究会2022」に弊社から2名が参加しポスター発表を行いましたのでレポートしたいと思います。
ネットワーク科学研究会について
ネットワーク科学研究会は、「ネットワーク」を研究キーワードにもつ学生・若手研究者を中心に構成され、分野横断的な情報共有の場を提供することを目的とし、毎年開催されています。今回は現地+オンラインのハイブリッド形式で開催され、約120人の参加登録があり、現地参加は50人を超えたそうです。
例年、口頭講演とポスター講演があります。分野横断的な交流を目的に掲げていることもあり、口頭講演では異分野の人にもわかりやすく研究背景が説明され、いつも大変勉強になっています。ポスター講演は、毎回時間が足りなくなるくらい活発な議論がされ盛り上がっている印象です。個人的には、ポスターセッションに毎年何か研究ネタを持ち込んでいて、周りの研究者や学生の人たちが自分の研究のどこに面白さを感じてくれているのかを確かめる貴重な機会になっています。
ポスター発表の紹介
弊社からは2つのポスター発表がありました。
「人の物理的行動とオンライン上の行動のバースト性」
1つは、私武内と筑波大 佐野准教授の共著ポスターです。この研究では、人の無意識な行動の統計則に着目しています。物理的な行動とオンライン上の行動の観測データを分析し、その両方で、定常ポアソン過程では説明できないという意味で「不自然な」時間的なゆらぎの存在を確認しました。またこのゆらぎは、人の行動シチュエーション(子供が遊んでいる状況、大人がくつろいでいる状況など)毎に、異なる特徴を持つこともわかりました。この発見は、人の行動の背後にある普遍的なルールの理解に貢献します。また、Web上の行動パターン(click操作の時系列など)から、その人の状況(目的の有無や、集中度合いなど)を推測するといった応用につながる可能性があります。
発表を聞いてくださった方たちからは、本研究の課題として個人差の扱いをどうするか、関連研究の最近の傾向、研究の応用可能性の話など、色々な議論をさせていただきました。
ここで発表した内容のうち、物理的な行動に関する部分については、arXivにプレプリントを投稿しています。ご興味がある方はご確認ください。
このポスター発表は、本研究会のポスター賞を受賞することができました。下記は、賞状と副賞としていただいた「データ分析に必須の知識・考え方 統計学入門」(著者の阿部先生のサイン入り)です!
「アバターコミュニケーションサービスにおける社会的リズムの同期現象」
もう1つは、弊社のMISC所属の高野の研究成果です。この研究では、オンラインコミュニケーションサービスの利用リズム(オンライン社会リズム)が、ユーザー間で同期する現象を調査しています。
人の概日リズムは、太陽の他にも人々の社会的相互作用からも影響を受けることが知られています。そうであればコミュニケーションツールの利用リズムもオンライン社会的相互作用の影響をうけると考えられます。そこでこの研究では、オンライン上でのユーザー同士のコミュニケーションネットワークを結合振動子系とみなすというユニークな分析を行っています。結果として、オンライン上で繋がりのあるユーザー同士の利用リズムが類似していることを示し、実際に同期現象が起きていることが確認できたとのことでした。さらに、社会的リズムは伝搬していることも確認しています。
先行研究では、オンライン社会リズムのメンタルヘルスへの関連が示されており、本研究で得られた知見はユーザーのメンタルヘルス改善に役立つ可能性があります。
口頭講演について
口頭講演はどれも興味深く勉強になるものばかりでした。特に、自分と同じ博士課程の学生の方々の研究がどれも個性的で興味深く、良い刺激になりました。発表のタイトルや元文献はネットワーク科学研究会2022のページに掲載されていますので、興味がある方はぜひ確認してみてください。
全体的なところでは、研究対象をどのようにネットワークに落とし込んでいるかが各講演の研究分野それぞれで違っていて大変面白かったです。例えば、脳機能の活性化をネットワークノードの活動としてみる場合、そのノード間が実際に何らかの意味で繋がっていることを確認するのが実験的に困難な場合がありますが、それを各ノードの活動時系列の相関によってエッジを張るといった工夫で対処する話がありました。私が普段扱っているWeb上の行動ログにおいても、分析したいネットワークが直接ログから得られないケースが度々あり、参考になると思いながら聞いていました。
今回の参加では、アカデミック領域の各専門家から様々なお話が聞け、たくさんの良い刺激をもらいました。これからも、サイバーエージェントとしてのデータ活用業務とアカデミック領域を行き来しながら、サービス改善と学術貢献を両立させていきたいと思います。