本記事は、CyberAgent Advent Calendar 2022 15日目の記事です。

ゲーム・エンターテイメント事業部(SGE)の技術横断組織である、SGEコア技術本部(以降コアテク)の石黒です。今まではゲーム子会社のアドカレに書いていたのですが、立場が変わったこともあり今年は初のCyberAgentアドカレへの参戦です。

以前、組織の立ち上げ記事を書かせて頂きましたが、去年の8月頃に責任者として組織を立ち上げてから1年ちょっとが経ったので、自分なりに立ち上げから現在に至るまでを振り返ってみたいと思います。

技術的な話は一切ないのですが、横断技術組織を立ち上げることの難しさはどのような会社でも通じるものがある普遍的な話だと思うので、自分のように頭を悩ませている誰かの参考になれば幸いです。

技術横断組織を立ち上げるまでの長い道のり

組織を立ち上げたのは前述の通り去年なのですが、そこに至るまでの道のりは決して楽なものではありませんでした。そもそもSGEでは10社以上の子会社それぞれでゲーム開発を行う子会社制を採用することで子会社ごとの強みを活かしたゲーム開発を行っています。そのため子会社それぞれで技術的な意思決定を行うこともあり、技術横断組織を立ち上げたとしても強く介入できないからです。

とは言え子会社それぞれで開発を行うデメリットはもちろんあるため、子会社を跨いだコミュニティを作るなどの動きを行っていたものの、根本的な解決とは言えないような状態でした。

そこでQualiArtsというSGEの子会社で長年基盤開発を行っていたこともあり、組織課題を解決する新規案を提案するあした会議で技術横断組織の立ち上げを何回か提案したものの、最初の方は組織がワークするイメージが湧かないという反応があり、決議されるに至ることはありませんでした。

ところが去年のSGE内のエンジニアあした会議「CROSS THE BORDER会議」にて改めて提案したところ、決議に至ることができました。その決議の大きなポイントは、以下の要因が大きかったと理解しています。

  • 開発の大規模化・長期化に伴う、開発期間やコストの問題が顕著になってきていること
  • SGE全体の組織文化において協調的な動きがより加速していたこと
  • 石黒個人がSGE全体で信頼されている状態を作れたこと
  • 横断で利用する技術に投資をしていく機運があったこと

こうして決議された後は、組織の立ち上げに向かっていろいろな準備を行ってきました。その中には子会社の役員・プロデューサー・開発ディレクターなど意思決定をする人たちへの説明や、組織戦略を詰めたり、人材確保など多岐に渡ります。コアテクの組織構造

基盤の開発と浸透の課題

立ち上げてから直面したのは、基盤を開発する人員が不足しているというシンプルに致命的な課題でした。作りたいものがたくさんある中で、少ないリソースで並行して開発することを計画すること自体が悪手だったと、振り返って感じます。今でこそ人もある程度増えてきたので解消されつつありますが、特に組織の立ち上げ直後は理想と現実のギャップに大きく苦しむので、ちゃんと整理するべきでした。結果的には成果もちゃんと出たので、何をやっているかわからない横断組織として失敗するのは避けられたと思いますが、半期ごとにわかりやすい成果が出続けるように意識する必要はあります。

そしていざ作った基盤を浸透させていくのが、2つ目の大きな課題です。SGEではトップダウンのカルチャーはほとんどないため、基本的には現場判断で技術の採用判断を行っていきます。特に子会社ごとに開発スタイルが大きくことなるため、既に動いている開発現場としてはワークフローを変えてまでも導入するモチベーションを作ることは難易度が高いです。特に初期導入はリスクが高く敬遠されやすいので、同じ基盤を全体で使うことで叩き上げることができるという理想とは裏腹に、その状態に持っていくまでには飛び越えなければいけない壁がいくつかあります。

これを乗り越えていくためには絶えず良いモノをつくっていくこと、次の開発から導入してもらえるように営業努力を怠らないことを徹底するなどに限るのですが、他の解決策としてはOSS化することでも解決できると考えています。

技術のOSS化、そして業界貢献とブランディング

コアテクから幾つかのOSSをリリースしました。Nova Shader, Unity Performance Tuning Bible, Asset Regulation Managerです。何れも大きな反響がありましたが、実は積極的なOSS化については自分の構想段階では全く考えていませんでした。OSSの動きは矢野に作っていただきました

コアテクからリリース済みのOSS

OSS化について自分が想定していなかったのは、技術の積み上げが会社を競合優位にするのが基本であり、そのために必要なコア技術を開発するのが前提だったためです。もちろん組織の立ち上げ直後からOSSを前提として工数を割くのが難しそうという考えもありました。

そこから実際にOSSを何本かリリースし、OSS化によるメリットはかなり大きいと感じました。その狙いについては矢野の記事にも書いている通りですが、何よりゲーム業界に対してOSS文化が根付いていない中での業界貢献やブランディングに大きな手応えを感じることができました。

もちろん全ての技術をOSS化することは難しいのですが、これからもOSS化は自分たちのペースで続けていきます。

ゲームにおけるAI活用の模索

コアテクを立ち上げた当初から、専門性の高い技術開発もスコープに入れて活動してきました。それは子会社側にはゲーム開発を担当する技術者がほとんどで、専門的な技術開発を行う人材がほとどんどいないことが多いため、コアテクでそこを担う価値があると感じていたからです。

その中の1つがゲームにおけるAI活用でした。もともとSGEでは有志によるAI活用の取り組みを行っていましたが、兼務で時間を確保する難しさや、専門性の高い高度な知識が要求されるということもあって、なかなか上手く活用できていない状態でした。業界的にはAIに力を入れているところとそうでないところがはっきりわかれている状態ですが、AIの活用が今後のゲーム開発の技術的な優位性を築く可能性を昔から感じていたため、コアテクでは専門のエンジニアを確保することと、SGE全体のAI活用の文化づくりを目指して動きました。

その中で2022年度入社の新卒からMLエンジニアが二人もコアテクにジョインしてくれました。SGEにおけるMLエンジニアの新卒配属は初めてのことです。もともとサイバーエージェントではAI事業本部が大きい存在で、SGEに受け入れる土壌がなかったこともあり毎年配属はなかったのですが、この結果は予想以上でした。そしてわかったことが幾つかありました。

ゲーム開発はその複雑さゆえにAI活用の可能性をかなり秘めているのですが、学生から見るとゲーム開発のイメージが湧かないため、わかりやすいキャラクターAIなどの制御AIのイメージに留まっていることが多いということです。これは内定者向けにゲーム開発におけるAI活用の可能性についてプレゼンすることで対策しましたが、採用向けにはもっと広くアピールしていく必要性を感じました。

もう一つはゲームというエンターテインメントが好きでそれに関わりたいMLエンジニアが多いということです。AI事業本部と比較すると技術研究能力では負けてしまうのですが、それでも自分の好きなことに自分の技術で挑戦できることに魅力を感じてもらえてるという手応えを感じました。

まだまだ立ち上がったばかりで、成果も少しずつ出始めている状況ではありますが、数年後にゲーム開発に大きなインパクトを与えられるようにチームを拡大させていきます。

立ち上げ当初の想定を超える組織に変化してきた

そして立ち上げから1年とちょっとが経った今、コアテクに所属する人は10名ぐらいの規模感(兼務メンバーも含めるともうちょっと多い)の組織になりました。これは自分の当初想定していた拡大スピードをかなり超えています。元々SGE内からエンジニアを集めるのはなかなか難しい状態だったのですが、中途採用が上手くハマりました。

また直近ではグラフィックス技術の研究開発チームや、新規プロジェクトの技術支援を行うチームなど、コアテクの立ち上げ当初はなかったチームも生まれました。これはコアテクとして活動している中で、そういうニーズを新たに発掘できたということと、そこに対して活躍できる方にジョインして頂けたという面が大きいです。

チームが増え、それぞれのチームの規模が大きくなってくると組織全体の運営自体は難しくなってきますが、1から10までリードするのではなく、個々でどうすれば良いかを考えて動いているので、意外と苦労はしていないです。強いて言えば広報などの対外アピールをチームごとに考えて行っていく必要があるというぐらいです。

これからもどんどん人が増えていくと思っていますが、SGEにおける理想的な技術横断組織としてはこれからも模索していくなかで柔軟に対応していきたいと考えています。

まとめ

ここには書ききれないほど細かい話がたくさんあります。1年でもたくさんのことがあったので、来年どういう組織に変わっているかは想像するのが難しいですが、それでも数年先を見据えて常に先回りをして課題を解決していける組織を目指しています。

また技術面では、今作っている内製基盤のほとんどを紹介できていませんが、絶賛開発中なのでまたの機会にでも紹介したいと思います。

今後SGEから出るゲームのクオリティにぜひご期待ください。

2014年新卒入社の何でも屋エンジニアです。株式会社QualiArtsで基盤開発に従事したあと、SGEコア技術本部(コアテク)を立ち上げ開発責任者としてゲーム事業部全体の開発効率と品質の向上に取り組んでいます。