こんにちは、メタバースプロダクション事業部XRエンジニアのイワケンこと岩﨑謙汰 (@iwaken71)です。
今回は、Meta社のCREATE FORWARD Immersive Mentoring Program2023を通じて得たDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)についての学びと、実際のXRコミュニティにどのように実践したかをシェアします。

MetaのHorizon Workrooms上での研修参加者の集合写真。
MetaのHorizon Workrooms上でプログラムを受講しました。全員Meta Quest2を被りオンラインから参加しています。

DE&Iとは

DE&Iとは「Diversity, Equity & Inclusion / ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」の略です。

  • Diversity(多様性):一人ひとりが異なる特性を持つことを認識し、尊重すること
  • Equity(公平性):一人ひとりの特性やニーズに合わせてサポートを提供すること
  • Inclusion(包摂性):全員が自分らしく活動できる環境を作ること

私が特に心に留めているのは「Equity(公平性)」の考え方です。似たような言葉に「Equality(平等)」がありますが、両者には違いがあります。

  • 「Equality(平等)」:全員に同じツールやリソースを与えること
  • 「Equity (公平性)」:一人ひとりの固有のニーズに合わせてツールやリソースを調整し、誰もが成功する機会を得られるように組織的な障壁を取り除いていくこと
Equality(平等)とEquity (公平性)の違い。Equityは機会を公平にする。
Equality(平等)とEquity(公平性)の違い。Equityは機会を公平にする。

出典: ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)とは? おさえておきたいキーワードとポイント解説

上の図がEqualityとEquityの比較として有名な図です。

Programの概要

CREATE FORWARD Immersive Mentoring Programでは、Meta社が持つDE&Iに関する教材を使いながら、イマーシブなVR空間の中でセッションを行いました。3月からスタートし、約4ヶ月間、合計6回のワークショップを経て、インクルーシブな考え方を学びました。弊社社員3名 (神谷 優,田中 友彩,岩﨑謙汰)含めて全体で15名ほどの参加者がいました。

プログラムはキックオフと5回のVR空間内のワークショップによってスケジュールされました。

第1回はMetaの東京オフィスで行われ、第2回以降は各自自宅からMeta Quest2を用いて参加し、Horizon Workroomsによるメタバース空間での開催になりました。Meta Quest2は特定非営利活動法人Waffleさんから提供していただきました。

第1回のキックオフの休憩時間の様子
第1回のキックオフはMetaの東京オフィスに集まりました。

研修の内容を紹介

後半の4回がメインの講義であり、講師による説明の後、テーマに沿って参加メンバーとディスカッションを行いました。

  • Day3「Beyond Bias Workshop」
  • Day4「Creator Safety」
  • Day5「Why accessibility?」
  • Day6「Ethics of Virtual Influencers」

4つのワークショップのタイトルスライド。

Day3 「Beyond Bias/ビヨンドバイアス」

クリエイティブを作る時や、コミュニティに対して言葉を発信する時に、前もってバイアスに「気付く」力を上げるのが目的です。
研修では、こちらのInstagramアカウントに提示されている実際にMeta社で活用されているフレームワークを参考にしつつ、実例を通じてケーススタディを行いました。

「Beyond Bias」Workshopのインスタグラムアカウント紹介のスライド

私が印象に残っている「Break The Mold」というフレームワークでは、

  • 固定概念・ステレオタイプを助長してしまっていないか?
  • どのような「型」を壊すチャンスがあるか?

という考えを示唆してくれます。

例えば、

「女性の活躍」というテーマのポスターを作るときに
「女性はピンク色が好きだろうから、ピンク色基調のポスターにしよう」

という考えは、ステレオタイプを助長しているかもしれません。仮にピンク色が好きでない女性が見たら疎外感を感じるかもしれない。こういったバイアスにまず「気付く」ことが大切です。

他のフレームワークでは

  • Earn Your Seat (自分たちの役割を見直し、ふさわしくなる)
  • Widen The Impact (多様性のあるオーディエンスを想定して、インパクトを広める)
  • Second Pair (第三者にアイデアを見てもらう)
  • Frame×Frame (スクショの切り取りされた時に、意図しない解釈をされないか考察する)
  • Sniff Test (五感のどれかを除いてコンテンツを見た時に、意図しない解釈をされないか考察する)

などを学びました。
Earn Your Seatの例として、例えば

「女性の活躍」がテーマのポスターなのに、登場人物が全員男性だとしたら「それは伝えたいメッセージ表現できているだろうか?」

と問いかけることが大切ということです。

上記の例は性別の例を挙げましたが、研修では他にも年齢、国籍、民族、宗教のダイバーシティの観点で、ケーススタディとディスカッションを行いました。

みなさんも、自分のプロジェクトやコミュニティで、どのようにバイアスに気づき、それをどのように克服するか/すべきかどうかを考えてみてください。

Day4「Creator Safety/クリエイターの安全性」

ここでのクリエイターというのは、ブランドとコラボレーションしながら生放送や映像にて成果物を出す人です。日本では芸能人/Youtuber/インフルエンサーなどです。
Safety/安全性というのは、誹謗中傷や炎上をどう対処するか考えることです。

研修ではCreator Safetyの10のステップが紹介されました。

Creator Safetyの10のステップの前半5つ。マーケティング用語は避け、クリエイターとコラボする目的にを簡潔に述べる。どんなクリエイターなのか知る。ブランドとの真の関係を気づけるクリエイターとのつながりを深める。クリエイター選定基準を透明にする。選定プロセスを丁寧にする。
Creator Safetyの10のステップ後半5つ。キャンペーンの潜在的リスクを想定する。潜在的リスクに対して誹謗中傷が起こった場合、ブランドとしてどう対処するか説明する。シナリオに合わせた人員調整をする。クリエイターと対話する。セーフティツールを備える。

私がこの中で重要だと思ったのが次の2つです。

  • 07: 「キャンペーンに携わる全てのクリエイターと繋がり、潜在的なリスクにフラグを立て、もし誹謗中傷が起こった場合、ブランドとしてどう対処するか説明する。」事後対応ではなく事前に対応してコミュニケーションすることが重要です。
  • 10:「全てのエージェンシーがクリエイターセーフティ規定に準拠し、セーフティツールを備えるよう徹底する。」例えば、生配信の荒らし/スパム行為に対してのミュートやブロックなどのモデレーターとして対応などが具体例の1つになります。

クリエイターとどうコミュニケーションすべきか、プラットフォームのセーフティツールをどう活用していくかの視点を学ぶことができました。

Day5「Why accessibility?/アクセシビリティ」

世界の人口の約15%の人が何かしらの障害を抱えています。サービスや広告を提供する立場として、障害を持った人にも他の人と同じようにサービス・広告を利用できるようにするという考え方がアクセシビリティの基本的な考え方です。

研修のスライド。 障害とは、考えていたものと違うかもしれません。世の中には様々な障害があります。ADHD,うつ病,摂食障害,耳鳴りなど様々な障害が含まれます。

研修では「知る、実践する、教える」の手順で学びました。本記事では「知る」パートの一部を紹介します。詳しいガイドラインはWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) を参考にしてください。

研修で紹介されたアクセシビリティで考慮する候補の項目はこちらです。

アクセシビリティで学ぶべき15個の項目。コピーライティング。色。キャプション。書体。テキストのサイズ。要素の詰め込み。ハッシュタグ。コンテンツに関する警告。代替テキスト。画像・動画の説明。音声による説明。AR/VRにおけるアクセシビリティ。障害のある人を起用する際に。障害のある人の描写。私たちのことを、私たち抜きに決めないで

例えば「Typefaces(書体)」では、アクセシビリティが高いフォントについて紹介してくれました。

また、一番のメッセージとして「Nothing about us without us / 私たちのことを、私たち抜きに決めないで」を感じました。実体験を持つ当事者と一緒に、コンセプト、実装、制作に関してプロジェクトに参加してもらうこと。今回であれば障害を持つ人にクリエイティブ制作に参加してもらうことで、アクセシビリティの高いアウトプットになります。

Day6「Ethics of Virtual Influencers/バーチャルインフルエンサーの倫理的な考え方」

ブラジルのバーチャルインフルエンサーのLu do MagaluさんはInstagramだけでも600万人以上のフォロワーがいるなど、インフルエンサーとして存在感を出している例が増えています。

バーチャルインフルエンサー分野の現状。2021年時点で200人以上存在している。

インフルエンスの定義を「誰かの行動・信念・意見を変えたり、何かの変化を起こす」としたうえで、バーチャルインフルエンサーの分類を行い、倫理的に気を付けることを共有します。

研修では5つの分類をしていました。

① バーチャルインフルエンサー/見た目が人間 (immaさん)
② バーチャルマネキン、またはモデル・ブランド所有 (yooxの例)
③ バーチャルインフルエンサー・架空の生き物
④ バーチャルマスコット・ブランド所有 (The GEICO Geckoの例)
⑤ バーチャルキャラクター (Puff Puffの例)

広告活用という切り口のため、ブランド所有かどうかで分類しているのが面白かったです。また、ディスカッションの時間では、VTuberがバーチャルインフルエンサーとしてどういう立ち位置にいるのか、といったことも議論できて楽しかったです。

後半では、エシカルフレームワークを使って、倫理的な問題について考えました。5つの問いかけを紹介します。

  • 表現の自由
  • 経済的な観点
  • 倫理的な象徴
  • 文化的な登用と搾取
  • 有害な考えの助長

「倫理的な象徴」「有害な考えの助長」では「間違った/偏ったステレオタイプを助長する危害を与える可能性がないか」という問いかけが重要です。例えば

「CEO」の画像検索をした場合、出てきた画像の全てがスーツを着た年配の男性だった場合、CEOがどうあるべきかという概念を強化してしまっているかも

とも言えます。バーチャルインフルエンサーの見た目やアイデンティティの設計を考えていく中で、気を付けるべきことです。
また「経済的な観点」では、人間のインフルエンサーが、バーチャルインフルエンサーのせいで雇用機会を失ったり、自尊心を傷つけられる可能性があることを危惧したうえで、どのような解決策があるか述べられました。例えば、インフルエンサーの設計や運用段階で、雇用機会をサポートするなどがありました。
Kamiさんは、ダウン症の女性の方々によって作られた、ダウン症のアイデンティティを持つバーチャルインフルエンサーです。この事例は、ダウン症の人たちが自信を持てるようになるような存在をSNS上につくるだけでなく、ダウン症の方の雇用機会を作ることにも貢献しています。

Kamiさんはダウン症のアイデンティティを持つバーチャルインフルエンサーです。 ソーシャルメディアでの損じにより、ダウン症の人がもっと自信が持てるかもしれません。byジャスプリ―・セコン

研修を経て、実践したこと

今回のワークショップを経て、クリエイターにおけるDE&Iの理解を深めることができました。
個人的に大事だと思ったのは

  • 無意識なバイアスを認識すること
  • Equity(公平性)の精神でアクションすること

この2つです。

私が個人で主催しているコミュニティのイワケンラボでの実践例を2つ紹介します。イワケンラボは技術好きな学生を支援するコミュニティで2023年8月時点で47名の学生~社会人3年目のメンバーが所属しています。

1つ目は、ホームページ上の表現にて「キーマン」という表現を「キーパーソン」に変更しました。最初私は無意識に「キーマン」という表現をしていました。研修後「活躍するのは男性」ということを助長した表現を私のコミュニティですべきだろうかと立ち止まって考えることができました。

2つ目は、東京での集まりを企画する時に、地方在住メンバーに片道交通費を支援しました。東京で開催すると東京付近に住んでいる人が有利です。しかしEquityの精神で、地方在住の人も機会を公平にすべきと考えた時、新幹線代の片道を支援したい社会人が負担する仕組みを作ることで、参加しやすくしました。結果36名中7名の地方在住メンバーが参加することができました。

XR好きな学生と社会人で集まったBBQイベント。地方学生も36名中7名参加。

こういった1つ1つの表現やアクションに対して、一度立ち止まり、より良いアクションがないか考えることが大事だと気付かされました。

みなさんも、日々のプロダクト開発やコミュニティ活動にて、無意識にバイアスをかけて表現していないか、Equityの精神でアクション出来ることはないか考えてみてください。
ただし、これらには正解があるものではなく、日々ディスカッションすることで深めていくものだと思っています。

もし興味ある方は一緒にディスカッションしましょう!

最後に

サイバーエージェントでは、「Tech DE&I プロジェクト」を通じて、プロダクト開発におけるDE&Iにも力を入れていく予定です。
私自身も、今回のMeta社の研修を経て、大変学びになりました。
自分のコミュニティやプロダクトにもその思想を反映させつつ、考え方の一つとして広めていきたいと思います。

アバター画像
2018年、株式会社サイバーエージェント入社。VTuber撮影システムやVRアプリの開発に従事。その後、3DCG合成撮影システムやHoloLensアプリケーションの開発を手がける。 2024年3月よりXR研究所所長として、XR技術の社会実装に注力。