目次

この記事について
生成AI徹底理解リスキリングについて
第三弾「for ML/DS」の運営チームについて
第三弾「for ML/DS」のゴール設定について
カリキュラムについて
講師と教材について
企画・設計の期間について
受講者の集め方について
受講者同士の関係性構築について
研修を走らせながらのカリキュラムの「チューニング」について
特別講演について
第三弾「for ML/DS」の効果について
今後の「生成AI徹底理解リスキリング」について

この記事について

こんにちは。株式会社サイバーエージェントの経営推進本部という組織に所属している片岡です。

2005年に中途入社し、最近は「リスキリングセンター」という全社横断施策で、主にエンジニア社員の育成施策を企画設計運用する仕事に大半の時間を費やしています。

 

半年ほど前に

約1カ月の研修期間でエンジニア社員がLLMを組み込んだ機能を大量に実装出来た理由|生成AI徹底理解リスキリングの第二弾について 

という記事を投稿しました。

今回の記事は、その後に実施した「生成AI徹底理解リスキリング」の第三弾「for ML/DS」について、

  • 何を目指し
  • 何を達成し
  • なぜできたのか

を伝えたいと思います。

生成AI徹底理解リスキリングについて

半年ぶりの投稿なので、まずは一緒に前回の記事をおさらいして思い出すところからお付き合いください。

 

生成AI徹底理解リスキリング とは、

サイバーエージェントグループが生成AIで業界を牽引している状態を目指す

全社施策です。

 

このゴールについては、施策の提案者であり、実行の責任者でもある株式会社AI Shift所属の友松と共に言語化しました。

友松は2023年10月~12月に実施した全社員・全職種向けの第一弾「for Everyone」の記事を投稿しているので、こちらもぜひご覧ください。

全社員・役員が受講!「生成AI徹底理解リスキリング」 – 6300名、99.6%完了の裏側

 

サイバーエージェントグループが生成AIで業界を牽引している状態を目指す

このゴールを言語化したタイミングは、2024年1月~3月に実施したエンジニア社員向けの第二弾「for Developers」を企画している時でした。

 

第一弾「for Everyone」を実施していた頃は、今後生成AIを活用して、既存の仕事のやり方を変えていくことが他社との競争力の大きな差になるという全社的な認識のもと、「生成AI大号令」ともいえるような数多くの施策が実施され、社内外への発信がされていました。

 

生成AIに関する数多くの施策が社内で実施される中で「生成AI徹底理解リスキリング」をやる意味と目的は何か?を言語化し、キモがブレないよう施策を進めるという意図がありました。

第三弾「for ML/DS」の運営チームについて

半年前に投稿した記事の最後の章にも書いた「チーム for ML/DS」のメンバーで企画・設計を開始し、研修修了まで運営をしました。

第三弾「for ML/DS」のゴール設定について

半年前の記事をご覧になって比べると、冒頭のシンボリックな画像の変化に気付くと思います。

図:「for ML/DS」のゴール設定

 

一連の「生成AI徹底理解リスキリング」の中で、最も専門性の深い第三弾「for ML/DS」の企画に着手した際に、「チーム for ML/DS」でゴールを見直しました。

 

表:ゴールの変更前後比較

 

専門性の深さに加え、より幅広い業務を網羅できるようになることを第三弾「for ML/DS」のゴールに設定しました

さらに「LLMの活用において課題設定~評価のサイクルを推進できる人」の解像度を上げ、構成要素の分解を行いました。

 

表:「LLMの活用において課題設定~評価のサイクルを推進できる人」の要素分解

全社的な伝え方としては

LLMの活用において事業KPIや制約などから問題設定への落とし込み, モデルの選択, データ選択・収集,チューニング,評価のサイクルを推進できるプロフェッショナルな人材を増やす

という文面に決めました。

カリキュラムについて

ゴールを設定し、研修で身に着ける能力を言語化したら、次は研修カリキュラムの設計です。

カリキュラムは、インプット/ハンズオン/ケーススタディの三部構成としました。

 

表:研修で身に着ける能力とカリキュラムのマッピング

 

カリキュラム全体像

 

表:カリキュラム全体像

 

インプット回

狙い

  • 受講者の基礎的な知識レベルをそろえる

概要

  • テーマを6つ設定し、テーマ毎に異なる講師が登壇
  • 講師の登壇の合間にチーム分けした受講者同士が議論
  • 講師と受講者が質疑応答

 

いわゆる「座学」です。受講者が講師の話を聞いているだけでは学習効果が低くなりがちなので、受講者をチーム分けし、講師の登壇内容を元に受講者同士が議論する時間を挟むことにしました。

また、講師と受講者の質疑応答に取れる時間は少ないので、その場で受講者が聞きたいことが即座に出てこないことや発言を遠慮するケース、講師が回答しきれないことも考慮して、オンラインメモを用意しました。受講者に質問事項を書き込んでもらい、研修時間中に回答しきれなかったものは後日講師に回答を書き込んでもらった後に、受講者へフィードバックしました。

ハンズオン回

狙い

  • 実務で行う一連の作業を体験する

概要

  • テーマを2つ設定し、テーマ毎に異なる講師が教材作成
  • 受講者が自由にプログラムコードの記述や実行する環境を準備
  • 講師が受講者に教材の利用方法を説明
  • チームに分かれて受講者同士で相談しながら教材を使って演習
  • 講師と受講者が質疑応答

 

講師と受講者の質疑応答については、インプット回と同様に、オンラインメモを使った方法も併用しました。

ケーススタディ回

狙い

  • 担当業務を題材にした課題の設定と解決方法についての発表とチーム議論で実践力を磨く

概要

  • 受講者を5名毎にチームに分け
  • 有識者の研修運営メンバーを1チーム1名ずつ議論のファシリテーターとして割り当て
  • 受講者自身が担当業務の事例について説明資料を作成して自分のチーム内でプレゼン
  • チーム分けした受講者とファシリテーターが議論
  • チームで議論した内容を受講者がオンラインメモに記録して可視化
  • プレゼン資料は研修中の時間配分も考慮して運営が設計した書式を提供

 

チームで議論した結果をオンラインメモにまとめるところまでを、研修時間内のゴールとしました。

図:ケーススタディ回のチーム構成

 

講師と教材について

教材については全て内製し、講師についても社員が担当しました。

全10回のカリキュラムのうち9回については、「チーム for ML/DS」のメンバーの社内の横のつながりを頼りに、社内の有識者へ声をかけ、講師と教材作成を依頼し、かつ「チーム for ML/DS」のメンバーにも講師と教材作成を担当してもらいました。

「特別講演」の回のみ、以前から弊社との共同研究で関係性のあった東京科学大学(旧 東京工業大学)の教授に登壇をお願いしました。

企画・設計の期間について

生成AI徹底理解リスキリングはそれぞれ下記の期間で実施しました。

  • 第一弾「for Everyone」  実施期間 2023年10月~12月
  • 第二弾「for Developers」 実施期間 2024年1月~3月
  • 第三弾「for ML/DS」  実施期間 2024年7月~9月

図:生成AI徹底理解リスキリングの実施期間

 

第二弾「for Developers」修了から第三弾「for ML/DS」の開始まで約3ヶ月の期間が空いています。

第三弾「for ML/DS」はそれ以前に実施した第一弾や第二弾に比べ、テーマの専門性の深さに加え、対象にした業務の幅も段違いに広かったため、一度しゃがんで準備するための期間を長目にとりました。

 

弊社に研修を専門に担当する社員は居ません。エンジニアの学び推進、キャリアアップ支援を行う「リスキリングセンター」は組織図に存在しません。関わるメンバーはそれぞれバラバラの部門に所属する社員で構成されている横軸プロジェクトです。

あした会議で「リスキリングセンター」の提案を決議した弊社代表の藤田は『研修を専門でやる組織はいらない』という考え方を持っています。

 

日々急速に進歩している「生成AI」と、その中でも専門性が高い「LLM(大規模言語モデル)のチューニングと評価」といったテーマと、「プロダクトの課題設定・解決・評価」という幅広い業務をカバーする研修を、外部から調達することは困難であろうと判断して、教材を内製し社員が講師を担当しました。それゆえ担当してくれた社員が普段担当している各自の専門分野の業務のピークを外した時期に教材の作成や研修での登壇をやってもらう必要がありました。また、カリキュラムの全体設計についても「チーム for ML/DS」のメンバーの定期的なミーティングで議論をしながら、新卒入社のエンジニア社員向けに実施している配属後の研修事例なども参考にして、試行錯誤のうえ組み立てました。

受講者の集め方について

深い専門性が必要で、かつ幅広い業務を担当することを期待されている社員は、どんな分野でも人数が限られていているものなので、「for ML/DS」の受講者は公募ではなく、社内の有識者(広告、ゲーム、メディアの各事業のCTOと呼ばれている社員や、データサイエンティストやAIのハイレベルエンジニア)に下記の要件を伝えて候補者の推薦をもらい、決定しました。

 ・実務でLLMに関連した開発やチューニングに取り組んでいる社員

 ・これから取り組むことを決めている社員

 

表:受講者の人数分布

 

受講者同士の関係性構築について

3か月で全10回という回数多めの研修の為、受講者の参加のハードル・移動の負担をなるべく下げることを優先し、全てオンライン開催としました。

 

受講者同士が議論することでの学習効果が今回の研修のキモの一つでした。オンラインで参加のハードルを下げた分、受講者間のコミュニケーション量は対面の場合に比べて少なくなりがちです。そこで、研修中に議論を行うチームを固定し、事前に受講者に伝え、研修開始前に受講者チーム毎にランチに行って顔合わせすることをお願いしました。

 

研修の各回では、受講者のチーム内でリーダー役を持ち回りで担当してもらいました。リーダー役には研修開始前の顔合わせランチの日程調整から、研修中のオンラインメモへの議論のまとめや、ケーススタディのチーム内での発表順の決定なども主導してもらい、受講者全員の研修への参加意識を高めてもらうようにしました。

研修を走らせながらのカリキュラムの「チューニング」について

全10回のカリキュラムを実施しましたが、実は研修開始当初のカリキュラムは全8回で、インプットとケーススタディの2部構成を予定しており、ハンズオンは準備しておらず、研修開始前の受講者への説明の場でも、そのように伝えていました。ハンズオンを行うことで、より学習効果を高められることは解ってはいたのですが、準備にかかる社員の人的コストと準備にかかる期間を考慮して、カリキュラムには含めないことにしていました。

研修を実施する度、受講者から回収していたアンケートの回答に、ハンズオンで実際に手を動かしてLLMのチューニングやアライメントを行うことへの強い要望が、多くの受講者から上がったため、急遽ハンズオン回を準備し、最終的に全10回のカリキュラムとなりました。

受講後のアンケートに忌憚のない意見を多数もらえたおかげで、ハンズオンを急遽追加するようなカリキュラムの大幅な追加から、インプット回の講師の登壇と受講者の議論の時間配分や、オンラインメモの使い勝手などの細かいところまで、受講者のニーズに合わせてチューニングしながら進めることができました。

内製の教材で、社員が企画設計から講師と研修の運営まで全てを担当していたからこそ、柔軟かつ細かく受講者のニーズに対応できたのだと思います。

 

図:社員の研修での役割分担と所属事業

特別講演について

研修期間の終盤に、自然言語処理の第一人者である東京科学大学の岡崎直観 教授に講演して頂きました。この回についてのみ、受講者以外も参加可能とし、社内で広く参加者を公募したところ、合計130名を超える社員に参加してもらえました。

会場のキャパシティの影響を受けず、柔軟に参加人数を変えやすい、オンライン開催ならではのメリットを生かし、研修を開始した7月上旬と、特別講演を実施する直前の2回に分けて参加者を公募し、限られた受講者以外にも、全社員に向けて広く学びの場を提供しました。また、「生成AI徹底理解リスキリング」を継続的に実施していることを、広く社内に告知し、施策自体と、研修の受講者として選ばれた社員の知名度を上げるテコとしても大いに活用しました。

岡崎直観 教授には、現在の世界のLLMのトレンドと、東京科学大学で開発しているLLM「Swallow」について講演して頂きました。毎回アンケートで回収している満足度は、公募で参加した方も含め、圧倒的に高い結果になりました。普段の担当業務としては全く専門外の私でも、LLMについての理解を深めることができました。

第三弾「for ML/DS」の効果について

2024年7月上旬に社内の有識者から推薦してもらった30名の受講者で研修をスタートし、9月下旬までの3か月の間、途中追加した2回のハンズオン含め、計10回のカリキュラムを無事修了し、

誰一人として途中離脱することなく研修を修了することが出来ました。

 

今回の研修の開始前/修了後、受講者30名全員に

  1. 研修参加の目標/達成度
  2. 学びを担当業務に生かす具体的なアクションプラン
  3. アクションプランの実行時期

の3点を言語化・可視化してもらったところ

 

研修の目標の達成度 

中央値:4(5段階自己評価)

担当業務でアクションプランを既に開始済み、

もしくは今期25年度(24年10月~25年9月)に開始すると表明した方

8割

という結果となり、この施策を通じて

  • 受講者がLLMの活用のプロフェッショナルとして成長すること
  • サイバーエージェントグループのプロダクトへ生成AIの活用を加速させること

に貢献することができました。

さらに、この研修を通じて何名かの社員は、

昇格や、ビジネス職からエンジニア職への職種変更を達成しました。

 

表:研修開始前後の受講生のグレード変化

 

今後の「生成AI徹底理解リスキリング」について

2023年10月の第一弾「for Everyone」の開始から、2024年9月の第三弾「for ML/DS」の修了まで、ちょうど1年間で「生成AI徹底理解リスキリング」をグルッと一周終えることができました。

 

一周終えて

サイバーエージェントグループが生成AIで業界を牽引している状態

になったか?

 

いいえ。そんな簡単になれるものではありません。

 

そうです、二周目の開始です♪

 

この記事を書いている10月は弊社の会計年度の開始月(期首)です。

リスキリングセンターでは25年度(24年10月~25年9月)の目標を

「AIを駆使できるエンジニア比率:xx%→○○%」(数字は秘密♡)

と定めました。

 

1000名を超えるサイバーエージェントグループのエンジニア社員が、AIを駆使して、プロダクト開発に活用できるようになってもらう為に、第二弾「for Developers」を横展開していくことを決めました。

この記事を書いている最中も、現在進行形でカリキュラムを絶賛ブラッシュアップ中です。

 

二周目について、まずは最注力事業であるABEMAに所属する全てのエンジニア社員向けに実施することになり、ABEMAに所属する社員と共に、新たに「チーム ABEMA向け for Developers」を編成しました。

 

二周目が一区切りついたら、またこちらで報告できればと思います。

 

今回の『3か月の研修の間に1人も離脱することなくオリジナルの研修カリキュラムを受講した社員がLLM活用のプロフェッショナルとしての成長が出来た話|生成AI徹底理解リスキリングの第三弾』については以上となります。

 

引き続き「チーム ABEMA向け for Developers」で

サイバーエージェントグループが生成AIで業界を牽引している状態

を目指して「生成AI徹底理解リスキリング」を推進して行きます。

 

 最後までご覧頂きありがとうございました m(__)m