この記事について

はじめに
このブログにご来訪くださってありがとうございます。
この記事は CyberAgent Developers Advent Calendar 2024 25日目の記事です。
株式会社AbemaTVのDevelopment Headquartersにおいて映像・音声の品質をケアする専門家として働いている御池です。
事業単位の仕事と並行して、CyberAgentグループに品質面からノウハウを還元すべく、Developer Expertsという枠組みでも活動しています。

20台前半より、映像と音楽・音声に関わる仕事を始めて20年ほど経ちますが、思えばびっくりするぐらい継続的に変化の風にさらされてきたという印象です。
この変化の波を私の実体験として観測できる範囲で振り返りながら、2024年の現状について言及してみるというのが、このブログの趣旨となります。
現状といっても極めて広範ですので、関心のある範囲での時系列の出来事や、動画や音声の記録媒体や高品質な体験の例を取り上げることでメディアに関わる上での時代性への言及を試みつつ、あわせてABEMAとしてたどり着いたクラウド収録とAIが開く動画オペレーションの未来にまで論点が至れば、ひとまずブログとしての目的達成、ということになろうかと思います。

特にクラウド収録 x AIの文脈に関しては、以下に示すリンクを任意に踏んでいただくとさらにお楽しみいただけることでしょう。

  1. CADC2024 MAMを軸とした動画ハンドリングにおけるAI活用前提の整備と次世代ビジョン
  2. ABEMAにおける動画品質向上戦略とメディアアセットマネージメント体系の各所への普及について
  3. ABEMA TechBook2022

このブログではこんな感じのクラウドを軸とした動画入出力フローの世界観を前提に、記録媒体というマニアックな視点から話を進めていきます。
動画提供サービス自体をある種の記録媒体と捉えて論が進んでいくので、程よく柔軟な解釈をお願い申し上げます。

また、Media Asset Managementという言葉が頻出しますが、これは動画を管理するシステムのことですが、記録媒体の流れゆく経路のコアとして、重要なワードとなるので押さえておいてください。

日頃は↑こんなことを考えながらより良い動画ハンドリング環境の構築を目指して働いております。

業界動向からみる2024年という年

以下に示すように、動画業界の出来事をざっくりと時系列で並べるだけでも、変化の潮流が見て取れると思います。

年代 区分 補足
それ以前 地上アナログ・BSアナログ Standard Definition(以下SD)
1996 日本初の衛星デジタル放送開始 SD
2002 WEB動画配信サービスの登場 SD以下
PC向け画素・FPS群
2002 スカイパーフェクTV!
日韓共催「2002FIFAワールドカップTM」全64試合
2003 日本の3大都市圏で地上波デジタル放送開始
2005 YouTube誕生
ブロードバンド普及が加速し様々なデータの流通が加速 P2P技術の普及
保護手段としてDRM技術が進展する
2006 ニコニコ動画サービス開始 動画共有とコメント文化の定着
2007 YouTube 日本上陸 PC向け画素群
2007 Facebook 動画アップロード機能
2007 アクトビラ開始
2008 iPhone 日本発売開始
2009 GYAO!
2010 スカパー!
2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ全64試合
ハイビジョン生中継・3D放送も存在
2010 YouTube 4K対応 4096×2304(現在は3840 x 2160)
2011(2012) 地上デジタル HD(1440x1080i)
2011(2012) BSデジタル FullHD(1920 x 1080i)※チャンネルによる
2014 Amazon Studio
オリジナル作品を全て4Kで制作する方針を発表
2015 Netflix 日本上陸 4K対応
2015 Twitter 動画シェアに対応
2015 スカパー! 4K対応
2016 ABEMA開局 1920 x 1080p以下SDまで
2016 DAZN 日本でのサービス開始 1280×720/640×360(※当初) ・欧州型FPSが主体
2016 Amazon Prime Video 全世界サービス開始 (一部地域を除く)
※前身はもっと前から存在
2017 LGとソニーが3Dテレビ生産を中止
2018 J:COM BS4K再送信サービス
2019 ディズニー 21世紀フォックスのエンタメ資産の大部分を取得
2019 Disney + 4K対応
2019(4K元年) BS 4K
WOWOW 4K
3840 x 2160p
2020 コロナ禍に突入・さまざまな特性を持つPPV事業の増殖
2021 コロナ禍でのエンタメ消費におけるデジタルシフト加速
ショート動画の躍進
2022 アクトビラ終了
2022 ABEMA ワールドカップカタール 全64試合配信 Striker仕様&Defende仕様
2023 U-NEXTとPPJが経営統合
2024 SONYグループ 録画用Blu-rayの生産終了を発表 録画マニアの悲しみ頂点に
2024 Apple Vision Pro 発売 VR/XR空間体験における新たな品質水準
2024 WOWOW 4K 放送終了をアナウンス
2024 Netflix 世界的コンテンツでライブ配信を実施
2024 スポーツ系配信サービス 広告つきリニア配信への参入を示唆

 

 

放送波だけを切り取ってもアナログからデジタルへの移行は画期的なものでしたし、放送波の論理を超えてOTT(Over The Top=インターネットによる動画配信事業者)が登場したことで映像業界はますます面白くなりました。
媒体進化の果てによりオリジンに近いフォーマットのハンドリングが必要とされる時代になるにいたっては、品質面の尺度の更新も迫られるようになりました。

コンテンツ制作の起点も多様化してきましたし、もとよりユーザーのコンテンツ消費動態が劇的に変わってきています。
一連の動きは全て時代性を反映したものであり、その時代その時代で変革の軸となる媒体が変化してきていることが見て取れるでしょう。
そして、媒体の更新とその展開手段の一部である記録媒体もかなりの程度同期しているのです。

日本においては公共放送を除いて広告収益モデルで回ってきたことによって、TVは無料で見れるものという観念が定着していますが、これは基本構造としては受け継がれながらも構造的変化を求められています。

2000年代からはブロードバンドの普及により、PCでの動画消費が増えていきましたが、まだまだ伝送速度の課題もあり、権限管理を経たダウンロードによる視聴が多かったといえるでしょう。
SNSの動画機能の搭載も見逃せません。

なによりスマートフォンの普及によってメディア消費の導線が劇的に変わったことは見逃せないでしょう。
リアルタイムの動画配信はこの10年ほどで一般化しましたが、常に品質とトラフィックの課題と向き合う必要があり簡単なことではありません。

コロナ禍に突入したタイミングでは、さまざまな動画サービスがPPV=Pay Per Viewという形で立ち上がり、中には4KとHi-Res音声を両担保するサービスもありました。
ABEMAでも多数のPPV事案が生まれ、サービス機能も進化していきました。

4Kに関しては明確な制作ポリシーをもつ海外OTTが先行して対応していき、放送波は制度的なもの環境的なものの整備もあり、数年前にようやく本運用が開始されました。
ただし、一部の注力コンテンツを除いて、ほとんどはHDからのアップコンバートですし、納品物はともかく、Liveにおいて著名な年末の音楽祭ですら4KかつHDRを本気で実施したのは初期だけであり、課題を呈しています。
直近では共同衛星運用に関するコスト低減の文脈もあって、4K放送の実施自体が困難になる事業体も出てきています。
そんな中、グローバルOTTでは映画やドラマを主体に4Kコンテンツが急増しており、ここまでやるかという高水準のコンテンツもOTT起点からどんどん増えています。

コンテンツ購入方法という側面でみると、BSやCSは早い段階から月額課金で契約して好みのジャンルを見るという、ある程度オンデマンド性の高い構造となっているものも多かったのですが、多様性の先に網羅性まで求めるような時代に入ったこともあり、OTT的構造の方に時代に即した対応力が見えるような潮流となっています。
サブスクリプション購入や都度課金の特性を認めたうえで、ここ数年はFAST=Free Ad-supported Streaming TVと呼ばれる広告モデルで運営されるサービスが増えてきており、複数の料金プランを用意して、ユーザーの予算感に合わせて得られる内容にも差をつけていく流れが、直近のトレンドとなってきています。

 

 

OTT=Over The Topの登場で変わったもの

例えば皆さん、音楽を聴くという行為や動画を見るという行為、総じてコンテンツを消費するという行為をどのような媒体・環境で実施していますか?
今現在のコンテンツ消費スタイルと、10年前のスタイル、さらに前にとさかのぼっていったときに、実はそれが媒体の更新であることに気づきませんか?
この媒体の更新において、実質は有形無形問わず何を所有するかの更新であり、同時に体験しうる品質も変わっていることに気づいておられる方も多いのではないでしょうか?

ストリーミングサービスはほぼコンテンツ保有の概念を変えたといってもよく時代性としての到達点がABEMAを含むさまざまなOTTサービスによって体現されているとも言える状況になってきたと思います。以下に列記するような特徴を備えて視聴者に貢献しているという意味では、OTTサービスの貢献度は高いといえるでしょう。

No 変化の内容
1 物理媒体を保有するのではなく、視聴権限を保有する方向へシフトした
2 ユーザーに届くものはプロキシデータとして送出され権限管理とセットで提供されるようになった
3 OTT側の納品経路と中間処理の最適化でより高い品質水準にリーチできるようになった
4 物理保有におけるスペースファクタを克服する事が可能になった(もう巨大な本棚はいらない)
5 コンテンツ提供拠点や地域に依存した流通量限界の克服(店舗が近隣にあるか・数は十分か)が果たされた
6 場所や時間に縛られない自由なコンテンツ消費時間設計が行えるようになった
7 質も量も備えた状態でモバイルユースと拠点ユースが共存できるようになった
8 アップデートという形で媒体の変更を伴わずにデータとしての最適な状態が届けられるようになった
9 1コンテンツあたりの消費にかかるコストが圧倒的に安くなった
10 データベースの整備により見たいものに出会うための探索努力における障壁が下がった
11 グローバルOTTにより、字幕、音声などのローカライズリテラシーが消費市場に合わせつつ高品質化した
12 コンテンツ制作の流れが資金還流も含め新しい起点から再構成されることで内容自体の限界・閾値すらも変容した

等など、ざっくり抽出するだけでも変革の実態が見えると思います。

データ保有の形態に関していえば、OTTではないですが、ゲームコンテンツなどはさらにわかりやすいですね。
今となっては大多数のユーザーが、インターネットを通じてバグフィックス内容の更新を受けられる、メディアレス保有の恩恵に浴しています。
強制アップデートなどの必要性もあるものの、作動媒体に応じた最適なデータが手元に届くため、環境準備負荷も大きく軽減されているといえるでしょう。

体験価値について再考する

このように、購入する対象や意味合いが変わっていく中で、依然としてUHD-BDなど時代の先端をいくパッケージに関しては大きな品質面のアドバンテージがあります。
さりとて購入物と配信物での性能差が詰まってきていることも事実です。
海外のフォーラムなどでは、まさにユーザーレベルにはproxyだけが届く世界になるとも予見されていますが、ここまで製品と配信の差が詰まってくると、高品質なproxyとしてのストリーミングデータで十分な品質が贖えてしまうというのは妥当な流れです。

デジタル円盤系・回転系の媒体が一部を除いてその役割を終えつつある一方で、アナログレコードのように、環境準備コストが高いがモノとしての価値と品質面でのアドバンテージが再認識され復活のキザシのある媒体も存在します。

いずれにせよ、人の生活を文化的に潤す上での、さまざまな角度からのパフォーマンス判定が、何にお金を投じるかの意思決定において重要なファクターになっていることは間違い無いでしょう。

何を買うかについての価値判断が多様化しており、権利や機会を買うという方向性にシフトしつつある潮流の中で、ここではあえて、モノコトについて言及していこうと思います。

 

リアル体験への回帰 2023-2024

アナログレコードの話が出たところで、こと音楽コンサートに関する直近の気づきを述べましょう。

コロナ禍がある程度落ち着いて以降、実体験のアップデートを兼ねてさまざまなコンサートに参戦していますが、あらためてその体験価値の高さに圧倒されています。

生のパフォーマンスには敵わない

当たり前と言えば当たり前なのですが、仕事としての論理を超えてイチ消費者に立ち返った時に、あらためてこの気づきを得られたことは大きかったです。

デジタル媒体を通じた高度に最適化された環境での高品質なエンターテイメント消費
これを追求してきた果てに、やっぱコンサート行く方が圧倒的体験を得られるわ、となった、、、この収束、、、

媒体を通じてコンテンツを送り出す側としては、やはり永遠にこの差を意識し続けたうえで、より良い水準を目指すしかないのでしょう。実体験で最高の水準を知ったうえで、疑似体験としてのあるべき姿を模索するのです。

それにしても、体験のアップデート(というより原点回帰)を促してくれたアーティスト、バンド、色々ありますが、直近で見たものが全てレジェンドクラスだったことも大いに影響がありそうなので、列記しておきます。
音楽表現、空間表現、物販戦略、総じて非日常の体験の設計が圧倒的だなと改めて認識させられた素晴らしき公演たちです。

公演 会場
EBISU JAM 2023 渡辺香津美 トリオ with スペシャル・ゲスト リー・リトナー 恵比寿ザ・ガーデンホール
TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days~DEVOTION~ 府中の森芸術劇場どりーむホール
市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
松任谷由実 50th Anniversary コンサートツアー「The Journey」 マリンメッセ福岡
SEKAI NO OWARI ARENA TOUR 2024 「深海」 Kアリーナ横浜
Yngwie Malmsteen 40th Anniversary Japan Tour 2024 Zepp DiverCity Tokyo
Sammy Hager The Best of All Worlds 2024 Tour 有明アリーナ

他にも直接コンタクトのある独立系アーティストなどは、撮る側・録る側として出向いたりもしますが、観客の立場でピュアに楽しむというのはまた格別ですね。

そして改めて気づいたのは、チケット代よりもはるかに多くのお金を、グッズ未所有媒体の購入や当該公演の媒体化の事前予約・先行購入、コンサートの前後での待ち時間における飲食、そもそもの現地への移動費・宿泊費、これらに投じたことでした。

コトにおける感動がモノを買う衝動を呼び起こす
基本中の基本なのでしょうが、これがコロナ禍で数年にわたって停滞していたのですから、主催者側、消費者側双方にとって、やはり由々しき事態ではあったのです。

有明アリーナ

マリンメッセ福岡

Kアリーナ横浜

いやどの会場も活気がすごいのなんのって!

物理媒体マニアが経験した質・量の両面におけるストリーミングサービスへの敗北

ストリーミングサービスの長所を散々述べ、次に実体験への回帰を述べました。
リアルな体験は別格としても、ではデジタル媒体を経由してコンテンツを消費するうえでどのソースからコンテンツを立ち上げるか、という論点についてもう少し掘ってみましょう。
元より私は長年にわたって物理メディアの確保視聴環境の構築、新旧メディアのコンバージョンに私財を投下し続けてきた人間です。
そんな人間が直近で体験した、ストリーミングサービスへの完全なる敗北についてご紹介しましょう。

実は直近で、音楽のモバイルユースにおける実体データの持ち出しをあきらめ、完全に有料のストリーミングサービスを利用することに切り替えたのです。

それがどうしたというなかれ、これは敗北なのです。
敗北には様々な要因がありますが、前提として事の初めから地獄の一丁目に立っていたことは否定できません。

 

No 敗北の要因
1 同一コンテンツを多環境・多媒体で観ることを是とする姿勢
2 アナログ至上主義
3 媒体は時代性を反映するため、初期版、リマスター版、媒体更新版はできるだけ網羅する必要がある
4 デジタルデータについては圧縮をかけず原本クオリティのまま保全しなければならない
5 AD(アナログtoデジタル)-DA(デジタルtoアナログ)変換の段数は少なければ少ないほど良い
6 記録媒体やインターフェースに精通かつ拘泥し後に退けなくなっている
7 移動時のコンテンツ消費も高品質でなくてはならない

 

このようなスタンスでコンテンツに臨む者のやることは一つ、無劣化のマイライブラリの構築とそれらをいかなる環境へも連れ歩く努力なんなら移動体自体を環境とみなした最適化の努力を行います(3つですね)
たとえば音楽CDからデータを抽出して自分のライブラリを構築する際には、決して圧縮フォーマットを使いません。
即ちLPCMのWAVもしくはAIFFが保存フォーマットであり、容量負荷の大きさは推して知るべきものがあります。
ハイレゾ音源に関しては再生デバイスの限界に迫るスペックのLPCMデータを購入し、アナログレコードに至っては、上質のピックアップケーブル録音機材を用いて限界を攻めたデジタル化を施し再生端末に入れていきます。これをうん10年にもわたってパーソナルユースの範疇で続けてきたわけです。
LPCMに飽き足らない場合はDSD=Direct Stream Digitalを録音に用いる場合もあります。
さて、このような経緯から非圧縮の音声データが無数にたまっていたのですが、ある時、運用の限界に達しました。

 

No 実体保存スタイルの難点色々
1 ストレージ容量の限界への到達を繰り返す
2 デバイス更新のたびに条件を満たすスペックの端末が手に入るとは限らない(生産中止など)
3 意図せざるデータの破損・逸失
4 管理端末PCの老朽化に伴う更新コストが年々高くなっていく
5 物理メディアの置き場所の問題=スペースファクタ
6 情報管理で使っているサービスのポリシー変更によるデータ自体のモバイル移植の不可能化の影響
7 モチベーションの維持にかかるコスト肥大化の問題

 

などの要因が同時多発的に重なった(特に一番最後が効いた)結果、自分自身で大量の素材を管理・運用することはコスパが悪いと遂に理解したのです。
不測の事態にそなえ幾重にも保険を張り巡らせたとしても、対応できない事案は発生するものです。
あくまでモバイルユースに限った話ではありますが、この先どうなるかわからないという不安に襲われたのです。

そもそも根本的に聴きたいものが・高音質で・ストリーミングで視聴できる状態にあるモノも多いという時代になってきました。
しかもストリーミングの場合、AD/DAの変換は、DA変換のみの一回で済むことになり、高品質体験の根本中の根本を押さえてしまうことにもなるのです。

アナログレコードは明確に別物といえる体験を提供してくれるので、まだまだ手元にあることの意味が大きいとしても、CDなどのデジタル媒体の保有意義もはや抵抗する理由がなくなりました。あるとすれば、送出サービスのソースレベルのラウドネス規定が素材の多様性を考慮した結果として低い値に設定されることが多くそこへの不満程度でしょうか。
その不満とても数百枚ほどアナログレコードをデジタイズして計測すれば妥当な結論を導ける中での、造反有理とは何なのでしょう。
そう、抵抗する理由はもうほとんど見いだせなくなっているんです。

悲しいかな、利便性と網羅性では勝てない、何だったらクオリティでも勝てないという結論に至ったのです。
何をもって良質とするかに関しては様々なスタンスがあり、また業界的に最新技術ありきの迷走がないとは言えませんので細かい言及を控えますが、ソースレベルの最適化に加え、再生端末の進化・対応CODECの多様化も相まって、むしろストリーミングの方が最終到達クオリティが高くなるケースも出ていると見えたことも、敗北を認める要因にはなったと思います。

モウ、ブツリメディアノデバンハナイノカナ、、、???(※アナログレコードを除く)

 

音楽のモバイルユースに関する話をしましたが、ことは拠点ユースにおいても同じで、レガシーな記録媒体たちの山を眺めながら、こう思うのです。
古い記録媒体に必死に向き合うより、最新のデジタルリマスター4Kをストリーミングサービスで見た方がいいのではないかな、、、と。

もっとも、私的な記録物については、断固自分で頑張る必要ありですが。

 

なんでしょう、折々に必死で揃えた機材群ですら数年でレガシーとなるのですから、恐ろしい業界といえばそうなんだと思います。
いや待て、もとよりレガシーな物がさらに時を経た時になんと呼べばいいのだろう?

 

視聴媒体の変遷

時代考証のネタとして、これまでに実運用してきた媒体たちを、個人的な所感付きで掲載しておきます。

映像

年代 普及カテゴリ 媒体 特徴
1980年代~ 民生 8ミリ
民生 VHS 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア  見たさにどれだけレンタル店に通ったか(幼少期)
1990年代~ 民生 Laser Disk レーザーディスク、通用LD
アナログレコードサイズの光学メディア
アナログ信号のためかなりハイクオリティで記録されている
フレームが壱枚ずつ記録されているためやけにシークレスポンスが良い
モノによりデジタル音声出力に対応(デジタルだから良いという意味ではない)
カラオケがレーザーディスクで運用されていた古き良き時代もある
仕様上音声も高クオリティで格納できるため、優れた音楽ソフトが多数出版された
湿気に弱い
お年玉10年分を前借りする勢いで”ボックス”を買った
2000年代~ 民生 DVD CDサイズの光学メディア
映像ソフトとして広く普及・やり方次第でハイレゾ化が可能
Blu-ray製品に同梱されているケースも多い
民生 DVD-R
DVD-RW
データディスクとしてもメディアディスクとしても運用可能
PCを使ったオーサリングが民主化
実はやり方次第でハイレゾのDVD-Audioとして利用可能
ダウンロード系サービス さまざまな動画フォーマットの栄枯盛衰をへて現在につながる流れが生じた
民生 Blu-ray HDコンテンツの格納メディアとして普及
仕様上も柔軟でMpeg2としてもAVCHDとしてもオーサリングできる
DVDですでに出ているコンテンツのHD化にあたって戦略を過つと炎上する事案も見られた
特に元がフィルム媒体のものは光学リマスターへの潜在的要望が強く各社の技術(と意欲)が問われた
コピーガードなどの技術も進化
民生 BD-R
BD-RW
HD化と歩調を合わせるように登場したCD・DVDサイズの記録媒体
カメラからのバックアップ、放送波の録画、自前オーサリング、データ保存などで活躍するも、直近で生産中止が発表された
現在では放送波の録画という行為もHDD録画に置き換わっており、ディスクの出番は激減しているとのこと
著作権保護上の観点からダビング10やムーブといった概念が組み込まれた
BD-Rに放送波の4K焼けるのに、生産しなくなるとは?
録画マニアの悩みは尽きない
2010年代後半~ 民生 UHD-BD HEVC記録による円盤型メディアの現在の到達点
4K/HDRを記録できる優れもの
大判フィルムの4KデジタルリマスターをHDRで視聴すると、過去のメディアの限界を知ることができる
以前のBDプレイヤーでは再生できないのでUHD-BDプレイヤーを買わねばならない
BD-DVDセットの時代同様、UHD-BD/BD/(DVD)のパックで売られていることが多い
ストリーミング系サービス

音楽

年代 普及カテゴリ 媒体 特徴
1940年代~ 民生 アナログレコード 円盤型記録メディアの始祖(ここではビニールの量産化以降をいう)
溝に掘られた凹凸を針で拾って振動を電気信号に変えて増幅する
高音質とは何か語るものはアナログレコードを避けて通ることはできない
回転数で音質が変わる
一時絶滅の危機に瀕したが、2020年代にはむしろ人気が再燃している
一部オーディオマニアにとっては、アナログレコードの品質限界を引っ張り出すことに財をはたくことになる危険な媒体
1960年代~ カセットテープ(音楽) 音楽を持ち歩くをカセットの形で実現
磁性体の違いにより音質に差が出る TypeⅠノーマル/TypeⅡハイポジ/TypeⅢメタル
再生ヘッドの種類により対応可否が出てしまう
90年代の車に持ち込む音といえばテープ
CD登場後もマイベストはテープにコレクションして持ち歩くもの
↑このスタイルはMDにも引き継がれる
WALKMANという言葉が”モバイル音楽視聴”の代名詞であった時代もある(年代による)
1980年代末から 民生 CD コンパクトディスク
16bit44.1kHz LinearPCMで記録されるデジタル媒体
利便性の高さからくる爆発的普及でアナログレコードをほぼ駆逐してしまう
初期の作品はアナログ→デジタルノウハウが追い付かず音が悪いものもある
2000年代突入以降ストリーミングサービスが主流化するにあたり事実上、音楽用物理メディアとしての幕引きを演じつつある
後年、MQA技術などにより特殊な形で本来仕様を超えるサンプリング周波数を畳込めるようになるなどハイレゾマニアの心をくすぐる系統も登場しているが絶対数が少ない
1990年代~ 民生
業務
MD ミニディスク
カセットテープによる視聴習慣の代替としてちっさいディスクで登場
2000年代初頭の車など、MDデッキx6連奏CDチェンジャーという構成もあった
音質的には後年のmp3などと大差ない(つまり悪い)が利便性が勝ったケース
操作性にすぐれ音響系の会社のオペレーション用メディアの軸を張っていた時代もある
民生 SA-CD Super Audio CD (Direct Stream Digital方式)
ハイレゾの一つの到達点として登場
専用のプレイヤーが必要だが、なんと通常CD層とのハイブリッド構成でオーサリングされるケースが多いため普通のCDプレイヤーでも聴けるものも多い
再生可能なデバイスが限られる。初期ロットのPS3の一部のみ再生に対応していたという噂もある。
すさまじく高音質だが、ハンドリングに課題がある。
5.1chの作品も多数あるが、ステレオでの完成形にちょい足ししたような程度のものも多数あり、真に優れた作品に出合うには相当な努力がいる。
2000年代~ 民生 メディアレス再生 データ格納する再生端末を保有するがコンテンツ自体はデータをダイレクトに保有するスタイル
mp3などの手軽な圧縮コーデックの普及により、音楽の保有形態が変わった
低品質で権利面でも危ういものが多数流通したが最近ではオンラインでのライセンス販売が正しく機能する世の中になりつつある
海外の著名コンサート録音などは、ハイレゾのWAVやDSDをそのまま購入できる
お好きな端末にうつしてご賞味あれ
2010年代~ 民生 ストリーミング データ自体の保有を伴う媒体レス購入の次の段階は、結局はストリーミングと思われる
少し前まではストリーミングへの期待値は低かったが、直近では序盤に述べたとおりの敗北を喫する結果となっている

記録媒体の変遷

動画記録媒体

年代 普及カテゴリ 媒体 特徴
1980年代~ 民生 8ミリ 小型テープへの記録の先駆け・VHSに普及競争で負ける
実はPCM音声が記録でき音楽記録用途もあった
後のDVのご先祖のような位置づけ
民生 VHS 過程ににカムコーダーが普及し運動会など撮影の要に
品質は高くないが取り回しがよい
S-VHSのように解像度を高めたモノも存在
2000年代初頭でもライブハウスなどではいまだにVHS記録だった
2010年代でも音効さんに渡すときはタイムコード焼き付けたVHSといった事例も
放送 D2 地デジ化以前の主力記録媒体
でかい、重い
そのままデジタイズすると問題が起こるためひと工夫必要
再生機器のサポート終了を前にとにかくHDCAMにダビングする、デジタイズするといった保全処置を受けたもの、その機会すら与えられずに破棄されたものなど、さまざま。
そもそもD2自体が寄りレガシーな記録媒体の受け皿になっていたこともあり、実は情報資産としての価値が高いものが多く含まれる
1990年代~ 民生
業務
Betacam
Betacam SP
通称ベーカム
民生であまり普及せずも業務・放送用途で大活躍
なんだかんだで2010年代半ばまで現役稼働がみられた
収録・納品などで多用・やりくりの要
業務.
放送
Digital Betacam 通称デジべ
SD時代の品質の雄・予算のある案件で利用
10bit 4:2:2記録の出来る優れもの
民生
業務
DVCAM
DV/MiniDV
低コストでのデジタル高画質記録の先駆け
民生・業務共にとりまわしがよい
IEEE1394接続によるデジタルキャプチャーが可能
いまだ黎明期にあったデジタルノンリニア編集への嚆矢を開いたともいえる
時代的にVHSとの並行運用期間が長くVHS-DVダブルデッキなども存在した
業務
放送
DVC PRO DV規格のPanasonicとしての展開系
DVC Pro50という上位版も存在する
おもに業務・放送用途
業務
放送
HDCAM HD記録の磁気テープ
2010年代半ばまで局で現役運用されていた
クオリティは高いが、録再デッキのお値段もびっくりするほど高い
メカニカルマニアの心をくすぐる何かが宿っている
ベーカムなどの過去作をアップコンなどかませながらHDCAMにダビングするという事案も多数
HDCAMのクオリティをそのままデジタイズするのにちょうどよいのがProRes422
局方面が2010年代に遅まきながらノンリニア編集への移行を本格化したことで、収録HDCAM、編集前に実時間かけてProRes422化という地獄の工程を生んだ
民生
業務
Compact Flash 高速連射写真撮影や一部のMpeg系高品質動画の記録媒体として活躍
後年、CF+・CFast・CFexpressとして進化していく
動画収録への親和性も高まっており一定のニーズがある
2000年代~ 民生
業務
HDV DVの物理層を共有化したまま記録CODECをMPRG2に変えて記録尺を担保しつつHD対応
IEEE1394でネイティブキャプチャーできるが2000年代初頭のマシンではLong-GOPデータのデコードに難があり、結局はHD-SDI/HDMI出力をProRess422で録るという地獄の工程を生んだ
とはいえやり方次第で結構なクオリティを達成できる
イメージャースルーの信号を外付けのデジタル収録ユニットに記録するものもあらわれるなど、テープとして誕生しつつもデジタルネイティブ記録への道を開いた重要な存在
HDV時には音声もMpeg-Audioとなって質が下がるので、音の別どりは必須だった
業務
放送
DVCPRO HD DVC PROのHD版
画素・ピクセル比などがちと極端で利用において注意を要する
とはいえDVの発展形としては非常に高水準に達した存在
民生
業務
SDカード この辺からmpeg2の時代が終わりに向かい、AVCHD(H.264 mpeg-4 AVC方式)などの記録媒体として普及
テープレス化の潜在的適要望にこたえる形で利用が増える
安価な記録媒体にそれなりの品質で設定・容量次第で長時間記録できることから普及
記録媒体・内容ともに構造的な事情から編集ソフトに直読みするのに適さず、結局変換やダビングが必要とされた
HDMIやHD-SDI出力を外部記録デバイスにProRes422などで同録するのが吉
Final Cut Pro7の切り出しと転送が圧倒的に役立った時代の象徴
音声をLPCMにしとけばいいのにそうでないものは変換がこけやすい
直近では転送速度の高速化により、もはや4KのProRes422だろうがRAWデータだろうが簡単に収録で来てしまう時代となった
民生
業務
放送
SxS 放送用途の記録仕様を許容できるコンパクトなメモリ記録媒体・4Kまで想定
実は立ち上げ以来のABEMAのスタジオの中軸記録メディア
転送速度も速くProfessinal Diskよりも取り回しやすい
問題は記録ユニットがディスコンになってしまうこと
業務
放送
Professional Disk HDCAMの後継記録媒体として主にTV局で採用された媒体・4Kまで想定
記録仕様は可変だし、音声トラックは多いし、サイズは小さいし、良いことづくめのように見えたが、回転する光学メディアの特性から体感上の反応性がテープ媒体に劣り、実時間かけてデジタイズするか、下手をするとHDCAMにダビングして編集するという、リニア回帰の様相を呈するケースもあった
中身をぶち抜くこと自体が低速で時間ロスにつながるし、軽快にデコードするにはマシンパワーを要した(LongGopの場合)
CODECの素性が良いものの、結局はメディアレスへの希求を高めるにのに一役買ったとも言える
民生
業務
放送
HDD 各種の記録媒体がそれぞれの特徴を持ちつつも、収録仕様や尺に限界値を抱える中で、容量次第でこれらの懸念を克服できる策としてHDD記録が登場する
HDD破損時のデータ逸失リスクが高いためRaid化されたHDDの束で冗長性を確保したりするなどの工夫が必要
フリーランスの世界で早くから対応が進んでいたが、放送局までも脱メディア記録の文脈からこの路線に寄ってきたが、往々にしてサーバー型の大規模収録システムとなるきらいがあり、特定の編集ソフトの事情に寄り添ったシステムが構築されてしまうと、汎用性が格段に下がるといった弊害もある
民生
業務
放送?
SSD 高容量化と高速化を高い次元で達し始めたSSDは今となっては高品質収録の要となっている
懸念となっていた価格の高さも劇的に解消してきており、取り回しのし易さから今後さらなる普及が見込まれる
記録媒体としての信頼性を放送局がどのように評価するかは未知数だが制作レベルでこの優位性を無視する理由は少ないだろう
業務
放送
収録サーバー 大規模収録拠点ではそもそも個別のストレージに依存しない方向性もある
Raid化などで冗長化された収録サーバーにすべての系統が収録され、そのまま編集できる仕組みにはいる流れ
特定の編集ソフトに最適化されている場合もある
基本的に数千万から億単位のシステムになることが多く、特定の業務フローに特化したものになりがちで、汎用性は低いケースがある
ここまでくるとMedia Asset Management の範疇に入ってくるが、まだまだ実施拠点の都合優先で導入されることが多く、多拠点をまたぐトータルスキームのコアとして万全足らしめんとすれば大きな開発を伴う
最近ではクラウドストレージとの同期能力を売りにしているものがふえている
業務
放送
配信
クラウド収録 インターネットの向こう側にあるエンタープライズ級のストレージへの記録
放送レベルのフォーマットでの収録を顧慮する必要がないケースではクラウド伝送をクラウドで収録して利用するケースも想定される
配信やSNS出稿などを主とする業務フローに向いている
AI利活用においてもメリットがある
抜本的な政策フロー改善を望む地方局などが関心を寄せ始めている
詳しくは冒頭のリンクをどうぞ

 

 

音声記録媒体

年代 普及カテゴリ 媒体 特徴
業務 アナログテープ アナログこそは究極の音
マルチトラックレコーディング可能
ダイナミックレンジが広い
回転が規定速度に達するまで少しかかる
マスターテープからのハイレゾデジタイズには価値がある
1980年代〜 民生
業務
DAT 1980年代に登場し2000年代初頭まで活躍したデジタルテープ
16bit/48kHz(32kHz)のPCMで記録できる
高校の文化祭でDATを持ち込んだ猛者がいた
190年代〜 民生
業務
MD プラスチックケースの中に光学ディスクが入っている媒体
音質は圧縮につき期待できないが、程よい耐久性と頭出しなどの利便性から、音響オペレーションなどで利用された
CDからのお気に入りをMDにコレクションして持ち歩くスタイル
立ち位置としてはカセットテープの後継的扱いか
CDとMD同時発売というケースも観測された(TM Network ClassixⅠ/Ⅱなど)
練習スタジオなどにはMDマルチトラックレコーダーなども据え置かれていた
2000年代〜 民生
業務
ZIPディスク フロッピーディスクの後継的立ち位置の磁気メディア
プラスチック筐体の中に回転する磁性体が入っている
2000年代初頭、音楽用マルチトラックレコーダーで一定の用途が見られた
100M/250Mという容量は当時としてはありがたかった
君はヘッド不調による死のクリック音を聞いたことがあるか?
民生
業務
HDD 媒体がHDDとなると、そこに記録できるフォーマットにもさらなる多様性が生まれる
ハイサンプリングレートのLPCMよし、DSDよし
PCの普及によって各メーカーのおす様々なコーデックが登場したが、仕事で使うのはほぼLPCMといってよい
多トラック・ハイサンプリングレートのオーディオをスムーズに取り扱うために、高速で冗長性の高いストレージも多数登場した
駆動音が非常に大きいため、別部屋なり防音ブースなりに温度管理しつつ格納する必要があるものも多い
民生
業務
SDカード ごく初期のものはせいぜいMIDIデータが入れば御の字というレベルだったが、容量と速度の向上によって音楽用途のような多トラックのRead/Writeにも対応できるようになった
現在ではMTR=Multi Track Recorderを生産しているメーカーが激減したが一定のニーズがある
モバイル型ハイレゾレコーディングユニットなどでも活用されている
SDカードに4Kが取れる時代だし、音もゆとりをもって扱えるようになったということか
2010年代〜 民生
業務
SSD 転送速度が劇的に上がったことで、32bit/192kHzといったHiビットHiサンプリングレートのマルチトラックレコーディングも余裕でできるようになった
一昔前では考えられなかった価格帯での流通が現実化しており用途が広がっている
駆動系がないので静かでよろしい
4Kなどの映像を取り回すときは事前に転送速度の計算を忘れずに。

あくまで自分自身が実運用したことのある範囲なので、さらに昔のことはわかりませんが、ご容赦ください。

 

 

Media Asset Managementの原点

さて、強引に仕事の話に引き戻していきます。
なぜ記録媒体からMedia Asset Managementの話につながっていくのか?

それはひとえに、

ABEMAに入ってくる動画データで時代性の影響を受けていないものはない

といえるからです。
レガシーな記録媒体に関する知見、それらを時代適合したデジタルフォーマットに落とし込んでいくための技術支配的記録媒体に依存して設計された折々の運用スキームなどへの理解があるからこそ、Media Asset Management システム品質論を組み合わせて最適化アクションへとつなげていくことができるのです。

品質管理のコアとして位置付けているMedia Asset Managementの考え方についてはさまざまな登壇事例で述べてきましたが、既存スキームからの脱却を図るうえでの発想の源泉がレガシーメディアの取り扱いからきていることは、これまであまり語ってきませんでした。

レガシーメディアから学んだことを抽出すると下記のようになるでしょう。

No 学んだこと
1 品質とは密度と回転数で決まる
2 最後に勝つのは無回転
3 品質の継承はより上位のフォーマットでのみ可能
4 デジタルの究極はアナログ
5 破損する前に移植せよ
6 スピードを担保することが精度を担保することにつながる
7 同期が命(内容・時間・仕様・水準・各種プロセス・管理情報など)
8 特化型より汎用型・デファクトスタンダードの重要性
9 永続する記録媒体はない
10 記録媒体をよみとる道具は失われていく
11 冗長性は必須
12 プレビューが容易であることが望ましい
13 耐衝撃性も重要・もしくはそもそも衝撃が入らない世界観が重要
14 反応速度が高いことが重要
15 検索性をいかに付与するかが大事
16 後日の再利用を容易ならしめるフォーマットでのアーカイブが重要
17 関連アセットが同一系統に保存されていることが望ましい
18 誰がどのような操作をしたかの来歴管理が施されている事が望ましい
19 多部署多拠点からの利用が可能であることが望ましい
20 素材は断固保護されねばならない

 

ざっと列記しただけでもこれだけの要素が出てきます。
これらの要素を満たす世界線を、記録媒体に極力依存しない形で成し遂げようとしたとき、ITの軸から下図のような発想となって立ち上がってくる訳です。

例えば、2022年で実現したようなクラウドを軸に据えた編集フローの構築においても、収録データの吸い出しから編集データに至る具体イメージから全体像を構想しています。
記録媒体のデジタルシフトの度合いにもよりますが、ポストプロセスを経てメイン変換フローに入ってくる流れもまた、記録媒体をなん度も跨ぐことがないようなフローイメージで設計されています。
何より、物理メディア運用ではできない多部署多拠点からの動画オペレーションを実現したことが注目に値するでしょう。

 

ところが、一見進化系に見えるクラウド編集フローも実は、現場で用いられる伝統的なワークフロー記録媒体の論理を超えることができませんでした。
1次収録物にはやはり放送レベルの品質が求められるため、迂闊なことはできないのです。
また、連携拠点についてTV局を想定する都合からも、相互に共用可能なフォーマットに落とし込む必要があったのです。
挑戦的なようで安定志向の発想となっていたわけですね。

これは実際にやってみてハッと気づいた事でした。

 

 

ここで、発想の転換が求められてくるのです。
Baseband信号を軸とした世界線から、一歩前に進んでいく必要があるのです。

 

 

このような発想からさらに一歩進んだ映像制作スキームを構想していくと、また違う構想となっていくのです。

 

ここまでくると、ようやく、収録のあり方が更新されて、新しい地平線が見えてきている感じになります。
詳しくは冒頭のリンクなどからご確認ください。

 

 

まとめ

ここまで、記録媒体を軸に趣味的な要素を全面に出して語りつつ、後日のMedia Asset Managementにおける発想が展がっていったことを記してきました。
改めて、記録媒体の役割を思うと、それは時代性の限界を孕みつつも、その時できる限り最高のクオリティで制作物を記録していくこと、これに尽きると思います。

日々の制作や納品で受け取る記録媒体たち、今となっては多くがデジタル化されたデータではあっても、そこには取り扱いに関する責任があるわけです。
それらを預かるシステムとしてのMedia Asset Managementシステムに、品質論が同期していることは、当然なのですね。

時代性を超えた品質の継承を目指すシステムや体系を作ること
情報の網羅性と品質を担保し、後日の利用において瑕疵のない状態を作ること

これらがMedia Asset Managementの使命であるとすれば、その構想の原点となるきっかけを示してくれたのは、さまざまな困難を私に突きつけてくれた数々の

レガシーな記録媒体たち

ではなかったか?と思うのです。
彼奴等との格闘を経て初めて、Media Asset Management システムやそこにジョイントするAI利用環境なども発想できたのです。

品質領域で共に働きたい人とは

最後の最後ですが、この領域で共に働きたい人に求める要件を列記してみます。
情熱的に取り組める要素を見出した方は、ぜひABEMAの門を叩いてください。

  • 実体験としてのメディア消費のあり方を主体的に追求している
  • 動画だけでなく音楽などのデジタルメディアとしての理想的な体験品質を論理的に構築できる
  • 美的観点に優れ評価スコアに惑わされない適正な判断を下すことができる
  • 多様な視聴環境を自らの投資によって体験し技術の再現の場としての課題を浮き彫りにできる
  • 新しい技術の取得に積極的である
  • 物量を恐れずアイディアで克服することができる
  • TV業界の動画制作の実情をデファクトレベルで理解している
  • 制作やポストプロダクションの実情に精通している
  • 各種のDVWやDAWに精通している

など、なかなかにリッチな希望要件ですが、もちろん三つぐらい満たせば大丈夫です。

時代の経緯として、ここ20年の技術進化、業界の変容により、プロ・アマの垣根もあまり意味をなさなくなり、幅広い人材の海から理想を掲げられる時代にになってきたと思います。

ここから先、ABEMA含めあらゆるメディア媒体が変化に晒されていくでしょう。
しかしながら根底に動画に関わるヒト、モノ、コトへの愛情があれば、まあなんとか乗り切れるであろうと考えています。

2024.12.25

 

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動画・音声のスペシャリスト。フリーランスとしての活動を経て、個人製作に特化した環境を求め田舎に拠点を定めた矢先の2016年夏、ABEMAに緊急招聘されて8年以上経過。開発本部にてビジョナリーエンジニアとして品質戦略を牽引。新品質構成・フルクラウド動画運用構想を打ち出し、Media Asset Managementスキームを整備。今後はプロダクションレイヤーや関連サービスへの波及を目指している。車・音・猫を軸に生きる。自宅に4K/HDR/11.1ch環境を構え、音楽制作と映像制作環境をインテグレート。現在クリエイターとしての魂を取り戻すべく奮闘中。