こんにちは、インターネットゼミの疋田、近藤、松崎、長井、南波、松岡です。
インターネットゼミは「インターネット」について日々研究を行っているゼミです。
「インターネット」には多くの意味合いが思い浮かぶと思いますが、ゼミとしては特定の定義に限定せず広く各個人のインターネットについて研究を進めています。
インターネットゼミについてはこちらの記事をご覧ください。
今回はインターネットゼミが、ABEMAと協力して行っている災害発生時における配信環境の検証についてお話できればと思います。
背景
ABEMAでは、災害発生時でも安定してインターネットを介して配信ができるように、その対策を日々検討しています。災害発生時は通常のインターネット回線(有線・モバイル通信回線を含む)が混雑・破損などの要因により使えなくなることが想定されます。
こういった場合においても使用可能なインターネット回線として衛星通信が挙げられます。衛星通信は、地上と人工衛星間でデータをやり取りする通信方法で、地上の通信設備を迂回できるため災害の影響を受けにくいといったメリットがあります。
衛星通信の種類
衛星通信には大きく分けて、低軌道衛星通信、中軌道衛星通信、静止軌道衛星通信の3種類が存在します。これらはそれぞれ衛星の高度が異なります。低軌道衛星は高度約2,000 km、中軌道衛星は高度約2,000km〜36,000kmで運用される衛星です。これらの衛星は静止軌道衛星通信と比べて低遅延・高速な通信が可能というメリットがありますが、広い範囲で通信を可能にするためにはたくさんの衛星が必要になり、衛星を切り替えて通信しなければならないというデメリットもあります。静止軌道衛星は高度約36,000kmで運用される衛星です。メリットとしては1台で広範囲で通信を可能にできる点が挙げられます。逆に低・中軌道衛星通信と比べると通信が高遅延・低速というデメリットがあります。
(出典) 様々な人工衛星
検証
今回の検証では、衛星通信を災害時に使用する上でこれらの特徴を実際の衛星通信サービスを利用して計測し、上記のような特徴があるかを調査しました。そのため、低軌道衛星通信には「Starlink」を、静止軌道衛星通信には「Sat-Q」を用いて、実際の配信が行われているスタジオから計測を行いました。
Starlinkの設営
Sat-Qの設営
検証環境の構築
検証結果
検証では、 インターネットを経由した通信速度の計測とICMPを用いた通信レイテンシの計測を行いました。下記の画像はSpeedtestを用いた検証結果になります。計測結果は、午前10時に3回、午後18時に3回測定したものを平均としてまとめています。
Speedtest.net を用いた計測の結果
結果を見ると、Starlinkは通常のインターネット回線に近い通信速度や通信帯域でしたが、Sat-Qには前述した静止衛星通信の特徴が見られることがわかります。
icmpを用いた通信レイテンシの計測では、下記のコマンドを用いて計測を行いました。ICMPのパケットは実際の通信に近似させるために1400byteのデータを持たせ、約6000回の通信を行いました。
ping -S 192.168.1.196 -i 0.5 -s 1400 <宛先IP address>
下の結果はそれぞれStarlinkとSat-Qの計測結果になります。平均レイテンシは静止衛星通信のためSat-Qの方が高い値となっていますが、Sat-Qはレイテンシのばらつきが少なく幅通信の安定性という面では優れていました。そのため、より高速な通信を求めるのならば低軌道衛星通信の方が優れ、より安定した通信を求めるならば静止軌道衛星通信の方が優れているということが実験結果から読み取れました。
まとめ
今回の検証では、配信を行うインターネット回線のバックアップとして衛星通信の利用可能性を調査・検証しました。検証を通して、静止軌道衛星通信と低軌道衛星通信の違いや、それがネットワーク性能に与える影響について理解することができました。
また、今後は、衛星通信を用いて配信をした際にどういった影響があるかを調べるために、衛星通信を模擬した通信環境を用いて配信を行い、通信品質が配信に与える影響の調査を検討しています。そして、多様な環境下での検証を重ね、災害に強い通信インフラの実現に向けた最適なソリューションを模索していきたいと思います。