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こんにちは。株式会社サイバーエージェントの経営推進本部に所属している片岡です。

2005年に中途入社し、ここ数年はエンジニア社員の育成施策の仕事に大半の時間を費やしています。

CyberAgent Developers Blogへの投稿は4度目になります。

前回までは、サイバーエージェントの「AI人材」の育成施策について投稿してきました。

今回は、個人がスキルを身につけたその先で、チームが変わり、開発のやり方が変わり始める社内の変化に触れた話を伝えたいと思います。

目次

2028年までに開発プロセスを完全に自動化
4億円のツール投資と1000名のリスキリング
AIナレッジ共有会
個人のナレッジから組織の変革へ
何が変わり始めたか
開発プロセス完全自動化への次の打ち手
【参考】関連記事

2028年までに開発プロセスを完全に自動化

施策の経緯の説明のために少し時間を遡ります。

2024年の社外向け技術者カンファレンスの基調講演で、技術担当の専務執行役員である長瀬 慶重が「AIの発展を会社の競争力にする」と宣言し、AIを徹底的に活用するためにあらゆる手を尽くし、変革を推進する方針を打ち出しました。

さらに翌年の2025年、社内向けに技術戦略を発表する場で、中期目標として2028年にプロダクト開発チームにおける「AI成熟度」を5段階のうちLevel4に到達させ、要件策定から本番環境への展開までの開発プロセスを完全に自動化している状態を目指すことを発表しました。

図1 AI成熟度の進化レベル

図1 AI成熟度の進化レベル

4億円のツール投資と1000名のリスキリング

中期目標を発表する前に、開発組織がAIを活用する為にいくつかの象徴的な施策を実施していました。

ツールへの投資と、人材育成です。

ツールの面では、2023年4月にGitHub Copilotを全社導入したのを皮切りに、2025年6月には、開発AIエージェントの導入に年間約4億円の投資を決定しました。開発業務に携わるエンジニア約1,200名を対象に、1人あたり月額200米ドルの導入費用をサポートし、AIツールを普段使いできる環境を整えました。

人材育成の面では、AI人材育成を3層構造で推進しました。

役員を含む全職種6,200名超を対象にした「生成AI徹底理解リスキリング for Everyone」を皮切りにエンジニア職1,000名を対象にした「for Developers」と「for ML/DS」を実施して、エンジニア全員にAI活用の共通言語を作りました。

図2 生成AI徹底理解リスキリングの3層構造

図2 生成AI徹底理解リスキリングの3層構造

個人のスタートラインを揃える手は打ったので、次はチームで走るための起爆剤となる施策が必要でした。

生成AIを使った開発作業のベストプラクティスがまだ確立されておらず、多くのチームが手探りの状態にありました。一時的に生産性が低下するのではないかという懸念や、AIが出力したコードを信用しきれないという心理的なハードルも一定数存在しました。

個人が知識を持っていても、担当するプロダクトや所属するチームでどう実践すればいいかは、別の話です。

すでにAI活用を実践しているチームの成功事例を、他のチームが直接学べる場を用意することにしました。

AIナレッジ共有会

AI活用を実践しているチームの成功事例を、社内の誰に届けるか?

全エンジニアに広く浅く届けるのではなく、プロダクトの中心人物がナレッジを持ち帰り、自分のチームに展開する。この波及構造をつくることを狙い、対象はプロダクトのテックリードなど、チームのAI活用を牽引できる立場の人に定め、現場の推薦により参加者を決めました。

この「AIナレッジ共有会」という施策は「次のAI時代でも活躍できるエンジニアのキャリア形成を支援」というミッションを掲げて2025年に新設された組織「AIドリブン推進室」が立ち上げました。

図3 ナレッジの波及構造

図3 ナレッジの波及構造

「ナレッジ展開 → プロダクトでの実践 → 成果報告」の3ステップとし、共有会で社内の先行事例を学んだ参加者が、担当プロダクトに持ち帰って実践し、その結果を報告してもらう設計にしました。

この最後の「報告」の部分をルール化したのが「アウトプットレポート」です。参加して終わりではなく、「共有会→実践→報告」のサイクルを回すことで、ナレッジが現場に定着しやすくし、かつその成果を可視化できる仕組みにしました。

個人のナレッジから組織の変革へ

「AIナレッジ共有会」は、2025年10月の第1回から2026年4月の第4回まで、半年で4回開催しました。変化が速い領域なので、このくらいの頻度でないとナレッジがすぐに古くなってしまいます。

各回のテーマについては、個人のAI活用から始まり、チームでの活用、特定領域への応用、そして組織全体の変革へ段階的に引き上げ、開発組織の成熟プロセスをなぞる設計としました。

図4 AIナレッジ共有会のテーマの進化

図4 AIナレッジ共有会のテーマの進化

第1回(2025年10月):個人とチームの「現在地」を可視化する

「AI Agent時代の向き合い方」 というテーマの登壇では、AI活用レベルの定義が共有されました。個人とチームのそれぞれについて、AIの活用度合いを5段階で言語化したものです。

個人のAI活用レベル

レベル 名称 状態目標
Lv.1 AIアシスタント AIツールの基本操作(コード補完、エラー解析)
Lv.2 AIペアプログラミング AIとの対話で単一タスクを完結
Lv.3 AIオーケストレーター 複数AIの効率的な組み合わせ、並列タスク処理
Lv.4 AIアーキテクト 実装をAIに委任し、要件定義と品質保証に専念
Lv.5 AIワークフロー開発 カスタムMCPツール開発、エンドツーエンドの自動化

チームのAI活用レベル

レベル 名称 状態目標
Lv.1 コードレベル補完 Copilotでコード補完
Lv.2 タスクレベル自動化 Claude CodeやCursorで機能実装・バグ修正をAIが実行
Lv.3 プロジェクトレベル自動化 仕様書から実装・テスト・マージまでの複数ステップをAIが実行
Lv.4 AIソフトウェアエンジニア 開発プロセスの全ステップをAIが実行
Lv.5 AI開発チーム 人間の介入がほとんどない状態で機能開発が完結

「なんとなくAIを使っている」状態から、「いま自分たちはLv.2で、次にLv.3を目指す」という共通言語が生まれる。登壇した社員の所属する組織では、この定義を導入して振り返るようになったことで、エンジニアだけでなく企画職も含めて前向きにAI活用に取り組む空気が生まれたといいます。

「チームでのAI活用事例」というテーマの登壇では、コードレビューの自動化など、チーム単位での具体的な取り組みが共有されました。

第2回(2025年12月):AI駆動開発の「型」を共有する

この回ではAIオペレーション室の社員が「CA流 現場と伴走するAI駆動開発の共有」というテーマで参加者に、その場でAI駆動開発を体験してもらうハンズオンを実施しました。

ここで示されたのが、AI駆動開発のコアフローです。「AIによるプラン作成→ 人によるプランレビュー→ AIによるプラン修正と実行→ 人による結果の確認とフィードバック」という、AIが提案し人間がレビューする高速イテレーションを参加者全員に体験してもらいました。さらに、各プロダクトに深く入り込み、ボトルネックに合わせて導入を支援するAIオペレーション室による伴走型の社内コンサルティングの仕組みも紹介されました。

第3回(2026年2月):Unity開発の難所に挑む

Unityを使った開発は、AIエージェントにとって簡単な領域ではありません。コード修正以外にもコンパイルやアプリ実行、画面確認といった工程が絡むためです。この回では、Unity MCPの内製化や、AIエージェントがUnityを操作して開発を進められる環境整備など、領域特化の試行錯誤が共有されました。

第4回(2026年4月):開発フローそのものを組み替える

この回ではAI事業本部の社員が「プロジェクト型AI駆動開発を導入するまで」を登壇しました。

開発フローの細分化、ドキュメントの整備、Skill化、半自動実行、そしてプルリクエストの自動レビューまで、9つのステップにわたる実践が語られました。さらに踏み込んだのが「全員がプロジェクトマネージャーとして振る舞う」というマネジメント変革です。一人ひとりがプロジェクトを持ち、AIに実装を移譲することで意思決定のスピードを高める。技術だけでなく、チームの動き方そのものを組み替える事例でした。

印象的だったのは、「AIが働きやすい環境 ≒ 新規参入者が働きやすい環境」という指摘です。暗黙知に頼らずルールを明文化し、ドキュメントを構造化する。AIのために整えたコンテキストが、そのまま新人・中途社員にとって最高のオンボーディング資料として機能する、という気づきでした。あわせて、メンバーの「やりたい・教えてほしい」をリストに積んで週次の勉強会で消化するなど、チームの学びを継続させる仕組みも紹介されました。

何が変わり始めたか 

2025年10月から2026年4月まで、半年で4回開催した「AIナレッジ共有会」には、延べ96プロダクトのキーパーソンが参加しました。メディア&IP事業、広告事業、ゲーム事業、本社部門を横断した全社的な広がりです。

施策を始めて半年、「AIナレッジ共有会」への参加とその後の実践を通じて、開発の現場は何を変え始めたのか?

図5 参加プロダクトの広がり

図5 参加プロダクトの広がり

蒔いた種を育てる

各回参加当日のアンケートで「この共有会で得た情報はプロジェクトで活かせそうか」を5段階でたずねています。毎回前向きな反応が一貫して多数を占めていました。

一方この施策のキモとなるのは、参加の2か月後に提出してもらうアウトプットレポートです。ここでは共有会の「感想」ではなく、参加者が担当プロダクトで実践した後の「活用度」を答えてもらっています。

第3回(2026年2月)のアウトプットレポートでは、活用度の上位2段階(4・5)を選んだプロダクトが9割近くに達しました。実際に手を動かし、効果を実感したという回答です。

報告された定量効果も具体的です。要件定義・開発の工数が3割減、仕様・影響調査の工数が約75%減、プルリクエストの作成数が1.5〜2倍に増加、コードレビューは1回あたり0.5〜1時間削減されました。

図6 アウトプットレポートで報告された定量効果

図6 アウトプットレポートで報告された定量効果

「AIナレッジ共有会」参加直後の「活かせそう」という期待が、現場で実際の数字に変わり始めています。

担当事業や所属組織の垣根をこえた「AIナレッジ共有会」参加者によるコミュニティが形成され、「中間LT会」を開催しアウトプットレポートを提出する前のAIの活用状況を共有するという現場発の動きも生まれました。

第4回のアウトプットレポートには、こんな声が寄せられました。

すでに取り組んでいたものが、ナレッジ共有会によって信頼を得られた。AI用のリポジトリを作成し、属人化もなくなった

共有会で持ち帰ったナレッジが、各チームで独自の文化に育っていることがうかがえます。ツールを配るだけでは、こうした動きは生まれません。制度が種を蒔き、現場がそれを育てているという状況が、この施策の大きな成果だと感じています。

二極化

第4回(2026年4月)のアウトプットレポートでは、活用度の上位(4以上)が3割を超えた一方で、「効果が実感できていない」という評価も3割を占めました。同じ共有会に参加しても、すでにAI活用が進んでいるチームはさらに先へ進み、手が回っていないチームは一歩を踏み出せずにいる。レポートにも、対照的かつ率直な声が並びました。

すでにある程度の整備が済んでおり、参考になる事例がなかった

リソースが取れず、プロダクトの開発フローが違うこともあって、どう取り組むのがいいか悩んでいるうちに期日が来てしまった

図7 活用度が二極化

図7 活用度が二極化

先行するチームには物足りず、後発のチームにはハードルが高い。AI活用のメリットを感じられるまでに時間がかかり、整備の途中ではむしろ手間が増えたと感じることもあります。そこに対して即効性のある万能な解はなく、その時々の状況に応じた手を打ち続けるしかありません。

これらは全社的な課題として、AIドリブン推進室が次に向き合うべきテーマでもあります。

開発プロセス完全自動化への次の打ち手

チームへのアプローチが軌道に乗ってきたので、もう一度「個人」にフォーカスして次の一手を用意しました。

成功事例の全社ヨコテン

第1回の「AIナレッジ共有会」で紹介されたグループ会社での5段階の「AI活用レベル」の定点観測は、その後も継続され、組織内でAI活用方法の議論が日常的に交わされるようになり、個人の平均スコアが半年で1.23から3.27へと向上しました。

図8 グループ会社での個人AI活用レベルの変化

図8 グループ会社での個人AI活用レベルの変化

この取り組みを全社に広げ、エンジニア全員がレベル3「複数のAIを並列に操り、ワークフローを自ら組み立てられる段階」に到達することを目標に推進することにしました。

学びの機会の提供

個人の現在地の定点観測に加え、全エンジニアを対象にした「AI駆動開発 いいラーニング(Eラーニング)」も開始しました。AI駆動開発の考え方・用語・概念を、共通言語として全員が手にするための学習プログラムです。

リスキリングでそろえたスタートラインを、AI駆動開発の時代に合わせてもう一段引き上げる。一人ひとりがさらに前へ進むための、新たな機会づくりです。

『有能な社員が長期にわたって働き続けられる環境を実現』

サイバーエージェントのMission Statement にある一文です。AI時代においてそれは、エンジニア一人ひとりが、AIと協働しながら自身のスキルを進化させ続けられる環境を整えることに他なりません。AIの発展を会社の競争力にする組織で、AIを武器にして大きな価値を生み出すエンジニアが活躍し続けるための、全社的な取り組みについて、またこの場で報告できたらと思います。

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