弟子:伊藤 弘希 師匠:青山 文吾 インタビュアー:湖中 美緒
社会人としてのスタートを切ってから早1ヶ月。
緊張の面持ちで参加した入社式・日々真剣に打ち込んだ新卒研修を終えて、サイバーエージェントではいよいよ配属発表が行われる時期が近づいて来ました。
今第一線で活躍する先輩クリエイターは、入社からこれまでをどのように過ごし、何を学んできたのか?
本連載では“クリエイター師弟対談”と題し、先輩クリエイターが一人立ちするまでの成長記録を師匠と共に振り返ります。インタビュアーは、今年サイバーエージェントに入社した新卒クリエイターが務めます。
第1回目は、アメーバブログを経てクリエイティブ統括室で活躍する伊藤 弘希さんと、その師匠であり現在はゲームやエンターテイメント事業に携わる子会社13社が所属しているSGE(Smartphone Games & Entertainment)のPRデザイン室で室長を務める青山 文吾さんのお二人。インタビュアーは、新卒デザイナーの湖中 美緒さんです。
クリエイティブディレクターになりたい!そう意気込んで異動した先で
湖中:まずはじめに、お二人の師弟関係はどのように始まったのでしょうか?
伊藤:僕が入社して最初に配属されたのはアメーバブログで、そこから約2年間イベントやキャンペーンページのデザインなどの運用を担当していました。ある時上司との面談で「クリエイティブディレクターになりたい!」と意気込みを伝えたところ、「それなら文吾さん(師匠の青山)のところで修行してこい!」と当時立ち上がったばかりだった、全社のブランディングを担うクリエイティブ統括室に送りだして頂いたのが師匠との出会いです。
青山:僕もちょうど人手が足りないと思っていた時で、「ブランディングを専任でやれる、とにかくやる気があるデザイナーが欲しい!」と話していたところ、ジョインしてきたのが伊藤くんでした。最初に一緒にデザインしたのは、AmebaFRESH!Studio(現HARAJUKUAbemaStudio)で配布する整理券のデザインだったのですが、ただカッコイイからという気分で飾り線を足したデザインをだしてきて。本来デザインは構成要素一つひとつに入れるべき理由があるべきなのに、彼はそのことを理解していなかった。当時もう3年目になっていたので、最初は大丈夫か!?と思いましたね(笑)。
湖中:なるほど。私は今新卒研修でデザイン制作をしているのですが、「なんとなくでデザインをするな」と、まさに先日の講評で同じことを指摘されたばかりなので、ハッとしました。
「オペレーションじゃなく、デザインしてくれ」今でも忘れない、核心をつかれた師匠の一言
伊藤:僕、文吾さんに言われた今でも忘れない一言があって。会社で使う色見本カードのデザインを担当した時に、元々あったデザインのロゴと色味をアップデートしたものを出したんです。その時に「デザイナーだろ。オペレーションじゃなくて、デザインをしてくれ!」とひどく叱られて。その一言にかなりの衝撃を受けました。
青山:ああ、配属されてすぐの頃だよね。伊藤くんに「新しい色見本カードをデザインして欲しい」とお願いしたんですよ。最低限必要な項目を守ってくれれば、自由にデザインしてよかったのですが、出てきたものにはアイデアもデザイン上のブラッシュアップもなかったんです。単にロゴと色味を変えるだけなら、「ロゴと色味を変えて」と指示すればいい。それは“クリエイティブ”ではなく“作業”なんです。
例えば、カードに穴を空ければ周りの色が見えるようになって、色の比較がしやすいよね。とか。そういうアイデアを出して、デザインに落とし込んで欲しかった。
お二人が制作したサイバーエージェントの色見本カード。カードに穴を空けることで、色比較がしやすいデザインに。
青山:あと彼は心優しい性格のせいか、プロデューサーや取引先の方の意見を聞いて「ですよね〜。」とそれに合わせてしまうことも多くて。デザイナーだけではなくどの職種にも言えることですが、円滑に仕事が進むこと=良い仕事ではない。良いものを作ることが目的であることを、忘れてはいけないと思うんです。
湖中:確かに、スケジュールやチームの状況で判断が必要になるとは思いますが、良いものを作るためには自分が責任を持ってデザインをし、そのデザインをちゃんと大事にするところまでが大切なんですね。
青山:そう、デザインの重要性はクリエイターがはっきりと伝えていかなければならないよね。そして、自分のデザインには最後まで責任を持って放棄しないで欲しい。だから伊藤くんには口酸っぱく「『ですよね』禁止令」を出していたよね。一回『ですよね』を言うごとに罰金500円!と。もちろん本当にもらってはいないですよ(笑)。」
小手先のテクニックだけではなく、クリエイターとしての姿勢を伝えたかった
青山:僕はとにかく、小手先のテクニックだけではなく、クリエイターとして生きていくことの覚悟や姿勢を伝えたかったんです。普段身だしなみに気を使っていない人が、急に晴れ舞台の時だけちゃんとお洒落をしようと思っても上手くいかないわけで。仕事でも一緒だと思うんですよ。大きなチャンスが来た時だけ上手くやろうと思っても、日々筋トレしていなければできるわけがない。
クリエイティブ統括室で制作するものは幅広くて、例えば文鎮のトロフィーを作った時には「塗料がいつ乾くか」「金属にのせた時にどれくらい色が変わるのか」「木材はどこまで削れるか」とか、一度も作ったことがないものでも想像力を働かせて、その使ったことの無い素材を理解する必要があります。そうじゃないと、思っていた通りの仕上がりにならなかったり、納期に間に合わない!なんてことが起こってしまうんです。
伊藤:確かにトロフィーを作った時は時間が迫っていたのですが、塗料が乾いたら全然違う色味に仕上がっていて…それを見た時は顔面蒼白になりました。改めて思い返してみても、文吾さんほど厳しく言ってくれた方は後にも先にもいないですね。僕、1回だけ文吾さんに「こんなに叱られることってありますか?(涙)。」と弱音を吐いたこともありましたよね(笑)。でもそうやって向き合い続けていただいたおかげで、先回りして考えたり状況判断をした上でデザインをするという力が鍛えられたと思います。
湖中:それだけ試練の連続の中、伊藤さんはどうやって乗り越えてきたんですか?
伊藤:やるしかなかったんですよね、明日叱られないためには!みたいな(笑)。なので、なぜ今日叱られたのかをすごく考えてました。でも僕自身厳しくされて追い込まれた方が奮い起つ人間なので、文吾さんが師匠でよかったと思っています。
湖中:そうなんですね。そう考えると、お二人は相性が良かったんですかね。
伊藤:僕はそう思ってますよ!(笑)。
青山:うーん、どうなんだろうね?(笑)。でも僕は、伊藤くんだから厳しくしていたわけではなくて。クリエイター同士、どこまでいっても「それが良いものかどうか」が基準だと思っているので、基準に満たないデザインに関しては誰であろうとはっきり伝えるタイプです。彼のいいところは、それでもへこたれずに僕にデザインを当て続けてきたところですね。絶対に逃げない。
一人の力で何かを作り出すことはできない
湖中:私もこれから配属されて現場で働き始めるのですが、新卒のデザイナーが大事にすべきことがあったらぜひ教えていただきたいです。
青山:まず、環境のせいにしないこと。デザインという表現は、自分には出来ない分野の専門家やチームメンバーなど、いろんな人の手に渡って初めて世の中に姿を表す性質のものなんです。一人の力だけで何かを生み出すことはできないということを理解して、環境も味方につけるくらいの考えでデザインをして欲しい。
もう一つは、クリエイターとして生きることですかね。例えば、バスに乗っている時や街を歩いている時、目に入ってくるデザインについて常に意識して考えるような。オフィスで席に座っている瞬間だけクリエイターになるのではなく、そういう風に業務範囲のデザインを超えて日頃から意識して欲しいし、そういう人と一緒に仕事したいですね。
伊藤:やっぱり僕からは、「オペレーターになるべきではない」というのを伝えたいですね。自分でちゃんと“思考”することがクリエイターだと思います。ちゃんと目論見があってデザインしているわけなので、それをデザインに落とし込めるクリエイターになって欲しいです。
湖中:ありがとうございました。学生の頃からデザインを勉強してきましたが、お二人のお話を聞いて“自己満”では終わらないデザインの大切さと、まだまだ自分には“思考”する力が必要だなと身に沁みました。来週の研修の講評では、良い結果を出せるように頑張ります!
【クリエイター師弟対談】
▶︎社会人3年目のある日、師匠に言われた「デザインしてくれ」の意味。ークリエイター師弟対談vol.1