インターネットテレビ局「AbemaTV」や定額制音楽配信サービス「AWA」、「アメブロ」など大規模サービスのイメージが強いサイバーエージェントですが、若手プロデューサーを中心にカジュアルゲームなどを短期間で開発し次々とリリースする「AppStudio」という組織があります。
Developers Blogでは、AppStudio プロデューサーである徳山、田熊にインタビュー。日々試行錯誤を続けているという彼らに、次々と新規サービスを立ち上げるための開発手法やその面白さについて聞きました。
徳山 泰斗 スタートアップカンパニー AppStudio プロデューサー。 2013年サイバーエージェント新卒入社。プランナー、プロデューサーとしてソーシャルゲームの運用を担当した後、2015年11月ピグカンパニーに異動。アバターコミュニティサービス「ピグパーティ」を担当後、2017年4月より現職。
田熊 友貴 スタートアップカンパニー AppStudio プロデューサー。 2015年サイバーエージェント新卒入社。プランナー、プロデューサーとしてオンラインRPG「ピグブレイブ」の運用を担当した後、2017年4月より現職。
それぞれ複数サービスを並行して開発
ーーどのような経緯でAppStudioは設立されたのでしょうか?
徳山:ピグカンパニーではPCサービスをメインに事業展開していたのですが、「アメーバピグ」で培った経験でアプリ開発にもチャレンジしていきたいということで、2017年3月にピグカンパニーからスタンプコミュニケーションアプリ「famchatty」をリリースしました。事業部内でも初めてのサービス形態だったため、サイバーエージェントグループ内でカジュアルゲームなどのアプリ知見が豊富な株式会社GOODROIDに開発についてヒアリングに行きました。その際、少人数で次々アプリをリリースするスピーディな開発に衝撃を受けました。当時「famchatty」は10名くらいで開発していたので、自分たちでもやってみようという話になったんです。
その後、ピグカンパニーのメンバーを中心に「AppStudio」という組織が設立されました。
ーーこれまで立ち上げてきた新規サービスについて教えてください
徳山:2017年4月以降、リリースしたものは文字探しパズルアプリ「onoma (オノマ)」と時間管理アプリ「ハコニワタイマー」(iOS版 / Android版)の2本です。両方ともエンジニア、デザイナーとプロデューサーの私が3人1チームとなって開発しました。
現在立ち上げ準備中なのがカジュアルゲーム2本と他ジャンルで1本。また、メディア事業内で新規サービスを生み出していくための制度「ガレスタ」に応募して取り組んでいるARを活用したアプリも準備中です。こちらに関しては今まさにモックを作っているところです。
実はARアプリに関しては、「ガレスタ」が始まる前にプライベートの時間を使って自分ひとりで作ろうかと考えていたんです。そのためにプログラミングも学んでいたのですが、リリースまで2,3年はかかってしまうなと感じていました(笑)そんな時に「ガレスタ」が始まることを知って、良い機会なので社内で知見のある人たちと取り組めたら面白いだろうなと思いました。
田熊:これまでリリースしたのは2本で、パーティーゲームアプリ「moimo (モイモ)」と町づくりアプリ「ピグタウン」(iOS版 / Android版)です。徳山とは別のカジュアルゲームを2本開発しつつ、エンタメ系サービスを立ち上げているところです。さらに、「ガレスタ」ではコミュニケーションアプリを開発していて、モックは無事合格ラインをクリアしました。年明けにマーケティング計画等も兼ねた担当役員へのプレゼンを控えています。
ーーそれぞれ複数サービスの立ち上げを並行して行っているとのことですが、時間をうまく使い分けるコツはありますか?
田熊:「ガレスタ」に応募して進めているコミュニケーションアプリに関しては、週1日の「ガレスタ没頭DAY」(注:最大3か月適用)に集中して進めています。
その他のサービスについては、仕様書作成など単純作業になりそうな部分はフォーマットを共通化することで効率化させています。その方が技術者たちにとっても分かりやすいですし。その分企画部分に時間を割けるように意識しています。
徳山:プロデューサーである自分がボールを持ちすぎないように意識していますね。ある程度大枠の企画が固まったら、技術者主導でどんどん開発を進めてもらっています。その方が手戻りが少ないことも分かってきたので。
やりたいと思ったものを世の中にスピーディに届けられる
ーー次々と新規サービスを立ち上げていくAppStudioならではの面白さ、やりがいについて教えてください
田熊:短期間でサービスをリリースしようとするとたくさんの機能を盛り込むことができないので、断腸の思いで削らざるをえないことがあります。またこれまでAppStudioでリリースしたサービスは基本的にリリース後に運用を行わない想定で作っているので、運用でカバーすることもできません。なので、サービスのコアな機能に開発中はひたすら向き合って、この機能でユーザーに楽しんでもらえるかということをしっかり考えるようにしています。そこは面白さの一つだと思います。また、短期間でリリースする分ユーザーの反応がスピーディに見られるところもやりがいですね。
徳山:やりがいは、やはり新しいことに次々とチャレンジできるという点に尽きると思います。開発方法に関しても、短期間でサービスをスピーディに出していくための決まった方法がまだ確立できていないので、そこも含めて自分たちで考えて進めていけるのは苦労でもやりがいでもありますね。
例えばUnityを使ったゲームを作る際、全て自分たちでゼロから作るのではなく、アセットを活用することで開発期間を短縮した方が良いんじゃないかとか割り切るようにしています。品質の高いプロダクトを時間をかけて開発するやりがいはもちろんあると思いますが、スピーディにリリースすることに重きを置いて、開発方法を試行錯誤しながらプロジェクト進めていけるのも一つのやりがいだと思います。
自分たちがやりたいと思ったものを世の中にスピーディに出していけるのは本当に面白いです。
田熊:「これ3ヶ月で作ったの?」と言われたりすると快感ですよね(笑)
「moimo」を開発した際には、これまでアプリ開発の経験がないチームだったのですが、みんな試行錯誤しながらなんとか2ヶ月でリリースすることができました。他事業部のネイティブアプリエンジニアにもたくさん知見を共有してもらいましたね。
徳山:大変だったことでいうと、1サービスにつき企画担当が自分だけなので、一人でゲームステージを300個考えなければいけなかった時は辛かったですね(笑)
あとはサービスごとに内容も全く違うので、パズルについて考えた後はARについて考えて…といった形で時間ごとに頭の使い方を変えなければいけないのも難しい面です。
ーー個人で短期間に多くのアプリ開発を行なっている方も世の中に多くいらっしゃいますが、AppStudioならではのメリットはどんなものがあると思いますか?
徳山:試行錯誤を続けながらも、少しずつではありますがノウハウが溜まってきています。そのノウハウを並行して開発している複数アプリにも反映して進めていけるのはメリットがあるんじゃないかと思います。また、毎回サービスを立ち上げるごとにメンバーを変えているので、多様なアイディアが集まることも組織として取り組むことの意義かもしれません。たとえばデザイナーも一人一人得意分野が異なるので、「この人と組むならこういうモチーフのサービスが良いかな」と考えたりすることもあります。
チームとしてスピードは底上げしつつ、アイディアの幅をさらに広げていくことができたら良いなと思っています。
田熊:私もメンバーを見て企画の方向性を考えることがありますね。たとえば「ピグタウン」を立ち上げるきっかけになったのも、メンバーが皆「アメーバピグ」に携わっていた経験があったのでピグを使った企画にしようかな、とか。
常に並行して3つくらいサービスの開発が進んでるので、その分組織としてのノウハウ蓄積度合いも速くなっていると思います。プッシュ通知機能や課金基盤なども良いものがあれば横断して展開するようにしています。
将来につながるような小さなチャレンジを積み重ねる
ーー新規サービス立ち上げの際に気をつけていることや、アイディアを生み出す際のマイルールはありますか?
田熊:カジュアルゲームなど気軽に利用できるアプリを企画していると、ついつい自分よがりになってしまうことがあるんです。なのでターゲットユーザーの目線でフラットに考えるように心がけています。これまでリリースしたものは全てターゲット層を変えています。
考えた企画は、まずは早い段階でチームのエンジニアやデザイナーに相談してたくさん意見をもらうようにしています。他チームのメンバーも、「こういうサービスやってみたらどう?」とアイディアをくれるのでありがたいですね。
またアイディアを出すために、日々海外のストアランキングを見てインプットするようにしています。どうしてこのサービスは急速に人気が出たんだろうと自分なりに分析してみたり、今高校生の間で流行っている事象や次々と出てくる新たなYoutuberの動画を見てトレンドを掴むことができるよう、心がけています。以前オンラインRPGゲームの運用を担当していたのですが、その時よりも世の中のトレンドを意識するようになりました。
徳山:企画次第で開発スピードを上げられることもあるので、企画で悩んだ際にはどちらの方がより工数をかけずに最大限の効果が出せるかという観点を持つようにしています。
サービスによっては全てを内製で作る方が良い場合もありますが、外部のシステムと組み合わせることで面白いものが短期間で実現できるのであれば、積極的に活用するようにしています。ARアプリを自作で作ろうかと考えていたときに色々と調べていたので、それが今も役立っていますね。
ーー最後に今後の目標を聞かせてください
徳山:色々なサービスを立ち上げていますが、まだこれといったヒットは出せていないので、まずはヒットを生み出したいです。
将来につながるような小さなチャレンジをたくさん積み上げていくことでヒットの角度を上げていきたいですね。サイバーエージェントグループのどこもやらないような領域に積極的に挑戦していきたいと思います。
田熊:AppStudioの軸になるような、象徴的なアプリを一つ作っていきたいです。半年以上やってきて日々思うのは、自分たちのコンテンツ力や企画力の弱さ。これがヒットを生み出せていない原因だと痛感しています。今後はしっかりと鍛えていかなければいけないと思いますし、AppStudioのクオリティの高さと開発スピードを生かして、IPを活用したアプリも次々と世の中に出していきたいと考えています。