2017年5月から、メディア事業で新たにスタートした「ガレスタ」

 

 

「ガレスタ」とは「Media Garage Startup」の略で、新規サービスを生み出していくための取り組みです。サイバーエージェントには新規事業や新規サービスを創出する様々な仕組みがありますが、「ガレスタ」が注力しているのはスピード感を持ってプロダクトをリリースし、ユーザーの反応を見た上で本格的な投資判断を行うこと。

 

「ガレスタ」運営責任者の高橋と技術責任者の板敷に、開催に至った背景や、現在進行している事例、運営上の工夫など詳しく話を聞きました。

 

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板敷 康洋
メディア統括本部 開発組織責任者。
2013年サイバーエージェント中途入社。入社後は、アバターコミュニティサービス「アメーバピグ」のチーフエンジニアを経て、技術本部のマネージャーに。新感覚SNS「755」や定額音楽配信アプリ「AWA」の負荷対策プロジェクトに携わり、2017年4月より現職。

 

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高橋 佑介
メディア統括本部 Amebaカンパニー長 兼 株式会社新R25 代表取締役社長。
2006年サイバーエージェント新卒入社。入社後は様々なサービスの立ち上げ・運営に携わった後、コミュニティサービス「アメーバピグ」事業責任者、「Ameba」プラットフォーム責任者を担当。その後アメーバ戦略マーケティング室室長に従事し、2015年10月よりAmebaカンパニー長に。2017年5月の株式会社新R25設立に伴い、代表取締役社長に就任。

 

 

 

 

企画案だけでは投資判断が難しい

 

ーーはじめに「ガレスタ」の仕組みを教えてください


高橋:まず企画発案者が一人で応募します。応募してチームを作るまでは誰でもできて、そこまでは何の審査もありません。

チームを組成後、「DEMO1」ステップに進みます。DEMO1では約2週間、チームメンバーとともに通常業務と兼務でモックやサービス企画書を作成します。その後、「DEMO2」に進むためには、メディア事業の担当役員にむけたプレゼンを行う必要があります。

 

 

板敷:特徴的なのがいきなり立ち上げにフルコミットするわけではないという点です。最初は今の仕事と兼務なので正直大変だとは思います。なので制度としてサポートできる部分はしっかりサポートしつつも、なんとしても新規サービスをやりたいというモチベーションの高いメンバーに挑戦してもらえたら嬉しいなと思っています。

人事のデータベース上に面談の際などに新規サービスの立ち上げに興味があると話していた技術者のリストがあるので、チーム組成の際には活用しています。ただチーム組成についてこちらがあまり入り込みすぎるとトップダウンのようになってしまうので、あくまで本人のやりたい意思を尊重しています。企画発案者の熱意でメンバーを口説いてもらうのが一番自然だし、効果的だと思うので。

 

 

高橋:その後DEMO2に進むと、最大3ヶ月間週1日、通常業務から離れて新規サービスの立ち上げに没頭できる「ガレスタ没頭DAY」が与えられます。

チームメンバーは3ヶ月の間に、リリースしてユーザーの反応を得られる状態にまでプロダクトを仕上げ、リリースする際のマーケティング計画を策定します。また期間内に一度だけ、1週間立ち上げ作業に没頭できる 「1Weekフルコミット」という制度も用意しています。さらに外注費や開発合宿のための費用もサポート可能です。

 

そして、その後役員にむけた最終プレゼンを行い、リリース可否がジャッジされます。このときのジャッジは3パターン。リリースができテストマーケティングを行う予算も付与されるパターンか、リリースのみOKという判断、もしくはリリースNGの判断です。

 

 

板敷:DEMO1,2 期間中には高橋が企画の相談に乗ったり、私が技術的なアドバイスを行うことももちろん大歓迎ですし、横断組織のインフラチームや法務チームも全力でサポートしてくれます。

リリース後はユーザーの反応を見ながら、本プロジェクト化するか、引き続き兼務のまま運用を続けるかを判断します。

 

 

 

 

ーーどのような経緯で「ガレスタ」はスタートしたのでしょうか?


高橋:サイバーエージェントには「あした会議」や「ジギョつく」「NABRA」など新規事業やサービスを考える様々な取り組みがありますが、新規事業は決まるものの新規サービスがなかなか決まらないことが課題でした。新規サービスはループが詰められていないと事業判断が難しいことが多いからです。

新規のWebサービスを考える難易度は年々上がっていますが、企画案だけでは投資判断が難しい。サービスをリリースするまでのスピード感が大切なので、まずはプロダクトを出してユーザーの反応を見てから踏み込むかどうかの判断をできるようにしたいとずっと考えていたんです。そこで「ガレスタ」をスタートさせることになりました。

これまでもサイバーエージェントのメディア事業では、数多くのチャレンジがあったからこそ、インターネットテレビ局「AbemaTV」や定額制音楽配信サービス「AWA」、カップリングサービス「タップル誕生」のような中核事業が生まれてきました。「ガレスタ」を通して新規サービスの打ち手をさらに増やすことで、数年後のサイバーエージェントの柱となるサービスを創出したいと思っています。

 

 

板敷:あした会議でもサービス案を詰めきるのって難しいものなんですか?

 

 

高橋:1泊2日のあした会議だと、サービスの成否を判断するためのディティールまで詰めきれないこともあるし、モックアップをみないと判断できないことも多いと思います。だからといって、モックアップを作るために既存部署からメンバーを異動させることも難しい。そのためまずは兼務の状態でも、ユーザーの反応を得られる状態にまでプロダクトを短期間で仕上げることが大切だと考えています。

 

 

 

FirebaseなどBaaSを活用

 

ーー短期間で開発を行う上で、技術的に工夫している点があれば教えてください


板敷:さきほどもご紹介したとおり、DEMO2では3ヶ月間、週1日「ガレスタ没頭DAY」が与えられます。工数的には約1ヶ月というかなり短期間なので、これまでとは作り方を変えないとこの期間でリリースするのは非常に難しいんです。

 

技術選定における期間や工数を通常よりも10%短縮させようとすると、ちょっと残業して頑張るくらいのレベルになりがちかなと個人的には思っています。ただ、通常の半分のリソース、工数でやらなければいけないとなると、大きく工夫して設計方法を変えようという雰囲気になるんですね。

そのため、現在DEMO2に進んでいるチームではFirebaseなどBaaS(Backend as a service)を使用して工数を短縮する工夫をしています。

 

これまでサイバーエージェントでメディアサービスを開発する際に、このような外部のシステムをメインで利用するという選択肢はあまりありませんでした。2011年に「2年間で新規事業を100個作る」という方針を掲げましたが、当時はBaaSのような外部システムの利用が一般的ではありませんでした。

 

外部システムを使えば全て良しということではもちろんなくて、リリース後将来的にシステムを拡張するとなるとコストはかかってしまいます。

ただ「ガレスタ」で大切なのはミニマムの状態でリリースして、まずはユーザーの反応を見ること。将来的にヒットするかわからないものを作り込むのは難しいし、何よりもスピード感が落ちてしまう。まずはFirebaseなどBaaSを使ったサービスの実例を作り、社内で知見を蓄積していきたいと考えています。

 

 

 

 

 

プロダクトに仕上げるための助言のみ行う

 

ーーお二人から見た「ガレスタ」の現状はいかがでしょうか?


高橋:随時応募を募集していますが、現在DEMO2のチームが一つ、DEMO1のチームが一つで、あと2チームはチームメンバーがちょうど確定したところです。新規サービスをやりたいという声はよく聞くので、正直もうちょっと応募数はあるかなと思っていました。でも普段の業務が忙しい中で、そこを乗り越えてでもやりたいと思う人はそこまで多くはないと思うので、そう考えるとまずまずの初速ではないでしょうか。

 

 

板敷:参加者に若手が多いのは想定通りでしたね。

 

 

高橋:今の新卒3,4年目が入社してきたときって、たくさんの新規コミュニティサービスを作っていたタイミングだったので、その影響もあるかもしれないですね。

 

 

板敷:今後もっと向き合わなければと思っている課題は、エンジニアやデザイナー発案の企画がまだまだ少ないこと。どういう制度か分からないと参加する勇気も出ないと思うので、社内での「ガレスタ」の認知をより一層広めていきたいです。現在の担当業務と兼務でやることを考えると、とにかく本人のモチベーションが一番大切なので。

 

 

高橋:「ガレスタ」発の新規サービスがリリースされたら認知度も応募もぐっと増えると期待しています。

 

 

 

ーー多くの新規サービスの案が出るよう、運営上工夫している点はありますか?


高橋:「ガレスタ」の運営メンバーである自分たちの判断だけで案自体をつぶさないように心がけています。口出ししたり、企画の時点で案をつぶすのは簡単ですが、サービスをリリースする前提で、プロダクトを一緒に仕上げるための助言を行うようにしています。

最も重要なのは、本人がどこまでモチベーションを持っているかという点。本人たちが成功をイメージできているか、そこを一番見ていますね。

 

 

板敷:私も、メンバーのモチベーションが一番大切だと思います。事業化する前提で取り組んでいるので、プロジェクト規模が大きくなったときにもリーダーとしてやっていける人材かどうかという点も見ています。

 

 

 

 

大規模サービスの運営ノウハウがある環境だからこそ

 

ーー現在のサイバーエージェントだからこその、新規サービスを生み出せる優位性はあると思いますか?


高橋:やはり「アメブロ」や「AbemaTV」のように既存の大規模サービスを運営していたノウハウは新規サービスの立ち上げにも大きく活きてくると考えています。数百万人の反応がある中でサービス運営する経験って普通はなかなかできないものですし、小規模のサービス運営では得られない経験ばかりです。たとえばプロダクトの向こう側でユーザーがどう動いてくれるのか考えることは非常に難しいですが、熱狂的なユーザーが多いサービスだとそれがわかりやすいし、施策の手応えを感じやすいんです。

現在のサイバーエージェントのメディア事業はそういう感覚が磨きやすい環境だと思います。

 

あとは、大規模サービスがあると既存事業とのシナジーやブランドの統一化などに縛られてしまうケースもあるかもしれませんが、サイバーエージェントでは個人のクリエイティビティを尊重して、ゼロから新規サービスを考えることがほとんど。そういう意味では、大規模サービスならではの運営ノウハウを活かしながら、スタートアップと同じような環境でサービスを立ち上げることができます。

 

 

板敷:様々な新規サービスの立ち上げを経験したメンバーがいることで、今のメディア事業が成り立っています。特にエンジニアリング観点では初期の設計の成否がその後のサービスに与えるインパクトはとても大きいのですが、そういう意味でも過去トライアンドエラーを繰り返してきた経験値というものは活用できると思います。

また先ほど高橋から大規模サービスの経験についての話がありましたが、これは技術面でも同様で、いかに安定して大量のリクエスト/トラフィックを捌くか、データ量の急増に耐えるストレージの設計になっているか、モニタリングなど運用の効率化がされているか、などの観点で設計できるのはある程度規模感のあるサービスを経験してきたからこそだと思います。

 

 

 

 

ーー今後「ガレスタ」をどう成長させていきたいと考えていますか?


高橋:まずはこの取り組みからヒットサービスを出すことが何よりも大切です。そして社員が誰でも知っていて応募したいと思える、名物のような仕組みにしていきたいです。

メディア事業において新たな中核事業になりうるサービスを生み出すというゴールは変わりませんが、今の運営方法がベストかは正直わかりません。制度は運用し続けることこそ大切なので、サービス事例を走らせながら長い目で改善し続けていきたいと思っています。

そしてやはり社内の認知をもっと広げて、技術者からも積極的に案が出るようにしていきたいですね。

 

 

板敷:BaaSを利用するなど、開発する上での実現難易度は下がってきていると思うので、今後も引き続き技術的に工数を軽くする方法は考えて、ブラッシュアップし続けたいと思っています。また、中長期的な視点という意味でも、企画を考えることのできるエンジニアをどんどん増やしていきたいですね。