こんにちは。秋葉原ラボの高野(@mtknnktm)と申します。本記事では2020年春の行動制限下におけるメンタルヘルスにソーシャルサポートが果たしていた役割について調査した結果について報告します。

皆様御存知の通り、COVID-19の流行により2020年3月2日から5月下旬に渡って全国の小中学校・高校・特別支援学校は臨時休校[1]になり、また4月には緊急事態宣言が発出[2]され、多くの人が社会的な交流を制限することになりました。社会的なつながりはメンタルヘルスの維持に必要不可欠である[3]ため、この制限は多くの人のメンタルヘルスに影響を与えたと考えられます。

我々はピグパーティを題材として、リアルの社会的資源の不足(リアルで相談しにくい、相談できる人・助けを求める人がいないなど)を仮想社会で補完することを目的に研究してきました[4,5,6,7]。2020年の春にはその一環として、ピグパーティのユーザの皆様を対象にメンタルヘルスやソーシャルサポートについてのアンケート調査を実施いたしました。本記事では(例えば第三波以降など)再び社会的交流を制限しなければならなくなったときに、人々のメンタルヘルスを維持・向上させるための知見を得ることを目的として行った分析についてご紹介いたします。そこでは社会的交流が大きく制限される環境下でのメンタルヘルスとソーシャルサポートの関係性について調べています。

本記事の分析は徳島大学 横谷謙次准教授との共同研究の1つとして実施しています。

調査の概要

2020年4月25日〜5月2日(第1回; 緊急事態宣言・臨時休校中)と2020年6月1日〜6月9日(第2回; 緊急事態宣言・臨時休校解除後)に以下の項目についてピグパーティユーザの皆様にアンケート調査を実施しました。

  • メンタルヘルスに関する指標
    • 精神的健康(GHQ12)
    • 抑うつ(QIDS-J)
    • 自尊心(Self-esteem)[8]
  • ソーシャルサポート [9](家族から、リアルの友人から、ピグパの友人から の3つについてそれぞれ以下の2つについて質問)
    • 情動的サポート(励まし・共感・尊敬などを示すこと)
    • 道具的サポート(物を貸したり、直接的に力を貸すような支援をすること)
  • リアルでの過去一ヶ月間でのいじめ経験

回答者の属性は49%が18歳以下、78%が女性(12%が男性; それ以外の回答が10%)でした。

本調査は徳島大学の倫理委員会の承認を得て実施されました。すべての手順は、人間の参加者が関与する研究のガイドライン、機関研究委員会の倫理基準、および1964年のヘルシンキ宣言の改訂版とその後の改訂版、または同等の倫理基準に従って実施されました。

データ分析1

最初に緊急事態宣言下でのソーシャルサポートがメンタルヘルスに対して果たした役割について分析しました。目的変数はメンタルヘルス指標3種としてそれぞれについて分析を行いました。性別に男性・女性の両者があるのはそれ以外の回答をベースラインにしているためです。年齢は対数変換したほうが当てはまりが良くなったため、対数変換して用いています。

またソーシャルサポート({情動的, 道具的}×{家族, 友人, ピグパ}の6パターン)は相関が高いので、ここでは主成分分析によって軸を変換しています(付録表a参照)。「ソーシャルサポート」の値が大きいことはだれからのソーシャルサポートであるかに関わらずソーシャルサポートが強かったこと、「家族vsピグパ」では家族とピグパの比較を表し、値が大きいと家族が強く、値が小さいとピグパからのソーシャルサポートが強かったことを表します(他の「vs」も同様)。

表1: 各メンタルヘルス指標に対する重回帰分析の結果

重回帰分析の結果を表1に示します(N=3,228)。GHQ12、QIDS-Jは値が大きいと良くない状態、Self-esteemは低いと良くない状態であることに注意してください。*, **, *** はそれぞれ5%, 1%, 0.1%の水準で統計的に有意であることを表します。同表から以下が考察されます。

  • だれから/どちらのタイプのソーシャルサポートであるかに関わらず、ソーシャルサポートを受けることはメンタルヘルスに正に関係
  • 家族からのサポート(特に情動的サポート)が重要
  • 反対に友人・ピグパは道具的サポートのほうが情動的サポートよりも重要
    • 道具的サポートを期待できるような友人を持つことはリアル・バーチャルに関わらずメンタルヘルスを良くすると考えられる
  • 友人からのサポートへの期待は却ってメンタルヘルスを悪くする可能性がある
    • 友人との接触を制限されているからと考えられる

データ分析2

次に臨時休校が解除によってソーシャルサポートの役割がどのように変わったかを分析します。ここでは臨時休校解除の影響に焦点を当てるため18歳以下の回答者に限定しています。またデータ分析1にリアルでのいじめ被害「現実でのいじめ」を追加しました。

ここでは第一回、第二回のアンケート調査それぞれのデータを用いてメンタルヘルスについての重回帰分析を行い、両者の回帰係数の変化⊿を考察します。「第2回 回答者フラグ」は第二回のアンケート調査に回答したか否かを表すデータ項目で、第二回回答者バイアスを統制するための変数として用いています。

表2: 休校解除によるGHQ12とソーシャルサポートの関係の変化
表3: 休校解除によるQIDS-Jとソーシャルサポートの関係の変化
表4: 休校解除によるSelf-esteemとソーシャルサポートの関係の変化

表2, 3, 4にGHQ12、QIDS-J、Self-esteemそれぞれについて重回帰分析を行った結果を示します。
同表から以下が考察されます。

  • 基本的にはデータ分析1と同じ傾向を示し、前節の考察と同じことが言える
  • 全てのメンタルヘルス指標でソーシャルサポートの指標への寄与が低下
    • これは逆説的には「閉校時にはソーシャルサポートが閉校解除してからよりも重要であった」ことを示すのかもしれません
  • 家族からのソーシャルサポートの重要度も低下(Self-esteem)
    • 「ソーシャルサポート」と同様のことが言えそうです
  • 現実でのいじめ被害の悪影響が増大(QIDS-J)
    • これはいじめ被害者にとっては休校解除はネガティブな影響もあったことを示します

まとめ

本記事では2020年春の緊急事態宣言下におけるメンタルヘルスとソーシャルサポートの関係性について、ピグパーティユーザの皆様にご回答いただいたアンケート調査のデータをもとに考察しました。

分析の結果から今後の強い行動制限下でのメンタルヘルスとソーシャルサポートの関係性について以下が示唆されます。

社会的交流を制限する際に重要なことは、

  • 家族からの情動的サポートを受けやすいような状況を支援することが重要
    • 例えば、外出制限・休校などによって家庭内での摩擦は高くなりやすいことが考えられます。それを緩和する支援策が必要性を定量的に示す結果であると言えます
  • リアルの友人との継続的な交流を支援
    • リアルの友人との良好な関係がある人は彼らとの接触が制限されることによってメンタルヘルスを悪化させやすいため、感染拡大を防ぐことを前提とした上で、何らかの支援が必要だと考えられます。例えばビデオ通話などによって友人との交流を定期的に行うことなどが考えられます(検証が必要)

臨時休校の影響を受ける小中高・特別支援学校の生徒については、

  • 休校時はソーシャルサポート(特に家族からの)が普段よりも重要になる
  • いじめの被害者にとっては休校解除は嬉しくない面もある
    • ただでさえ不安な状態であるのでケアが必要

オンライン交流による補完の可能性

  • ピグパーティのようなオンラインでの交流もメンタルヘルスには寄与しうる
  • 特にオンラインの友人から道具的サポートを期待できるような関係性を持っていることが重要
  • 「オンライン空間での道具的サポート」やそれができる関係性を増進することによって、(緊急事態宣言下などに関わらず)リアルで社会的資源が不足している人のメンタルヘルスを、ピグパーティによって良くすることができるかもしれない [6,7]

本記事のより詳細な結果については今後、学会・論文誌にて公開する予定です。

謝辞

不安な毎日を過ごす中にも関わらず、本調査にご協力いただいたピグパーティのユーザの皆様にお礼申し上げます。

参考文献

付録

主成分分析の結果
付録表a: 主成分分析の結果。解釈しやすくするためにソーシャルサポートと情動的vs道具的(ピグパ/友人/家族)は軸を反転させています。各行(情動的-家族…)が各ソーシャルサポートを表し、各列(ソーシャルサポート…)が主成分を表します。
技術本部 秋葉原ラボ所属。2011年にフロントエンドエンジニアとして中途入社。その後、データマイニングエンジニアとして自社サービスのデータ分析と計算社会科学の研究に従事。計算社会科学・複雑系・進化心理学・進化ゲーム・統計モデリングなどに興味。