3月24日、サイバーエージェントのエンジニア・クリエイターによる技術カンファレンス「CyberAgent Developer Conference2022」を開催しました。本記事では、海老沼・見原による「IDOLY PRIDE 3D制作の取り組み」の様子をお届けします。
目次
■「IDOLY PRIDE」の開発環境
■3Dの制作体制
■テクニカルアーティストの役割
■「IDOLY PRIDE」の画作りに関する取り組み
■「IDOLY PRIDE」のモーション制作
■ストーリーパートの制作
■IDOLY PRIDEの開発環境
「IDOLY PRIDE」は、2021年6月にQualiArtsからリリースした、アイドルマネジメントRPGです。アイドルの育成やマネジメントをしたり、アイドルの仕事風景や休日の様子を撮影したりすることができます。
開発環境としては、ゲームエンジンにはUnity、モデルやモーションといった3Dのアセット制作にはMayaを使用しています。
■3Dの制作体制
3Dの制作体制は、大きく分けてモデル、モーション、ライブ、テクニカルアーティストの4つのチームから成り立っています。「IDOLY PRIDE」は、ライブ演出に非常に力を入れているため、ライブ制作も専門のチームがあります。
3Dの制作フローについて、ライブを例に紹介します。
背景モデルは、まずは2Dチームと連携して設定を作成します。それを元にMayaでモデリングを進めていきます。本作ではPBRを取り入れているため、テクスチャの作成にはSubstance Painterなども活用しています。弊社のこれまでのタイトルでは1つの背景に含まれるモデルを基本的に全て1モデル内で管理していました。しかし、「IDOLY PRIDE」ではパーツごとにモデルを分け、Unity内でこれを組み合わせ、ひとつの背景を完成させる方法となっています。
キャラクターモデルは三面図を元に、Mayaでモデリング、補助骨設定などを行ったのち、次にUnityで揺れものの設定や、Mayaで行った補助骨の設定の移植作業を進めます。
モーション制作に関しては後半でご紹介します。
ここまでアセットが揃ったら、楽曲に合わせてライブのプレビズを実施し、UnityのTimelineを用いてライブの作成を行なうのが一連の流れです。
■テクニカルアーティストの役割
テクニカルアーティスト(以下TA)は、デザイナーとエンジニアの橋渡しを行なう職種です。その職域は非常に広く、同じ肩書きでも会社や個人によって業務内容は大きく異なります。
QualiArtsにはテクニカルアーティスト室、通称TA室という組織が存在し、QualiArtsの全3Dタイトルに関わっています。TA室は「3Dチーム」と「Editorチーム」という2つのチームから成り立っており、それぞれ以下のような役割を持っています。
3Dチーム
・3Dの仕様策定
・Unityにおける3D描画と、アニメーション制御の仕組み作り
・3Dのワークフロー策定とツール作成
Editorチーム
・ストーリーパートで使用するUguissというスクリプトエンジン及びエディタの作成
・Uguissの上で動作するADVシステムの作成
上でご紹介した通り、3D制作は様々な工程がありますが、TAはそのほぼ全ての工程に携わっています。デザイナーとTAで定期的に進捗を共有し、ワークフロー上の課題解決や品質向上のための取り組みを行なっています。
各セクションとの関わりの例として、いくつかツールの紹介をします。
フェイシャルリグシステム
「IDOLY PRIDE」では、キャラクターの表情にブレンドシェイプを使用しています。この表情を効率的かつ大量に作成するため、フェイシャルリグおよびこちらの操作を支援するツールを作成しています。表情ターゲットの制作中にベースとなる形状が変わる可能性もあるので、その変更に同期できるようなつくりになっています。
リグシステムとシェイプエディタ
こちらはモーション用のツールになります。工程の中でリギングとありましたが、キャラクターの骨は命名が統一されているため、内製のリグシステムを使用することで自動でリギングができます。モーションキャプチャーで作成されたモーションをリグのコントローラーに転送し、調整を行なっていく形になります。下図の右側は表情アニメーション制作用のエディタです。標準のシェイプエディタが持つ機能に加えて、表情ライブラリの登録や適用によって、表情アニメーションの制作を支援しています。
バリデーターとエクスポーター
最後に各チーム共通で使用するのが、バリデーターとエクスポーターです。Mayaからの出力は例外なくエクスポーターから実行され、そのタイミングで自動的にバリデーションが走るので、手戻りが少なくなります。バリデーションのルールはデザイナーと協議のもと決定しており、想定外の事故があった場合や、新しい仕様が追加されるたびにメンテナンスを行なっています。
■IDOLY PRIDEの画作りに関する取り組み
「IDOLY PRIDE」では、特にライブにおいて楽曲毎に様々な臨場感のある演出を実現し、アイドルたちの輝きの瞬間を表現するというコンセプトで進めてきました。その具体的な取り組みについて、いくつかご紹介します。
キャラモデル
まずキャラモデルの仕様ですが、QualiArtsが2016年にリリースした「オルタナティブガールズ」と比較すると、ポリゴン数は約18,000ポリゴンから28,000ポリゴンに増えています。人体の基本的な骨の量は変わっていませんが、揺れ骨が20本ほど増え、また、補助骨も多く取り入れており、モデルによって差はあるものの、多いもので約70本ほど入っています。
制御テクスチャと特殊表現用テクスチャ
次にテクスチャの仕様ですが、「IDOLY PRIDE」ではカラーテクスチャの書き込みから脱し、質感表現にこだわるため、ベースカラーと陰影のテクスチャに加え、陰影オフセット、スムースネスの制御、リムマスク、スペキュラマスク、陰影ぼかしなど、多くの制御テクスチャを活用しています。
また、制御テクスチャに加え、アイドルたちをより魅力的に見せるために、特殊表現用のテクスチャを使用しています。
例えば、アイドルが全身全霊でパフォーマンスを行う必死さを伝える表現方法として、汗や髪の乱れを取り入れています。下図のように、時間経過につれてだんだん髪や汗の貼り付きが出る演出を行っています。
セルフシャドウ
ShadowMapのレンダリング領域をカメラに写っている範囲に可能な限り絞り込むことで、パフォーマンス落とすことなく高精度なセルフシャドウを実現することができました。特に下図の一番右の衣装の素材の影が分かりやすいと思います。
形状補正
3DCGのアニメなどでも使われる手法かと思いますが、カメラアングルに応じて顔の形状の補正を行なっています。予め用意したブレンドシェイプのウェイトを変更することで、フィギュア的な不自然の解消に繋げました。また、Maya側にも同様の処理を行うツールがあるので、Maya上でも動作確認をすることができます。
このような様々な工夫により、質感や陰影に説得力を持たせ、キャラクターを魅力的に表現しています。
背景モデル
「 IDOLY PRIDE」ではPBR ( Physical Based Rendering ) を活用し、背景モデルもキャラクター同様にリアルな質感表現を実現しています。下図はUnityのShaderGraphを活用し、一部に独自処理を入れているものですが、PBRを採用することによって、リアルなオフィス風景、臨場感のあるライブ会場が実現できました。
ミラー反射
こちらが上で述べた独自処理である、ミラー反射です。カメラ外の景観も含めた反射像を反映できるようになっています。また、スムースネステクスチャにも対応しているので、材質の描き分けが可能です。
波と水面の描画
「IDOLY PRIDE」には浜辺や温泉といった、水の表現が必要な背景が登場します。ここでも説得力ある画作りを実現するため、UnityのBoat Attakというプロジェクトを参考に、リッチな波と水面の描画を実現しています。水の深度をあらかじめMayaで自動計算して頂点カラーに仕込んだり、より用途に合った調節をするため、反射率や屈折率といったパラメーターをデザイナーが制御できるような、プロジェクトに合った工夫をしています。
Unityの機能
これらを実現するために採用したUnityの機能などについて紹介します。「IDOLY PRIDE」ではUnityの2020.3.4を利用しています。「オルタナティブガールズ」と比較すると、ターゲットもGLESの2.0からMetal、Vulkanに変更しています。
Renderingに関してはHDRを採用しています。また、Unityの Universal Render Pipeline (URP)を 導入しており、これにより描画処理の最適化や独自のポストエフェクトの追加、SRPBatchによる高速化などを実現することができました。
また、上でご紹介した多数の制御テクスチャなどに起因するメモリやロード時間の課題がありましたが、MipmapStreamの導入により解決することができました。
このように、様々な技術的な挑戦を行なうことで、画作りの挑戦をしながら、フレームレートを維持してユーザーの皆様に届けることができました。
描画の最適化に関する詳細につきましては、以下の記事をご覧ください。
「IDOLY PRIDE」における描画最適化術 | QualiArtsエンジニアブログ
■IDOLY PRIDEのモーション制作
「IDOLY PRIDE」のモーション制作では、最終的にはアセット数が約3,000モーション近くになりました。これらの大量のアセットを短期間で制作するには、モーションキャプチャーの導入がマストでした。
以下はモーションキャプチャーの収録風景になります。
「IDOLY PRIDE」で大量のモーションを短期間で完成させることができたのは、モーションキャプチャーの導入だけでなく、社内で開発したモーションツールを使用して調整を行なったことが挙げられます。オリジナルのキャラクターリグをはじめとする、Mayaでの作業効率が上がるツールや、Unityと連携するためのツールなど、様々なツールが制作されました。
フェイシャル制作
キャラクターの体部分はモーションキャプチャーですが、顔だけはすべて手付けで制作しています。「IDOLY PRIDE」では撮影機能が実装されているため、キャラクターがアップになるシーンが多々あります。そのため、デザイナーが細かい表情までこだわりを持って作り込んでいます。制作には上でご紹介した内製のシェイプエディタを使用しています。
ストーリーパートの制作
「IDOLY PRIDE」のストーリーパートは、TA室のEditorチームで開発しているスクリプトエンジン「Uguiss」を用いて作成されたADVエディタで制作しています。このエディタを使って、キャラモデル、背景、モーションとセリフ、BGM、SEを登録し、タイムラインに設定することでストーリーを作り上げます。
ストーリーパートは、大きく分類して、通常会話シーン、簡易カットシーン、固有カットシーンと、3つのシーンで構成されており、この3つの演出方法と、それを構成するモーションで「IDOLY PRIDE」のシナリオがより魅力的になるよう制作しています。
通常会話シーン
キャラクターごとに喜怒哀楽の汎用的に使えるモーションを大量に用意し、それらを様々なシナリオのシチュエーション、台詞に合わせてADVエディタ上で設定していきます。このシーンの特徴としてはカメラが固定されており、レイアウトはキャラクターが横並びに選んだ状態で会話が進んでいきます。
簡易カットシーン
こちらも汎用モーションで構成されています。特徴としては、簡易的なカメラワークがあることと、キャラクターの位置が横並びではなく、ADVエディタ上で調整し、アニメのようなカット割りで会話が進んでいきます。
固有カットシーン
これはカメラからモーションまで全て固有で一切汎用モーションを使用せずに制作しています。手間が一番かかりますが、その分、豪華に演出することができるので、シナリオ的に重要な部分をより盛り上げるために効果的です。
■まとめ
これからもQualiArtsは3DデザイナーとTAが一体となり、さらなるクオリティーへの挑戦をしていきます。
また、QualiArtsでは新規開発に向けた人材を積極的に採用しております。
ご興味のある方は是非ご応募ください。
https://qualiarts.jp/recruit
まずは会社のことを知っていただくカジュアRoomという面談も行っておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。
https://note.com/qualiarts_pr/n/nd7d2f27fc054
「CyberAgent Developer Conference 2022」のアーカイブ動画・登壇資料は公式サイトにて公開しています。ぜひご覧ください。
https://cadc.cyberagent.co.jp/2022/
■採用情報
新卒採用:https://www.cyberagent.co.jp/careers/special/students/tech/?ver=2023-1.0.0