2018年1月22日(月)セルリアンタワーにて、サイバーエージェントの約1,800名の技術者に向けた全社技術カンファレンス『CA BASE CAMP』を開催しました。
本ブログでは、『CA BASE CAMP』にて行われたセッションの一部を、登壇スライドと共に順次公開していきます。

▼開催レポート
全60セッション。約1,800名の技術者に向けたサイバーエージェントの全社技術カンファレンス『CA BASE CAMP』を開催
https://developers.cyberagent.co.jp/blog/archives/13613/

※当セッションは三者対談のため、スライド掲載はなく書き起こし形式の記事です。
  前後編に分けて記事を公開いたします。

 

sns_ogp

 

CHAPTER
▷事業責任者・プロダクトマネージャー・クリエイティブディレクター 三者の視点から紐解くAWAのUX

▷スピードと品質は、相対するものではなく内包するもの

▷サービスの“品質”と“売り上げ”どちらを優先すべきか

 

【セッション紹介】

2014年に7名という小規模開発でスタートした音楽ストリーミングサービス「AWA」。ローンチ当初から既存の概念に囚われないUXで世の中にインパクトを与え、現在30名を超える規模になっても、”品質”に最も心血を注ぐ開発姿勢に変わりはありません。

GoogleやAppleなどのBESTアプリに3年連続選ばれ続けてきた背景には、様々な”矛盾との葛藤”と”ハレーション”がありました。それらの”矛盾”と”ハレーション”から生まれた数々のUXを、事業責任者・プロダクトマネージャー・クリエイティブディレクターの三者の視点から紐解きます。

 

【スピーカー】

小野 哲太郎 | TETSUTARO ONO
AWA株式会社 取締役

冨樫 晃己 | KOKI TOGASHI
AWA株式会社 プロダクトマネージャー

室橋 秀俊 | HIDETOSHI MUROHASHI
AWA株式会社 クリエイティブディレクター / デザイナー

 

事業責任者・プロダクトマネージャー・クリエイティブディレクター 三者の視点から紐解くAWAのUX

 

小野 これからAWAのUXについてのセッションを始めさせていただきます。

 

DSC_8075

 

最初に簡単に自己紹介をさせていただきますと、私はAWAで事業責任者をしております、小野と申します。

2007年に新卒で入社しまして、アメブロの著名人ブログのマネタイズなどいくつかのサービスのプロデューサーを経験し、2013年から藤田ファンドの投資事業をやっていました。その後、2014年夏くらいからAWAの立ち上げをしました。今AWAが始まって3年目となります。

本日私はファシリテーターを務めさせていただき、二人がサービス開発の中核にいますので、二人から色々なお話が聞ければと思っています。

 

冨樫 AWAでプロダクトマネージャーをしている、冨樫と申します。

 

DSC_8100

 

2013年にサイバーエージェントに入社しました。その前に1年間オークションサービスで内定者アルバイトをしていまして、入社後コミュニティサービスを2つほど経験をしたあと、AWAの立ち上げからジョインしました。

ちょっと特殊な経歴になるのですが、AWAにジョインする前はずっとサーバーサイドエンジニアをやっていて、AWAに入ってからインタラクションや全体の仕様設計などをやり始めて、今はプロダクトマーネージャーをしています。

 

小野 ありがとうございます。では続いて室橋さんお願いします。

 

室橋 AWAクリエイティブディレクターの室橋と申します。

 

DSC_8107

 

僕は中途で2012年に入社しました。その前は制作会社などでデザイナーをやっていました。入社してからはビジネス系のコミュニティサービスやメディアサービスをやっていまして、2014年10月に、AWAに一人目のデザイナーとしてジョインしました。

今はサービス全体を見ながら、UIに限らずプロモーションなどサービスのブランディングに関わるクリエティブ全般を担当しております。

 

小野 ざっくり役割分担で言いますと、僕が経営やマネジメントを担当しており、冨樫さんがサービスの設計ですね、新機能の発案ですとかそれをUI/UXに落とし込んでいく一番スタートのところ。それを実際にデザインに落としたり、インタラクションとの兼ね合いを決めたりというところを室橋さんが担当して進めていくという流れになっています。

 

スピードと品質は、相対するものではなく内包するもの

 

小野 今日のテーマなんですが、サブタイトルにもあった通り「3年連続AWAのアプリがGoogleさんからベストアプリをいただく中で、背景には矛盾や葛藤と戦ってきた」と言うところなんですが、僕がこのサブタイトルを聞いてすぐ思ったのが、どのサービス開発の現場でもあると思いますが、品質とスピードというところがまず矛盾としてあるのかなと思っています。

ちょっといきなりややこしいテーマのような気がしますが、そこから聞いていければと思います。

ではまず冨樫さんからいきましょうか。品質とスピードについて、考えることや思いってありますか?

 

冨樫 そうですね、品質を追求しているとあんまりスピードが出ないとか、もっとスピードが出せないのか?と言われることがあるのですが、AWAとしてはスピードも品質の一部かなと思っています。

どういうことかと言うと、ユーザーの需要が高まっているタイミングに需要のある機能を出すということが、それだけで品質の高い体験ができるものだということです。

スピードがあれば、いかなるタイミングであれ出せる状態になるので、必ずしもスピードをあげちゃうと品質が悪いということではないのかな、というのが僕の考えです。

 

小野 なるほど。ただ実際エンジニアさんと一緒に作っていくという現場になると、「いやいやそのスケジュールで出来ませんよ。ユーザーのテンションが一番高まるとか市場のニーズが一番高まるのがこの時期だというのは分かるけど、出来ません」みたいなことはあんまりない?そういう時はどうしてるんですか?

 

冨樫 そうですね。これは本当に矛盾なんですけど、最低限の体験がないとどれだけタイミングを合わせても良い体験は得られないので、大前提として一定の品質に達していないとAWAではリリースしないということを決めています。

それをどこで判断するかというと、リリースの1週間前にAWAでは“おさわり会”というのをやっているのですが、そこでテストしてみて「おやおや?」と思った時はすぐにスケジュールを変更して、品質の高い状態で必ずリリースするということをやっています。リリーススケジュールのケツを固定することはほとんどしていないので、そういった会話自体あまりないですね。

 

小野 ありがとうございます。それに対して室橋さん、クリエイティブの観点から言うと品質とスピードというのはどうでしょうか?

 

室橋 僕も冨樫さんが言うように、時間をかければ良いデザインになるというわけではないと思っています。もちろん時間をかけなければならないアウトプットは存在するんですが、例えばイラストを事細かに描こうとかってなると時間はかかるけれども、時間をかけないでクオリティの高いものが出せるのであれば、スピードを優先することもあります。クオリティとそれに対しての目的がしっかり備わったものを、スピードを持って出すことも品質だと思っています。

デザインで言うと、新機能などはとくになかなか仕様が固まらず、とりあえずざっくり作ってみたいということが多く出ると思います。その時にどうするかというと、まず仕様を固めてもらうのではなく「その開発の目的を成し遂げるためにはユーザーさんへはどういう体験が提供できれば良いのかな?」ということをまずは最初に広げてみて、それをどんどんスピードを持ってデザインで提案していくということを進めています。

そうすれば、例えば3ヶ月の開発スケジュールの中で1ヶ月後にFIXされたデザインが上がっているというスピード感ではなく、1週間後に考えられるFIXしていないデザインをどんどん作っていけたり、その中で仕様が固まっていったりします。そういう意味でもスピードも品質を上げる意味で大事かなと思います。

 

小野 お話を聞いていると、スピードと品質は対立するものではなくて、内包するものという印象を受けました。

 

サービスの“品質”と“売り上げ”どちらを優先すべ

 

小野 あとは他に、このテーマを聞いて僕がもう一つ思ったのは、サービスの品質と今度は売上。これは僕も、経営とかマネジメントをする上でいつも葛藤すると言うか悩むところなのですが、そこについてはどうでしょうか?AWAチームの考え方は。

 

冨樫 そうですね、ここについて本質かなと思うのは、ユーザーがどこにお金を払うかと考えると、やっぱり体験に対してお金を払っているんですよね。だからすごい単純に考えれば、体験が良ければお金は払ってもらえると。要は品質が上がれば売上も上がるよね、という売上よりも品質が手前にある考え方でやっています。

 

小野 室橋さんはどうですか?

 

室橋 僕ももちろん、同じチームとして冨樫さんと同じ考えですね。具体的に言うと、僕たちのサービスは月額の定額制なので、今月買っても来月やめることができるサービスです。要は売り切りではないんですよね。

なので、仮に麻薬的にすごく売り上げが上がるボタンがあったとして、それを毎月置こうとしたところでユーザーさんが翌月にやめてしまったら意味がない話です。そう考えると、ずっと使い続けられるためにユーザーさんが心地よくというかやめたくないような体験、これが品質になると思います。その品質を提供し続けることで結果的に数字が上がっていくというところを目指して進めています。

 

小野 なるほど。では数字を上げるために開発するとかデザインするというわけではなく、ユーザーの満足度を上げるために開発・デザインをすれば、数字は上がるだろうという考えですね。

これは僕が聞くのも変ですが、お二人から見てAWAチームにはこの考えは文化として浸透しているのでしょうか?

 

冨樫 浸透していると思います。と言うのも、これだけ「体験だ、品質だ」と言っているかたわら、小野さんが必ず週1で1時間くらい、体験の結果どういう数字になっているかとメンバーに報告するミーティングを実施してくださっているんですね。

だから、ちゃんと健康状態を把握しているというか、体験を上げた結果どういう状況かっていうのを数字で見る、バランスの取れた文化になっていると思います。

 

小野 あの、会場にAWAチームのみなさんが結構いるので、もし反論がある方は手をあげて「そんなきれいなもんじゃないぞ!」とかあったらぜひ突っ込んでくださいね(笑)。

 

(会場笑)

 

小野 室橋さんはどうでしょうか?デザインの仕事って、されてる方はもちろんご存知だと思いますが、正解がないというか、ゴールがない中でいつやめていいかの基準を自分で決めるみたいな仕事じゃないですか。その中に、さらに品質と数字のバランスを保つという考え方が混ざって、すごく難しい仕事だと思います。その辺りはデザインチームの中に何か文化は浸透していますか?

 

室橋 そうですね、文化と言うか、例えば僕が何かのデザインを見て指示を出したい時に、まずそのデザインのレイアウトなどではなく、デザインが成し遂げたい目的をはっきり聞こうと思っています。例えば、バナーを作っていてタップされることが全ての目的なのであれば、それがそのデザインの品質だと思っているので、タップされるためのデザインになっているのか、目的に沿っているか、を注意して見ていますね。

なので浸透しているかと言うと、実際メンバーに聞いてみないと分からないですが、僕がそういうところのクオリティをデザインチェックで見ているというのは分かってくれていると思います。

あと、冨樫さんがさっき言っていたように、週1で小野さんがPLを全て共有してくれているのですが、この共有は「あの時の施策がどう当たった」とか細かい話ではなく、AWAの全体の状況がどういう風に推移しているのか、という共有です。だから、あのバナーがこれだけ効いた効かないという話じゃない。

デザインの難しいところは、数字を上げなければいけない時ももちろんあって、そういう時は数字を気にする必要がありますが、逆にデザイン自体が、AWAのブランド力や立ち位置としてそこに存在することが大事、という考え方もあったりするんです。だから、施策ひとつひとつに対してどうなっていれば健全なのかというところを、プロジェクトでは気にするようにしています。

 

小野 なるほど、分かりました。ありがとうございます。

 

後編はこちらから⇩

【後編】3年連続ベストアプリに選ばれ続ける『AWA』のUX | CA BASE CAMP

 

後編CHAPTER

▷「“音楽を聴く”という本質体験のために、文字を読むという余計な行動すらも取り除く」品質向上へのこだわり

▷3年連続ベストアプリに選ばれ続ける理由とは

▷「CROSS BORDER」自分の担当領域を超え、全員がサービスにコミットする

▷AWAという、新しい世界観を持った一つのブランドを確立させていきたい

 

【スライド付き!その他 CA BASE CAMP セッション記事(随時更新)】

AbemaTVのUIデザイン 僕なりの運用の心得 | AbemaTVデザイナー 松本 俊介

デザイナーが伸び悩まないためのスキル27分類 | クリエイティブディレクター井上 辰徳