2018年1月22日(月)セルリアンタワーにて、サイバーエージェントの約1,800名の技術者に向けた全社技術カンファレンス『CA BASE CAMP』を開催しました。
本ブログでは、『CA BASE CAMP』にて行われたセッションの一部を、登壇スライドと共に順次公開していきます。

▼開催レポート
全60セッション。約1,800名の技術者に向けたサイバーエージェントの全社技術カンファレンス『CA BASE CAMP』を開催
https://developers.cyberagent.co.jp/blog/archives/13613/

※当セッションは三者対談のため、スライド掲載はなく書き起こし形式の記事です。
  前後編に分けて記事を公開いたします。

 

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CHAPTER
▷「“音楽を聴く”という本質体験のために、文字を読むという余計な行動すらも取り除く」品質向上へのこだわり

▷3年連続ベストアプリに選ばれ続ける理由とは
▷「CROSS BORDER」自分の担当領域を超え、全員がサービスにコミットする
▷AWAという、新しい世界観を持った一つのブランドを確立させていきたい

 

前編はこちらから⇩
【前編】3年連続ベストアプリに選ばれ続ける『AWA』のUX | CA BASE CAMP

 

「“音楽を聴く”という本質体験のために、文字を読むという余計な行動すらも取り除く」品質向上へのこだわり

 

小野 一つ目の矛盾とか葛藤のところで、「品質の先に数字」とか「スピードも品質」とか、“品質”というキーワードが多く出ました。AWAチームが品質向上のためにやっていること、それが他のチームの参考になるとか、できればやれたらいいなと思ってもらえることだとなお良いのですが、何かフレームワークや考え方はありますか?

 

冨樫 そうですね、考え方の方が話しやすいので考え方のところから。AWAが高品質と定義するものって、ユーザーの本質的な体験がじゃまされていない状態だと思っています。

AWAは音楽ストリーミングサービスなので、音楽を聴くっていう体験が一番の本質的な体験かなと思います。そこがもっとも重要なユーザーのアクションだととらえて、それ以外のアクションで体験を阻害しないように作るというのをまず意識しています。

僕はよくこのことを口癖のように言いますが、インタラクションもそこを意識してまして、例えば本来は通信が走っているんだけど、走っていないように見せるとか。で、ユーザーには画面をちゃんと操作できるようにして、すぐに再生が押せるようにするとかそういう考え方をしています。

あともっと言うと、AWAでは文言シートというものを管理していまして、アプリ・Web・プロモーション全ての場所で使う“言葉”ですね、サービスで使う言葉を全てシートで管理しています。

と言うのも、例えばAWAにはStandardブラン・Freeプランと2つのプランがあるのですが、Standardの部分は英語、プランはカタカナに統一していて、それ以外の表記は絶対NGにしています。これは結構遠いことかもしれないですが、ユーザーが一度見た文字を、あとは読むことなく見るだけで理解できるようにとやっていることです。

全ての文字のトンマナを合わせることで、文字を読むという余計な行動すらも取り除いて、ユーザーがとにかく音楽を聴くという体験に没頭できるようにやっています。

 

小野 AWAって結構英語を使っていたりとか、ノンバーバルなUIにこだわっているのですが、その辺も、文字を読ませると音楽を聴くことを阻害するというところから来てる?

 

冨樫 そうです。手元でAWAを見ていただきたいのですが、例えばホーム画面のBROWSING・DISCOVERY・GENRE・MOOD・RADIOっていう文字の下に小さい英語の文章が入っています。あれも実はそのページの役割を示している文章なのですが、それよりもコンテンツを見て欲しいので、あまり意識させないように英語で書いていたりします。

 

小野 なるほど。「分かりにくい」とか、「何の機能か分からない」みたいな声って社内外からあると思うんですけど、そういうもののクリアの仕方を室橋さんに聞いてみましょうか(笑)。すいません、めちゃくちゃアドリブな質問ばかりで困らせてますけど(笑)。

 

室橋 あの、このセッション何も資料が用意されていなくて、僕今その場で考えてその場で答えているんですよ。今すごい無茶振りをされたんですけど(笑)。

 

(会場笑)

 

小野 英語が多いとか、そもそもノンバーバルだとかいうことで、「分かりにくい」みたいなのって特に社内から出る意見だと思っていて。AWAの場合ジョイントベンチャーなので、エイベックスの皆さんから「もっと分かりやすくして欲しい」とか、他の事業部の方から「あの機能がよく分からないんだけど」とか、例えばそういう声が出てくると。

でも、思想的には冨樫さんがさっき言ったような思想で作っているという場合、どうやって折り合いをつけているのかなと。

 

室橋 多分、分かりにくい・分かりやすいっていう意見って、「初めて見たときにこの画面がよく分からない」とか「機能は理解したけど、これじゃ分かりにくい」とかいろんな方向があると思うんです。

冨樫さんが少し言ってたように、例えばその機能一つ一つを説明する文章があったとして、ユーザーさんがそれを読んで理解してから「あ、そういう機能か。じゃぁ使ってみよう」ということすらよろしくないのかなと、最初冨樫さんと話していたことがあって。

それが例えば、インタラクションによって言葉がなくても伝えられるのであれば、そういうインタラクションを考えようとか。メイン画面に関しては、結果として英語で入れたんですが、日本語で入れるとそこに情報が入って来てしまうので、逆に余計な思考が働くんじゃないかな、という判断の結果です。

一番最初大事にしているのは、まずは音楽が鳴ること。ユーザーがまず音楽を聴いて、こうすれば楽しい、それで満足できた、という状態を作ることなんです。僕の場合で言っても、まずはAWAを開いて自分のプレイリストを開いて再生して、そのあとはもう画面をロック画面にして聴く。それでもう画面を見るのをやめるんですけど、それが正解なんじゃないかなと。

作り手側がユーザーに、「この画面をうろちょろして触って触って!」とか「新しい機能ができたから使って使って!」って促すのは、逆によくないないんじゃないかなと思うんです。だから、ユーザーの考えを減らす上でも、変に説明を入れてない。

他にも、リリース前にチュートリアルで色んな意見が上がったのですが、チュートリアルを入れるのを一切やめてみたんです。そうするともちろん「分からない」とか「そんな画面があったの知らなかった」という声もあったのですが、その分、理解してしまえばすぐ使いこなせるようなものになるよう気をつけましたね。

 

小野 確かに、AWAチームで仕事をしている時に「ユーザーさんはそこまで考えて使っていない」という言葉が出るのですが、多分それはきっと、作っている過程で僕ら作り手側がロジカルに考えすぎているんですよね。

「ここに来た人はこういう動機でこういう悩みごとを持っているから、こう説明したら理解してもらえるから…」って考えたくなるんだけど、実際そんなことはなくて、何の気なしにパッパパッパ触っているユーザーさんに、スムーズに理解してもらえたら良いという感覚ですよね。

あと、室橋さんが品質向上のためにやっていることって、何かありますか?

 

室橋 あ、僕も文言シートの話をしようかなと思っていたんです。デザイナーの視点から見ても、品質向上のために文言シートが重要なのは、やっぱり見た目と体験の2つの軸からですね。だから文言に関しては、デザインを起こす時に文字が必要な部分があった場合は、ダミーの文章にしないようにしています。

実際新しいデザインを作っている時点では文言シートに該当する文言はほとんどないんですけど、ここにはこういった意味合いの文章を入れたいとなったら、自分で文章を考えて、それをデザインに入れてから冨樫さんや開発メンバーのところにまず当ててみるようにしてますね。そうすると、「ユーザーはここまで読まないでしょう」とか「こういった文章はどう?」とか色んな意見が出てきます。

そうやってアイデアの幅を広げることが大事だと思っているので、僕はAWAのリリース前にUIのワイヤーフレームは書かないで大丈夫ですよ、と言ったのですが、その理由も、アイデアの幅を広げたかったからなんです。デザインチームのメンバーにも、そういう思考でデザインして欲しいということはちょくちょく話しています。

 

3年連続ベストアプリに選ばれ続ける理由とは

 

小野 AWAは今年もGoogleのベストアプリをいただきました。ちょっと局所的な質問ではありますが、世の中には他にも沢山良いアプリってあるじゃないですか?そんな中、こうやってGoogleとかAppleから認めてもらえているというところで、なぜAWAが選んでもらえたのか?こういうところがよかったんじゃないか?と思うところはありますか?

 

室橋 そうですね。まず、AWAは基本的にOSが提供しているルールは遵守して作っています。細かいマージンだったり、サイズや動きもOS用にそれぞれにあった動きに対応してもらっています。

それ以外にも、AWAのブランド、印象、立ち位置として考えたときに、このルールはそこまで明確じゃないからこうしちゃえと変えた部分もあって。そういうところは、逆にGoogleへ提案などをしたこともありました。ルールを守るだけじゃなくて、ルールの範囲内で新しい提案の動きもする。ルールが細かく決まっていないなと判断したものに対しては、こちらから新しい動きをしてリリースしていたので、そのあたりは理由としてあるのかなと思います。

 

小野 確かに僕も、AWAをやっていて特殊だなと思うのは、Androidチームだったりデザインチームから「Googleにこういう提案をしたい」と頼まれることがあって。

最たる例としては、「マテリアルデザインのここに矛盾がある。それを直してもらいたいから提案しに行きたい」ということが何回もあって。その結果、AndroidチームのメンバーがGoogle主催のマテリアルデザインの会議にも呼ばれるようなことも出て来ましたよね。冨樫さんは何かありますか?

 

冨樫 そうですね、それ以外でいうと、やっぱり開発チームの情報のキャッチアップが早いというところですね。わが子を見るかのように、新しい技術が出たらすぐキャッチアップして、「こういう機能をAWAに入れたらいいんじゃないか」というのをガンガンチームに共有してくださるので、動き出しが早い。

さっきの品質とスピードの話にもつながりますが、動き出しが早いのでがっつり準備をするわけじゃないんですけど、構想はあらかじめ練っておけるので、出したい時に出せる。それこそAppleやGoogleが新機能をリリースした瞬間に既にその新機能に対応している状態にすることを『Day 1』というのですが、『Day 1』で出せたりとか。そういう体制になっているところも、評価してもらえてるポイントなのかなと思います。

 

小野 では、そういう開発指揮系統が、社長や僕の指示待ちではなく、開発メンバーそれぞれが、親心を持ってサービスを育てようという気持ちが同時多発的に起きるから良いということですよね。

 

 

「CROSS BORDER」自分の担当領域を超えて、全員がサービスにコミットする

 

小野 では残り時間も少なくなってきたので、チーム運営について聞きたいと思います。チーム運営についてこだわっているところはありますか?

 

冨樫 直前の話にもつながるのですが、自分が担当している領域だけではなくて、AWAというサービス全体が自分のわが子であると思う文化が、チーム全体にあるかなと思います。ようは、自分の領域を踏み越えて全体のことを考える人が集っている。自分の担当領域じゃなくてもコミットできる、アクティブさがあると思いますね。

 

小野 室橋さんも、チーム運営についてこだわっているポイントがあったら教えてください。

 

室橋 今期でいうと、プロレポで「CROSS BORDER」という言葉を掲げていて、デザインチームでポスターも作ってフロアに掲示しています。自分以外の領域って、どうしてもプロがいるので踏み込みにくいところだと思うのですが、デザイナーとしての感性で発想できるところはあると思うので、そういうところはちゃんと発言していけるチームになっていると思います。

もともとそういう文化はあったんですが、今回「CROSS BORDER」という言葉で明示することで、新しくジョインしたメンバーにもどんどん浸透していく。例えばプレイリスト一つ作るにしても、みんなが意見を発言した方が、議論が起こってより良いものができる。

デザイン一つとっても、デザイナーがこう言うからというだけでエンジニアさんがそのまま作るわけじゃなく、親心を持って色々な意見を言ってくれるので、どんどん向上していっています。

あと個人的に思うのは、AWAのオフィスフロアってすごい静かなんですけど、slackを見るとすごいうるさいんですよ(笑)。slackのチャンネルはほとんど公開で喋っているので、非公開のものってほぼないんです。僕も、「なるべく見えるところでしゃべって」ってデザインチームのメンバーに言うんですけど、もちろん僕自身が見たいのもあるけど、他のみんなが見れるところで発言できているっていうことが大事かなと思っています。

 

小野 事業責任者とかプロデューサーの方も参加されてると思うので、僕からも。チーム運営においておすすめだと思うことはまさに今の話で、“見える化”というのは大事だと思っています。

僕も、PLは売り上げから原価、変動原価、固定原価、オフィス費用、販管費など事細かに全メンバーに共有していて、もちろん全て理解してもらう必要はないとは思うけれど、自分の会社がどういう状況なのかを知ってもらうことで、サービスとか会社に対して親心が生まれてくると思います。

そうすると「他の人が思いついていないけれど、これはやった方がいい」と思うことをやれるサイクルになると思っているので、「あの人にはここは関係ないから言わなくてもいいや」みたいなのは、AWAチーム全体としては排除するように動けているかなと思っています。

 

 

AWAという、新しい世界観を持った一つのブランドを確立させていきたい

 

小野 最後に、これからなんですけれど、ちょっとここから個人的な話になってしまうのですが、お二人が自分の持ち味とか特技を活かして、サイバーエージェント全体のサービス作りに「こういう風に影響していきたいな」という目標とか野望があったら教えてもらいたいと思います。では冨樫さんから。

 

冨樫 ちょっと抽象的な話になってしまうかもしれませんが、サイバーエージェントのMission Statementに「クリエイティブで勝負する。」という一文が追加されたくらい、今会社としてもクリエイティブがすごく重要な要素になっています。これから21世紀を代表する会社を創るにあたって、今名の知れてるサービスっていうのは、やはりどれも品質のいいサービスだと思っています。

では、品質のいいサービスってどうやって作るのかと考えると、やっぱり僕は、普段目に見えていないところでどうやってユーザーの体験をケアできるかかなと思っていて。

さっきの文言の話もそうですし、僕はインタラクションとよく言っているのでインタラクションの人みたいになっていますけど(笑)、インタラクションだけじゃなくって、本当は目に見えづらいんだけれども、ユーザーの体験を支えている根幹の部分を整えられるような、そういうものづくりを引っ張っていけるようになりたいなと思います。

 

小野 ありがとうございます。室橋さんいかがでしょうか?

 

室橋 僕は、貢献と言うとおこがましいのですが……サイバーエージェントって、例えばアメブロができて、アメブロのイメージがあって、アメーバピグができて、アメーバピグの世界観があってと、いろんなところでブランド作りをしているなというイメージがあるんです。

AWAの話を最初に聞いたときから、そういった新しい世界観とかブランドを、AWAでもう一つ提示できたらいいなと思って作ってきました。アメーバだからとかサイバーエージェントだからとブランドを合わせて考えるのも大事だし、それでうまく行く場合もあると思うけど、ことAWAに関しては、それとは別軸で挑戦できるかなと思っています。そして、それを対外的にも出していきたいですね。

AWAというまた一つ別のブランドが、サイバーエージェントらしいと言われるようにしていきたいと思っています。

 

小野 ありがとうございました。では、僕からも最後に一言。

サイバーエージェントの柱の一つとして、今後もメディア事業を主力にしていくということと、あと冨樫からもありました通り、クリエイティブで勝負するというところが強い側面としてあります。ぜひ、ここに集まっている皆で、サイバーエージェントをより大きく強い会社にしていきたいと思っています。

30分では語りつくせない部分もありましたので、他に気になることとか、一緒にこんなことやりたい!と言う意見がありましたら、どしどしAWAチームにご連絡いただければと思います。本日は、ありがとうございました。

 

前編はこちらから⇩
【前編】3年連続ベストアプリに選ばれ続ける『AWA』のUX | CA BASE CAMP

 

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