DB高速化やAWS ECSデバッグでお馴染みのサイバーエージェント技術本部の@prog893です。私が今住んでいる、技術者とクリエイター向けの「サイバーエージェントシェアハウス」では、定期的に住居者主催の勉強会や懇親会が行われています。今回は、先日開催された「AR/VRの今とこれからについて語る会」について紹介します。
はじめに
サイバーエージェントは、技術者とクリエイターの活性化のための施策の1つとして、2013年に渋谷でシェアハウスをオープンさせました。渋谷のオフィスから徒歩10分の閑静な住宅街に隣接し、毎年多くの技術者が入居しています。今年の4月には新卒エンジニア11人が仲間入りしました。シェアハウス住居者は、勉強会や懇親会、ゲーム大会やスポーツ観戦などを多く開催しています。懇親会に役員の方々が参加することも珍しくありません。
今回紹介する勉強会では、AR/VRというテーマについて5名の発表者が15〜20分ほどの発表を行いない、参加者全員で議論していました。参加者は、AbemaTVでインターンをしていた高校生のマンゴーさんや、20新卒のインターン生、19新卒の内定者、18新卒社員、ベテラン社員を含む様々な層のエンジニアが計14名。普段の業務でAR/VRに触れていない人が参加者の半分以上でした。
サイバーエージェントには、最新技術の研究を行ったり事業の貢献につながる技術課題に取り組む「ギルド」(ARギルドなど)や「テックゼミ」(Kubernetes Expertsゼミなど)と呼ばれる制度が存在します。今回の勉強会では、ARギルドの主催をしている服部と、18新卒でVTuberゼミの主催をしているイワケンが発表者として参加しました。
では、それぞれの発表について紹介したいと思います。
「個人でクリエイター支援ツールを作っている話」
最初は、20新卒インターン生の塩塚くんによる発表から始まりました。個人で3Dクリエイター支援ツールを作っているという発表でした。
ゲームやVRにおいて、3Dキャラクターのポージング情報は一般的に、人の手による入力やセンサー情報を基に作成されています。しかし、ポーズやモーションの情報を人間が入力するのは難しく、センサーを用いた環境の用意が高価になることもあります。これらの課題を解決するために、塩塚くんは機械学習を用いてポーズ推定を行うアプリケーションを開発しました。クリエイターをターゲットに、簡単な操作によるポージングを目標にしています。開発のためのデータセットを自作したものを用いているそうです。
開発したシステムでは、ゲーム向け、スポーツ向けなど用途に合わせたモデルを作成することも可能です。低スペックマシンでの利用を想定していて、低スペックマシンでもリアルタイムでポージング推定が可能になっています。スマートフォンでの使用、VTuber分野への応用もできると語りました。
「MAKER FAIRE TOKYO 2018で見たXR関連技術」
2番手は、19新卒内定者の@kaikiofkaikiによるMaker Faire Tokyo 2018のイベントレポートでした。
個人や企業による、ARやVR、MRなどの技術を包含したXRという分野への挑戦の展示をいくつかピックアップして紹介してくれました。特に気になった2つの作品について述べます。
「網膜投射AR」という作品は、今までのARグラスのように目の前にディスプレイを設置するのではなく、網膜に直接投射をする驚くべき技術です。この作品は、ヘッドマウントディスプレイの小型化や視野角向上の未来を見せてくれました。
「ハットマウントディスプレイ」という作品は、XR技術のデザインに着眼点を置いています。ヘッドマウントディスプレイでは、非エンジニアの層、特にVRの普及が進んでいない女性層から人気を博していました。技術を一般層に普及させるにあたり技術的なところのみならず、おしゃれなどの要素がいかに重要かを示しました。
機材に費用がかかり、技術的な壁があるため、XR分野の技術はまだ一般に普及させるのは難しい現状であると主張されました。その難しい問題に対し、今回紹介された展示を通じて、技術以外の新しい視点で挑むことの大切さを語りました。
「某XRエンジニアのこれまでとこれから」
休憩を挟んで3番手は、18新卒社員の及川によるXR分野を目指すエンジニアという視点での会社選びの話でした。
VTuberの影響もあり、XR分野の人材への需要が高まっている中、どう会社を選ぶのか。昨年の就職活動の体験を元に、会社選びのポイントについて解説しました。狭い業界の中で、エンジニアの価値を表現するためにブランディングを重要視する価値観から、携わりたい既存のプロジェクトに携わるだけのエンジニアになるのか、新規プロジェクトを立ち上げてリードエンジニアを目指すかという軸で会社を選ぶ方法を提案しました。「数年後に自身の代名詞となるようなプロジェクトを持っているような状態を目指せるとベスト」と熱弁しました。
「CAでARやりたいんじゃ〜」
18新卒でVTuberゼミ長のイワケンは、会社でARを事業化するためにやっていることについて発表しました。
2020年以降、スマートフォンに代わるスマートグラスが登場し、AR市場が急激に拡大することが予想されています。しかし、2018年現在ARデバイスが一般に普及されてないため、事業化するのが難しいというのが現状。イワケンの発表数年後のARスマートグラス時代に向けて、イワケンが、今までどのような行動をしてきたか述べました。内定者時代から、内定者の同期に向けてARとVRの特徴と違いについてLTで発表したり、TwitterやQiita記事でARコンテンツを発信したり、社内外勉強会で登壇したり、社内でVTuberゼミを設立したりと、社内外を巻き込みXRの認知活動とXRの面白さや可能性について発信し続けています。
また、社内外でこれからどのように振る舞っていこうと思っているのかについて発表しました。その中でも、事業化のためのチャンス作りである「ビジネス職に技術の可能性を知ってもらうこと」や、エンジニアから経営者に提案をする際に忘れがちな「経営者視点」を持つことの重要性の説明が印象的でした。
「ARの概要とトレンド」
最後の発表は、ARギルド長の服部による、AR技術の現状とこれからの期待についての話でした。
デバイスに関して、日本では既にいくつかの実績があるHoloLensを始め、海外で注目されているVuzix、ODGの製品やMagic Leap One等に関しての紹介がありました。また、ARの現在のトレンドの話では、Apple、Google、Nianticの動きを中心に各社が力を入れている様子について触れました。2020年代の普及を見据えた行動が今必要であると主張しました。
現在のAR技術の大きな課題は、グラス型(スマートグラス)のような自然な体験を実現するデバイスが普及していないことや、ユーザがアプリケーションをインストールして利用するまでの障壁にあるとと述べました。インストールせず利用できるAR体験の実情などが挙げられました。ARギルドにおいてMagic Leap Oneなどの新規デバイスの検証やプロトタイプ作成をしていきたいという活動の方針が発表されました。
所感
今回の勉強会は、自作コンテンツの紹介や、AR/VR界で話題となっている事例の紹介もあり、それらを踏まえてこれからのビジョンについて語り合いました。ネイティブ、サーバーサイド、ゲームエンジニアなど様々な職種のエンジニアが集ったことで、発表後の懇親会では実際のサービスを立ち上げようとしたときに発生しうる課題について多様な議論が行われていました。世代、職種を超えたつながりを作る橋渡しとして、今回の勉強会はとても良い効果をもたらすと思います。
特に、サイバーエージェントではAR/VR分野をどのように攻めていけば良いか、というような話題もありました。この先AR/VRの技術を使ってなにかしたいと考えたときは、「AR広告ならイワケン」や「VRゲームなら及川くんに聞けばいい」などと、相談先を得る良い機会となりました。
今回の参加者は全員技術者でしたが、技術的な話題に限らず、経営者視点などの非技術者視点から今後のAR/VRについての議論も行われました。これからの勉強会にビジネス職の社員も巻き込むことで、さらに多様な議論ができるようにしていきたいと思いました。
さいごに
シェアハウスでの生活では、日常的な技術交流もあり、今回紹介したような勉強会の開催もあります。こういったイベントの開催は自発的に企画、実施されています。「この技術の凄さをみんなに共有したい」という気持ちがイベントの開催につながっています。これらのようなイベントの開催は、技術に対する意欲の表れだと、私は思います。
シェアハウスで行われるイベントの多くが小規模ですが、ときに、内定者による内定者のための勉強会が予想外の規模のイベントになってしまうこともあります。サイバーエージェントではこのようなイベントの開催が手厚くサポートされています。
次のイベントレポートをお楽しみに!