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3月29日(水)、サイバーエージェント CREATIVE Loungeにて、サイバーエージェント×モリサワ共同セミナーが開催されました。

「デザイナーが考えるブレないブランドづくり」をテーマに、クリエイティブディレクターを務めている4人の方をお招きし、企業やサービスの事例や制作秘話など、ブランディングに関する貴重なお話を伺いました。今年2月末にオープンしたCREATIVE Loungeには、社内外から多数の方がお集まりくださいました。

 

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〈ご登壇者プロフィール〉

前澤 拓馬さん(株式会社サイバーエージェント / クリエイティブ統括室 クリエイティブディレクター)

東京藝術大学デザイン科卒業後、デザイン制作会社「DRAFT」を経て、2013年サイバーエージェント中途入社。アメーバピグのアートディレクションを手掛けたのち、現在はCyberAgentやAmebaのブランディング、AbemaTVのプロモーションなどを担当。

 

山崎 一平さん(株式会社QualiArts / 「オルタナティブガールズ」 クリエイティブディレクター・デザイナー)

イラスト制作会社、大手制作会社にてデザイナーを経験後、2012年サイバーエージェントに中途入社。現在はサイバーエージェント子会社QualiArtsにてゲーム部門全体のクリエイティブ管理に従事しながら、「オルタナティブガールズ」のデザイン制作も担当。

 

庄司 拓弥さん(株式会社QualiArts / オルタナティブガールズ クリエイティブディレクター・アートディレクター)

制作会社、ゲーム会社を経て、2013年サイバーエージェントに中途入社。さまざまなスマートフォン向けゲームの開発に携わる。現在は「オルタナティブガールズ」の2D制作を担当。

 

富田 哲良さん(株式会社モリサワ / デザイン企画部 ディレクター)

関西学院大学総合政策学部同学科卒後、広告代理店勤務を経て2010年にモリサワに入社。 タイプデザインの監修者として新書体開発に従事。 2012年より和文書体に加え欧文書体・タイ・アラビア文字等の多言語書体の開発プロジェクトにも参加。 2016年9月に自身が担当した新書体「うたよみ」をリリース。

 


 

一人目の登壇者は、 サイバーエージェントクリエイティブ統括室 クリエイティブディレクター、前澤 拓馬さん。

 

【デザインから変わる、企業のブランドイメージ】

前澤さんは現在クリエイティブディレクターとして、AmebaのブランディングやAbemaTVのプロモーションを担当されています。今回は、昨年グッドデザイン賞を受賞したリブランディングプロジェクトAbemaTVのプロモーションの事例を通して、ブランディングとは何か?をデザインの視点からお話しいただきました。

 

ブランディングの元になるのが企業のビジョン。サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」であり、さらに2015年には「クリエイティブで勝負する」という意思表明もされました。しかし、クリエイティブで勝負すると掲げても、旧ロゴではデザインに限界があることから、ロゴを(さらには企業イメージも)一新し、リブランディングすることに決定されたそうです。NIGO®氏の監修のもと、ロゴは以下のように刷新されました。

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数年前までのサイバーエージェントのサービスは大衆的で雑多なイメージが定着しており、企業の顔となる事業説明の冊子にしても、2012年のものはフォントもテイストもバラバラだったそうです。しかし、リブランディング後は、新しいロゴや制定されたフォントやカラーにより、デザインの核ができたように感じられます。

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この他にも、新CIをモチーフにした完成度の高いグッズ一式を製作することによって、社内外にクリエイティビティを大切にする会社であることを伝えたそう。この変化により、社内のデザイナーの意識も変わりOwndAWAVILECTなど洗練されたデザインのサービスが作られるようになったといいます。

ビジョンは働く人の持つべき意識であり、外からのイメージにもつながります。それを伝えるのがブランディングでありデザインの力。ビジョンを体現したデザインの変化がまず内部の働く人の意識を変え、働く人たちの創るものが変化していき、そのアウトプットが外から見たイメージへと循環するそう。

「21世紀を代表する会社を作る」をあらゆる変化についていく、変化を作っていくことで表明するのがサイバーエージェントのブランディングなのだと語ってくださいました。

 


 

続いてご登壇されたのは、株式会社QualiArts「オルタナティブガールズ」でクリエイティブディレクターアートディレクターを務める庄司 拓弥さんと、同じく「オルタナティブガールズ」でクリエイティブディレクター・デザイナーを務める山崎 一平さんのお二人。

 

【誰にも教えたくないオルタナティブガールズの制作秘話】

オルタナティブガールズ』は、VRモードを搭載した美少女バトルRPGゲームです。VRにチャレンジしているほかにも、ハイポリの3DCGやフルボイスなどこだわり抜いたクオリティが魅力。お二人には、オルタナティブガールズの制作秘話として、成功した点や苦労した点から将来的な展望までお話しいただきました。

 

成功したポイントの一つとして、VR実装の早期決定が挙げられました。オルタナティブガールズでは、3Dでゲーム作ると決めた時点でVRにもチャレンジすることを決定されたそうです。そのため、早い段階から技術的な挑戦が許され、たくさんの検証ができたことがクオリティの向上につながったのだといいます。また、VR元年と言われる年にスマホアプリとしてリリースしたことで、話題にもつながりました。

そんなオルタナティブガールズですが、苦労した点も多かったそうです。大量のイラストをひとつの世界観へ落とし込むには、はみ出し過ぎてもダメだしまとまり過ぎても面白くなく、このバランスを取るのがかなり難しかったとのこと。そんな状況下、ファッションや武器専門のイラストレーターといった各分野のプロフェッショナルをアサインし、全体像を調整。統一されたブレないブランディングが重要だったといいます。

また、ブランディングを確立させデザインに落とし込むことは、プロモーション周りのグッズ製作においても無くてはならないものでだったそうです。ぼんやりと決まっていたキーカラーやルールを改めて設定し直してデザインしたことで、グッズや印刷物などスマホと離れたものでもサービスの一部として認知させるように意識したのだとお話しくださいました。

 

最後に、将来的な展望としてアニメジャパンのために制作された2Dのアニメーションをご紹介くださいました。これから何年も愛されるコンテンツにしたいという想いで制作されたそうです。ユーザーを飽きさせないワクワク感の継続。これもまた、ひとつのブランディングの手法なのだと感じました。

 


 

最後の登壇者は、株式会社モリサワのディレクターを務める富田 哲良さん。

 

【タイプフェイスから考えるブランディングデザイン】

タイプデザインの監修者として新書体開発をされている富田さんは、書体制作についてやブランディングに関わる企業制定書体の事例などをお話しくださいました。

 

まずはじめに、モリサワでの書体制作のお話を伺いました。書体が手書きでデザインされているというのはご存知でしたか?デザイナーは必ずお世話になる”フォント”ですが、あまりにも当たり前にあり何不自由なく使わせていただいていたので、一つずつ手書きでというのは想像しただけで偉大すぎてため息が出ます。デザイナーさんは入社してまずモリサワの代表的な書体を何も見ずに書き、製品と同じ品質で書けるように2年ほど訓練するそう。1書体の制作では、ディレクター1名、デザイナー2名、エンジニア1名程度のチームで約2~3年かけて完成させていくと伺い、その長期に渡る制作工程に来場者も圧倒された様子でした。しかし、同じ木偏の漢字でも同じ木の形は一つもないそうで、1万文字を一つずつその文字のためにデザインしていると考えると、私は3年でも早いなあと思いました。

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続いてブランディングに関わる企業制定書体のお話をしてくださいました。

日本では、企業制定書体や特注を作ることは珍しいそうですが、京都の企業の事例を元にご紹介してくださいました。京都らしさをテーマに筆の文字で書体開発を進めたそうですが、予算の都合よりゼロからの漢字制作は難しかったため、モリサワが持つ既存の書体に合う形で仮名書体のみを作ったそうです。かな文字が変わるだけでも随分印象が変わることがわかります。

 

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ちなみに、かな書体だけだと210文字ほどで、漢字を含めると約1万文字になるため、漢字の有無でコストは大きく変わるそう。なんと、漢字を含むセットは相当高価な海外の高級自動車くらいだとこっそり教えてくださいました。

 

他にも、フォントごとに設定されている文字間のお話や、30カ国以上の言語サポートに関するお話など興味深いお話の連続にあっという間に時間が過ぎてしまい、急遽飛び込んだ“巻き”の指令に「自身でオリジナルフォントを制作することもできますが…フォントはフォント屋さんに依頼してください!」と一気に締め会場の笑いを誘いました。

 


司会を務めるモリサワ・青木さんが乾杯の音頭をとりトークセッションへ。事前に来場者の方からいただいた質問を元に和やかな雰囲気ではじまりました。

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Q.1 社内・社外含め、チームをうまく率いるポイントを教えてください

庄司さん:ゲーム開発にはいろんな職種の方がいるので、できるだけポジティブな言葉にして返すよう気をつけています。自分から良い循環を作ることで、相乗的により良いものができると考えています。デザイナーは常に受注型になってしまいがちですが、自分がチームの中心になるように作るという意識を持って、むしろたくさんおせっかいをするようにしています。

前澤さん:上から指示して作らせるというのでは上手くいかないですね。チームの一人ひとりが参加しているという実感を持つことが重要だと思っています。また、仕事を進めていくと目的を見失ってしまうこともあるのですが、それはリーダーとして軌道修正できるよう気を配っています。

山崎さん:特に社外の方に対してなのですが、私は直接お会いすることを心掛けています。困った瞬間に電話をかけて会いに行くくらいです。顔を合わせて直接話すことで多くのことが一気に解決し、余計な誤解も生まれません。またそれが後々のつながりにもなるんですよ。

 

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Q.2 ブランディングを始めるにあたり一番大切なことは何ですか?

前澤さん:Amebaの新ロゴに携わっている時に総合クリエイティブディレクターのNIGO®さんが固まったコンセプトというよりは『ニュートラルなもの』を意識していると感じました。ブランディングする上で誰かが望むクリエイティブを目指すのが必ずしも正解ではなく、もっと感覚的なものの大きさはあると思いました。

庄司さん:「オルタナティブガールズ」のメロというキャラクターは、例えば腕にくっついた時に可愛い生き物という所から結構感覚的に発想しました。ブランディングというと、ガチガチに決めたものというイメージがありますが、感覚的に始めてブラッシュアップすることも多いです。

富田さん:我々はフォントを提供してブランディングのお手伝いをする立場なのですが、みなさんに一番お願いしたいことがございまして。ブランディングを始める際はフォントにも予算と時間をとってください。(会場笑)

 

 

Q.3 構築したものがなかなか浸透しきれない状況で、浸透させるための工夫などはありますか?

庄司さん:私は思い切って捨てちゃいます。サービスが順調に大きくなることはほぼありません。取捨選択をし、やめることで新しいことに集中します。やり直しは労力がかかりますが、良いものを作りたいので。

山崎さん:ブラッシュアップの仕方で言うと、手が進まなくなったり、失敗したりするときは、一旦寝かせるようにしています。外に出て気分をリセットしたり、環境を変えてみたり、逆さまにして見てみたり。とにかく、行き詰まった時は環境を変えるのが一番良いですね。

前澤さん:私もよくリセットしていますよ。でも中身をコロコロ変えてしまうと信用がなくなると思うので、なるべく踏ん張ったほうがいいと思います。ちょっと環境を変えるとまたフレッシュなものになって浸透するかもしれませんね。

富田さん:例えば、服の流行は1シーズンですよね。フォントにも流行があって、それは5年~10年くらいのものなんです。フォントを1セット作るのに3年ほどかかるので、その先の流行り廃りを想像しながら作ることを意識しています。ちなみに、10年かかって作られたフォントもあるんですよ。

 

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Q.4 次世代を担う方々へのアドバイスをお願いします

富田さん:みなさんにお伝えしたいのは、”時間をちゃんと守る”ということです。(会場笑)

山崎さん:自分自身にも言えることですが、”天狗にならない”というのが大事です。制作陣は自分主体になってしまうこともあるので、作ることや見られることの意義を考え、先を見据えてものを作っていけるようになりましょう。

前澤さん:自分の可能性を狭めないように色々動くと良いと思います。自分はデザイナーだからと、他職種の人との壁を作ってしまうと結果的に自分の世界を狭めてしまうことになります。サイバーエージェントでは昨年テクニカルデザイナーという立場を打ち出し、デザイナーとエンジニアの垣根を無くすような働きかけもしています。自分が勉強していたこととは違う事に興味がでてきたら、臆さずにやってみてほしいですね。

庄司さん:ぜひプロセスを楽しんでください。若手だと自分より優秀な人は沢山いると思いますが、そんな方達と仕事をして、どこで意思決定されているのか見極め吸収して行ってほしいです。そしてその人達を超えていってください。

 


 

会の最後には、飲み物や食事を片手にビアバッシュが行われました。登壇者に質問を投げかけるために列ができたり、名刺片手にたくさんの交流がうまれたりと、終了時間が過ぎても話が尽きず和気あいあいとされているみなさんの姿が見受けられました。

 

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