こんにちは、デザイナーの井上です。
新卒デザイナー達が現場に配属され、早くも2ヶ月が経ちました。それぞれ事業部の雰囲気にもなれて、少しづつ力量を発揮しはじめている今日この頃です。
僕が所属するメディア部門では、若手のデザイナーが主体的にトレーナーとして育成を担当することが多く、日々様々なアプローチで支援を行なっています。
(新卒オンボーディングの記事は →こちら)
これは、世代の近い先輩の経験をリアリティある言葉で、新しい後輩たちへと伝えることを大切にしているためです。
僕も含めシニアのデザイナーは、トレーナーの相談役として新卒育成に関わります。
そんなトレーナーの為に、新卒デザイナーを育成する心得として、受け継がれる10カ条があります。
これは、各々のトレーナーの育成手法が属人化しすぎないようにする為でもありますが、僕たちインハウスのデザイナーにとって、企業のこと、事業のこと、自分のこと、これら全てに “自分ごと化” してして考える力を、大切な1年目から身につけてもらえるようにまとめたものです。
今回は、そんな新卒デザイナー育成の10ヵ条について1つづつ解説していきたいと思います。
①自らもさらけ出し、同じ目線で向き合う
初めてトレーナーとして後輩を迎えると、自分の立ち位置や見られ方について気になってしまうものです。
しかし、後輩(トレーニー)に教えるべきことは上下関係ではありませんし、スキルや知識だけではありません。
大切なことは、個人の個性や持ち味を引き出してあげることだと思います。
その為にも、お互いが自分をさらけ出し、理解し合うことから始めると良いでしょう。
例えば、家族や友人、趣味などの話から始めても良いと思いますが、エニアグラムでお互いのパーソナリティを共有し合うこともおすすめです。これは、とにかく盛り上がりますのでお互いの距離感をグッと縮める副次的効果も期待できるでしょう。
お互いが大切にしている価値観を知ることで、コミュニケーションも自然と尊重しあえる関係性が生まれますので、トレーニーの良いところがきっと見つかる筈です。
教えることの中にも、時には共感し同じ目線で向き合うことを心がけます。
②周りを巻き込み、全員でよってたかって育てる
トレーナーは自分の同期または先輩、チームメンバー、時には職種の垣根を超えたトレーニーの斜め上の先輩となる人を、どんどん紹介することも役目の1つです。
僕が所属しているメディア部門には、90人ほどデザイナーが所属していますが、隣のプロジェクトのデザイナーを知らないと言うことはありません。殆どのメンバーが顔見知りです。
このような関係性をつくることで、成果発表の会などが開催されれば、職種を問わずご近所さん全員が集まり、叱咤激励が飛び交う場が生まれます。
新卒にとっては、常に晒されている緊張感がありますが、たくさんの人に自分を知ってもらえることは、モチベーションの一つにもなります。
また、様々な先輩社員からのアドバイスやリファレンスを収集するチャンスを得ることができます。
仕事は盗むものと言いますが、トレーナーとして沢山の先輩との関係性を築ける環境をつくってあげましょう。
③大胆に失敗できる環境をつくる
失敗と言っても “寝坊による遅刻” や “ケアレスミスが多い” などの信用を損なってしまう行為を容認することではありません。
仕事の失敗を恐れて、やるべき行動がミニマムになってしまっては勿体ないことです。
たとえ小さな一歩であっても、目の前の課題に対して、職種をも越境してモノゴトに踏み込める勇気が大切です。
新卒の成長過程で一番に養うべきことと言えば “自走力” でしょう。なるべく早い段階でこれを掴むためにも、失敗を恐れずに自分で考えて行動することです。
そのためにもトレーナーは敢えてフォローしすぎず、なるべくタスクではなくミッションとして仕事を託し、ゴールは本人に考えてもらうことを心がけます。
もちろんリスクは承知の上ですので、本当に失敗してしまうケースは往々にしてあります…
(デザイナーの場合は、納期に対するクオリティが伴わない場面が多いです)
その時は、損な役回りとは思わずに、さっと手を差し伸べてスキルの差を見せてあげましょう。
後の標語にも登場しますが、たとえ失敗したとしても必ず出来事に対して “振り返り” を行うことが大変重要です。
本人が自分自身の中で、気づきを得ることができれば儲けものです。全ては、未来の大きな成果と思いましょう。
おすすめ記事 → 自分流を貫く弟子と、あえて失敗させる師匠の懐
④All in oneよりもOnly one
以前、デザイナーのスキルは27項目あり、成長に合わせて必要なスキルが変わっていくと言う記事を書きました。
社内でも目標設定の材料として、自分がどのようなスキルを身につけていくべきか?を知る為に活用しています。
ところが、27項目ものスキルを目の前に出されると、全てのスキルをマスターしようとするデザイナーが現れるようになりました…
心理的に達成感を得たくなる気持ちはわかりますが… これは間違った使い方です。
基本的にスキルは使わなければ退化するものですので、27項目全てをキープしていくのは不可能と言って良いでしょう。
それよりも、自分の得意不得意を理解して、個人の “らしさ” を見つけることが重要です。その “らしさ” を深めることこそデザイナー個人の価値に繋がります。
トレーナーとしては、まず本人が自分について深く知るように促します。付箋に書き出して俯瞰してみるのも手法の一つです。
そこから出てきたものを、他者から見てどのようなものか、率直にフィードバックしてあげてください。
このような、自己理解と他己理解を繰り返すことで “らしさ” が少しづつ芽生えることになります。
僕たちインハウスのデザイナーにとって、企業と個人の価値が “かけ算” を起こすことこそが、世の中へ新しい価値を生み出すきっかけとなります。
その為にもOnly oneを生み出すことが大切です。
⑤伝え方にはこだわる
育成のためとは言え、誤った伝え方をしてしまうと成長を鈍化させてしまうことにもなります。
ここでは、ややテクニックの内容になってしまいますが “伝え方” について、以下の3つのシチュエーションに分けて解説したいと思います。
1. 頻度とタイミング 2. 声に出して伝える 3. 批評の対象を明確に
1.頻度とタイミング
社会人経験の浅い新卒へ、抽象度の高いメッセージを受け止める受信感度は、まだまだ低いものです。
例えば、後の標語にも登場しますが「当事者意識を持ってください」と、伝えたとしても直ぐにはピンとはこないかもしれません。これはゆっくりと長いスパンで伝えるメッセージです。
経験を重ねながら少しづつ実感していことでしょう。
逆に、状況に合わせて早めに伝えるべきメッセージもあります。本人が気づかずにミスを犯しているケースです。
例えば、制作のプロセスで諦めを感じる時や、他者との連携が必要な場面での失言、態度については、なるべく時間が経たないうちに率直に伝えます。
頻度とタイミングは、指摘の内容によって変えて伝えると良いでしょう。
2.声に出して伝える
誉めたいのに照れ臭くなってしまい、ついSlackで「アレの件、素晴らしいと思う…」といった風に済ませてはいないでしょうか。
さり気なさがあり良い印象であることは確かです。しかし、活字のメッセージの捉え方は人それぞれになってしまいます。フィードバックはなるべく気持ちも込めて、声に出して伝えてあげましょう。
対照的に、厳しく変化を求める場面もあります。こちらも声に出して伝えますが、場所には注意を払わなければなりません。
周囲の人の耳に入ってしまう場所では、他人に聞かれることの恥ずかしさから、内容が頭に入らない可能性があります。
テキストでは伝わらない、中間値の温度感を理解してもらうために、なるべく声に出して伝えます。
3.批評の対象を明確に
最後に、デザインのフィードバックについてです。
よく言われることですが、デザインのレビューは制作者への批評ではなく、デザインへの批評です。
何処のポイントを批評しているかを、相手が認識できるように伝えてあげることが重要です。
また、それがルールとして守るべきものなのか、主観としての意見なのかを分けて、フィードバックできると良いでしょう。
その為にも、プロダクトのビジョンや戦略、デザインルールについては、配属初日からオリエンテーションできるように準備しておきます。
ここまで、3つのシチュエーションについて解説しましたが、伝わり方は現場への緊張によっても大きく差が出るものです。
いち早くトレーニーが現場の雰囲気に馴染み、自然体でいられる状況をつくれるかが工夫のしどころだと思います。
⑥狙いをもって切磋琢磨させる
メディア部門のデザイナーのミッションステートメント(CREATOR’S MIND)に「経験と慣れは紙一重」という標語があります。僕のようなシニアデザイナーには特に染みる言葉です…
社内の取り組みの中を見渡しても、社内コンペ、デザインセンター試験など、新卒でなくとも常に “競争” を意識するイベントが多く、文化として根付いています。
狙って “競争” するとは、言わば体操のようなものだと思っています。
通常業務だけでは経験できないお題を通して、ライバルを意識したり、スキルを日々磨いたりと、体と気持ちを変化に慣らしておくことができます。
当たり前のことですが、時代のながれに大きく影響を受ける市場こそが僕らの主戦場となります。その中で自己満足の中で埋もれずに、切磋琢磨する姿勢が大切だと思っています。
また、トレーナーにとっては、トレーニーに追い越されることへの緊張感を持つことになります。
思い切ってコンペに参加して、最終選考に入選できれば一気に存在をアピールできますし、意外な才能を掘り出すきっかけにもなります。
⑦当事者意識と責任感を育てる
配属されたての新卒に仕事を渡す時、レベル1の仕事から経験値を積み上げてもらい、徐々にサイズアップした内容を渡して行くことになります。これは望ましいステップアップのように思えます。
ところが、そのレベル1には様々な経緯や意図が含まれていますので、制作したデザインがどのようなユーザーに接触するのか?なぜそのような手段に至ったのか?を説明することが必要です。
デザイナーであれば「何故それが必要なのか?」から考えることは得意分野な筈なのですが、新卒のデザイナーにとっては、表面的なディティールに注視してしまいがちでしょう。
つまりは、絵作りとしてのデザイン業務を “渡す” のではなく、ミッションとしての背景と課題をセットで “託し” そのモノゴトの当事者として、責任を持ってもらうことに最大の注意をはらわなければいけません。
また、目に見えて評価しやすい絵作りの部分だけでなく、目に見えにくい課題解決のプロセスも必ず評価してあげることがポイントです。
将来、デザインの現場にもAIの力を大きく借りる時代がやってくると思います。そんな時代の中で一番重要視すべきスキルは、当事者意識を持ち個人の主観を強みにしながら課題解決できることだと思います。
⑧野望は高々に語らせ、ワクワクするものに
目標設定のコツとして “野心的であれ” とよく言われます。
とは言え「さぁ、野望を語りましょう」と言っても、なかなか話せるものではありません。
そこで、 今年は新卒オンボーディングのプログラムの一つとして、デザイナーを目指すようになったきっかけから、野望を言語化し、短期的な目標にまでブレイクダウンして導き出すワークを行うことにしました。
方法としてはモチベーション曲線を用いて、各々が小学生時代からのターニングポイントとなった出来事や、挑戦したことなどを振り返ります。
これ元に “野望” たるものをへと整えて発表してもらいました。
デザイナーの目標設定は難しいですが、きっかけが生まれた瞬間はワクワクしたに違いありません。
そんな各々の強い想いを大切にした目標に仕上がるように、トレーナーとして手伝ってあげることは大切です。
目標設定について詳しく知りたい方は→迷わず成長できるデザイナーのための目標設定
⑨振り返りがすべて
“失敗をさせてあげよう” と前段で書きましたが、振り返りがあってこそです。
トレーナーの仕事として週一の1on1をお勧めします。(即時性が求められる事態によってはその日中に行う)
1on1では、日々の業務での出来事を中心に、成功と失敗した体験の両方を振り返ります。
振り返りは、本人がその場面で “どのような思考で行動したか” を客観視できるように振り返ってもらうことがポイントです。
振り返りの内容は、お互いがいつでも見られるドキュメント(スプレットシートなど)で記録に残しておくと良いでしょう。後に読み返すことで成長実感を得ることができますし、実感を得ることで自信へと変わります。
ちなみに、今回配属された新卒デザイナーには、月イチの成果プレゼンを大々的に実施しております。失敗談から達成した成果まで、様々な学びについて語ってもらいます。これによって傍聴者側も新卒時代の経験を振り返ることができ、組織全体の相乗効果としても一役買う結果となっています。
他者からのアドバイスも大切な学びとなりますが、自分の中での気づきは判断基準の軸に変わって行きます。そんな宝物のような気づきを掘り出す作業が “振り返り” だと思います。
⑩一緒に学び、一緒に育つ
一番はじめに「同じ目線で向き合う」という標語が登場しましたが、育成とはトレーナーとトレーニーという関係性でありながらも、トレーナー自身も学べるチャンスだと思っています。
家族、兄弟、友人、恋人など、人は一番近い人の価値観に大きく影響を受けます。
トレーニーは、時間も場所も一番近いデザイナーですので、たくさんの価値観に触れながら気づきを貰うことができますし、教えながらも自分にも問いかけをしてしまう瞬間もあります。
育成を頼まれたので教えると言ったような、他人ごとを引き受けたような気持ちではトレーニーにはもちろん、トレーナーにとっても得るものは多くはありません。
トレーナーも自分ごととして育成に向き合うことで、学びを得ることがでしょう。
まとめ
ここまで10ヵ条を通して、デザイナーの育成について解説させていただきましたが、ポイントとなるキーワードだけを抽出するならば以下の3つであると思います。
・姿勢 ・個人のオリジナリティ ・影響
一人前のデザイナーへと育ってもらうためにも、プロフェッショナルとしての “姿勢” をトレーナー自身が体現しながら向き合うことが、何よりも大切だと考えています。
①自らもさらけ出し、同じ目線で向き合う
⑤伝え方にはこだわる
⑦当事者意識と責任感を育てる
⑩一緒に学び、一緒に育つ
これらは、その “姿勢” の部分に対して、①のように正面から向き合い、⑤他者の状況を想像しながら伝えること、⑦トレーナー自身もミッションとして育成に取り組むこと、⑩相手にリスペクトを持つことをです。
次に、“個人のオリジナリティ” を引き出すといっても、そう簡単なことではありません。
自身の将来にも過去にも、興味を持って “自分のことにも自分ごと化” して考える機会を意図的に作ってあげることを心がけています。
③大胆に失敗できる環境をつくる
④All in oneよりもOnly one
⑧野望は高々に語らせ、ワクワクするものに
⑨振り返りがすべて
最後に、デザイナーという役割が多様性を求められる中で、一人のトレーナーだけでなくチームで育てることが、僕たちのデザイナー組織の強みです。
②周りを巻き込み、全員でよってたかって育てる
⑥狙いをもって切磋琢磨させる
個人のスキルや価値観が “影響” し、周囲にも良い影響を与える環境づくりを、若手が中心となって日々アイデアを出し合って取り組んでいます。
おすすめ記事 → 若手がこれからを考える「若手デザイナーボード:わかめ」を設立
さいごに
育成と聞くと、一人前のデザイナーへ成長させるべく、手取り足取り教え込み、そのために必要な知識不足はあってはならない印象があるかもしれません。
ところが、実際には自分で考えて行動できる場面を意図的にアシストすることが、トレーナーの役割なのではないでしょうか。
自分のデザイナー1年目の頃を思い出してみても、先輩からいただいたアドバイスも大切なものばかりですが、身をもって実感したことこそが今でも自分なりの発想の軸になっていると思います。
本人が重要と思う情報を、自ら取りにいくことができた時、トレーナーとしての役目が終わる時かもしれません。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!